最後の願い

近未来・・・?的な恋愛物になります。あんまり長く無いのでお気軽にお読みください。※最高にハッピーエンドでは終わりませんのでご注意ください。若干の残酷表現あり

1年になってすぐ一目ぼれしたあなたと卒業式に恋人になれた瞬間はもう死んでもいいと思った。

 大学は別でも同じ市内、家だって電車を乗り継いで1時間もかからない。大学生になっても関係は順調だった。誕生日にはプレゼントを買ってデートして祝った。クリスマスだってお正月だって一緒にいた。あなたは車の免許をとって、一緒に海だって行った。なんて幸せなのだろう、そう思って生きていた。
 
 ある日の誕生日、あなたは指輪をくれた、サイズわからなかったからって大きいサイズ、首にかけとけばいいって言って。ぶっきらぼうにかばんの中に放り込んできてびっくりしたよ、でもうれしかった。あなたが前、指輪は本当に一生守るって決めた人にしか渡さないって言っていたのを覚えていたから。特別な指輪、家に帰ってすぐにチェーンをさがして首にかけた、何度も手で包み、感触を確かめた。ああ、なんて幸せなのだろう!

 次の日、今日は会う約束はしてない。お互いの授業時間が合わなかったのだ。こんなに会いたい、と感じているのは付き合い始めたころ以来だ。だけど今日は会えないのだ・・・もそもそと朝食を咀嚼する。いつもなにげなくつけているテレビのニュース番組、どこか遠い県だったり隣町だったり殺人だの虐待だの集団感染だの興味のない話題を淡々と読み上げていくニュースキャスター。急にパッと画面が変わった。気味の悪い能面顔の王だ。珍しい、いつの間にか日本は血で受け継がれる王政になり行事以外には出てこなくなった。そして何を考えているのか、何も考えてないような能面の顔で話しだした。「昨日発覚した集団感染のウィルスの正体が大変危険なものだと発覚したため感染地域を焼却処分します。」そのことを何とも思ってないような能面顔はこの時代にそんな原始的なことをするつもりなのか?画面の下に流れるテロップには私達の住む町も含まれていた。

 ああ、なんということだ!なんのウィルスかも、うつっているのかさえ判らないのに殺される、なぜそんなことに、あんなに沢山いる大臣たちは何もしなかったのだろうか。なぜ、なぜ!急いで家をでた。となり町に出てしまうことはできないか見に行こう。家は端だからすぐだ。するともう人で溢れ返っていた。その人垣の前には透明なプラスティックのような壁、いつの間にか頭上高くまで伸びてもう上空でくっつきそうだ。この前発表された隔離装置だろう、その時は治すために使うものだと思っていたのに・・・。人々が壁を叩いても蹴ってもびくともしないそれはあっち側のガスマスクを被った人、装置を作動しに来た人かな、を余計人情味がないように見せた。そしてなぜか壁のこっち側にもマスクを被った人がいる。その男はマスクを脱いで頭を下げた。一瞬見えた顔はもう絶望のような悲しみのような、いいことなんて全くないような顔だった。その場で騒いでいた全員が一斉に黙る。そして下げた頭を上げ、話しだした。「私は、この装置を起動させる責任者、そして中の人への説明係です。」
 長い説明を終え、みんなの顔がさらに暗くなる。無理もない、内容は酷いものだった。ウィルスの感染方法は不明、ただ高熱に弱い、治療方法は不明。症状は身体の先端から感覚が無くなっていき、最後には神経全部が死ぬ。ちょっとずつ死んでいくということだ。焼却処分は今から5時間後、丁度町が無くなるくらいの爆弾が投下される。さっき外にいた奴らも、あのギリギリに住んでいた人たちも、もう殺されている。少しでも接近した奴は殺す、との命令だった。あいつらを恨まないでやってほしい。そう男は締めくくった。なぜ私はこんなに冷静なのかわからない。もう頭の中が一杯一杯で実感がわかないせいもあるのかも知れない。みんな出られないことがわかると、その場で泣き崩れる者、自分で自殺しようとする者、大事な人を探しに行く者、さまざまだった。しばらく呆然としていた私もはっとして走り出した。あの人に会いに行かないと、最愛のあなたは今どこに!
 
