映画『GEMNIBUS vol.2』レビュー
GEMSTONEは映画会社である東宝が運営するレーベル。実績の有無に関わりなく自由な映画制作を行える場を提供し、映画の商業性に縮こまらない若き才能の発掘を狙いとするプロジェクトを2024年から行なっています。
その2回目となる今年の『GEMNIBUS vol.2』は新世代となる6人の監督を迎え、約30分前後の短編作品をTOHOシネマズ日比谷にて一週間限定で上映しています。出演者も例えば森七菜さん、黒川想矢さんの『国宝』コンビ、本郷奏多さんに西垣匠さんといったベテランの俳優に若手、あるいは元乃木坂46の西野七瀬さんに現櫻坂46のメンバーである山﨑天さんが名を連ね、バラエティに富んだキャスティングで作品強度の高い映像表現の可能性を切り拓きます。
実験的で挑戦的な制作が望まれる企画趣旨からはストーリー性が皆無の映像美に振り切った作品でもオールオッケーなのですが、しかしながらその方向にはジャン=リュック・ゴダールを始めとする先人たちの足跡がびっしりと残されていて、定番化した感もあるのが観客の本音。それをそのままやられても、正直にいってつまらない。商業的に堅いやり方をパッケージ化し、その生産ラインで手を替え品を替えして類似の商品を大量に作ったハリウッドの手法が前門の虎だとすれば、作家の個人性を前面に打ち出すミニシアター文化がいまや現役監督にとって後門の狼になってしまう。
GEMSTONEの狙いはまさにここにあって、エンタメにもアート的にもやり尽くした感が漂う映画史を刷新する胎動を最大手の映画会社として生み出し又は見出して、大切に育みたい。
ホームページにもはっきりと明記されている「実験」「挑戦」の意味は、だから決して技術的な話に止まりません。鍵を握るのはむしろストーリーの方で、①語りたいことと②語るための手段の選択。その噛み合い方が企画の成否を左右するといっても過言じゃないのです。
その試金石というべき『青い鳥』は短編上映の冒頭を飾る一作で、写真家でもある増田彩来さんならではの光の捉え方で景色を映えさせるアート系作品、と思えた印象から最後には一転し、物語として迎える衝撃で「なんだこれ…」という絶句を劇場に生み出す力作。どこにあるかも分からない「今」に立って振り返る「過去」と、目指す「未来」。それを裁断するあの音。そこに込められたニュアンスは、増田さんならではの毒針となって観る者をシビレさせる。
誰もが連想する絵本のテーマを、時間芸術と呼ばれる《映画》の俎上に載せる必然が脚本にきちんと現れていて感銘を受けました。
そこからのバトンタッチで始まる『You Cannot Be Serious!』は女性の妊娠をテーマを取り上げた短編でありながら、教条めいた描写を何ひとつ用いることなくパーソナルで政治的なドタバタコメディを高い完成度で喰らわせる作品。主役を演じる黒島結菜さん、その母親役の浅野温子さんがそれぞれに違った暑苦しさでスクリーンを埋め尽くす一方、ふっと訪れる世代の分断。社会の横断を表現する辺りが本当に巧みで、おわぁ!と思わず拳を握る大絶賛。あらゆる視点からの評価に耐えうる、極めてファンキーな優等生としてお勧めしたい一作でした。
関駿太さんが監督を務めた『ソニックビート』も特筆するに値する一編です。
100m走の予選に臨む主人公、イサオの緊張がピークに達して始まる不条理な展開は、注目の若手監督として初の商業映画に臨む監督自身と重ねて描かれるムービーな世界。ワンカットを構成する情報が次のカットとの対比でどんどんリズムを生み出すし、その整え方が理屈として正しくて、ノリとして異常だから心から楽しめる。ラストの青春カタルシスもむちゃくちゃ気持ち良く、快感でいえば断トツNo.1です。
またアイドルである山﨑天さんを起用する作品として、山﨑天さんのアイドルらしい一面を少しも用いずにその魅力を引き出していたのも称賛すべき演出でした。
ViViモデルとしてイサオ役の西垣匠さんと並んでも見劣りしない背の高さないし体格は、圧倒的な存在感でイサオの足を地に縫い付けるプレッシャーの現れ。本作が初演技だったという山﨑さんのどことなくぎこちない台詞回しも、本心が知れないアキ先輩の役どころとベストマッチ。それが次第にドライブがかったものとなっていき、素の山﨑さんとほとんど変わらない言葉へと昇華していく。そこで滲み出る本音めいたものが『ソニックビート』の色を確かに変えていきます。
あくまで個人の感想ですが、既に俳優として活躍する西野七瀬さんが出演された『インフルエンサーゴースト』を観ていて、この役をどうして西野さんに当てたんだろう?と疑問に思う部分があった為に、本作の山﨑さんの起用の仕方には納得する部分が多くあって、とても良かった。動員を見込めるアイドルの起用に辟易する映画ファンは確かに多いと想像しますが、『ソニックビート』におけるそれは決して悪くない。個人的には櫻坂46の一ファンとして知らない「山﨑天」像を知れて、新鮮でした。ほんと素晴らしい。
それ以外の作品も、映像技術とストーリー性の双方に跨ぐ野心をぶん回す熱い作品で見応え十分なものばかり。満席続出の注目度の高さも加味すれば、見逃し厳禁のイベントと納得してもらえると期待します。上映日程は明後日の12日まで。遅い時間でもスケジュールが組まれているので、仕事や学校帰りにでも観に行けます。興味がある方は是非。ギラギラな映画の未来、しかと目撃しましょうぞ。
映画『GEMNIBUS vol.2』レビュー