映画『結局珈琲』レビュー
本作は、下北沢に店舗を構える人気の喫茶店『こはぜ珈琲』が老朽化した旧店舗から移転することになったタイミングで撮られたメモリアルな映画です。
お世辞にも広いとはいえない『こはぜ珈琲』の旧店舗は各テーブルの距離が近しく、会話をすればその内容が周囲にだだ漏れ。下手なことは話せない状況、のはずなのに劇中で出てくる人全員がそんなこと少しも気にせず喋り出す。
店員と店員、店員とお客さん、お客さんとお客さん、お客さんと店員。
始まった会話をカメラが映すとそこが映画の中心になるのはただの道理で、視界の端には常に映り込む姿。藤原さくらさん演じる常連客。
会話をする人たちの側から見れば全くの赤の他人であるはずの彼女が映像上、全く浮いたりしないのは彼女が私たちと同じように目の前で繰り広げられるとんでもない馬鹿話に聞き耳を立てているから。頻繁に訪れる小ボケのオチのオンパレードに笑いを噛み殺して、我慢しているから。その様子まで鑑賞できる私たちは、腹を抱えて遠慮なくゲラゲラ笑う。そこで生まれる奇妙な連帯感が本作の勘所で、シーンが積み重なっていく度に劇場内の雰囲気が『こはぜ珈琲』のそれへと変わっていきます。その要所、要所で差し込まれる「珈琲を飲む」所作がまたズルくて、口を付ける前のあの芳しい香り、熱さと共に味わう苦味の美味しさを各々の脳内に再生させるのです。
実際の喫茶店『こはぜ珈琲』の日常が劇中で描かれるようなコメディ要素に塗れていなくても、そこで守られているのかいないのか、考え出すと曖昧になるパーソナルスペースが生み出す奇妙な居心地の良さは真にドキュメンタリー。新店舗が旧店舗から歩いて90秒の場所に立つのもコントみたいな真(まこと)。本店が漫画にもなったことを思うと、さもありなんの超現実が《結局珈琲》のタイトルをピカピカに磨いていきます。
『こはぜ珈琲』を知らない、行ったことがないという方でも本編にも出演されている劇団「コンプソンズ」所属の細井じゅんさんが手掛けた脚本がとんでもない逸品なので、本作を純粋に楽しめること必至です。そのクオリティは映画ファンほど深く唸らせると私は確信します。
ファイトソング以来、俳優としても大ファンである藤原さくらさんの演技も私的に推したいポイント。なんか態度が太々しいし、言葉づかいもまあまあ雑だし、でもすごく華があってと、その印象が忙しなく変わっていく好演を目にすることができます。
エンドロールでそのお名前を発見して「え、どのシーンで?」となった磯村勇斗さんで〆るラストも相当に粋。だったのに、劇場を後にして待っていた現実はもう心踊るサプライズ。むちゃくちゃ笑顔で挨拶させて頂きました。その楽しさを表すのに、余韻なんて言葉じゃ全然足りません。大大大大満足の良作でした。
先行上映していた新宿武蔵野館では当然に上映期間が延長決定。北海道から九州の各地で順次上映予定なので是非、公式ホームページでチェックしてみて下さい。《結局珈琲》、胸張ってお勧めします。
映画『結局珈琲』レビュー