06 その先の向こうに… ⑤
19章~21章
今回から目次を入れました。
本文左下の縦3ポチで、各章にとべますヨ。
19
四人は、おばさんの家へ向かって走っていた。
三人は鞄を肩に掛けているが乙音は教室に戻らず、何も持たずに走っている。
それでも三人に離されている。
「乙音ちゃん、大丈夫?」
ナオが振り返りながら声を掛ける。
「だ、大丈夫、です、先、行って、ください」
ゼーゼーと喉を鳴らしながら懸命についてゆこうとしている。
しかし、足が思うように動いていない。
仕方なく三人は、乙音を待つために足を止めた。
「おばさんには連絡してあるのよね」とカコが声を掛けると、ようやく追いついて来た乙音は、両手を膝の上に置いて肩で息をしながら頷いていた。
「そうなの? 乙音ちゃん、いつおばさんに連絡したの?」
ユウコが不思議顔で訊いてくる。
電話を掛ける余裕など無かったと思うのである。
しまった、やっちゃった。
カコは心の中で自分にゲンコツをした。
「え、え、それは、です、ね……」言い淀む乙音だった。
「ジンジが先に行って、おばさんには事情を伝えているはずだから……、とにかく急ごう」
カコはそう言って、誤魔化した。
「そうだよね、ジンジが先に行ってるからだよね」とユウコは納得した。
「乙音ちゃん。あと少しだから、頑張って」
ナオが励ます。
たが……
「だ、駄目、です」
乙音は泣きそうな声をあげていた。
「もう少しじゃない」
ユウコも声を掛ける。
「そ、そう、じゃない、です」
乙音は髪の毛がボサボサになるくらい、頭を大きく横に振った。
カコは屈み込み、乙音の顔を下から覗き込んだ。
「駄目って、ほんとに駄目なの? 我慢できないの?」
乙音は、哀しそうな目をしてカコに頷いていた。
ナオとユウコは、駄目って何のことなの、と思っている。
カコは決断した。
急ぐためには仕方が無い。
「分かったわ乙音ちゃん、もう我慢しなくてもいいわ」
カコは乙音を抱き、背中を優しく撫でてやった。
すると乙音は、安心したように大きく息を吐いた。
「しょうが無いよね」とカコが囁くと、乙音は、その場にしゃがみ込んだ。
ナオが慌てた。
「乙音ちゃん、ほんとに大丈夫なの? どこが具合でも悪いんじゃないの?」
「無理矢理走らせたのが悪かったの?」とユウコ。
「大丈夫。それよりちょっとだけでいいから、乙音ちゃんの方を見ないでやってくれる」
カコは振り返り、二人に乙音から背を向けてくれるよう頼んだ。
「どう言う意味?」とユウコ。
「あっち向いてて、お願い。直ぐ済むから」
カコは二人の腕を取って、半ば無理矢理に背を向けさせた。
「何なのよもう、後でちゃんと説明してね」
文句を言いながらも、ナオとユウコは、カコのお願いに従った。
すると……
「終わったわ。二人とももういいわよ」
ナオの文句が終わらぬうちに、声がした。
どういうこと……と二人が振り返ると、カコはその場にしゃがみ込んで何かゴソゴソとやっている。
「あれ?」「乙音ちゃんは?」
二人の前に乙音の姿は無かった。
不思議に思いながら回り込むと、カコの膝の上にはセーラー服があった。
「訳は後で話すから、今はとにかく急がなくっちゃ」
そう言うとカコは、下着とスカートをセーラー服の上着で包み込んでいた。
「ナオ、靴下と靴をお願い」
訳が分からぬまま、ナオは地面の上にある一組の靴を目にしていた。
今まで乙音が履いていた左右の靴である。
それもまるで、一瞬で足が消えたかのように中に靴下が収まっている。
「乙音ちゃんはどこ行っちゃったの?」
二人が手にしている乙音の服と靴を交互に見ながらユウコは頭を捻った。
ナオもポカンと、手にした靴を眺めている。
しかしカコは、それには答えずに走り出していた。
20
ユベールを抱えて庭に飛び込んで来た時には、すでにおばさんの姿があった。
肩を大きく上下させながら、どうして……? とジンジは切れ切れの声を出すのが精一杯だった。
さすがにここまでの全力疾走はキツかったらしい。
「ユベールをここに」
おばさんは、手に持っていた木箱を庭の樹の根元に置いた。
木箱の中には土が敷き詰められていた。
「さ、早く」
おばさんに促され、ジンジは宝物のように抱いていたユベールを木箱の中に横たえた。
おばさんは木箱の前に跪くと、両方の掌でユベールの全身に触れた。
「骨はどこも折れていないわ。身体が小さくて軽かったぶん、落ちた時の衝撃がそれほどでも無かったみたい」と言った。
「そうですか、良かった。じゃあ、助かりますね?」
おばさんは、ユベールが投げられたことを何故知ってるんだ?
「ケガは大丈夫。でも意識が捕まってる」
「意識……ですか?」
「簡単に言えば、男の思念、いわゆる邪気がユベールの心を蝕もうとしているの」
やっぱりおばさんは、男のことを知ってるんだ。
「それって、どう言うことなんですか?」
「男の邪気が、ユベールの心を消そうとしているのよ」
ジンジは驚いた。
「それじゃあ、ユベールがユベールじゃなくなってしまうってことじゃないですか」
「ユベールが普通の猫になってしまうってことね」
「普通の猫? そうなったらどうなるんですか?」
「ユベールは、わたしたちよりずっと長く生きているの猫又よ」
「おばさんよりもですよね」と念を押すジンジ。
そうよ、とおばさんはユベールの身体に手を添えたまま、まだ何かを探っている。
「てことは、普通の猫に戻ったら……。普通の猫の寿命ってどれくらいなんですか?」
「人間より短いことは確かね」
「ユベールがユベールじゃなくなって普通の猫に戻ったら……」
ジンジは言葉を切った。
頭の中は?マークで一杯になってしまった。
「そしたらそのまま死んじゃうってことじゃないですか」
「だから男の邪気をユベールから追い出すのよ」
「そ、そんなことが出来るんですか?」
おばさんは、出来る、と無言で顎を引いた。
「じゃあ、さっそくやってください」
慌てて言ったもんだから、声がひっくり返ってしまった。
おばさんは、ユベールから顔を起こしてジンジを見上げた。
「手伝ってくれる?」
「もちろんじゃないですか。何でも手伝いますよ。さっそくやりましょう」
ジンジは大きく頷いた。
「痛い思いをするけど、大丈夫かしら?」
「痛い思い?」
どんなことをされるのだろう?
「痛いって、どんくらい……」
一瞬言葉を濁した。
「や、やります、手伝います。大丈夫です」
躊躇いは一瞬で消えていた。
「オレって、我慢強い方ですから。さぁ、何をやればいいのか言ってください」
覚悟はいい?出来てる?……とおばさんは念を押した。
ジンジは、噛み締めた歯を見せて笑った。
「ビビりますから、早くやりましょう」
おばさんは深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。
「やってくれることは簡単。ユベールを押さえておいてくれくこと。それだけ――」
「簡単じゃないですか。どうやって押さえてればいいんですか?」
おばさんはユベールを、お腹が見えるように仰向けにした。
「両手でお腹を押さえておいて」
ジンジは詰襟を脱いで放り投げた。
そしてシャツの袖を捲り上げと、両手でユベールの腹を上からそっと押さえた。
とても冷たい。
抱えて走っている時は、あんなに暖かかったのに……。
「それじゃあ、始めるわよ」
おばさんは、ユベールを押さえているジンジ手の上に両手をかざした。
「これから、おばさんが送る思念で、男の邪気を追い出すから――」
そして目を瞑り、ブツブツと何かを唱え始めた。
思念で邪気を追い出す、それってトコロテンみたいになんだろうか?
おいおい何を考えてんだよオレは、とジンジは頭を振った。
やがて……
おばさんの手が触れてもいないのに、手の甲が熱を帯びてきた。
「手が暖かくなってきました」
真冬の寒空の下で、たき火にあたっているような感じだ。
おばさんはジンジの言葉を無視しているのか? それとも聞こえていなかったのか? 理解出来ない言葉を唱え続けている。
おばさんから伝わってきた手の甲の熱が、掌の方まで広がってゆく。
それがユベールを暖めてゆく感覚があった。
きっとこの熱?が男の邪気を追い出すんだ。
とそんなことを考えていると……
ユベールが身じろぎを始めた。
慌てておばさんを見る。
「これからユベールは暴れるから、絶対手を離さないで。箱から飛び出さないようにお願い」
「はい」
だんだんと……、ユベールの動きが激しくなってきた。
この小さな身体の中のどこにそんな力が潜んでいるのか、ジンジは懸命にユベールを押さえつけなければならなかった。
突然、ユベールの喉の奥から獣の声がひしりあがった。
うるるるるるるるる~~~~~~~~
と同時に、ユベールはジンジの手に爪を立てていた。
四本の手足の全ての爪が、手の甲に潜り込んでいた。
あまり痛さに、手を引っ込めそうになってしまった。
「んぎ、ぎぎ、、、」
手を離す代わりに、意味不明の言葉を口走って耐えた。
「もう少し……」
おばさんは、額に玉の汗を浮かべて、思念を送り続けている。
手が尋常で無く熱くなっている。
その熱がユベールに伝わる。
ユベールの動きが激しくなる。
全身を使って、ジンジの手に抗(あらが)っている。
猫が壁や柱で爪を研ぐように、それこそガリガリとジンジの手を掻きむしった。
それでも、ジンジは手を離さなかった。
甲の皮が剥け、皮膚がスダレのようになってゆく自分の手を、歯をむき出して見ていた。
元気になったら、今度はオレが引っ掻いてやっかんな。
うぅるるるるる~~~~~~~~~~
あああああああ~~~~~~~~~~
ユベールの見開かれた瞳がジンジを捕らえていた。
あの男の目にそっくりだ。
この手をどけるんだ、と言っている。
オレもユベールも、よくもまぁ、あの男から逃げられたもんだ、とその時のことを思い出していると――。
突然、ユベールがジンジの手に牙を立てていた。
これは流石に痛かった。
手を離しそうになり、肘が動いた。
その時、カコの膝の上で気持ちよさそうに眠っているムーンの姿が、頭の中に浮かんだ。
こんなの大したことない、大したことない。
そう自分に言い聞かせながら、ユベールが箱から飛び出さないように……、強く優しく力を込めた。
*
どれくらいの時間が流れたのだろう、ユベールの身体から力が抜けていた。
ユベールの手足がジンジの手を離れ、次には口が開き、食い込んでいた牙が抜けた。
ゆるく開いたユベールの目から、男の気配が抜けてゆくのが見えた。
見えた、と言うより感じた。
すると……、ユベールは、規則正しい呼吸を取り戻していた。
そしてやっと、おばさんの長い吐息が聞こえた。
「お、おばさん」
ジンジは顔を上げた。
「終わったわよ。ありがとう。ご苦労さま。ユベールはそのまま箱の中で寝かせておいてあげて……」
おばさんは、かざしていた手を引いてようやく顔を上げた。
「お、おばさん」
今度のは、驚きの声である。
「しょうがないわよね」
ほっとした笑みが、浮かんでいるおばさんの髪は輝く銀のように白くなり、顔には無数の皺が浮き出ていた。
一気に20も歳を取ってしまったようになっていた。
よっこいしょっと、おばさんは腰を上げようとしたが、膝が身体を支えきれずによろけていた。
ジンジは慌てておばさんの腕を取って支えた。
「ちょっと疲れちゃったみたい」
そう言って二度三度と頭を振り、もう大丈夫よ、と立ち上がった。
「ほんとですか?」
それでもジンジは、支えた手を離さなかった。
「それよりもジンジくんの手のキズの手当をしなくちゃね。それと頭からも血が流れてたみたいだしね」
おばさんはジンジの手を取った。
手の甲には、無数の引っ掻きキズと噛み痕があった。
赤い絵の具を、何本もの細い針金で無造作に塗りたくったような有様になっていた。
額から流れ出た血は、すでに乾いており、頬にかけてスジだけを残していた。
「まずは、そこで手と顔を洗いなさい」
目を向けた庭の端には、古いレンガで作られたアンティークな立水栓があった。
分かりました、とジンジは立水栓に向かった。
「タオルかハンカチ、持ってる?」
「あります」
ズボンの右後のポケットから、指先だけを使ってハンカチを取り出して、おばさんに見せた。
痛くて、あまり手を動かしたくなかった。
納得したおばさんは、家に入っていった。
ハンカチを立水栓の上に置き、まずはゆっくりと手に水を掛けた。
ゆるく擦ってみる。
血が流れてしまうと、甲の皮はスダレのようになっていることが改めて分かった。
完全に捲れ上がってしまった皮は、邪魔なので指で千切って捨てた。
次は蛇口の下に頭を入れた。
さらに蛇口を捻り、強く水を流した。
*
頭から雫を垂らしながら立ち上がり、ジンジは木箱まで行ってしゃがみ込んだ。
「貸しだかんな」
右手の人差し指を曲げて、フサフサとした柔らかな喉にそっと触れてみた。
ゴロゴロとした振動が伝わってくると、安堵の笑みがこぼれた。
「よく眠っているわね」
振り返ると、おばさんがそこに立っていた。
手に薬箱を持っている。
???
ジンジは、またも驚きの声を上げそうになった。
おばさんの顔が、いつもの顔に戻っていたからである。
さっきはあれだけあった顔の皺も、すっかり消えて無くなっている。
しかし、白く銀色になった髪だけが、そのままだった。
「驚かせちゃったわね」
「え、ええ。ちょっと……」
でもおばさんなら、……と何故か納得してしまった。
「キズの手当をしましょう。窓を開けといたから、そこに座ってちょうだい」
二人は、庭に面しているリビングの床に、並んで腰を下ろした。
「手を出して」
おばさんは、薬箱から取り出した消毒液を脱脂綿に浸した。
「ちょっと染みるわよ」とジンジに念を押した。
「だ、だ、だ、大丈夫です……」
緊張で手に力が入る。
緊張は、おばさんにも伝わったに違いない。
不意に、おばさんの手が止まった。
「どうしたんですか?」
不思議に思ったジンジは、おばさんを見る。
「ううん、何でもないわ」
おばさんは小さく首を振った。
消毒液は、想像以上にキズに染みた。
21
ジンジは埃を払った詰襟に袖を通してボタンを留めた。
襟ホックは止めた。
指が上手く動いてくれないし、もう家に帰るだけだからだ。
「ほんとうに、包帯は要らないの?」
「あんまり大げさにしたくないんです」
ジンジは、手の甲のキズに目を落とした。
消毒の後、おばさんが調合した軟膏を塗ってもらって、包帯を巻こうと提案したのだが、目立ってしまうから、と断った。
何かあったのか?と、絶対訊かれるからだ。
「誰に?」とおばさんが、半分からかうように訊くと、ジンジはエヘヘ、と笑うだけだった。
おばさんはそれ以上は何も言わずに、優しく微笑むだけだった。
「ありがとうございます。じゃあ、オレ、帰ります」
礼を言って、さぁ帰ろうとしたジンジは、あることに気付いた。
やっちまった、と頭に手を置いた。
どうしたの? とおばさん。
「鞄を、あそこに置いてきてしまいました」
ジンジは、学校がある方向に顔を向けていた。
「あそこ……て、あそこ?」
「はい」
ユベールを抱えて全速力で走るには、そもそも鞄は邪魔だった。
しかもあの時は、男から何をされるか分からなかったから、動きやすいようにと鞄を捨てたのも事実である。
あるかなぁ?
通り掛かった人が鞄を見付けてどうにかしてくれてるだろうか?
宮中の鞄だって分かるから、見付けた人が学校に連絡してくれるかも?
そんな虫の良い話があるわけねぇか。
汚ねぇ鞄だから、そのまま道端にほっぽってある可能性の方が高いな。
しょうが無い、とにかく戻ろう……。
そう決めて、もう一度あばさんに挨拶しようとした時、カコ、ナオ、ユウコの三人が現れた。
*
三人とも肩で息をしている。
ジンジは、ナオがアディダスバッグ、ユウコがジンジの学校鞄を持っているのに気付いた。
カコが駆け寄って来た。
「ユベールは大丈夫なの?」
ジンジは慌てて、両手を身体の後ろに組んだ。
「大丈夫。おばさんが治療してくれた」
「ジンジくんが手伝ってくれたのよ」
ユベールは木箱の中で眠っている、とおばさんは三人に教えた。
三人は、樹の根元に置いてある木箱に駆け寄って、中を覗き込んだ。
ユベールが眠っていた。
小さないびきをかいていた。
「どうしたの? 何があったの?」
安心したところで、カコが顔を上げた。
「まぁ、色々と……」
ジンジは言葉を濁した。
カコは、ジンジのその妙な姿勢に気付き
「後ろに何を隠しているの?」と詰め寄った。
「何も隠してないよ」
ジンジはおばさんに助けを求めるが、おばさんはあらぬ方向を見ている。
正直に話した方がいいんじゃないの……、と態度で教えてくれているのだろう。
ジンジは仕方なく、背中で組んでいた手を前に回した。
見せたのは掌の方だった。
「ひっくり返してみて」
何で分かるんだよ、と思いながら、ジンジは渋々手の甲を上に向けた。
カコは、抱えていた乙音のセーラー服を落としそうになってしまった。
寄ってきたナオとユウコも、言葉を飲み込んでいた。
「おばさんからもお願いするわ、三人ともそんなに怖い顔をしないでちょうだい」
「でも、これって……」
「三人には、おばさんから何もかも説明してあげるから。とにかくジンジくんはお家に帰ってゆっくり休みなさい」
ジンジは言われるまま頷いた。
「鞄……。落ちてたから、持ってきてあげたよ」
声を掛けたのはユウコだった。
ジンジの肩掛け学校鞄を持っている。
ナオはアディダスのスポーツバッグを持っていた。
「サンキュ。助かったよ」
ユウコは、鞄のベルトを、ジンジの手に触れないように注意しながら、ゆっくりと左肩から右へかけてやった。
ナオはアディダスのバッグを左腕に通してやった。
「ありがと。じゃあ、オレ。帰るわ」
ジンジはユベールの眠る木箱に行って、中を覗き込んだ。
それから踵を返し、誰とも目を合わせずに、木戸を抜けた。
おばさんは、ジンジの姿が見えなくなるのを待って口を開いた。
「三人には全部話してあげるから……、とにかく中へ入ってちょうだい」
カコがおばさんを見る。
おばさんは、カコの抱えているセーラー服を目にして、肩をすくめた。
「そうだ。そう言えば、乙音ちゃんは? 帰ってきてないの?」
ナオが思い出したように、唐突に言い出した。
「いつかはそうなるとは思っていたけど。しょうがないわよね……」
おばさんは呟いた。
済まなそうな顔をしているカコに、いいのよ大丈夫、とカコの肩掛け鞄を軽く叩いた。
すると――
「カコ。か、鞄が動いてるよ」
カコの横に立っていたユウコが驚いた。
カコの鞄が、中でゴソゴソと動いているのに気付いたのだ。
おばさんは、カコに目配せしながら促した。
カコが鞄を開けると、そこには教科書とノートと一緒に、ムーンの姿があった。
「ユベールは大丈夫みたいだから」
キョトンとしている乙ムーンに、カコが優しく声を掛ける。
するとムーンは鞄から飛び出し、一目散に木箱へ走った。
そっと中に入り、後ろからユベールを抱くようにして身体をくっ付けていた。
「どう言うことなの?」とユウコ。
「それも全部話してあげるから。さぁ中に入りましょう」
おばさんは、三人を中に迎え入れるよう玄関へ向かおうとしたが、途中で足を止めた。
「ちょうど窓が開いているから、みんなでそこに座りましょう。鞄はその奥にいてちょうだい」
そう言うと、ジンジの手を治療したリビングの窓の方へ向きを変えていた。
「ここなら〝二人〟の姿も見えるし、そうしましょう」
三人は、それぞれの鞄を開かれた窓の奥に置き、その前に座った。
そこからだと庭が一望出来る。
「あの二匹はほんとに仲が良いんですね……」
ナオが木箱に入った二匹を、眺めながら言った。
「カコさん、木箱を持ってきてくれるかしら」
言われたカコは、木箱を大事そうに運んでくるとおばさんに渡した。
おばさんは木箱を膝の上へ置いた。
「それじゃあ、ムーンとユベールの話からしましょうね」
二匹は箱の中で、仲良く寝息を立てていた。
⑥へ続く……
06 その先の向こうに… ⑤
次回⑥の掲載は、3月13日(金)の予定です。
ご意見、ご感想、お待ちしています。
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