土地の人の言うことを聞くものだよー 寓話集「針鼠じいさん24」

土地の人の言うことを聞くものだよー 寓話集「針鼠じいさん24」


 真夏のある日、砂漠にすんでいる大きな鳥が、はるばる遠くの森にやってきた。
 新しもの好きの、カラスのかみさんは木から降りると、砂漠の鳥が舞いおりた切り株の脇にやってきた。
 「でっかい鳥だね、あんたさんの卵はさぞ大きいことだろうね」
 砂漠の鳥は答えた。
 「あんたの卵の百倍はあるだろうさ」
 カラスのかみさんは言った。
 「ほー、でっかいねえ、そんなにでっかい卵だと、子どもはさぞ大きいだろうね」
 「そりゃ、そうさね」
 砂漠の鳥は答えた。
 カラスのかみさんは見てみたくなった。
 「どうだい、ここで産めるかい、ほんとかどうかみせてほしいね」
 砂漠の鳥は、
 「ここで産んでもだいじょうぶかね」
 カラスのかみさんにたずねると、カラスのかみさんは、
 「卵の暖めかたを知ってりゃだいじょうぶさ」
 と答えた。
 砂漠の大きな鳥はふんばると、森の草むらにごろんとほかほかの卵を産んだ。
 大きな切り株ほどもある卵だった。
 「こりゃ、たしかに、大きいねえ」
 カラスのかみさんは、大きな卵の上に乗ると、暖めようと座り込んだ。
 砂漠の鳥はそれを見ると、長い首を回してカラスを追い払った。そして、
 「何するんだい、お天道様が暖めてくれるんだよ、じゃましないでおくれ」
 とどなった。
 カラスのかみさんは木の上に飛び上がり、首をかしげていたが、やがて砂漠の鳥の言っていることに気づいた。
 カラスのかみさんは言った。
 「でっかい鳥さん、砂漠じゃ、いつもこうやって、卵を産みっぱなしかい」
 砂漠の鳥はうなずいた。
 「ああ、そうだよ、卵どろぼうをみはってりゃいいんさ」
 カラスのかみさんは、
 「ふん、気楽なもんだね」
 と、それ以上何も言わなかった。
 やがて夜になり、あたりが少し涼しくなった。
 砂漠の鳥はカラスに言った。
 「これじゃ卵が冷えちまうよ、どうしたらいいかね」
 「さあね」
 意地悪なカラスのかみさんは鼻をならした。そして、
 「鳥なのに卵の温め方も知らないのかい」
 と、言った。
 「どうしようかね」
 砂漠の鳥が、おろおろして、カラスのまねをして、卵の上にすわったが、卵はどんどん冷えていった。そしてとうとう、かえることができないほど冷たくなってしまった。
 「あーあ、だめになっちまった。森はいやだよ、砂漠がいいね、暖かくてさ」
 大きな鳥は涙をこぼした。
 「朝になったら帰ろう」
 砂漠の鳥が言った。
 カラスのかみさんは砂漠の鳥に尋ねた。
 「砂漠は遠いのかい」
 「遠いが、一週間でいくことができるさ」
 砂漠の鳥は答えた。
 「行けないことはないね」
 新しもの好きのカラスは、ちょっと目を輝かせた。砂漠にいってきたことを森のみんなに自慢したかったからだ。
 「私もいっていいかね」
 カラスのかみさんが言うと、
 「そりゃかまわないけど、ここよりずっと熱いんだよ」
 砂漠の鳥は言った。
 「砂漠に卵を産ませて、ゆで卵をつくらせたりしないだろうね」
 カラスのかみさんが、ずけずけ言うと、
 砂漠の鳥は、
 「そんなことしないさ、卵を産まなけりゃいいのさ」
 と答えた。
 カラスのかみさんはそれもそうだと思い、一緒に行くことにした。
 日が昇るとともに、二羽はお日様に向かってとんでいった。
 砂漠までやってきたカラスのかみさんは、
 「なるほど、夜だって言うのに熱いね」
 翼をばたばたしてからだをあおいだ。
 「これじゃ卵をうめないね、ほんとうにあっという間にうだっちまう」
 朝日が昇りはじめた。
 あたり一面、砂だけしかない砂漠はまぶしくなってきた。
 砂漠の鳥が言った。
 「これからもっと熱くなるよ」
 「そりゃ大変だね」
 カラスもうなずいた。
 「あの卵をここでうんでおきゃ、今ごろかわいい子が顔を出していたろうにね」
 砂漠の鳥は思い出して涙を流した。
 「そうだね、残念さね」
 カラスのかみさんは適当に相槌をうった。
 太陽が空の上にだんだん昇ってくると、大きな鳥がカラスの前に立ちはだかった。
 「私の影にはいって、ついておいで、でないと、熱くなるよ」
 「そうかね」
 カラスのかみさんはうなずいた。しかし、大きな鳥の陰で歩かなければならないのは少しばかりしゃくにさわった。目立ちたがりやなのだ。
 大きな鳥が言った。
 「どうだね、砂も焼けるようにあついだろう」
 「たいしたことはないね」
 カラスのかみさんは砂の上を、ちょんちょんと飛び跳ねた。
 「空の上から広い砂漠をみたいね」
 それを聞いた、大きな鳥は首を横にふった。
 「よしたほうがいいよ、空の上は熱いよ、夕方にしなよ」
 にもかかわらず、カラスのかみさんは、
 「だいじょうぶさね、ちょっとだけだよ」
 そう言って、ばさばさと舞い上がった。
 太陽の輝く空の上へ昇っていくと、カラスの目がかすんできた。
 「おりといで」
 大きな鳥が大きな声をかけたときには間に合わなかった。
 カラスはのぼせあがって、翼の動きを止めると、しゅーっと落っこちてきた。
 そして、砂にめり込んで死んでしまった。
 大きな鳥は言った。
 「その土地にすんでいる者の言うことは、よく聞かなきゃね」
 砂をかぶったカラスから湯気が立っている。
 「黒い鳥は砂漠にはむかないよ、ゆで卵じゃなくて、黒鳥の蒸し焼きができちまったじゃないか」
 大きな鳥は、太陽に向かって飛んでいった。

土地の人の言うことを聞くものだよー 寓話集「針鼠じいさん24」

寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者

土地の人の言うことを聞くものだよー 寓話集「針鼠じいさん24」

カラスのカミさんが、大きな鳥のカミさんにくっついて、砂漠に行った。さてどうなったか

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-24

CC BY-NC-ND
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