無花詩集
(ひらいて)
ぼくのこころのなかには
綺麗なまっしろのベッドが不断に並んでいて
清んだ香水のかおりがいつもする オフィーリアの翳よ
周囲は いつでも美しい死の花にかたどられているよう──
ぼくはいつだってそこへ寝そべってみたい
なぜってそこでは美しく睡りえるのだし
疎外のわたしを 疎外のままに綺麗にとざしてくれる
黄いろいばらが、優美に背を折りぼくを同情してくれる
*
されどぼくは生きる その虚偽の美へ時々くらいは目をむけながら──
花は美しくない だから悲痛なまでに美しい──(ひらいて)
高潔なんていわないで
高潔なんていわないで
月夜にあの子は踊れたことない
あの子に高潔といわないで
だってわが身を供物としてない──あの子はけっして花じゃない
低く、みじめに 潔らかに──
あの子は「わたし」を不潔と定義し
汚濁へ潜った 水の屑──
沈むうごきで上へ放つは ただ、夢と行動だけだった
*
低潔に、なりたいのです 低潔に、なりたいのです
低みに沈む蓮の花は──きょうもいっとう綺麗です
春の恋
ぼくは春夏秋冬のうちで
春だけがきらい
されど恋をするのは なぜかしらいつも春──
黄いろいばらの、淋しい花言葉をごぞんじ?
焦がれる冷たく硬い寝台
それは冬──それが終わると
おせっかいな小鳥たちが 悲痛な春を連れてくる
春の陽は、ぼくにはいつも後ろめたい
*
春がきらいなのは ぼくが春に生れたからだった
母よ ぼくは春という背中をいつでも抱きしめたかった
黒薔薇の気の狂れ
気の狂れた薔薇だって──その花弁はきっと紅いことでしょう
それが祈られもしなかった暗みに頬をあかく染めるわけは
うら若き黒レザーの反射が むしろ柔くきゃしゃなそれであるから
だから 純粋孤独主義の黒を纏ったのかしら──詩人よ
倨傲な薔薇の意志はいつだってわが身を折ろうとしない
いつだって 美に跪かされるのは花だったから
薔薇の落下はまるでグラマラスとデカダンスの結婚の垂れ流し
“君の為に死にたい”とうそぶく横顔を向けてよ 微笑んであげるから
*
気の狂れた黒ばらよ 胸守り躰とぢる身振の美を露す詩人よ
あなたはただ──愛されたかったのですね
倫理
1
あなたは──
綺麗な花がひそかに泣いているところ、
それを見たことが おあり?
黄いろいばらの 淋しい花言葉をごぞんじ?
前のめりに美をしめし
ちやほやと褒められる立場を強いられ
ただ そこに在ることを希まれ、
売りたくもない媚を発する花 その子の淋しい涙を──
2
されどひとが生きるということは、
中庸に花で在ることなのかもしれません──
なぜって ひとがひとのなかで生きるというのは
みずからを花とし ひらひらと綺麗にふるまうことだから!
花のように美しいといわしめるばらの涙は、
うちに秘められた
青薔薇の硝子珠へそそがれると ぼくは信じる…
水晶のちらりと燦らせる青みは だって疵なのですから
3
だから──あなたは花だといわれてはいけない
わが身を花とさせてでも つよく生きたのだから──花さながらに
愛は無防備
花びらはきょうもあなたの淋しさをつつまなかった
一枚 また一枚の花びらは
やわく 儚く 愛されるにあたいするそれぞれは──
あなたの淋しさをつつむ愛としては さながらに美しすぎたよう
花びらはそれを喪うことで 淋しさを淋しさでつつむのかも!
花の剥がれの 剥がれにうねり泳ぐ つよく硬質な美ははや消えた
百合の花が幾夜幾夜に苦痛によじった曲線は
だから いつだって背を向けている そして──(すぐに 消える)
*
あなた方の淋しさは──花びら落ちてからが共通項
他者の淋しさを抱く愛は だから、いつだって無防備だった
無花詩集