予期せぬ出来事 08

 今日は18時半に会社を出た。
 来週提出しなければならない報告書のふたつの内のひとつはある程度メドが付いたし、会社も「働き方改革」で残業はなるべく少なくして早く帰れるようにしなさいって言うし、それにボクが本格的に忙しくなるのは来週からだし……。
 だったら赤羽マクドナルドで「物語」や「エッセイ」を書いてやろう……と思ったのである。

 会社を出て王子駅までシャカシャカ歩いていると、都電の踏切を渡ったところでボクは高校生の男女に追い付いてしまった。
 左が彼女、右が彼で彼は自転車を押しながら二人で横になって歩いている。
 彼女は一生懸命に彼に話し掛けている。
 彼はそれに相づちを打っている。
 ボクは、そんな二人に追い付いてしまったのだ。
 そりゃそうだろう、ああいう二人は出来るだけ一緒の時間を共有したいのだから、ゆっくりゆっくり歩くものなのである。
 急いでいるボク。
 しかし、二人を追い越そうにも歩道が狭く追い越せないのである。
 どうしたもんかなぁ~、声を掛けてみようかなぁ~と思案していると、彼女が後方のボクに気付いてくれたのである。
 すると彼女は、彼の肘を掴んで自分の方へ引き寄せてくれた。
 ボクが通れるだけのスペースを作ってくれたのである。
 そしてボクが横を通るとき、彼女は「すいませんでした」と言ってペコリと頭を下げたのである。
 ボクは「ありがとう」と返して、二人を追い越したのである。
 おいお前、お前だよ、彼女と一緒に歩いている男子高校生! お前の彼女は優しくてとても素敵じゃないか。
 羨ましいよ。

 赤羽西口のマクドナルドの二階で珈琲を飲みながら、まずは上記の出来事を書いた。
 それから1時間ほど経って、そろそろ帰ろうと思い、鞄にポメラをしまい、テーブルを片付けて出口のある階段の方へ向かった。
 階段の近くに男性サラリーマンとその部下だと思われる、20代後半の女性が居るのが目に入った。
 男は、仕事について何やら彼女に訓示(説教)を垂れているようだった。
 しかもその男の喋り方が、いやに慣れ慣れしいのである。
 マクドナルドのこの時間はいつも混んでいる。
 でもその二人は、二人用のテーブルを横でくっ付けて使用しているのである。
 この季節はコートとかマフラーがあるので、二人用テーブルでは窮屈ではあるのだが……。
 まぁそれは100歩譲るとして、その男女は向かい会わせではなく、横並びに座っているのである。
 男は椅子の背にふんぞり返って女性に話し掛けている。
 そしてその男の手が彼女の肩に乗せられているのである。
 彼女は少しでも男から離れようと身体を反対側に傾けてはいるが、抵抗出来ないでいるのである。
 ぶっとばしたろかぁ~!と思った。

 そう思いながら店を出て高崎線に乗った。
 そして次の停車駅である浦和で前の席が空いた。
 ボクの左右は男だったので、遠慮なく席に座った。
 次の大宮駅で30代の女性が乗ってきてボクの前に立った。
 ボクは気にせず文庫本を読み続けていた。
 そして何かの拍子に、その女性が肩から掛けていた鞄を前にずらしたのである。
 その鞄には「おなかに赤ちゃん」札が付けられていた。
 気付いたボクは慌てて、座ってくださいと立ち上がろうとしたが、大丈夫ですと優しく断られてしまった。
 ボクは(気付かないで、すみません)と心の中で誤り、座り続けることにした。
 気まずい気持ちのまま、本を読み続けることになってしまった。
 ふたつみっつ駅を過ぎ、やっと隣の隣の席が空いて、彼女はそこに座った。
 そして彼女は、ボクが下りる駅に着いても、まだ座り続けていたのである。
 ボクは家に帰るまでずっとそのことを考えていた。
 どうすれば、気持ちよく座ってもらえるか? 彼女が来てその赤ちゃん札にすぐ気付けばどうってことなかったのだが、なんせ見えなかったものだから……。
 気付いたときに立ち上がって、大丈夫ですと言われても、なんとしても席を譲るべきだったのか?
 ほかにもっと、スマートな席の譲り方はないものかと考えた。
 そしてある結論に達したのである。
 ボクが次の駅で何気なく降りればいいわけである。
 下りる駅でもなく関係なく下りて、ボクが別の車両に移ればいいわけである。
 簡単なことだ。
 そうすれば彼女は譲られるより座り易いに違いない。
 こんどそんな場面に出くわしたら絶対そうしてやるぞ……と思った。
 そんなこんなの一日だった。

 おしまい

予期せぬ出来事 08

予期せぬ出来事 08

ある一日

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-26

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted