私の失いたくない人

貴方が好き。そう言えたら、どれほど良かっただろうか。

 私は、学校が嫌いだ。そもそも勉強が嫌いで、人と話す事も苦手である私は、当然スクールカーストが低い方だ。幼馴染の凪がいつも一緒に居てくれるから、学校で浮く事はほぼない。あるとすれば、凪が学校を休んだ時くらいだ。
 そして、今日は高校1年生の3学期始業式の日である。重たい足取りでなんとか昇降口まで歩き抜いたのは、自画自賛してやりたい。それほどのポジティブさは持ち合わせていないけれど。
 そんな時、まわりのうるさい奴らは、「冬休み短かったね」「明日も休みだったら良いのに」なんて声が聞こえた。私もそう思ってるよ。楽しくないんだよ、学校なんて。一般的に中卒する人があまりいないから、仕方なく高校に行っているのだ。将来の夢すら無いのに、わざわざ勉強して高校に行く意味はあるのか。この高校はなぜこんな山奥にあるのか。そんな事を考えながら、下駄箱へ無事辿り着く事ができた。
「よっ。あけおめ!」
後ろから軽やかかつ爽やかな声で軽く肩を叩かれた。凪だった。
「あけおめ」
「今年もよろしくな。てか、さみーなあ」
「ね」
 私は面倒くさがり屋だから、返事は「うん」ではなく「ね」という短い返事が多かった。決して冷たい態度をとっている訳ではない。そして、それを分かってくれる人がいる事が救いである。
 みんなの靴の匂いがするこの下駄箱で、他愛もない会話をする事が学校生活の唯一の楽しみであった。というか、凪と話す以外の時間がひどくつまらないのだ。5キロの鉛がついたような足で教室まで引きずるように歩いた。
「そういえば、お前英語の課題やった?」
「忘れてた」
「写させてほしかったら…」
「写させてください」
「よろしい」
というこの一連の会話は、学校に来ると必ず行う。凪は、優しくて面倒見が良い友人なのだ。そんな良い奴なのに、なぜたくさんの女子からの告白を毎回断るのだろうかと最近気になっている。
「そういえば、今日は席替えか」
「めんど」
「その口癖ヤメろっていつも言ってんだろ。移っちまいそうだし、ネガティブ思考はいずれ人を傷つけるかもしれねーだろ?」
 『ネガティブ思考はいずれ人を傷つける』という言葉が妙に頭に残った。何となく凪の言いたい事は分かった。自分でも直したいと思っている。だが、幼い頃から染み付いているネガティブという『性格』なんて、今更変えられない。
「言いたい事は分かるよ」
「じゃあ…」
「気が向いたらね」
「それはそれはやんねー時の言い訳だろ?…オイオイ、拗ねるなよお」
 幼馴染は嫌だな。嫌いという訳ではないが、一緒に居る時間が他人より多いだけでこんなに言動が推測されてしまうから。私は、凪の事を推測できた事もしようとした事も1度もない。
 人に関心がない。これは、私の人生においての課題だ。これまでの経験上から、人との関係で受け身になってはいけない事を学んだから、高校では自分から人に話しかけられる人になりたいのだが、そう上手くはいかなかった。人との話し方が分からない。こればかりはしょうがない。まわりの大人は、「施設の子」という私と話していたから。私は少なくとも、「普通の子」として話していないように感じたのだ。「施設の子」との話し方からは、「普通の子」との話し方なんてものを学べるはずもなかろう。私を見る目、笑い方、目の動き、手はいじっているか。みんな同じなのだ。まあ、そういう目で見るのもしょうがない。施設の子供=可哀想な子供という無意識の固定概念のようなものがある国に生まれた宿命だと思って生きている。そういう大人も嫌いだ。
「ま、いざとなったら俺も手ぇ貸すからさ。悩みとかあったらいつでも言えよ?」
 黙り込んだ私を見兼ねて、凪はきっと明るく励ましてくれたのだろう。やっぱり凪は優しい。
「ありがと」
「おうよ」

あとがき
次のお話は、いよいよドキドキの席替えです。
お読みいただき、ありがとうございます。もしよろしければ、素直なご感想や評価などをいただけますと、今後の執筆の励みとなります。

貴方が好き。そう言えたら、どれほど良かっただろうか。

 席替えの時間になり、くじを引いた。クラスのうるさい奴らは、「〇〇と隣が良かった」「えー、アイツの周りの席話せる人居ねぇじゃん」「かわいそー」とかなんとかほざいていた。私は、そんな事なんて心底どうでも良かった。どんな人であっても、授業中の話さなければいけない意見交換などの時間以外は、話す事を必要最低限しない。話す事がないから。そして、今回も同じだと思い込んでいた。すると、隣の席に座る人が来た。綺麗な女子だった。
「よろしくね」
 話しかけられると思っていなくて、かなり驚いた。それと同時に、その可憐な笑顔に私は思わず照れてしまった。
「よ、よろしく」
「ふふ、西宮さんってそんな顔もするのね」
 凪以外に私を見てくれていた人が居た事にも驚いた。最後に、こんな人居たっけ?という疑問が生じた。やはり私は人に関心が無さすぎる。
 疑問を訊く時間はなく、次の授業が始まってしまった。今の出来事のせいで集中出来るはずもなく、隣の女子の笑顔が離れずにいた。まるで、服に染み付いた油のよう…いや、こんな汚い例えは失礼だからよそう。まるで接着剤のように私の脳内にこびりついていた。

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「ねえ西宮さん」
「は、はい」
「さっきからどうしてずっと身構えているの?」
なぜか、ここで「貴方が綺麗で優しくて戸惑ってしまうから」「人と話す事が苦手だから」と言いたくなかった。この気持ちはなんなのか。
「えっと…地震が怖くて」
「あははは、地震ね。…いや、確かに。落ち着いて考えてみれば身構えない方が異常かも…?」
彼女は考える人のポーズを取り、足を組んだ。その綺麗な顔には深刻そうな表情をして何かを考えているようだった。
「いやっ…!」
そんな考え込むまで私の話を本気にすると思っていなかったから、取り乱してしまった。私が取り乱すのは非常に珍しい。私を簡単に取り乱せてしまうのだから、この人はやはり他人とは何かが違う。
「なんてね。うふふ」
 笑われたかと思えば真面目に考え出し、真面目に考え出したかと思えば冗談だと笑う。話のテンポが凪の10倍くらい早かったから、少し頭が追いついていなかった。だが、彼女と話しているとこんなにも惹きつけられる。この人との会話が楽しかった。こういう人がモテるのかな、なんて思ってしまう。別次元の人だ。この人は、私の目指している人物像だ!
「あっ…あの!」
「ん?」
 勢いで言い出した事を悔やんだ。真正面から凪以外の人と話している。目の前にはとても綺麗な女子がいる。あっ、なんか急に緊張して―
「松崎せんぱーい。今日のミーティングの事話したいんですけどー」
 彼女の部活の後輩らしき人物だ。このタイミングで邪魔が入るなんて、神様が今はやめろと言っているような感じがした。ああ、やっぱり私は駄目だ。出来ない人間だ。そんなネガティブ思考が襲ってきたが、彼女はあっけらかんと、「ごめ、今話してるから無理。昼休みまた来て!」とそれはそれは軽やかに言葉を投げて後輩は帰っていった。そんな彼女が輝いて見えた。
「で何だっけ」
「えっと」
今日はやっぱりやめておこうかなという考えが浮かんだ瞬間、『やんねー時の言い訳だろ?』という凪の言葉を思い出し、自分を奮い立たせた。ものすごい緊張で、背中から汗がじんわりと出てきていた。

あとがき
次のお話は、隣の席の美人さん中心です。
お読みいただき、ありがとうございます。もしよろしければ、素直なご感想や評価などをいただけますと、今後の執筆の励みとなります。

私の失いたくない人

私の失いたくない人

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-03-24

Copyrighted
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  1. 貴方が好き。そう言えたら、どれほど良かっただろうか。
  2. 貴方が好き。そう言えたら、どれほど良かっただろうか。