 携帯はつながらなかった。回線が込み過ぎているか、あの壁が電波を通さないのかもしれない。あの人の家まで走っていくにはあまりにも距離がある、電車は動いているだろうか、ちょっと前に全自動になった電車を統括しているのはこの町の中にある会社だった。きっと社員は仕事なんて放り出しているだろう。改札はまだ動いている、切符を買う意味なんてない。ジャンプで飛び越えて改札を抜ける。改札も同じ会社が動かしていたはず・・・すこし希望が見える。もともと希望なんてもう無いようなものなのだが。ちょうど電車の入ってくる音がする。社員は電源をつけたままにしてくれたようだ。ギリギリで滑り込む。ああ、間に合った。息を吐き出し周りを見わたす。そういえばこの電車は町の外から回って来ていたはずだ。この町に関係のない人も乗っていることもあるだろう。どうするのだろうか、そもそもこの町から出ていく電車だってあるはずだ。誰かに聞こうにも、聞いて落ちついて答えてくれそうな人はいない。みんな自分の事で精一杯なのだ。あたりまえか、とあきらめる。そんなこと知らなくたってあの人の家には着ける。目的地はこの町の反対端、早く着かないかと気は急くが、こればっかりはどうにもならい。身体の力を抜いて目をつむる。浮かぶのはあの人の顔、笑ったって拗ねていても、怒っていたってどんな顔でも好きだと思える、いつだって思い出せる。会いたい・・・
 
 駅を出て走り出す。歩いて20分くらいだったはず、あの人は家にいるだろうか、いなかったらどうしよう。考えながらも走るしかない。運動部に所属している訳でもない大学生で身体を鍛えている人なんてそうそういないだろう、私もその通りだった、息が苦しい、足が重いああ、でももうすぐだ、もう見えた、あのアパートだ!・・・・・・・・車がない。出かけてしまったあとだったのだろうか、そんな・・・苦労して足を引き上げながら階段を上る。扉の前に着いたが、当たり前にカギがかかっていて、人の気配はない。きっとあの人も私に会いたい、と思っているはず。ならば動けない。あの人は車だろうからすれ違いになるかもしれない。あぁ・・・扉の前に座り込む。どうしよう、あの人もそう思って家の前にいるかもしれない。動けない、私が何をしても裏目に出る気がして。こんなことなら一昔前に流行った、緊急時の待ち合わせ場所、茶化さないで決めておけばよかった。そんなことを考えては消し、また浮かんでは消し、爆撃されるまであと2時間しか無くなってしまった。あの人は帰ってこない、どうするべきか、私が一度帰るべきなのか、このままここで待っているべきなのか、決める決定的な出来事は起きない。30秒以内に車が通ったら帰ることにしようかな。10・・・・・20・・28ヴゥン!ギリギリになって通り過ぎた。でもこれで理由ができた。帰ろう、私の家にあの人がいることを願って。座っていて強張った身体を立ち上がらせる。また走らなければならない。大きく後ろにのけぞって伸びをする。さあ走ろう、まだいける。階段を下ろうと足をおろす。危ない!!あわてて手すりを持って身体を支える。後ろの足がフっと力が抜けてカクンと身体が下がったのだ。疲れているにしたって酷すぎる、座っていてしびれているわけでもない。階段も降りられない様じゃ、来た道をまた帰るなんて無理だろう。なぜ・・・?再びふらふらと扉の前に戻る。足の動きを確認しながら考える。そして思いついたのは、十分可能性はあることだった、なぜか自分の感染は考えていなかった、あのウィルスだ。神経が死んでいき、最後に脳と心臓が止まる。今の事態を引き起こした張本人だ。そうか、死ぬのだ。急に心が冷めていく。どっちにしたって爆弾で死ぬことは決まっていたのにウィルスで死ぬのはまた別だ。ここからは動けないし、じわじわと死ぬのを感じなければならないのだ。もうあの人がここに帰って来てくれることを願うしかない。神様、こんな世界を創ったのだからロクなものじゃない気もするけど、どうかあの人に会わせてください。
 
 あと30分。もう下半身の感覚は無いし、手だってほとんどない。これはウィルスで死ぬのか、爆弾で死ぬのかどっちかな、なんて現実逃避してみたって現状は変わらない。私は動けないし、あの人はまだ帰って来てない。肺までウィルスが来たのかな、だんだん呼吸も苦しくなってきた気がする。はあ、と大きく息を吐いて、細く吸う、もう細くしか吸えなかった。もう腕が動かないから正確な時間もわからない。あと何分かな、苦しいから結構経った気もするけど実際はそんな経ってないのかも。パタンと身体が倒れる。もう全身ほとんどの感覚がない。ダメか、神様はやっぱり助けてくれなかったか。目を瞑ってあの人の顔を思い浮かべる、考えなくたって思い浮かぶ愛おしい顔。よかった、まだ脳は大丈夫だ。最後までずっと考えるのはきっとあなたの顔なのだろうな・・・。
 
 ブルル・・・めったに人の通らない道なのに遠くから車の音がする。珍しい、そう珍しいのだ。帰ろうと思ったきっかけの車だって本当に珍しいものだった。現にあれ以来車は来てない。横目に車を見る。・・・!青い、あの人の車の色!必死に首を回して見る。ああ、あの人が帰ってきた!身体の感覚はほとんど無いけれど残っているのに集中して必死に身体をうつぶせにする。前に進むのだ、ああ、階段までほんの数メートル、たった2メートルぐらいなのに、こんなにも遠い。じりじりとほんの少しずつ進む、感覚がないものだから力加減もわからない、皮膚が擦れて血が出る。構わない、怪我の痛みの感覚すらないのだから。あと少し、階段のふちに手が届く。さあ、・・・降りられないことに気が付く。馬鹿だ、当たり前じゃないか。平面を進むのだってあんなに大変だった。またパタンと頭を置いて車の方を見る、さっきの車は駐車場に車を置いて人が降りてくるとこだった。早く、早くそう念じたって届く訳もなく、そして降りてきた人は知らない人だった。そんな、神様やっと聞いてくれたと思ったのに、こんな落とし穴だったなんて。確かによく見ると車の種類が違うかもしれない。もう目も霞んできてよく見えない。音だってだんだん遠くなってきた。さようなら、なんてあの人に言いたかった事だけど、口の中でつぶやく。
・・・・き!?・・優貴!!・・あれ、私の名前・・・?ピントが合わない目を凝らす。ああ、あの人だ。間に合った。帰って来てくれた。会えた。感覚がないことは悲しいけれど存在は感じられた。た・かひ・・ろ・・・ああ声にならない。舌が、喉が、動かない。隆弘が抱き締めてくれて、耳が近くなった。よし、最後の力を振り絞る。「愛してる・・・。」ああ、あなたの声が聞こえた。フィルターがかかっているように遠かったけれど確かにあなたの声だ。「愛してる、たか・ひ・・ろ。」吐息のようにしか出なかったけどあの近さならきっと伝わっただろう。いよいよ瞼を開けなくなってきた。あなたの声が聞こえる気がするけれど、もう聞こえなくなる。よかった、最後にあなたに会えて。最期に弱く唇に伝わった感触で私の世界は消えた。

最後の願い

さて、1ページで終わるとは思ってなかった。1投稿で結構な文字数いけるんですね、見づらかったらごめんなさい。面白かったと思ってくださった方、ぜひ今後ともよろしくお願いします。

最後の願い

幸せの絶頂だった二人に悲劇が

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-03

CC BY-NC-ND
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