覗き見ショート《美形男子の赤裸々な日々》~顔面偏差値99 / 中身ポンコツ~

今年も俺1人なんか

今年も俺1人なんか

●コンソメパンチに限る●

葵は、8頭身という恵まれたスタイルと美しい顔を持つ、ファッション雑誌「VUXIA」の看板モデルだ。

だが今は、毛玉の付いたジャージを着てだらしなくソファに横になり、コンソメパンチ味のポテチを惰性で食べている。

もはや華やかなモデルの世界とは真逆の、どこにでもいるだらしない男に成り下がっていた。

部屋の中には退屈な昼のテレビ番組の音と、コンソメパンチを咀嚼する音だけが響く。

●ラインごっこ●

ここ一週間、モデル事務所からの連絡はない。

もはや事務所のホワイトボードから、「葵」と書かれたネームマグネットが、陰湿ないたずらにより剥がし落とされた可能性すらある。

…という、令和の時代にあるまじき、昭和の香り漂う管理システムの被害妄想が、葵の頭を巡り始めた。

スマホは、死んだように静かだ。

​あまりに通知が来ないため、葵は自分を、VUXIAの編集部の超ハイテンションな編集長に仕立て上げ、一人二役の孤独な「LINE祭り」を開催し始めた。

​「葵くーーん! 次号のVUXIA、巻頭20ページ特集いっちゃう!? 葵祭りしちゃう!?」

​送信ボタンから指を離した瞬間に、「既読1」の文字が刻まれる。

​「マジっすか!? 伝説作っちゃいましょうよ!! 準備万端っす!!」

​また、一秒もかからずに「既読」が重なる。

「​あ、ごめん! 今の、やっぱバラしで!」

葵は無表情のまま、​画面を、爆笑スタンプで埋め尽くす。

そんな攻防が18往復も続いた。

その後、葵は爆笑スタンプの連打をやめ、虚無の顔でスマホを床に放った。

●今日は俺の日●

すると突然LINEの通知音が鳴る。

「来た!仕事だ!」葵は飛び付く様にスマホの画面を見る。

「お誕生日おめでとうございます!うどん100円引きクーポンをプレゼント!」

丸亀●麺からのLINEだった。

(え?今日俺、誕生日なんか…?)

​葵は、テレビの「奥様がマダムに変身する」例の番組を消した。
静まり返った部屋に、コンソメパンチの粉がついた指を舐める音だけが響く。

(誕生日と言えば、イチゴのショートケーキと寿司。買いにいくか?)

葵はソファから半身を起こすと一瞬逡巡する。

(服着替えてレジ並んで、カード「ぴっ」てやって帰ってきて、手洗ってうがいして………)

工程を想像した結果

(めんどくさっ)

と言う答えに辿り着いた。

●界隈のカリスマ的センター●

だがしかし、腹が鳴る。「誕生日とかどうでもいいから何か食おう」と、キッチンへと足を運ぶ。

シンクの下を開けると、鍋やフライパンが乱雑に入れられた奥に、界隈でセンターを張るカリスマが鎮座していた。

ペヤ●グ・ソース・ヤキ●バ
だ。

賞味期限を確認すると、半年前に切れている。

しかし葵は迷いなくティファールに水を入れると、スイッチングした。

数分の後お湯が沸くと、すぐさまペヤ●グに湯を注ぎ、ソースを上に載せてスマホのタイマーをかける。

背中を丸めて棒立ち状態で「湯切り口」と書かれた文字をじっと見つめながら静かに待つ、8等身の美形。

●いざ●

「ブオォォォォォーーー!」

静寂をぶち破って、スマホから「ほら貝」のタイマー音が鳴り響く。

その音に、葵はビクッ!と体を震わせる。

「ペヤング掲げていざ出陣!…かっ!」

と、1人寂しくツッコミしながら急いでタイマーの停止ボタンを押す8等身の美形。

部屋の中にはもちろん葵しかいない。

「誰がほら貝の音に設定したんや!俺や!」

葵は薄暗い部屋の中で、不自然な関西弁でセルフツッコミすると、スッと真顔になり、湯切り口のシールを慎重に剥がしてシンクへお湯を流した。

すると、「ぼごんっっ!」とシンクが大きな音を鳴らす。

葵は再びビクッ!と体を震わせると

「ビクッ!やないっ!2回目やないかっ!」

と、再び怪しい関西弁でセルフツッコミをした。

●儀式●

葵は出来上がったヤキソバを眺め

(俺、誕生日に、1人寂しくペヤ●グ食うんか…)

と、僅かに涙を滲ませる。
その直後

「あ…」

と言ってシンクの引き出しをゴソゴソと引っ掻き回し、奥の方に引っ掛かっていた物を引っ張り出した。

それは、古びた小さな6本入りのロウソクだった。

葵はペヤングとロウソクを手にリビングへと戻ると、ソファを背に、背中を丸めて床にあぐらをかいて座る。

そしておもむろにロウソクを袋から取り出すと、次々とヤキソバの麺に直刺ししていった。

慎重に、チャッカマンでロウソクに火を灯す。

薄暗い部屋の中で、ヤキソバにぶっ刺さったロウソクの6つの炎は怪しく光り、まるで呪いの儀式の様な雰囲気を醸し出している。

ロウソクの灯りに照らされた8等身の美形は、消え入りそうな声で呟く。

「ハッピーバースデー、俺。」

そして葵は、薄闇の中で静かに、ロウソクの炎をふき消した。

覗き見ショート《美形男子の赤裸々な日々》~顔面偏差値99 / 中身ポンコツ~

覗き見ショート《美形男子の赤裸々な日々》~顔面偏差値99 / 中身ポンコツ~

美形男子の残念な日常を暴露します。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-03-01

Copyrighted
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