確実性

悟性でしかない
表層でしかない
数理でしかない
皮膚でしかない
だがそれでいい
思わず放ちそうになった言葉から始める思考に
如何ほどの確実性があるのか
共有ができないものを無理に共有しようとする
死という絶対的事実を連呼したくない
ちゃぶ台をひっくり返すのはいやだ
やっぱりはしたないことはしたくない




誠実さの副作用

私は性格が悪い
私は底意地が悪い
私は頭が悪い
世の中のあらゆる物事に誠実であろうとすると
醜く汚くなるしかない
みんな嘘をついている
みんな欺瞞の中で生きている
壊れた人は奇跡を望む




溺生

溺れてしまったのに苦しくありません
息をすると泡が出てきます
ゆらゆら揺れて気持ちがいい
身体が軽くて楽しい
光が射しているのがわかります
こんなところまでやってきても
やっぱり過去の痛みが襲ってくる
溺れているのに逝くことができない
生きていて記憶に苦しめられる




日曜の夜

もう疲れた
海に行きたい
ぼーっとしたい
種差海岸にまた行きたい
あそこが一番きれいだった
やっぱり自分はだめだ
よけいなことをしてしまう
よけいなことを言ってしまう
よけいなことを言えと言ってくる
人を怒らせようとしてしまう




情熱の薔薇

覚えてきたことも
学んできたことも
全部嘘だったら
全部でたらめだったら
これまでの蓄積がすべて瓦解したら
でもそれはきっと文学への入り口
これまでの学びを否定して学ぼうとする
崩壊させながら作りあげていく
どれだけ壊していっても言葉は癒着している




行と行間

書いてある文章を正確に読むこと
目の前にある字義を正しく理解すること
行間ではなく行を読むこと
相手の目を見ずに話す内容を正確に聞き取ること
他愛のない何気ない会話は行間だらけ
行ばかり読んでいると会話ができなくなる
行を読んでいるつもりになっている
気づけば行間のぬるま湯に浸りきっている




グリーンスリーブス

駅メロが列車の通過を告知する
耳になじむ最古の旋律が奏でられる
辺鄙な田舎で鳴り響く粗雑な電子音
洗練された演奏ではだめなのだ
ファミコンの音源の方が尊かったりするものだ
遥か西の国から極東まで伝えられた
起源を探ると歴史の彼方へ消えていく
音楽は残らない
振動させて消えていく
快速列車が高速で駆け抜けていく
通り過ぎるいくつかの寂れた駅にすぎない
すべてが去った後の静寂
枕木の間で生息する草木たち




一月

寒い
凍り付きそうなくらい
家から出たくない
風邪も長引いてしまった
年々身体が弱っていく
病み上がりの散歩は気分がよかった
草花たちはひたすら寒気を耐えている
もう少し
もう少しだ
あともう少し我慢すれば
彩りが豊かで穏やかな時がやってくる
まだ生きていてもいい




軍靴の足音

軍靴の足音が聞こえてくる
飽食の環境で平和を貪ってきました
なにひとつ責任を負いたくありませんでした
あまりにも恵まれていました
生来気概に欠けていました
無理に自分を奮い立たせてやってきました
それでも中身は空洞でした
働いたり遊んだりしてきました
自分なりにがんばってきたけれど
やはり何かが欠けていました
醜さではなく高貴さゆえに争うのだろうか
それでも私は死にたくありません
自分だけうまく立ちまわって逃げ切りたい
卑怯でもなんでもいい
社会ではひどい目にあってきたから
今さら信用などしていない




自戒

心をこめるな
思いをこめるな
適当に書け
気楽に書け
観念の渦に溺れるな
もっと薄く
もっと軽く
深みにはまるな
過剰にならずに
真剣に書くな
本気で書くな

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted