何がどうなっているのやらー寓話集「針鼠じいさん25」
森のしいの木の下で、タヌキの子どもが昼寝をはじめた。
その前をネズミが一匹いきおいよく走り抜けていった。
ちょっとばかりびっくりしたタヌキの子どもは薄目をあけた。
そのときイタチが走ってきた。
タヌキの子どもは声をかけた。
「何してるんだい」
イタチはふりむくと、
「決まってら、ネズミを食っちまうんだ」
そう言って、ネズミのあとを追いかけて行った。
タヌキの子どもがもうひと寝入りしようと、丸まって目をつむった。
そこへキツネが走りこんできた。
タヌキの子どもは目を開け言った。
「何しに行くんだい」
キツネはふさふさの尾っぽをなびかせながら言った
「イタチを追いかけているんだ、食っちまうんだ」
「どうしてイタチを食べるのさ」
タヌキの子どもはきいた。
そんなに走らなくてもニワトリの卵なら簡単に盗めるのにと思ったのだ。
「たまにはイタチを食べたくなるのさ」
キツネは風のようにとんで行っちまった。
その声で、イタチは後ろからキツネがくることに気がついた。
今度はイノシシが牙をむき出して、どしどしと走ってきた。
あまりの勢いにびっくりしたタヌキの子どもは言った。
「どうしたのイノシシおじさん」
イノシシは鼻息荒く答えた。
「あのキツネはわしの鼻の穴をくすぐっていきおったのじゃ、だから、牙で小突いてやるんだ」
キツネの尾っぽが風になびいて、イノシシの鼻の穴にはいったんだ。くしゃみがでたイノシシはかんしゃくを起こして追いかけているんだ。
その声で、キツネはイノシシが後ろからかけてくることに気がついた。
イノシシは土をまきあげて、キツネを追いかけていった。
タヌキの子どもは、昼寝の続きをしようと、また丸くなった。
すると、今度はシマウマが足音をたてて走ってきた。
それでタヌキの子どもは目が開いた。
なぜ森にシマウマがいるのか不思議な気がしてきいた。
「どうしてここにいるの」
「イノシシのやつだ。森の泉に遊びに来ていたおれに、砂埃をぶっかけていきやがった。せっかく手入れした毛がだいなしだ。イノシシをけっ飛ばしてやる」
シマウマはそう言ってパカパカとんでいった。
その音でイノシシは後ろから来るシマウマに気がついた。
まったく、昼寝もろくにできやしない、とタヌキの子どもがぶつぶつ言っていると、ライオンがたてがみをなびかせて走ってきた。
「シマウマ食おう、シマウマを食おう」
鼻歌を歌いながらウマを追いかけて行った。
変な歌が聞こえ、シマウマはライオンに追われていることに気がついた。
「わーたいへん、でもこれで終わりだろうな」
タヌキの子どもがつぶやいたとき、ネズミが矢のような速さで走ってきた。
最初に来たネズミだ。
「イタチがくる、イタチがくる」
必死に走っていった。
続いて、イタチが飛んできて、
「キツネがくる、キツネがくる」
ネズミのことなど忘れ、夢中になって逃げていった。
その後を追ってきたキツネは、
「イノシシがくる、イノシシがくる、あの牙は痛いぞ」
イタチのことなど頭になかった。
すぐやってきたイノシシは、キツネのことなどまったく忘れてしまい、
「シマウマがくる、シマウマがくる、けっ飛ばされたらたいへんだ」
どんどん逃げていった。
そのあとにシマウマが、
「ライオンがくる、ライオンがくる、食われちまう」
イノシシのことなど忘れて逃げていった。
そこへライオンが顔色をかえて走ってきた。
「怖いものがくる、怖いものがくる」
ウマのことなどまったく忘れている。
タヌキの子どもが、ライオンのあとになにがくるのだろうと、目を凝らしていると、ライオンのすぐ後ろから、さっきのネズミが、
「怖い怖いものがくる」
大声で叫びながら走ってきた。
そして、タヌキの見ている目の前で、ライオンに追いつき、無我夢中でライオンの尾っぽにかみついた。
ライオンはぎっくとすると、
「キュイーン」
とうなって、その場にたおれて死んでしまった。
こうしてネズミはそのまま走って行っちまったんだ。
タヌキの子どもは眼をまん丸にして、
「ほー、心理感染ってやつか」
と、わかったようなことを言った。
そのとたん、タヌキの子どもは、イタチとキツネとイノシシとシマウマにけとばされ、草むらにころころころころ転がって、穴に落ちてしまった。
だから、イタチと、キツネと、イノシシと、シマウマがそのあとどうなったのかぜんぜんわからないのだよ。
何がどうなっているのやらー寓話集「針鼠じいさん25」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者