処方箋

①構成を大幅に変更しました(2026年3月22日現在)。

 見慣れない名前の薬が、聞き慣れない病気に効く。皺のない紙に綴られた私(わたくし)ごと。同じ診断結果を全人類が受け取った、てくてく歩く院外の道。乾いた春のアスファルト。香りを見上げれば散らずに残る異様な梅と、咲きごろを間違えなかった桜。その枝に何本も吊るされた茶色いロープと、切られてばらけた未遂の痕跡。しくしくとも、おいおいとも泣かず、袋の破れたアイスはゆっくりと齧られる。色からしてあれはきっと、サイダーの味。受け取ったこれも、きっと同じ味。どこの窓口も混雑してるそうだから。別状のない命と、踏ん付けては解けるスニーカーの紐。結ぶのも億劫になってすとん、とその場にお尻を付けたなら。鳴らされるクラクション。体育座り。しばらく経っても、どれだけ待っても、誰も開会を宣言しない。もう、こんなに広がり始めているのに。かけっこなんて、したら楽しそうなのに。歯を剥き出して笑う。手を叩いて笑う。捨てられた玩具。お猿さん。ひっくり返れば助けてくれる、子供も大人もゼンマイが緩んでカタコトになった。ぎーこ、ぎーこと引かれずに鋸。駆け込み駐車のホームセンター。使われる気のない板切れと、真っ白な木工用のボンドがそこらに散らばる。風船も晴れて自由の身に。その全部を見送るまで動かないあれはもう命を持った着ぐるみで、頭部を放って、お尻を撫でていた。しゃくっと齧るごとに、美味しい、と砕ける氷菓。歯にしみて、こめかみを痛めて潤う瞳は捲れる紙と、乱れる髪。きぃーっというブレーキ音が沈黙をさらに深くして、別状のない命。健やかな魂。へっへっへっと舌を出す、毛量の多い大型犬はリールを引き摺ってすぐそばを小走りに。追いかけてくる飼い主は多分、いない。色んな鳥もそこかしかにいるから、放し飼いになって、出入り自由のゲージは想像するだけで不思議なオブジェ。それが置かれた生家に、とどまる人だってもういない。映画に出てくるゾンビより、人間らしく動くものも、決して寄り付かずに立ち去るだけで。目に入れば開いた窓から、はらり、ひらりと落ちてくる。色とりどりで、折られなかった紙は百羽にも満たない、祈りに感じられたんだ。朝はとうに過ぎて、昼前を迎えて、夕方はすぐ闇になる。ぱっぱっとあちこちに点く灯りが届かない、そんな場所が増えていく。とうとう最後にはガリっと噛んで二つに割れてしまう棒、当たりもしなかったそれを捨てる場所は、近くに見当たらない。自覚症状は誰にもない。でも、言われたとおり、手に持って。
 次のコンビニ、開いて覗こう。仕舞い込んで、全部を愛そう。

処方箋

処方箋

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-03-14

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