仮面ランサー/弐
ボードレール 悪の華 三七 憑かれた男
暗夜だろうと、茜さす明け方だろうと、気の向くままなものになるがよい
Ⅰ
「次の指令だ」
そんなもの。待っては。
「待ってました!」
この馬鹿は。
「このバカは」
言ってくれた。
「待たせてしまったな」
待ってないって。
「西だ」
「えっ」
西――
「まあ」
あっさり。
「かなり危険な地帯とは言えるな」
危険って。かなりって。
「待ってよ」
さすがに。
「また〝宙央(ちゅうおう)区〟みたいな……そういうとこ?」
そこは。『狭間』の世界。
「違うな」
違うの。
「魔境だよ」
「えっ」
思いがけない。
「甘く考えないほうがいい」
(い、いや)
考えてないけど。
にしたって――魔境。
「イミフ」
つぶやく。
「というわけで」
スルー。
「これを渡しておこう」
それは。
「切符?」
しかも。
「小田急……」
「新宿発だからな。知っているとは思うが」
知っている。
(小田急線で行く……)
魔境。
「箱根だ!」
横から。
「ロマンスカーだよね! それから登山鉄道で」
「登山はない」
「えっ」
「丘だ」
(丘……)
ますます。
「登山じゃないの?」
「ない」
「オカザン?」
「証券会社か」
ツッコミ。横から。
「それを言うなら、トオカだろう」
どちらも。
「中央線、京王線、小田急線」
「?」
「その三本だけが人の道と言われる」
(だ……)
誰が。
「これが西武新宿線では、微妙なズレが生じる」
そうなのか。
「人の道の先」
指を。
「人の世ならざる」
「っ」
それが。魔境。
「シネマみましょか、お茶のみましょか~♪ いっそ小田急でにげましょか~♪」
「な……」
なんだ。今度は。
「東京行進曲」
知らない。
「さあ、行け」
意味が。
(……でも)
そこに。
「いるんでしょ」
無言。その肯定。
「行く」
決まっている。
それが。
自分の。
「ぶっ潰す」
すべての。
仮面の悪魔たちを。
Ⅱ
「近い……」
がく然。
「しかも、鈍行」
(まあ)
準急や快速は止まらない。ロマンスカーなんて夢の話。
「何……この……」
絶叫。
「鶴川ってーーーーーっ!」
叫ばれても。
(切符の時点で)
わかっていただろう。
「あーもー、ぜんぜん予定外だよ!」
腹立ち治まらず。
「芦ノ湖畔をランニングするのが夢だったのにー」
夢は。勝手に。
「三人で」
おい。
「ていうか、何このゼルビア押し!」
八つ当たりか。
「ゼルビアって何? 花!?」
ありそうだけど。
「悪の組織の女幹部!?」
いそうだけど。
「女将軍ゼルビア!」
いそうだ。
「えーと」
うろ覚えの。
「確か、町田のサッカーチームで」
「裏切りじゃん!」
なぜ。
「町田って東京でしょ!」
その通り。
「ここ、多摩川越えてるじゃん!」
それも。
「だったら、神奈川で」
「ここは町田だ」
冷静に。
「え……」
きょとん。
「違うでしょ」
「違わない」
「町田駅はもうすこし先で」
「見ろ」
地図を。
(いまどき)
紙の。しかも、本でなく、大きな紙を広げるタイプ。
「ほら」
「あっ!」
指さしたそこ。鶴川駅は町田市に属していた。
「前の駅は川崎なのに!」
「だな」
「ちょっと南に行ったら川崎なのに!」
「だな」
「ほぼ、川崎!」
「だな」
認める。
「こどもの国も町田だ!」
なんだ、『こどもの国』って。『よみうりランドまえ』なら通ってきたが。
「駅は横浜市だがな」
「すごい!」
すごいのか。
「複雑に」
くいっ。眼鏡を。
「入り組んでいるのがこの辺りだ」
そうらしい。
「大体、ここらは昔すべて武蔵国だった。川崎、横浜をふくめてな」
「へー」
感心。素直に。
「そして」
西を見て。
「複雑に街道の入り混じる土地だった」
詳しいな。本当に。
「丘の間を縫うようにして」
はっと。
「そう」
うなずく。
「ここだ」
「………………」
緊張に。身が。
「というわけで」
背を。
「腹ごしらえだ」
かくっ。
(ま、まあ)
実際、ここへ来るまで何も。
「町田名物!」
「そんなものはない」
「ないの!?」
「絹糸」
「食べられないじゃん!」
「糸になる前なら」
「虫!?」
勘弁してもらいたい。
「心配するな」
無駄に。
「言っただろう」
自信。満ち満ちな。
「街道の入り混じる土地だと」
それが。何だと。
Ⅲ
「おいしかったー」
「うん」
同意。
「こんなところに」
あるとは。
「ある」
得意げに。
「言っただろう」
また。
「街道が入り混じる」
聞いたって。
「街道。街と街をつなぐ道。そこに」
ビシッ!
「必ずラーショはある!」
必ずかよ。
「知らなかったか」
知らなかった。
「朝から」
しかもの。
「嫌だったか」
「………………」
ノーコメント。
「けど、歩いたよねー」
歩いた。
「腹ごなし」
いや、こなす前に。
「当然だ」
当然なのか。
「電車どころかバスも通ってないんだ」
とんでもないところが。新宿から鈍行で一時間くらいで。
「あるんだ」
「ある」
断言されても。
「香ばしいおっちゃんばっかりだったねー」
「御用達だ」
御用達か。
「運送関係の仕事は時間が不規則なことが多い。朝営業というのは実に助かる」
関係者か。
「彼らも街と街とをつないでいる」
つまり。
(ここら辺は)
街とは。言えない。
人家はまったくと言っていいくらい見当たらない。あるのは、車関係の店、廃棄物置き場、コンビニ、そして食事の店。
それらがまばらに。
(狭間の世界)
言っても。
「よーし、お腹いっぱいになったしー」
足踏み。
「どこ行くの」
そうだ。それがまだ明らかに。
「来ているよ」
「へ?」
来て――
「ここだ」
ここ。
「ラーショ?」
「それも目的ではあった」
あったのか。
「こんな機会でもないとなかなか来られないからな」
それはそうだ。わざわざ長距離を歩いて。
「街道が入り混じる。それは様々なものも入り混じるということだ」
だから、もう。
「人と人でないものと」
「……!」
「虚実も」
「………………」
つまり。ここは。
「っ」
顔を。
「おー」
空を。
「大きいねー」
「基地が近いからな」
軍用輸送機。おそらく。
すくなくとも一般の旅客機では。
「?」
気がつく。
「あれ?」
こちらも。
「あれって」
広がる。
「パラシュート」
こんなところで。
しかも、複数。
「スカイダイビング……」
でも。やって。
「何を寝ぼけたことを」
カチン。
「知らないし」
まったく縁のない。
「敵だ」
「えっ」
まさか。
「来るよ!」
体育会系。目もいいと。
「っ!」
跳弾。周囲のアスファルトが砕ける。
「な……」
恐怖。
慣れない。
当たり前だ。こちらは普通の。
「撃たれた!」
「わかってる」
「……!」
すでに。顔に。
「よし、来ーいっ!」
そうだ。
「……わかった」
最初から。
(そのために)
自分は。
「すぅー」
呼吸。深く。
取り出す。
真っ赤な。
(人のままじゃ)
戦えない。
(仮面と)
戦えるのは。
(仮面)
顔に。
「やるし」
つぶやき。
「ハッ!」
手のひらを。
仮面の軍団に向けた。
Ⅳ
ドゥウン!!!
「!?」
弾けた。まだ何かするより早く。
「あ……」
次々。影が爆炎に。
「フッ」
隣で。
「……!」
手にしていたのは。
(は……)
箸!?
「すごい!」
はしゃいで。
「ラーショの箸、マジ最強!」
「だな」
そうなのか!
(いやいや)
爆発する機能は。
(こいつの)
正確には、青の仮面の。
力。
「フンッ!」
立て続け。
「!」
ドン! ドン! ドォォォン!!!
「すごい……」
花火かと。
「おてもと、どうぞ」
キマってない。
「ちょっとー」
不満げに。
「全部撃ち落としちゃだめじゃん。こっちにも蹴らせてよー」
「やればいいだろう」
「遠いじゃん!」
「伸ばせ」
「馬場か!」
ない、そんな特殊能力。
「赤もそうだよねー」
「えっ」
「青がみんなやっちゃってー」
「………………」
正直。ほっと。
「ここって」
ごまかすように。
「もう敵の」
「わからん」
「は?」
現に。
「目まぐるしく」
指を。回し。
「入れ替わる」
「入れ替わる?」
「あちらと思えば、またまたこちら」
「町田と思えばまたまた川崎?」
「その通り」
その通りか。
「ここは多摩市と町田の境だがな」
「増えた!」
「すこし先に行けば八王子」
「また増えた!」
「あと相模原」
「どこまで!?」
本当に。
「稲城も加えようか」
「否!」
え、シャレ?
「狭間なんだよ」
くり返し。
「油断だけはするな」
つまり。
「いつ襲われても」
「襲われなくてもおかしくない」
どんな言い方だ。
(にしたって)
先ほどまでとまったく。変わらないように。
相変わらず人気はなく、谷間の道を車だけが行きかっている。
(感覚が)
街と。違う。
向こうには、リアクションがある。
ここでは。果たして、どれだけの変化があるというのだ。
異常事態が起こっても、起こらなくても。
(狭間の)
どちらつかずの。
「昔、読んだノベルスで」
なに、『ノベルス』って。普通の小説と違うのか。
「真っ先に邪神にやられてたな」
何が。
「こういうところにできた巨大団地の住人だよ」
こういうところ。
ここ。にはないが。
もっと駅に近いあたりには。
「神の守りがないから」
「え……」
「だそうだよ」
「………………」
まつろわぬ民。そんな言葉が。
「シネマみましょか、お茶のみましょか~♪ いっそ小田急でにげましょか~♪」
かくっ。
「逃げた先だ」
「えっ」
「ここは」
街から。人の法が圧倒的に支配する世界から。
ここには。ここの。
(けど)
ない。ここから。
(逃げたり)
ぐぅぅぅぅ~。
「っっ……」
かくっ。再び。
「お腹すいたー」
「おい!」
怒りの。
「油断するなと言ったばかりだろう!」
「油断しなくてもお腹は減る」
「食べたばかりだ!」
ネギチャーシュー麺大盛にライスまでつけて。
「戦ったし」
「おまえは何もしてない!」
「歩いたし」
「は?」
「ほら、ここまで上ったり下ったり」
した。
「食事前に稽古をすると吸収が良くなっちゃうんだよ」
「力士か!」
吸収がいいから腹が減る? そうなのか?
