映画『敵』レビュー
洗いざらい掘り起こされる記憶と、その下にしっかりと埋めたはずの怒りや疾しさ、密かな欲望といった本音が白日の元に晒されても、少しも終わってくれない人生の只中に身を置く主人公の姿が余りにもハード。それとの対比で描かれる四季折々の変化がまた永遠のように思えるから、文学的な残酷さに拍車がかかる。
そんなものを覗き見る映画として本作が存在することの悪趣味は、けれど静かな余生を送ろうと心掛ける生活を具に追う前半パートから一転、タイトルにある『敵』が主人公の内側で存在感を増すにつれて見事に昇華されます。
なぜ『敵』なのか、という疑問を鑑賞する前からずっと持ち続けていたのですが、そこに込められた皮肉なニュアンスはかつて氷河期世代の窮状を訴えるものとして議論を呼んだものに近いと感じました。すなわち、どうしようもない程に存在する世代間の経済的不平等を解消する手段として肯定された戦争状態が、本作においては窄みゆく人生の末期に舞い降りる危機として彼の前に現れている。それに立ち向かう、と主人公が決意した時に頭のてっぺんから爪先に至るまで漲り出した力=意志は格好をつけたとは断じ難い切実さに満ちていて、どうしようもない程の哀しみを呼び起こすものでした。この時の長塚京三さんが見せる表情も本当に素晴らしく、当該シークエンスのために他のカットが存在するといっても過言じゃない程のクオリティにただただ胸を打たれるばかり。終始、苦しそうに聞こえる呼吸音ですら無類の演出となっていたし、モノクロで映える瀧内公美さんの艶っぽさも特筆に値するものでした。
映画館で上映されていた時の本作は口コミの勢いが凄くて、オンラインで予約時にガラガラだった座席が公開後は完売御礼の日が続出。観終わった後ではその高評価に「宜なるかな」と納得する次第となりました。現在、U-NEXTやAmazonプライムといった配信サイトで視聴可能です。興味がある方は是非。観れば完敗必至の良作をお勧めします。
映画『敵』レビュー