どっちが勝たっていいんだー寓話集「針鼠じいさん26」
「おーい」
後ろから大きな声がした。
振り返って見ると、仲のいい友達がぼくを呼んでいた。
「なんだーい」
ぼくは返事をした。
大きな柿の木の下で手招きをしている。
「こっちへ来いよ」
「なにかあるのかい」
「けんかしているんだよ」
いったい何がけんかをしているというのだろう。カマキリのけんかや決闘は見飽きているんだ。
あまり気乗りがしないぼくに、
「はやくこいよ」
と友達は、いつもと違って、ばかにせかす。
ぼくはひとっ跳びで、一気に柿の木の下にやってきた。
友達が目配せでけんかをしているところを教えてくれた。
それを見て、僕はなあるほどと思った。
そこでは、ナメクジとカタツムリが、柿の木の根元に落ちていた、枯れ枝の上でにらみ合っていた。
友達は僕に言った
「どっちが勝つと思う」
僕は少しばかり考えた。
「カタツムリはいざとなったら、殻に入れるから、カタツムリが強いんじゃないかな」
と言うと、友達は、
「いや、だから弱いんじゃないかな。ナメクジは殻がないから、いつもからだをきたえている、カタツムリは力が弱い」
カタツムリはナメクジの角にかみつき、ナメクジはカタツムリの目玉を締めつけた。
「どうしてけんかがはじまったんだい」
と聞くと、
友達は、
「はじめから見ていたわけじゃないから、よくわからないけど、柿の木の上で居眠りをしていた山鳩の話しじゃ、カタツムリもナメクジも、どっちもよそ見していたので、横に伸ばした目玉と目玉がぶつかったんだそうだ」
「それだけで、けんかになったのかい」
「そうらしい」
そのうち、二匹の回りにはいろいろな動物たちが集まってきた。
そこで、かけが始まっちまった。みんな暇なんだね。
白い蛾は僕と同じことを言ったね、
「カタツムリにかけるね、なんといっても、殻があるから強いだろうね」
そして、五枚の若葉を差し出した。
ナナフシは、
「ナメクジだと思うね、あの弾力のある皮膚は強い」
と言った。
そういっている間に、やっと、ナメクジがカタツムリの殻に頭をのせた。
「はやくやれえ」
気短のカマキリは、カマをふりあげてどなった。
ナメクジはカタツムリの殻の上に這い上がると、カタンカタンと殻をゆすり始めた。
ところが、なかなかその先にすすまなかった。
せっかちなカマキリは、がまんできず、触角をぴくぴくさせて帰ってしまった。
そのうち二匹とも枯れ枝の上から落っこち、カタツムリの殻が小石にぶつかった。割れそうだったがなかなかわれなかった。
友達が言った
「君はやっぱりカタツムリが勝つと思うかい」
「ああ」
「君の好みだよな、かたつむりは」
そのとき、形勢が逆転して、カタツムリがナメクジの背中に這い上がり、ぎゅうぎゅうと押しつぶしはじめた。
友達が言った
「君はどうするのがいい」
僕は答えた
「そのままがいいな、君はどうだい」
「もちろん僕もさ、焼くのも煮るのもいやだね」
そこへ、かまきりがもどってきた。
「まだ、やっているのかい、どっちが勝ちそうかい」
白い蛾が答えた。
「まだ決まってないよ、のろのろべたべたしていてね」
「はやくしろい」
カマキリはナメクジたちにハッパをかけた。そしてまた帰ってしまった。
しばらく、カタツムリとナメクジは上になったり、下になったりして、汗をかいた。
やがて二匹は疲れてきて、ますます動きが鈍くなった。
それに、何でけんかをしているのか忘れてしまっていた。
ナメクジが言った
「やめるか」
カタツムリもうなずいた。
「やめよう」
回りで見ていた者たちは、つまらんつまらんと、帰り始めた。
僕の友達が舌なめずりをして言った。
「さて、終わったし、どうだい、そろそろいいんじゃないかい」
また、カマキリが戻ってきて
「お、終わったな、どっちが勝ったんだ」
と聞いた。
友達が答えた、
「どっちが勝ったていいんだ」
そして、僕はナメクジを、友達はカタツムリを丸ごと飲み込んだ。
なにせ、カタツムリとナメクジはカエルの大好物なんだ。
どっちが勝たっていいんだー寓話集「針鼠じいさん26」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者