「もー、体重落ちちゃうよー」
「かーーっ!」
最高潮。
「これでもしゃぶってろ!」
「爆発するじゃん!」
「腹はふくれる」
「おお!」
うまいことを。
「いただきまーす」
「えっ」
受け取って。
「あーん」
「ち、ちょっ」
本気で。
「はい」
「!?」
不意を。
「ぐ……ふぐぐ」
くわえて。こちらが。
「おい」
真剣な。
「落ちつけ」
る。はずが。
「放すな!」
ビクッ!
「落としたら爆発するぞ」
そういう仕組み!?
「いいか。ゆっくり……ゆっくりだ」
何を。
「三つ数える」
だから、何を。
「一」
だから!
「二」
だめだ。何も。
「三!」
「っ」
しまった。口から。
「はぐっ」
くわえた!?
「はぐぐ!」
「!?」
逆の端をこちらに。
「はーぐーぐ!」
(は……)
早く?
(まさか)
くわえろと。また。
「はぐぐっ!」
思わず。
(あ……!)
端と端。ポッキーゲーム。
「ふんっ!」
一閃。
「っ……」
断ち切られた。
「ふうっ」
くわえていたのを吐き出す。
箸の半分を。
「だ……」
おそるおそる。こちらも。
「大丈夫なの」
「大丈夫だ」
ひらひら。手にしたそれを。
「……!」
袋。箸の。
(達人か)
あり得ない。
「配線は切った」
(爆弾処理か)
線どころか本体を。
「はぁー」
こちらも。ほっとして。
「お腹すいたー」
「「おい!」」
ダブルの。
「誰のせいでこうなったと」
「爆弾食べさせようとしたの、そっちじゃん」
その通り。
「仕方ない。ここからすこし遠いが、歩き終わるころにちょうど開く時間になる店が」
また歩くのか。
「尾根伝いにずっと行ったところにな、伝説と呼ばれるラーメン屋がある」
またラーメン。
「伝説!?」
食いついた。
「料理人はおじいさんが一人だけだがな。重い中華鍋で一度に何人前もの料理を作り、かつ休むことがないそうだ」
「おー」
鉄人だ。
「一人ですべての料理を作るから待ち時間は長い。ピークのときには三時間に及ぶ行列ができたと言われる」
「すごい!」
「しかし、客の誰一人として文句は言わなかった」
「伝説だ」
「そう、伝説」
遠い目で。
「惜しくも店主の体力的限界で閉店を余儀なくされた」
がくっ。
「やってないんじゃん!」
「言っただろう、伝説と」
「過去の!?」
そういう。
「心配するな。近くにはイワシ料理が絶品の和食処も」
ラーメンよりは。
「まあ、そこも閉店して、別の場所で奇跡の復活を遂げたが、やっているのは夜だけで」
「だから!」
何がしたい。
「尾根を越えれば、別のラーショが」
もうそれは。
「ラーショは一応チェーン店らしいが、店ごとにまったく味が違うと言っても」
それでも。
「では、大勝軒か」
やっぱり、ラーメン。
「あるの?」
「思わぬところに大勝軒」
ことわざか。
「転ばぬ先の大勝軒」
連作。
「行こう!」
結局。
「多摩丘陵地帯は未知なる飲食店の宝庫だ。今どきのぬるい外食チェーンとは違う――時代を超えたそんな奇跡の店を求めて!」
探検隊か。
「まさに〝摩〟境だね!」
うまいことを。キャラにない。
(てゆーか)
何をしに来たんだと。
「はぁーあ」
いまさらながら。
Ⅴ
「あっ」
意外。そう言っていいのか。
(あるんだ)
水田。
の。はず。
街生まれ街育ちでまったく詳しくはないが。
「あるんだ」
口に。
野山に田畑。ありふれた日本の原風景に思えるが、この辺りを歩いていて本当に初めての。
(違うんだ)
開発。それもあるだろう。しかし、その手が伸びていないところも多分にあるこの地において、いままで見ることがなかったのは。
(あっ)
そうか。
開墾。それもまた〝開発〟。
人の営みなのだ。
決して自然の風景ではあり得ない。
(ここは)
街道。
それはストイックなまでに他の要素が排除される。
つなぐ。それ以外の。
そこには、ある意味人さえも入れない。
ただ行き過ぎる。
のみで。
(自分たちも)
そんな。
――ふふっ。
「?」
笑い声。
「ちょっと」
足を。
「笑った?」
「………………」
きょとん。
「なぜ」
聞かれても。
「何かしたの」
違うけど。
「オナラ」
おい。
「正直だな」
違って。
「笑うか」
「笑おう」
「違うって!」
――あははっ。
「ほら!」
「?」
首かしげ。共に。
「笑ったか?」
「んにゃ」
じゃなくて!
「耳を」
澄ませて。
「わっ!」
「!?」
ぎょっと。
「ちょ、おまっ、古典的な」
「や、やってないし」
二人にも。
「あははははははっ」
笑って。いた。
「――!」
仮面。
「な……」
いつ。どこから。
(あ)
日本の田舎の風景。
野山に田畑。そして、そこで遊ぶ。
(子ども)
その。見た目は。
「雑魚じゃないぞ」
わかる。
武装した仮面たちよりはるかに。
「遊ぼうよ」
「っ!」
後ずさる。
「遊ぼう」
迫る。
「しないから」
前に。
「車も多いしな」
左右で。こちらを守るよう。
「車?」
けげんそうに。
「ああ」
わかったと。
「飛べないんだよね」
何?
「車って」
浮かぶ。
「え……」
錯覚。では。
「飛んだ!」
「わかってる!」
何が。どういうことか。
「あっ」
わかった。
「鳥……」
「?」
「ほら、上!」
無数の。
翼。
そのシルエットは。
「ニワトリ!?」
驚愕の。
「飛べるの、ニワトリ?」
「飛んでいるな」
「感心とかじゃなくて!」
「いや、飛ばないよう羽を切るといったことは」
まただ。
野山、村落。そこに。
「ニワトリ」
風景。それも。
「綾鶏(あやとり)」
仮面の。少女が。
「遊ぼうよ」
上げられた。その両手指から。
(あやとりの)
糸。なのか。
「く……」
つながっている。
というか、吊り下げられている。
あやつり人形のごとく。
力なく。
不気味かつ不吉な。
それは。
「……ェェェェ――――――――ッッッ!!!」
白き翼の〝獣〟たちが。
鳴く。
吼える。
夜と朝の境を成す猛々しき声の。
爆発。
「――!」
一瞬で。
聴覚だけでない。
視界まで。真っ白に。
「赤!」
「っ……」
白。
「うわあああっ!」
かすめる。
「痛っ! たたたっ!」
羽。爪。
白の暴風。
竜巻。渦を巻いて。
「はぁ……はぁっ……」
引き裂かれていた。直撃したら。
「こ、怖ぇー、ニワトリ」
「闘鶏というのもあるくらいだからな」
「全然、平和の象徴っぽくない!」
「それはハトだ!」
言い合いつつ。
緊迫の。
「仮面師(マスクマスター)」
間違いない。
名無しの仮面たちとは。
「遊んでよ」
再び。
「王様」
(――!)
それは。
「違う」
はっきり。
「そんなもんじゃない」
自分は。
「あんたらをぶっ潰す」
そう。
「仮面ランサー!」
顔に。
「ランサー・赤!」
「同じく青!」
「黄!」
三人。並び立つ。
「じゃあ、白」
「!」
また。
「散るんだ!」
言われるまでも。
「くうっ!」
白の。暴風。
(やっぱり)
狙われているのは。
「!?」
「赤!」
足を。
「来なよ」
手に。
「やってやる」
力が。
流れを。熱を。
そのまま。
「ほら!」
前へ。
放たれる。ほとばしる。
赤。
「おお!」
「焼き鳥だぁ!」
快哉を。
「焼きとったりぃーっ!」
なんだ、それは。
「!」
言う間も。
「くぅぅっ!」
身を投げ出す。ギリギリ。
剛風。
嵐。
それは赤の放射すらも。
「吹き飛ばしたぁ!」
わかって。
「く……」
どうすれば。突撃されている最中には、こちらの攻撃が。
「……!」
いや。
(本体)
ふり向く。
そこに。操縦というより完全に引きずられて。
(あれだ!)
しかし。
「くっ」
遠い。
「逃がすか!」
手を。後ろに。
「はっ!」
放つ。その勢いのまま。
「おお!」
歓声を背に。
飛ぶ。
放出は手から足に。完全に『心優しい科学の子』状態。
「待てぇぇっ!」
近づく。
絶対に外さない。その距離まで。
「!?」
分かれた。
「な……」
裂けた。そう。
「っ」
違う。
二つ。いや二人に。
右手と左手。それぞれを吊られて。
そして、逆の手からは。
「しまっ」
まともに。
「きゃあっ!」
突っこみ。からみとられる。
二人の間に張られた。
網。
いや、あやとりの紐に。
「はははっ」
「あはははっ」
嬌声が。二重で。
「くっ、このっ」
ふりほどこうと。しかし、ますます。
「っっ……!」
かぁっと。こんなもの一瞬で。
(……だめだ)
ギリギリ。
燃やしたりなんてしたら、自分が丸焦げになる。
紐を選んで最小の力で。そんなことが不可能なほどすでにがんじがらめなのだ。
「つかまえた」
「つーかまえた」
左右から。
「ほいっ」
「ほほいっ」
「!?」
網が。いや、あやとりの形が。
変わる。
それぞれ片手だけで器用に。というより異様なまでの素早さと正確さで。
「っ……ひゃっ」
くるくると。いいように。
「このっ!」
あらがおうとするも。どうしても思うままにならない。この隙にふりほどこうとの試みも、かえって締めつけを強くしてしまう。
「く……」
完全に。身動きが。
「王様、はりつけー」
「はりつけー」
無邪気な。だけにぞっとさせる。
(何を)
これから。
「持って帰ろー」
「おみやげー」
(!?)
どこに。
「はりつけー」
「おみやげー」
とにかく。このままでは。
「きぃぃぃぃぃーーーーーっく!」
影が。高い木の天辺から。
「く……ぅっ……」
届か――ない。
「うぅぅ……あぁぁぁぁぁぁー」
落下。
(な……)
何をしに。
「むやみに突っこむなと言っただろう!」
地上から。
「おまえまでつかまったら手に負えん!」
(っっ……)
おまえ。まで。
(つかまった……)
自分が。
(自分の)
せい。
「っ」
バァン! バァァン!
爆発。
こちらに直接でなく本体や鶏たちを狙ったものだが。
(届いて……)
いない。
羽ばたき、そして紐がしなって軌道をそらす。
「いいから!」
声が。思わず。
「こっちのことは! だから!」
よけいなことは。
「っ……」
寸前で。飲みこまれ。
「はぁっ!」
手に。力を。
構わない。
多少の危険なんて気にしていられない。
この身体ごと。
「!?」
急加速。
「く……ぐぐ……」
重圧が。
「こ……このっ」
集中。できない。
力が。
まとまらない。
(だめ……)
完全に。
「!」
パァァァン!
(あ……)
紐の一部が。
(時間差)
最初からこれを。
他の攻撃は気をそらすため。
「っ」
裂け目が。
猛スピードの飛行の勢いで一気に。
「きゃっ――」
解放。
コマのよう。激しく空中で回転を。
「っ! っっっ!」
天地が。驚速で。
とても。
思考すら。
「――! ――ぁ――っぁ――!!!」
悲鳴をあげたか。それさえ。
のみこまれた。
Ⅵ
「おーい」
のんきな。
「生きてるかー」
そんな。言い方。
(生き……て……)
声が。
それでも。
(………………)
どうやら。
「よかった、よかったー」
(……おい)
のんきすぎる。
「じゃ」
(え!?)
行こうと。
「ち……ちょっ」
なんとか。上半身だけ。
「ちょっと!」
「?」
はーはー。息が。
「どういうこと!」
「んー?」
わからないと。
「おかしいでしょ!」
だって。
「こ、こうして」
倒れて。
「おー」
感心の。
「元気、元気ー。お姉さんはうれしいぞー」
そういうことでは。
「じゃ」
「ちょっと!」
だから。
「ちょっとー」
逆に。
「忙しいのよ、お姉さんは」
(いっ)
忙しいとか、そういう。
(こいつ……)
あらためて。
(何者)
なのだろう。
見た目は。地元の。
(……いや)
違う。
なんとなくでしかないが。
服装はかなりオールドクラシックな〝田舎者〟。
しかし、中身が。
重さを感じさせない。
かろやかな。
明るく、はつらつと。その瞳に知性を宿した。
むしろ、都会的な。
「あっ」
こちらの視線に。
「わかるー? 益子なのよー」
抱えていた大きな壺を。
「何でもないって思うんだけどねー。それでもなんだかいいなーって。馬鹿にしたもんじゃないわよねー。普段使いだからっていいものはいいのよ。うんうん」
一人で納得。
「手伝って」
「えっ」
「ちょうどよかったー。こんなとこで会ったのも縁よねー」
この状況で。何を。
「ほら、早く立って」
「い、いや」
「早く!」
「っ」
思わず。
「持って」
「………………」
「ほら、そっち。一人でここまで重かったんだから」
夢遊病者のよう。言われるまま。
「ちゃんと持った?」
こくっ。
「じゃあ、行こう!」
やたら元気に。
「ふふふーん♪ ふんふーん♪」
鼻歌まで。
「シネマみましょか、お茶のみましょか~♪ いっそ小田急でにげましょか~♪」
はっと。
「そ、その歌」
「あなたも好き?」
いや。
「流行ってるもんねー」
流行っているのか!?
「わたしも」
遠くを。見るよう。
「小田急で逃げてきたようなもんだしね」
「えっ」
急に。
「なーんて」
すぐさま。
「まー、気に入ってるんだけどね、ここの暮らし。疎開って言っても、小田急で一本なわけだし」
疎開? 耳慣れない。
「ほーら、着いたわよー」
森の小道を抜けた先。いかにも農家という趣きの。
(茅葺き……)
の。はず。
ところどころ青く苔むした。
(周りも)
深い木々や竹林に。
(異世界)
そんな。
「前に住んでた人は養蚕やってたらしいんだけどね」
「えっ」
ヨウサン?
「あれよ。カイコから糸を」
「!」
町田名物。
「虫はいいから!」
「は?」
「あ……」
恥ずかしい。
「ただいまー!」
ツッコまれることもなく。
「静かにね」
壺を抱えたまま。器用に人差し指を。
「まだ、旦那が寝てるから」
(だ……!)
結婚しているのか。
というか、大声で「ただいま」を言ったのはそっちで。
「そこに置いてー」
縁側に。
「よっと」
無事。
「ふー」
汗を。
「ありがとうね、手伝ってもらっちゃって」
「………………」
何と。
「あ」
ようやく。
「キミ、この辺りの子じゃないね」
いまさら。
「……フン」
ぶすっ。
「あははー」
機嫌を損ねることもなく。
「歌おう!」
「は!?」
「朝は元気よく! でしょ!」
静かにと。
「ラジオ体操ぉー!」
(ええっ!?)
「ラージオはさけぶ~♪ いっち、にっ、さん♪」
知らない!
「う……」
くらり。
「えっ、ちょっと」
あわてる。
「……眠い」
「は?」
「徹夜明けのラジオ体操はキツいわー」
「な……」
当たり前だ!
というか、さっさと寝ろ!
(どういう)
ついていけない。
「あ、おはよー」
「えっ」
ふり返る。
「あ……」
がっしりとしたガタイ。
思いきり。不機嫌な。
「ご、ごめんな」
はっと。
(なんで)
こちらが。
「メシ」
ぼそり。
「できてるぞ」
「わーい、ありがとー」
かくっ。
(ええぇ……?)
どういう。
(ひょっとして)
旦那。これが。
(寝てるって)
言って。
「きゃっ」
ガツン。
「押さえて!」
「えっ」
「早く!」
またも。
「っ」
とっさに。
「おー、セーフ」
ギリギリ。
「誰よ、こんなところに壺なんて置いたの」
おまえだ!
「さー、ごはんごはんー」
ご機嫌で。
(眠いんじゃ)
わからない。本当にわからない。
Ⅶ
「一荷入りだと思ったらねー、二荷入りだったのよー」
「………………」
何の話を。
「いいわよねー、小勝師匠」
知らない。
(何なんだ)
不思議な。というより異様な。
しゃべり続けているのは一人で。自分も含めた二人は黙っている。
そんな。食卓。
(食卓……)
なぜ。
ご相伴に与かってしまって。
(こんな)
畳の間に丸い木の卓袱台。これでもかと〝和〟な。
(料理だって)
もちろん。
麦入りの米飯とみそ汁に、野菜中心のおかず。中心というかそれしかなく、しかもわずか二品。青菜のおひたしときゅうりの漬物。
(精進料理か)
思って。
(まあ)
朝だから。
(朝……)
いや、もうすこし何かあっても。
「食べないのか」
息を。
(う……)
いま。声をかけてきたのは。
(この人)
黙々と。ただ箸を動かしている。
(えーと……)
初対面。の。
(そうだよ)
名前さえ。
なのに。
「遠慮しなくていいのよー」
こちらも。
「壺友だちだしー」
そんなジャンルはない。
いや、なくはないのかもしれないが。
「やっぱ、朝酒はしみるわー」
「え……!?」
何度目かと。
「どう、一杯?」
おい!
「風呂も沸いている」
「ありがとー」
(だ……)
だから何なんだ、この二人は!
(夫婦)
らしいが。それにしても。
(朝帰り……)
さらに朝酒、朝風呂。
(自由すぎる)
嫁のほうが。
そして、夫はそれに怒る様子も見せない。
(いや)
怒っているのか? 終始硬い表情でまったくわからないが。
(でも)
食事に風呂まで。
(普通は)
普通?
(………………)
まったく。
(変)
尽きる。
「コラ」
ずびしっ!
「痛っ」
不意にの。
「なに、そんなむっすりしてんのよー。うちの旦那じゃないんだから」
(お、おい!)
にこやかにしろというほうが。
「ねぇ~」
とろん。目が。
「わたしのこと、嫌い~?」
(う……)
完全に。
「はい、あーん」
するな! しかも、酒で。
「あはははははは~」
もう。
「………………」
「?」
止まった。
「……くかー」
(おい)
あきれも。もはや。
「風呂」
「えっ」
箸を置き。立ち上がる。
「沸いている」
「………………」
入れと。そう。
「くかー」
これを叩き起こして入れろということではないはずで。
「あっ」
さっさと。自分の茶わんを流しに。
「行ってくる」
背広姿に帽子。
「え……あっ、ちょっ」
行って。
「ちょっと……」
いまさらながら。
「う……」
無防備に。寝こけている。
「ち、ちょっと」
さほど広くはない家の中。他の者の気配はうかがえない。
(どうするの)
これを。
この状況を。
「ふー」
貧乏性。ということか。
一人暮らしが長いせいかも。
(それにしても)
レトロ。家屋に負けず劣らず。
(ひょっとして)
薪? で沸かしたのか。
(台所だって)
ガスどころか現代文明のにおいが。
(まあ)
あるのだろう。あえて不便な昔の暮らしをという。
「ふぅ」
それにしても。
(あれから)
思いを。せまい湯船の中で。
(あいつ)
仮面師。
完全にこちらを手玉に取った。
ギリギリで逃げられたようだが、その後。
(追っては)
来なかったのか。
意識を失っていたこちらなど、簡単に再びとらえられただろう。
(何か)
追えないような。そんな理由でも。
(二人が)
追撃して。それで。
(………………)
おかしい。やはり。
どちらにしろ、どちらも接触してこないというのは。
「おー、いい湯加減かー」
「!」
堂々と。
「来るな、酔っ払い!」
「違うってー」
どこが!
「あのねー。本当の酔っ払いっていうのは『自分は酔ってない』って言うもんなの」
そんなこと。
「だから、わたしは酔ってない」
本物じゃないか!
「く、来るな」
逃げ場が。
「ふっふっふー」
(く……)
まさか。こういうピンチに。
「待て!」
ここは強気に。
「……えーと」
強気に?
「処女だ」
血迷った。
「だから」
ますます。
「だ、だから」
声が。
(って)
生娘か!
いや、そうなんだけど。
「んふふー」
ますますの。
「愛いやつよのぅ」
酔っぱらいが!
「待て!」
抵抗を。
「入れないだろ!」
この狭い湯舟に。二人は。
というか。
「酔っ払いが風呂に入るな!」
何かあったら。
「温泉で一杯は?」
言い返される。
「え、えーと」
確かに。お盆を浮かべて日本酒のイメージは。
「って」
そもそもの。
「ここは温泉か!」
「ここは温泉だ!」
「えっ!?」
確かに露天で、入るのにかなり躊躇はしたが。
(って)
だから、酔っ払いの言うことを真に。
「出るから!」
戦略的撤退。逃げるが勝ち。そんな言いわけで。
「出すかぁ!」
「!?」
どういう。
「ちょ、待っ、バ……!」
頭を押さえつけ。無理やり。
(こっ……)
殺す気か!
「ほーら、こうすれば一緒に」
上下で!?
「殺す気かぁーーーーっ!」
全力。
「あっ!」
上下逆さ。
突き飛ばした勢いプラス水場のせいで豪快に足をすべらせ。
「ちょっ!」
しがみつく。さすがに頭から真っ逆さまは。
「……!」
限界。
すでに。これでもかと暴れていたせいで。
「わっ……」
固定されていない。
「わ……わわっ」
板組みの。樽のような浴槽は。
「うっわーーーーっ!」
ザッパーーン! 盛大に。
湯をまき散らし。
「ぎゃーーーーーっ!」
一回転。上下逆さまに抱えこんだまま。
「ぐはっ!」
こちらが。クッションになって。
「ぐ……ふっ……」
まともに。
全裸。これ以上なく無防備で。
「う……く……」
青空の下。
「もう……」
やぶれかぶれの。
「好きに……し……」
がくっ。
Ⅷ
最悪の。
夢。
「………………」
ではなかった。
「あーさーね、あーさーざーけ、あーさーゆがだいすきで~♪」
王様か。
「ほらほら、まだぬるーい」
だから、王様か。
「けほ、けほっ」
まともに。
「言ったでしょー。吸うんじゃなくて吹くんだって」
やっている。
加減が。
吹きすぎると灰がこちらに舞ってしまって。
「なんで」
風呂焚きなんて。
「全部こぼしちゃったんだから当然です」
当然か?
こちらだけのせいなのか。
「抵抗したりするからー」
する。普通。
(普通……)
頭を抱えるしか。
「くさーつーよーいとこー、いちどーはーおーいで♪」
多摩だろう。
(………………)
多摩。なのか。
(ここも)
すでに。
「あの」
顔を。
「あんた」
「コラ」
叱られる。も。
優しく。
「お姉さん」
「は?」
「年上のお姉さんなんだから、そう呼ぶに決まってる」
そこは。いいかげんにはしないと。
「……お姉さん」
不承不承。
「――は」
そこで。
(何を)
聞けば。
(ここが)
普通ではない場所なのか。
(ていうか)
目の前の『これ』がまず。
「きゃっ」
パシャッ。不意に。
「コーラ」
またも。叱る中にも優しい。
「顔を上げなさい、青少年」
(な……)
上げている。
「あ」
しまったと。
「青少年はおかしいよね」
そこもそうだが。
「青少女?」
なんかやらしい。
「おい、青少女よ」
だから。
「うらやましいか」
(は?)
「わたしが」
まったく。
「夜遊びして小田急で朝帰り。おまけに朝酒朝風呂。しかも」
しかも?
「旦那には完全に理解がある」
マジか。
「ハズバンドには」
なぜ洋風。
「うらやましいか」
「う……」
思わず。
「あ、やっ……ぜんぜん!」
あわてて。
「そうか、そうかー」
ご機嫌の。
「『ぜんぜん』って言ってるし!」
ムキに。
「ぜんぜんうらやましい」
言ってない!
「そんな日本語はない」
知ってる! や、いまは言われたりするけど。
「ぜんぜん」
指を。
「何?」
「っ……」
突きつけられ。
「ぜんぜん……」
口を。
「ぜん……ぜん……」
先が。
「ど、どうでもいい!」
やぶれかぶれ。
「とってもいい」
言ってない!
「いいところよー」
ゆったり。
「鶴川は」
はっと。
「ホント、疎開って気分じゃないわねー」
また。その言葉。
「……あの」
確かめないと。しかし、思い至ることは一つしか。
「あ」
空を。
「!」
見た。
「えっ……な……」
覆い尽くす。そんな言葉が陳腐に思えない。
数。
「立川のほうね」
「えっ」
「心配ないわ。ここが狙われることなんてないし」
平然と。
だが、そこに強い何かを。
「攻めたら攻められる。当たり前よねえ」
「………………」
「大体、地図もなしに攻めこむような国だもん。気合でどうこう言い始めた時点で終わってるわよ」
「あ、あの」
やはり。ここでは。
「負けないわよ」
「えっ」
それは。
「負けないから」
深い。もっと。
何かを。
「なあ、青少女!」
「わっ」
乱暴に。頭を。
「前を見ろ、前を! へこんでなんかいられないぞ! いまここを生きなきゃ!」
「わ……」
わかっている。言いかけ。
(わかって)
いたのか。
(ここ)
それは。あっという間に遠くのものとなる。
思っていたよりはるかに早く。
(………………)
そうだ。
なぜ。
(似てる)
気づかなかったのだ。
(気づいて)
いた。
が。無意識に。
(だって)
それは。心の奥の。
もう。
取り戻すことのできない。
「いいよ」
「っ」
「いたかったら」
ニカッ。
「うちの子になっちゃいなよ」
「っっ……」
ゆれる。
「や、やめてよ」
これ以上は。
(あ……)
息を。
(まさか)
信じられないと。目が。
「あんた」
「ん?」
くっ。唇を。
(間違いない)
最初から。
「……楽しいかよ」
「えっ」
「こんな風に」
爆発。
「人を馬鹿にして楽しいかって!」
放り出す。
「あっ」
驚く。声を背に。
Ⅸ
まただ。
(逃げた……)
わけじゃ。
「………………」
むなしい言いわけ。
「くそっ」
完全に。
(だって)
仕方ないじゃないか。向こうが強引に。
「く……」
言いわけだ。
「わーい」
「っ」
聞き覚えの。
「くったー、くった~♪」
食った!?
「ばばあじるくった~♪」
「!」
それは。
「うるさい!」
馬鹿な。
(あり得ない……)
カチカチ山。
「吊皮(つるかわ)」
「――!」
そうだ。
「あんたが」
やはり。
(いまだって)
どんな皮を。いや、仮面を。
「くったー、くったー、ばばあじるくった~♪」
「っ……く……」
口もとを。
「し、知るか!」
無理やり。
「食ってやる」
消してやる。
このわけのわからない空間ごと。
なかったことにしてやる!
「こわい、こわい~」
そんなそぶりなど見せないまま。
「待て!」
罠だ。よぎるも。
「逃がすかよぉ!」
止まらない。
つかまえてやる。
つかまえてその正体をはっきりと。
化けの皮を。
「!?」
足を。勢いよく。
「うわあぁっ!」
すくわれ。そのまま。
「うぐっ!」
逆さづり。
「引っかかったー」
また。
「ふーふんふん、ふんふふふんふん、ふんふんふんふんふ~ん♪」
ごきげんに。
「まちぼうけー、まちぼうけ~♪ あるひせっせとのらかせぎ~♪」
それは。
「そこへうさぎがとんででて~♪」
まさに。この。
「とんで出て」
歌が。
「つかまえた」
(く……)
失態。何度目の。
「皮はいらない」
「……!」
「外側は」
言って。
「だから」
手に。
「もらっちゃお」
鈍く。光る。
「これはいらない」
顔に。
「っ」
こちらの。皮を。
「ざ……」
沸騰。
「ふざっけんなぁぁっ!」
上体をしならせ。
「みぎゃっ」
頭突き。
「く……ぴゅぅ」
さすがに。仮面への直撃は。
「っ!」
すかさず。こちらも。
当てる。
「ふぅんぬっ!」
足に。力を。
瞬間。
赤い光に包まれた紐が黒炭となって崩れる。
「きゃ……」
ドサッ!
「っ……痛ぁ」
口にするも。そんなものいまは。
「……!?」
いない。
人気のない林道の中。
「どこ行ったぁ!」
叫ぶも。
「く……」
空しく。
(落ちつけ……)
でなければ、また。
(どこに)
油断なく。周りを。
「チッ!」
わからない。
本当にいなくなったのかと。
(全部)
消してやろうか。このうっとうしい雑木林ごと。
カチカチ山なら!
「――っ」
気がつく。
頭上。茂る枝葉の向こう。
「ハッ!」
足裏に。
舞い上がる。
緑の連なりを突き抜け、太い枝の上に。
「あ……」
またも。空に。
「何なんだよ」
次々と。
明らかに攻撃のためとわかる。
それが。群れを成し。
「おーい!」
地上から。
「え……」
風に乗り。届く。
「ごはんだぞー!」
がくっ。
「なっ……」
場違いすぎる。
「どこだー! 返事しないとメシ抜きだぞー!」
子どもか!
「う……」
腹の音。ごまかしようもなく。
(くそっ)
朝食の後、風呂、そして逃げ出したりとそれなりに時間は。
(これくらい)
ラーメン屋でも。
(………………)
あるのか?
この。
どう考えても非常事態な。
「く……」
ますます。募る。
「なんだよ!」
仮面を。外し。
「ここだぁーっ!」
ヤケの。
「おー」
気づき。
「鬼ごっこかー。見つけたぞー」
(くっ……)
何を。
「今度はそっちが鬼だなーっ!」
遊びのつもりか。
(遊び……)
遊鬼。そんな言葉が。
(……わかったよ)
腹が。
(そのつもりなら)
据わった。
「うく……」
鳴った。
Ⅹ
(……変わらん)
卓袱台に並べられた。
「食え食えー、遠慮するなー」
食べるけど。
(普通に)
おいしい。
運動――というか戦闘の後ということもあって。
「っ」
汁椀に。伸ばした手が。
「ん?」
こちらを。
「なによ」
険悪な。
「わたしの作ったみそ汁は飲めないってわけ」
「そんなこと」
けど。
「しょっぱくて」
違くて。
「姑か!」
なぜ。
「嫁いびりか! 『ウチの女房にゃヒゲがある』って!」
なんだ、それは。
「飲むよ」
一息で。
「ぷはっ」
完飲。
「うまかったか」
にやにや。
「わたしの作ったタヌキ汁は」
「!」
胃が。
「だまされたな」
「……!?」
「タヌキだけに」
笑えない。
「まー、いくらこの辺りにタヌキがうようよいるっていってもねー」
うようよいるのか。
「珍獣」
「?」
「らしいよ」
何が。タヌキが。
「欧米には」
得意げに。
「タヌキっていないらしいから」
「……へぇ」
知らなかった。
「ラクーンドッグ」
「?」
「って言われてるらしい」
ドッグ=犬で。
「ラクーンはあらいぐまだもんねー」
知らなかった。
「あらいぐま犬。って意味わかんないよねー」
……まあ。
「まあ」
やれやれと。
「だからって、タヌキが戦ってくれるわけでなし」
は? 意味が。
「ワカメだけ」
「?」
「らしいわ」
「? ?」
まったく。
「他の国は手こずってるってよー。ワカメ食べるのは日本くらいだから」
ずずー。すする。
「違う海藻もいっしょくたにシーウィード。船であちこちに広まっちゃって、港でやたら増えて大変らしいわー」
ああ。そういう。
(って)
詳しい。
「食べなさい」
「え?」
「おみおつけのワカメ。食べて、あなたも貢献するのよ」
いや、もう食べて。
(そもそも)
食べないほうが。むしろ『貢献』になるのでは。
(……わからない)
あらためて。
「………………」
見つめて。
「?」
気がついて。
「ふふー」
にんまり。
「わたし、キレイ?」
わからない。
「あんた」
それでも。
「『お姉さん』」
「っ」
「でしょ」
(く……)
そうだった。
(誰が)
結局。
(くぅ……)
黙々と。箸を動かすしかなかった。
こだまする。カラスの。
(もう)
こんな時間。
縁側で。ぼうっと。
いい考えも浮かばないまま。
(まったく)
何なんだ。
(何を)
目的が。まったく。
(このままで)
いいはずが。それでも。
「!」
ぬうっと。
「ただいま」
「あ……や……」
声が。そんなこちらに構わず。
「あっ」
中に。
(く……)
何なんだ。こちらも。
「あー、おかえりー」
中から。
「こっち? 楽しかったわよー」
のんきに。
「すっかり、わたしになついちゃってー」
誰がだ!
「わたしのためにお風呂沸かしてくれたりしてー」
させたんだ!
(くぅっ)
イライラするだけだ。ここにいても。
「ふん!」
立ち上がる。
も。
「………………」
だめだ。いまはまだ。
(正体を)
はっきりさせるまで。
「ねー」
ドキィィッ!
「晩ごはん、カレーでいいー」
「えっ!」
できるのか。
「旦那がカレー粉もらってきてねー」
粉から。
「た……」
食べたい。言いかけ。
「……!」
そんな自分に。
「い……」
いらない。
「………………」
言えない。
「決まりねー」
「あっ」
決まった。
「……カレー」
口に。
「………………」
それは。
Ⅺ
黄色い。
「さー、召し上がれー」
匙を。
「………………」
知っている。
この色。このもったり感。
(店と)
同じ。
基地と言うべきか。
(カレー……)
かつての『店』とは。微妙に違う。
それでも。
「肉は」
はっと。
「期待するな」
匙を口に運びつつ。見た目通りの重々しい声で。
(い、いや)
探しては。
「もっと肉入れてくれよー」
横から。
「気持ち、わかるなー」
(そ……)
そんなに卑しいと。
「じきだ」
ぽつり。
「戦争は終わる」
「っ……」
やはり。
「なら、カレーも食べ放題ねー」
能天気。あくまで。
「肉も入れ放題❤」
そこまで。
「そんな未来が来ればいいのに」
それでいいのか。
「来るさ」
来るのか。
「来る」
静かながら。力強く。
「うん」
うなずく。
「………………」
そんな。二人に。
「おいしいね」
自然と。
「これ」
言っていた。
「はぁー」
暗い。天井を見つめ。
(何してんだか)
三度の食事。しかも、寝床まで。
(罠……)
やはり。
(………………)
しかし。
「ねー」
「!」
突然の。
「一緒に寝ていいー?」
「な……」
馬鹿な。
「んふふー」
驚きから。覚めるより早く。
「な!?」
同じ布団に。
「ちょっと!」
さすがに。
「いいから」
「は!?」
「ちょっとくらいせまくても」
こっちはよくない!
「ちゃんと食べてるー?」
つんつん。
「育ち盛りなんだからー」
「おい!」
ムキに。
「っ」
そんな。自分に。
「……やめてよ」
「んー?」
「こういうの!」
起き上がる。
「なんでよ!」
返ってくる。おだやかな。
「なんで……」
その目で。
「だめ?」
「っ……」
そんな。
「だめ……」
じゃ。ないから。
「だめ」
なのだ。
「甘えさせて」
「えっ!」
何と。
「あ、間違えた」
がくっ。
「甘やかせさせて」
抱きしめ。
(う……)
なぜ。
伝わる。それが。
(なんで)
ますます。
「こんな……」
自分が。
「『こんな』ぁ?」
怒りの。
「何が『こんな』じゃあ!」
「!?」
キャラが。
「こーれーかーら!」
バンバン!
「ドンマイ!」
励まされた。
「……ははっ」
なんだか。
「いいよ」
言って。いて。
「愛いやつよのぅ」
だから、キャラが。
「じゃ、さっそくー」
さっそく?
「ほら」
パンパン。うながされる。
「……うん」
隣に。
「見てー、お星さまー」
いや、天井しか。
「ねーねー、三組の太郎くんのことどう思うー?」
「………………」
これは。
「どうとも」
「うっそー」
嘘も何も。
「知らないし」
「とぼけちゃってー」
つんつん。
(いやいや)
なんだ、これは。
(ないし)
こういうことでは。
「若いっていいわー」
そういう結論で。
「夢いっぱいね」
夢?
「恋もいっぱい」
ない。
「……ふぅ」
冷めて。
「ねえ」
何を。期待して。
「くかー」
「………………」
こっちが。
何を。
「ふぅ」
またもため息。
「おやすみなさい」
今日は。
それで。
Ⅻ
翌朝も。
「いただきまーす!」
「………………」
無駄に。
「今日も元気だ、ごはんがうまい!」
それはよかった。
「うまい!」
こちらに。
「うーまーい!」
どういう。圧で。
「うま……」
つい。
「うま?」
「………………」
なぜ、言わせたがる。
「……おいしい」
仕方なく。
「もう一杯!」
「えっ!?」
「よろこんで!」
「あっ」
まだ残っている。
「う……」
山盛りで。
「はい!」
受け取る。
「どんどん食べてねー」
(た……)
食べるけど。
「ふぅ」
お腹を。さすって。
(オヤジか)
我ながら。
『もー、体重落ちちゃうよー』
うらやましい。心底。
「………………」
いまごろ。
(探して)
くれては。
(……いる)
はず。
(けど)
確信は。
「コラーーッ!」
「!?」
「いい若いモンが、なに食っちゃ寝しとるかーっ!」
あぜん。
「あとの半年ゃ寝て暮らすか! デカンショデカンショで半年暮らして!」
わからない。
「立て!」
鬼軍曹か。
「走れ!」
なぜ。
「それが青春だ!」
知らん。
「食ってすぐ寝ると牛になるぞ!」
そんな伝説。
(牛……)
ブタ。よりはマシかもしれないが。
(体重)
どちらにしろ。
「ラージオはさけぶ~♪ いっち、にっ、さん♪」
知らない。
「行こう!」
どこに。
「山狩り」
思いも。
「まあ、山ってほどじゃないな。丘狩りだ、丘狩り」
何でもないと。
「ほら!」
「え、ち、ちょっと」
丘狩り。は。
(険しい)
なんなら『山』でも。
「ほらほらー」
前を。やはり無駄元気に。
「分け入っても分け入ってもだー」
確かに。『分け入る』だ。
道が。
人一人。いや、それすらも。
舗装なんてまったく。
(獣道)
まさに。
(獣の)
道。
「増えちゃってねー」
「えっ」
何が。
「がんばるわよー」
何を。
「……!」
ガサガサっ。
「さっそくねー」
何がだ。
「来るわよ!」
するどい。
「!」
飛び出した。
「やあっ!」
突き出される。
網。
くるり。返され。
「よし!」
(う……わ)
それは。
「い、犬?」
「いかにも」
生け捕ったりと。
「さーて、お次はー」
「ち、ちょっ」
ついて。
「なんで!?」
裏返る。
「つかまえるでしょ」
そうなのか!
「危ないし」
えっ。と。
「言ったでしょー。増えちゃって大変だって」
それは。
「病気持ってたりするとねー、子どもが噛まれたりして危ないし」
そうか。
(丘狩り)
こういう。
「役場に持ってくとこだけど、まあ、それどころじゃないっていうか」
戦争。
「……じゃあ」
思わず。
「どうするの」
「食べる」
「!」
「ってのは、さすがにねー」
やめてほしい。
「食べたい?」
「っっ!」
首を。勢いよく。
「病気だもんねー」
そういうことではなく。
「まあ」
手早く。紐をかけ。
「仲良くやれればいいんだけどねー」
「………………」
仲良く。
「すれば」
言いかけ。
「!」
見た。
「……あ……」
声が。
まさか。
「放して!」
「ん?」
「こいつ」
顔に。
(仮面……犬!)
馬鹿な。
「早く! いいから!」
声を張る。
「!?」
ガサガサガサッ。
「おーっと、大漁かー」
のんきな。
「逃げて!」
「えー、逃がすわけには」
伝わらない。
「……!」
囲まれた。そのすべてに。
「仮面……」
うめくしか。
ⅩⅢ
(どうする……)
戦うしか。
(でも)
いる。すぐそばに。
「おー、いっぱい出たわねー」
相変わらず。
(見えて)
ない? 馬鹿な。
異様な。
仮面の。
「下がって」
「おっ、やる気出た?」
ムカッと。
「邪魔だし」
言ってやる。
「へー」
カチン。
「なら、お手並み拝見と行こうかしら」
(だから!)
見るなと。
(見られて)
いままでの。これまでの。
全部が。
「なーんて」
前に。
「バッ……!」
出るなと。
「いいから、いいからー」
そういうことで。
「おうらぁっ!」
「!?」
蹴った。
「な……」
容赦ない。
「馬並だし」
どういうことだ!
「下がりな、ノラ犬ども!」
勇ましすぎる。
「こちらに居わすはねぇ!」
「えっ」
こちら? こっち!?
「わたしもよく知らん!」
がくぅっ!
(な……)
確かに。お互い。
「それでもねぇ!」
肩をめくり。
「妹なんだよ!」
「は!?」
いつ、そういうことに。
「こちとら、姉さんなんだ!」
呼ばせてはいるが。
「親の血を引く兄弟よりも、固い契りの姉妹船!」
演歌か!
「はぁぁ~♪」
歌うな!
(頭が)
こんなことを。
「とりゃあっ!」
バキィッ!
「あ……」
また。
「フフン、かかってきなさーい」
挑発するなと。
(あ)
警戒。あきらかに。
(どうして)
仮面の。それが。
(普通の)
普通の?
(なわけ)
もう。短い付き合いでも。
(だからって)
この状況に。
「ほらほらほらぁっ!」
「あっ」
止める間もなく。
(う……)
わかっていても。ある意味〝虐待〟にも見えなく。
「犬はねぇ!」
力強く。
「こっちが強いって思い知らせるの!」
(お……)
それは。
「ハンパが一番だめ! やるときはやらないとね!」
(やるとき)
その。時を逸し続けているのが、自分の知る『現代』ではないか。
事なかれ。そんな空気の中。
誰も。立ち上がらない。
立ち向かわない。
(………………)
孤独。久しぶりの。
その痛みは。
「……あ」
気がつくと。
「いい汗かいたー」
(そんな)
豪快すぎる。
「あ」
しまったと。
「みんな、追い散らしちゃったなー。一匹ぐらいつかまえとくんだった」
それなら。
「あ」
いない。残っていたのは拘束していたはずの紐だけ。
「あー」
あっさり。
「逃げられた」
「……うん」
こちらも。それ以上の感慨は。
驚きの反動というか。
「あーららー」
(なっ)
まるで。こちらが。
「知らないし!」
あわてて。
「吠えるのはおびえの裏返し」
「……!」
「この国も」
だから。
「負けてるんだって」
くり返し。
「………………」
つい。
「どうすれば」
口に。
「負けないで済むの」
「んー」
あごに。指を。
「やっちゃえばいいんじゃないかなー」
(な……)
何の答えにも。
(そもそも)
吠えていたか? あの。
(わからん)
あれもこれもだ。
ⅩⅣ
(わからん)
まま。
「あー」
夕暮れを。ただ。
「ゆうやけこやけでひがくれて~♪」
はっと。
「それは知ってる!」
「そうなんだー」
(う……)
馬鹿に。我ながらはしゃぎすぎたとは思ったが。
「………………」
はしゃぐ。そんな。
いつの間にか。
「……あのさ」
わかっていた。から。
「行くわ」
「カラスと一緒に?」
まだ。
「一緒っていうか」
言葉を。
「まあ、一緒でなきゃいけないっていうか」
そう。
「そっか」
あっさり。
「いってらっしゃい」
(……あ)
それは。
「い……」
本当に。久しぶりの。
「いってきます」
しかし。
(く……)
朝を。せめて待てば。
いまさらの。
「くそっ」
そもそもだ。
ここは。自分の知る世界ではない。
いや、知るというほどこのあたりに詳しかったわけでもないが。
それでも。
「あーもー、田舎暗ぇー!」
八つ当たり気味に。
「街灯どこだよ!」
そもそも。この時代に。
というか世界に。
「わかんねー!」
八つ当たり。完全な。
「っ」
灯り。前のほうに。
「ホタル?」
間抜けな。我ながら。
(いないだろ)
いや、郊外ならいたのか? いるのか?
どちらにしろ、見るのは初めてで。
「マジか……」
思わず。
「!」
強く。燃え上がる。
「わ……わわっ」
完全に。
(カッコ悪ぃ)
唇をかむ。
犬に。
勇ましく向かっていったあの。
(比べて)
自分は。
(ホタルに)
正確には。というかまったく違うが。
「おい!」
気持ちは。
「ホータル、こい!」
ヤケで。
「ホッ! ホッ!」
馬鹿か。思いながら。
「ホータル、こい!」
前に。
「……!」
来た。
向かって。
「うおっ!」
直角カーブ。顔面すれすれを。
「!?」
ズッ! 足もとが。
「うおわぁっ!」
バシャァーン!
「ぶっ!」
水!?
(つか)
川か。闇のせいでその縁にいたことにまったく気がつかなかった。
「くそっ」
また。罠に。
「!」
ゆらゆら。灯る。
そこに。
「障子!?」
なぜ、野外に。そんな疑問も突き抜け。
「……!」
浮かびあがる。
影。
「これ……」
パタン。パタン。
日常的にはなじみのない。しかし、何をしているかは想像できる。
「う……」
思わず。手が。
「つるがみる~♪」
「……!」
ぎょっと。
「つ、鶴……」
やっぱり。
「って」
それを言うなら。
「………………」
言いたくない。ほんのわずか前、自らそれを認めていても。
「っ!」
飛び上がる。
白い。大きな翼を持った。
「ニワトリじゃなかったのかよ!」
まさかの。
闇夜のカラスならぬ、闇夜のツル。
目立つことこの上ない。
「つるがみる~♪」
再び。
「み、見るな!」
というか、こちらが見る側では。
「つるがみる~♪ つるみがわ~♪」
「あ……」
川の名前か。この。
「くっ」
巧妙に。すべて仕組まれているような。
(だめだ)
飲まれるな。
どんな手で来ようと。どんな鳥だろうと。
(やることは)
顔に。
「やるし」
仮面。
(わからせる)
力が。意志と共に。
「こっちが強いって!」
じゃれつかせるような真似を。もう許しは。
「あは……はははっ」
笑いが。
「王よ」
恍惚の。
(何でもいい)
何と呼ぼうと。自分は自分だ。
「やるから」
そう。
「どうぞ」
前に。
「っ」
スッ。差し出される。
「な、何だよ」
思わぬ。
「王が望まれるなら」
ためらいない。
「首を」
「え……」
どういう。
「……っ」
我に。
「今度は」
油断なく。
「どういう罠?」
「………………」
答えない。
「わかってるし」
それでも。
「どうぞ」
くり返される。
「ざけんな!」
声を。
「……く……」
変わらない。動かない。
(どういう)
このまま。なら。
(い……)
いいのか。
(いい)
決まっている。
自分は。
仮面たちすべてを。
(そう)
手が。
「狩る」
上向かせ。その首を。
「お望みのまま」
後押し。
「っ……」
言われなくとも。
「くっ」
指に。力が。
「く……」
ぐい。ぐい。
喉に。
その感触が。
(いいんだ)
これで。
「く……か……」
苦しそうな。それすら媚びを。
(いつまで……)
こうやって。
耐えられない。
(っ……弱気に)
なるな。
こちらが。強いと。
(思い)
知らせる!
「っ」
砕けた。
「あ……」
やって。
「………………」
いや。自分は。
初めてでは。
(なのに)
なんだ。この。
胸の。
どうしようもなく。
(なんで)
関係ない。
仮面だ。
それ以外の見た目がどんな姿かたちをしていようと。
(子どもだって)
つかみきれないと思うほど。
細い。
その首を。
「あ……!」
細すぎる。
「やっちゃった」
耳元で。
「あ……あぁ……」
これは。
「だっ――」
爆発。
「だましたなぁーーっ!」
ふり向く。そこに。
「怒るよねぇ」
「っ!」
「だまされたら」
にんまり。
「たかが鳥がさ、人のフリしてたんだよ」
(鳥……)
首。この。
「仮面をつけてね」
「!」
そうだ。そういうことに。
「だから」
ささやく。
「殺されて当然」
「っ……」
違う。そんなつもりで。
自分は。
(仮面だから)
けど。それは。
(変わらない)
なら。
「……そうだ」
声が。
「いいんだ」
「仰せの通り」
うやうやしく。
「だから」
ささやく。
「殺しちゃえ」
「っ」
「人の心に平気で入りこんでくるようなやつらは」
心。
(人の……)
それは。
(あの)
二人。
「ひどいよね」
そんな。
「ぜーんぶウソだったんだ」
「……!」
嘘。
「お返ししないと」
恩返し。じゃない。
「カチカチ山」
そうだ。
「ババア汁」
「そうそう」
自分は。何を飲まされた。
「おー」
縁側で。
「早かったなー」
「………………」
馬鹿に。
「何してるの」
「月見」
のんきな。
「ほら」
指を。
「丸いぞー」
当たり前だ。
「あの月を射落としてみよ」
「っ……」
何だ。
「なんだっけ」
知るか。
「いいから」
もう。
「いいかー」
からからと。どこまでも。
(いいから)
もう。
「座りな」
隣を。
「………………」
逃げない。
「どうだった」
「えっ」
不意を。
「ここに来て」
「………………」
それは。
「どうも」
ない。ただ。
(ただ……)
ふり回されただけ。それだけで。
「もう……いい」
こんなこと。
「はっきりさせるし」
正面切る。
「何が狙いさ」
「狙われたい?」
「っ」
また。
「……く」
そらさない。
「やめろよ」
微笑。
「やめろったら!」
激昂。
「放っとくだろ!」
面倒くさい。こんな。
(自分だって)
どうにもならない。
「なのに」
手が。
(あ……)
引きそうに。
「だからだよ」
触れる。
「こんな」
慈愛の。
「かわいい子を」
「っっ……」
あり得ない。
「あんたの」
あらがう。よう。
「仮面」
火を。
「剥いでやる」
吐く。烈しさで。
「………………」
沈黙。
「そっか」
手を。
「それって」
顔に。
「こういう仮面?」
「!」
それは。
「……や……」
見間違い。
否定。即座に。
「嘘」
思いたい。そうとしか。
(こっちと)
同じ。
「さあ」
赤い仮面の。向こう。
「だーれだ」
ⅩⅤ
「うわぁぁっ!」
悲鳴。
「どうしたの」
迫る。
「見たかったんでしょう」
違う! こんな。
「あんただ」
「……!」
自分。
「これは」
自分の。
「逃げるな」
「っ!」
手首を。
「や、やだ」
子どものように。
「こんなのやだ。やだよぉ」
「………………」
かすかな。
「……黙れ」
しかし。
「見ろ」
厳しい。
「あんただよ」
「え……」
この仮面が。
自分。
「違……」
「違わない」
容赦なし。
「あんたの」
近づく。
「顔だ」
視界。いっぱい。
「どうだ」
「………………」
聞かれ。ても。
「嫌だ……」
それしか。
「怖いか」
はっと。
「こ、怖い?」
そうか。自分は。
「……こ……」
おそるおそる。
「怖……い」
認める。
「だろう」
再び。そこに。
「だったら」
だったら?
「………………」
自分と。向き合って。
どうすれば。
「どうしたい」
「ど……」
どう? したい?
「そんな」
ますます。
「……わからないよ」
もろく。
「馬鹿だし」
「馬鹿じゃない」
優しく。
「わからないってことがわかってるんだから」
そう。言われても。
「よしよし」
手が。
「やめてよ」
払おうと。
「っ」
変わって。
「あ……」
白い。面。
狐の。
「な、なんで」
化かされたよう。まさに。
「おい」
ぬうっ。
「!」
ひょっとこ。
「行くぞ」
「え? え?」
追いつかない。
「決まってるでしょ」
いるのか。
「ほら、そんな格好してないで」
うながされ。
「……うん」
おとなしく。
「き……」
初めての。
「着物?」
「浴衣でしょーが」
苦笑。
「おー、似合う似合う。元がいいから」
「え……」
熱く。
「さすが、わたしのお下がりよねー」
そっちの『元』か。
(まあ)
思いのほか。こんな格好をしようともしたいともいままでなかったが。
「……イカす」
「おいおーい!」
バンバンッ!
「ぐ、ぐふっ」
「『イカす』って何だよ、『イカす』ってー。何時代だよー」
「………………」
何時代だ。ここは。
そして。
「………………」
狐面を。いまは斜めにかぶった。
「なんだー?」
にやっ。
「見とれちゃうほど美人かー。おいおーい」
バンバンッ!
「ぐ……」
一々。
「行くぞ」
「あっ」
さっと。
「ま、待っ」
あわてて。
「っ……」
ついて。いって。
「置いてくぞー」
「!」
子どものように。どうしようもなく。
「行くから!」
言って。
ⅩⅥ
「おお……」
地味だ。
(こんな)
お祭り。初めて。
「どうだー」
どうもこうも。
というか、よくわからない。
「こっそりだからなー」
悪びれず。
「けど、こういうのはさ」
真面目な。
「途切れさせたら終わりなんだ」
(終わり……)
重い。
「ま、細かいことは気にすんな」
していない。
「楽しめ」
どう。
(えー……)
ぽつり、ぽつり。
灯る。
かすかな。
その周りに人影は認められるのだが。
(何を)
して。
(けど)
感じる。その。
楽しげな。
(何が)
言いたく。
「照れるな、照れるなー」
「えっ」
そういうことと。
「デレるなー」
誰が。
「行けば」
いいんだろう。
「行くし」
またもの。ヤケで。
「………………」
おそるおそる。
(な、何を)
ビビッてるんだ。
(たかが)
たかが? 何が。
わからない。
「っ」
こちらを。見る気配。
「オ、オッス」
しっぽの生えた子どもか。
(う……)
無反応。
「お邪魔します」
無難に。
(無難か?)
疑問はあるも。
「あのー」
仮面の。二人。
(お面か)
細かいことは。
「ねー、わたあめはー? いか焼きはー?」
「ない」
「じゃあ、作ってー」
「なら、まずは保健所に」
「そこから!?」
「いや、先に地元の顔役と」
「テキ屋!?」
息を。
「お、おい」
近づく。
「……!」
見えた。はっきり。
青と黄色。
「お……い……」
まさか。
いや、間違いなく。
「あ」
向こうも。
「いいなー」
「えっ」
「それ」
指を。
「おしゃれしちゃってー」
「お……」
違う。そんな余裕なんか。
こちらでどれだけのことがあったか。
「どれだけ」
瞬間。
「……っ……」
もろく。
「なんだよ」
なかば。自分に。
「何なんだって」
意味なく。
「こんな」
自分が。本当に。
「お帰り」
(あ……)
ふるえる。
「いやいや」
こちらは。クールに。
「ここでお帰りは早いだろう」
「あ、家に帰るまでがお祭りだもんね」
そんな言葉は。
「やかましいよ」
帰るまでお祭り状態だったら。
(けど)
いまなら。というより。
いまが。
「選べたな」
後ろに。
「選んだ?」
「そうだ」
よくやった。言いたげに。
「あんたはあんたの道をつかんだんだ」
「道……」
それは。
「おめでとう」
くしゃくしゃっ。
「っ……」
やっぱり。
「……でしょ」
顔を。
「マスター」
「………………」
「なんでしょ」
にかっ。
「バーカ」
言って。
「それはもう」
瞬間。
「っ!」
首に。
「バーカ」
まったく。異質な。
「家畜のくせに」
食い入る。
「や……」
闇の向こう。紐の伸びてきた先。
「やめろぉーっ!」
走る。
「!?」
新たな。
「ふんっ!」
巻きつく。横から伸びた太い腕に。
「あ……」
大きな。背中。
こちらを守るよう。
「うまかったか」
「えっ」
「カレーだ」
ちらり。こちらを。
「……!」
間違いない。
「おっさん」
「お兄さんだろ」
あたたかく。
「嘘……」
こぼれる。
「なんで」
二人とも。
「しゃらっくせぇぇ!」
勢いよく。
「ぐっ!」
巨体が。
「おっさん!」
ドシィィンッ!
「どいつもー、こいつもー」
いら立ち。にじむ。
「離せ!」
声を。
「つかまってるんだよ」
「え……」
「こいつらは」
さげすみの。
「そ、そんなの」
見れば。
「違うんだなー」
あっさり。
「あっ」
解かれる。
「へ、平気!?」
あわてて。
「………………」
応えは。
「つかまってるの」
影。
「ここは」
両手を。
「籠の中」
上に。
「ほら」
「……!」
見えた。
「かーごめ、かーごめ♪」
囲まれて。
夜の闇の中。
ドームのように巨大な。
「……わかったよ」
ひるまない。
「抜け出てやる」
心が。
「一緒に」
燃える。
「あんたを」
ゆるぎなく。
「ブッ倒してさ!」
ⅩⅦ
装着。
「行く!」
ニワトリだろうが、鶴だろうが。
「!」
ぶわっ。視界いっぱいに。
「ハト!?」
バサバサバサバサッ!
「くぅっ!」
かがみこむ。
「鎌倉みやげー」
「!?」
「鶴に行ったらハトー」
意味が。
「手品か!」
ツッコミが。
「ハト肉はうまい!」
食う気か。
「エサやり禁止!」
そうだが。
「えーと、あとは」
ネタか。
「ハト胸!」
何がなんだか。
(ふぅ)
けれど。
(いつもの)
戻って。
(なら)
やれる。
「青! 黄!」
向かって。
「行くから」
それだけ。
「了解」
「オッケーさ!」
直後。
「うわりゃぁーーーーーーっ!」
(って)
誰が真っ先に。
「わーーーーっ!」
まともに。ハトの群れに。
(子どもか)
神社でよく。
「っ……」
しかし。
(なんだよ)
逃げない。追い散らされない。
逆に。
「たっ……た……痛たたたたたっ!」
当たり前だ。
「面倒な」
こちらは。冷静に。
「やつごと丸焼きにするなら別だが」
さすがに。
(だったら)
狙うは。
「本体」
うなずく。
「痛っ! マっ……マジ痛いって!」
「しばらくはもつ」
さらり。
「たまには食われる立場もいいだろう。食い意地張ってる分な」
そういうことか。
と、いまは。
「行くよ」
左右に。
紐。
伸びているその先。
「ぽっぽっぽー♪」
いた。
「はーとぽっぽー♪」
闇の中。不気味に明るい。
「まーめが」
「!」
前に。
「ほしいか?」
邪悪な。
「っ……」
気配。
二つの影。
動きを止めていたそれが。
「離せ」
一言。
「離していいのー?」
いたぶるよう。
「行っちゃうよ」
「!?」
「どこかに」
にんまり。
「もう二度と会えなくなる」
「嫌だ!」
子どものよう。
「もうやらせない! あんたらに! 絶対!」
バァン! バァン!
「っ」
弾ける。二人につながれた。
「割りばしは」
得意げに。
「はさめる」
だから、何だと。そんなツッコミの余裕もなく。
「二人とも!」
今度こそ。
「どこにも」
共に。両腕に。
「……え」
違う。
「抜け殻」
馬鹿な。
「夏の日の」
本物は。じゃあ。
「どこだよ」
押さえきれない。
「いいじゃん」
軽く。
「死んでるんだから」
「っ……!」
おまえたちが。
「残るんだ」
「えっ」
どういう。
「仮面に」
触れる。己の。
「生きてるか、死んでるか」
笑う。
「どっちだっていい」
「っっ……」
爆発。
「いいわけ」
突っこむ。
「あるかーーーーっ!」
並ぶ。
「!?」
二人。壁のように。
「残りカース」
あざ笑う。
「エサ」
「……!」
「にしか使えない」
阻まれる。行く手を。
「こういう使い方もー」
「どいてよ!」
懇願。
「なんで」
答えない。
「抜け殻だからー」
あざけり笑う。
「本物は」
「!」
指さした。先。
「……?」
何も。
「きゃっ」
二人が。覆いかぶさるよう。
「こうしても使えるー」
「や、やめろぉっ!」
押し倒され。もがきながら。
「なんで」
涙が。
悔しくて、悔しくて。
自分がじゃない。
こんなことをさせられている。
「許さねぇ」
血を吐くよう。
「ごめん」
両の手を。それぞれ地面に。
「はぁっ!」
放つ。
赤光の勢いのまま上体を起こし、二人を払いのける。
「本当でも嘘でもどっちでもいい!」
よくはない。
それでも。言わずには。
「させない!」
だから。
「やる!」
騎虎の。憤激の。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ジェット。
両足裏から放つ光で。
「!」
またも。前に。
「あははっ、だめだめー」
「こっちを」
はっと。
「忘れないでほしいな」
ヒュンッ!
「チッ」
叩き落とす。しなる紐が。
「無駄だよ、そんな線香花火」
余裕の。
「……っ」
直後。
「チィッ!」
視線を。元に。
「く……」
いない。
壁として立ちはだかった二人の前にもその周りにも。
「!」
上。
急激な方向転換。そこから。
「シャアッ!」
紐を。
それより速く。
「うらぁっ!」
ゴゥン!
「げひっ」
直撃。
急降下頭突き。
「ぎっ! ぎぎぎぃっ!」
仮面を押さえ。虫のようなうめき声を。
「やったぁ!」
白い羽を身体中につけ。
「よくも、人をハトってくれたなぁ!」
ハトる?
「ハトられに突っこんだのはおまえだろう」
広げるな。
(けど)
これで。
「終わらせるから」
この。遊びを。
「ふ……」
はっと。
「二つ面!」
勢いよく。
「く……」
そうだ。こいつらには。
「!」
途端。
「な、何?」
じぃわじぃわじぃわ。
低い。うなりのようなものが徐々に。
「くうっ!」
耳を。
「カエル!?」
そうだ。蛙の。
「カエルの歌が聞こえてくるよ!」
来る。ふさいでも。
「鳥の次は蛙か」
脈絡が。
「蛙の肉は鶏の味がすると言う」
「食べるの!?」
そんな。
「蛙宿(あやどり)」
大合唱の中。そのつぶやきは。
「っ!」
いた。
あらたな仮面の。
「また動物頼りかよ」
怖くはない。
どうせ、同じような。
「っっ……」
かすかに。
(地震?)
違う。これは。
「冬眠していた蛙が一斉に」
「えーーっ!」
そんなものではない。もっと重々しい。
「!」
鳴き声の向こう。
キュルキュルキュルキュル。
多数の。
地を食む金属の。
「嘘……」
巨影。野山を割るように。
「あ、あれって」
声が。
「戦車ぁぁーーーっ!?」
ⅩⅧ
「マチルダⅡ歩兵戦車」
「えっ!」
それは。
「オーストラリア製の派生型。太平洋戦域で投入された」
戦慄の。
「マチルダ・フロッグ! 最凶の対拠点戦車だ!」
直後。
「!」
炎。
「逃げろぉーっ!」
叫ぶ。
「ひゃあーっ!」
悲鳴が。
「くっ!」
焼き払われる。容赦なく。
(最凶の)
まさしく。
「どうするの!? どうすればいいの!」
そんなこと。
「相手は戦車だ」
冷静に。
「マチルダⅡは装甲がウリでもある。正面からでは」
何とかなっても。手間取ったりすれば。
「打つ手なし」
逃げるしか。
「……!」
人影が。
「だめだぁっ!」
きびすを。
「おい!」
「何して!」
聞こえない。
「マスター!」
二人とも。まさに糸の切れた人形と。
「逃げるよ! 逃げないと!」
キュラキュラキュラキュラ。
「!」
炎を。背景に。
「逃げて!」
必死の。
「っ……」
間に合わない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
前に。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫ぶ。
力の。魂の限り。
「くぅぅっ」
両手から。
かろうじて炎の暴威を食い止める。
「あっ」
しかし。
「く……」
囲まれる。
逃げ場のない。
そうしようとした瞬間、一斉に。
「燃やせよ」
どうすることも。
「こっちだけでいいだろ」
にじむ。大粒の。
「させないし」
二度も。
「させないからな」
精いっぱいの。
「くっ……」
なえていく。力。
「……!」
燃えあがった。
「あーあ」
あきれた。
「泣き虫だなー」
「なっ」
違う。言おうと。
「あ……」
そこに。
「力は」
大人びて。
「こうやって使うんだよ」
「………………」
声が。
「あ……」
赤い。
自分のと。同じ。
「……なんだよ」
最初から。
「手間取った」
「えっ」
「戻ってくるのに」
どこに。
「!」
持ちあがる。車両。
「おお……」
下に。
「おっさん!」
黄色い。仮面。
「おおっ!」
ズゥゥン! ひっくり返される。
「すげぇ!」
戻って。きた。
「一匹くらいー」
「っ」
いた。
「カエルは」
ゲロゲロゲロゲロゲロ。どこからともなく。
「まだまだいるいるー」
笑って。
「カエルの歌はー」
「知るか」
いまは。
「止めてやる」
言える。
「止める」
できる。から。
「よーし、よく言った」
うれしく。
「ほら、あいつらも」
「あっ」
鋼鉄の群影。その背後。
「ほーら、こっちこっちー!」
跳ね回る。
「こっちだよー! こっちだってー!」
無視できないほど。しつこく。
砲塔が向いたところで、素早く別の車影に隠れる。
構わず放たれる火炎。短時間なら生物だけ焼滅できると判断して。
「大ハズレー!」
炎を放った。当の車両の上に。
すると、今度は、放射を受けたほうから火炎が噴き出される。
同士討ち。
的が定まらず、混乱が広がっていく中。
「!」
ドウゥン!
破裂する。砲塔。
「さすがに火のタンクとエンジンのタンクは別だな」
炎にあおられつつ。冷静に。
「それでも」
ドゥン! ドゥン!
「武器がなければ、ただの鉄の塊だ」
そんなことは。言いかけるも、確かにせまい空間に集中しているせいで、その動きは大幅に制限されている。
(でも)
どうやって。
「あっ」
たばねられた。食堂の箸立てのようになったそれを。
「フンッ」
手早く。
跳び回る影に気を取られたその筒先に。
「わっ」
ボゥン!
(やるじゃん)
これだったら逃げずとも。
(……違う)
とどまったから。
自分が。
だから、危険に身をさらすような。
「うわっちぃ!」
はっと。
「熱ちちちちちちちちっ!」
火を。尻から。
(おい……)
昔の漫画か。
(ううん)
冗談でなく。
「よーし、消火ぁー」
「えっ」
「ほら」
「ええぇっ!?」
やれと。どうやって。
「できるだろ」
「で……」
できる。のか。
(……できる)
そう。
(思う)
足りない。だけでは。
「やるし」
「よーし」
満足げに。
「やってみろ」
丸投げか。
(やるし)
むしろ。背を押され。
「あ」
はっと。
(赤)
同じ。
(だったら)
やれる。
確信の。瞬間。
「っ……」
感覚。
(これだ)
手綱を。締めるよう。
(来い)
炎を。力を。
収斂。
「ふぅー……」
見つめる。
「昇華」
一つに。
「きれーい」
渦を巻く。それは宙に浮かぶ大輪の。
「花火」
手が。肩に。
「祭りらしい締めだな」
こくっ。
「たーまやー」
のんきな。
「ちなみに、玉屋は火の不始末で取りつぶしになっているぞ」
「マジ!?」
どうでも。
「あー」
そうだ。
「締めじゃないし」
そう。
「あっ」
いない。
「みんな!」
注意を。
「!」
ズン! 四方を。
「な……」
壁が。覆った。
ⅩⅨ
(くっ)
また。罠か。
「なんか変だよ、これ」
「おい、むやみに」
「うわぁっ!」
驚きの。
「誰かいる!」
「えっ」
壁しか。
いや、壁の向こうか。
「動いたもん! 見えたもん!」
暗闇の中では判然と。
確かに、うっすら影のようなものは。
「コラ」
パン。頭を。
「おまえならやれるだろ」
「あっ」
そうだ。いまなら。
「どいて」
凛々しく。
「っ……」
本当だ。何か。
「離れてて」
手のひらに。
(ほどよく)
調節。出しすぎては閉鎖空間で蒸し焼きだ。
(そうだ)
人差し指だけ。
「灯れ」
ポッ。ロウソクのように。
「便利ー」
「チャッカマン要らずだな」
そんなものと。
「お墓参りでお線香に」
そんな用途か。
「黙って」
かざす。
「!?」
仮面。
「くっ!」
不意打ちか。身構えるも。
「あっ」
同じ。赤。
というか、まったく同じ。
「鏡……」
「わー、恥ずかしー」
「なっ!」
そちらが先に。
「くっ」
手を。高く。
周囲を照らし出す。
「っ!?」
鏡。四方すべて。
「えっ、ミラーハウス?」
「違うのは」
皮肉るよう。
「出口が見当たらないことだな」
そうだ。閉じこめられていることに変わりは。
「さぁて、お立ち合い!」
パン! どこからともなく張り扇の。
「御用とお急ぎでない方はゆっくりと見ておいで」
何を。
「一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚」
何が。
「籠の中にガマを追いこみ四方に鏡を置きます」
はっと。
「鏡に映し出された己の姿をガマは見て『おのれ!』と驚き」
それは。
(同じ)
自分の姿。
自分と同じ仮面。
「たらーりたらりと脂汗を流し」
汗。
「三、七、二十一日とろーりとろりと煮詰めたるが」
パァン!
「仮面王」
馬鹿な。
「っ」
ゆらめく。鏡の。
仮面の。
「わ……わっ」
無限に現れて見えるその姿に。
「や、やめて」
恐怖。
「やめてよ……見せないでよ……」
それは。
「お願い! もう!」
どうしようも。
「コラ」
「……っ」
我に。
「あ」
見ていた。
仮面の。
自分と同じそれの向こう。
けど。違う。
(いるんだ)
見て。いる。
それは。
肯定の。
(ここに)
自分が。いられる。
その。
「……サンキュ」
波が引くように。
「大丈夫」
何でもない。
ただの。
鏡。
「あーらら」
残念そうな。そうでもないような。
「ま、いいや」
手を。振るう。
砕ける。
無数の虚像ごと。
そこに。
「これでおしまい」
ちんまりと。
「そっちはまだまだ大変だけど」
その。仮面に。
ヒビが。
「じゃあね」
全身にまで。
「っ」
砕け散る。
「………………」
あっけない。
(……ううん)
負けていた。
ふり回され続けた。
結局は。
「何なの」
口に。
「何なんだろうねえ」
「おい」
おまえまで。
「まあ、いいじゃん」
「よくないし」
ぜんぜん。
「ほら」
ポンポン。浴衣についた汚れを。
「これでよし」
「だから」
よくない。
「似合ってる」
浴衣姿に仮面。完全にお祭りだ。
「ははっ」
笑えて。なんだか。
「よし」
「……うん」
うなずく。
「じゃ」
「あっ」
行って。
「仕方ないだろ」
頭を。子どものように。
「仕方なく」
ない。
「頼んだぞ、こいつのこと」
二人に。
「じゃ」
背を。
「っ……」
二人。並んで。
「あ」
消える。
夜の中に。
「あぁ……」
取り返しのつかない。そんな思いに。
「っ」
舞う。光。
それは。
「わー、ホタルー」
今度こその。
「きれい」
「えっ」
意外だと。
「似合わなーい」
「う、うるさい」
自分でも。
「ほーたーるのーひーかーあり~♪」
「下校時刻か」
「あっ」
「どうした」
「蛍光灯ってさ、『ホタルの光』って書くのに中にホタル入ってないよね」
「………………」
「えっ、入ってる?」
戦いの。後が。
(これか)
やれやれ。
ⅩⅩ
「おかえりー」
「………………」
軽い。
「あのさ」
聞かずには。
「知ってたの」
「んー?」
とぼける気だ。
「おい、鳥」
「マスター」
「っ」
それは――
「会えたんだな」
「………………」
やっぱり。
「会えた」
うなずく。
「そうか」
と。
(おい)
それだけか。
「マスター、カレー鬼盛りー」
「はいよ」
「こちらはラーメン」
(おい!)
空気を。
「はぁー」
無駄だ。
「こっちも」
こうなれば。
「どっちだ」
「えっ」
そんなの。
「カレー」
決まっていた。
仮面ランサー/弐