夜伽

男の鞣したような背の
皮膚にかかる燭台(light)が
ひらひらと震えて 影絵である
置いてきてしまった山脈(やまなみ)
あるいはあのお奇譚(はなし)のおそろしい怪物

 utohf htslenfr git
 macgonhig tsso i
 macgonhig tsso i

拇趾(おやゆび)が布(シーツ)を滑べり
ささやかな音がした
仰ぎ見ると
黄金色(きん)に明るんだ眼が
見ている
男のなみうつ背骨を(ここにない山脈を)

 ――あの小さな山を越えた先に
 もっと小さな家のあつまりがあって
 ぼくのうまれたところがそこだ
 あか色の屋根が草原に埋(うず)もれて
 ときどき この白い都(まち)へも
 青い草の香りが
 母の拵えた瓶詰めの色彩が
 黄色い土壁の手ざわりが
 思い出をわたって届くのだ

ぼくもきみと同じだ

と
こぼした彼の咽(のど)が
ひどく鋭い呼吸をして
すぐに頭(かぶり)を振った
――ごめん
そして
絹糸の
ように(――違うんだ)
光を孕む(――ああ)
髪の一抹
こそ
哀れなほど煌めいて
――どうか
ぼくや、ぼくたちを赦さないでほしい

その麗しき打擲で
肌(ししえ)は裂かれ
口をあけた血肉
へりをなぞるゆび
痛みに安堵の息をついている
異郷の貴き人

憐れなるかな
この躯はここへ転がっているだけ
であるのに
捧げられた供物さえ
諸手を挙げて吮(しゃぶ)れぬなら
なんのために
都などつくったのか

 utohf htslenfr git
 macgonhig tsso i
 macgonhig tsso i

おばけがやってくるよ
わが故郷の樹間の闇に
彼の病める都(まち)の夜に

夜伽

夜伽

憐れなるかな 異郷の貴き人

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • サスペンス
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-03-18

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted