ハチの巣は気をつけなさいー 寓話集「針鼠じいさん22」
サルの子が山から野原にやってきた。
山から出るのははじめてなんだ。
広い野原にはそれは色とりどりの花が咲いていてきれいだ。
サルの子は目をきょろきょろさせてはしゃぎまわった。
草むらから、大きな茶色のかたまりがもこっとはえていた。
きのこのようにも見える。でも山の上ではこんなキノコ見たこともなかった。
これがハチの巣かな。
サルの子は考えた。なぜかって、野原に行くってかあさんに言ったら、
「ハチの巣には気をつけなさい」って、しっかり注意されたからだ。
でもこの茶色のかたまりにはハチは一匹もいなかった。
サルの子はけっとばしてみた。
キノコから茶色い煙がぱーっとたった。しかも、とてもいい匂いがした。
「やっぱりキノコだ、おいしそう」
サルの子はキノコをむしると少しかじった。
とってもおいしかった。
サルの子は茶色のキノコを食べたのでのどがかわいた。
野原を歩いていくと、小川があった。
きれいな水だ。
川辺に下り流れに口をつけた。おいしいな、
そこへクマの子がやってきた。
「やー、水をのみにきたのかい」
サルの子は顔を上げ、クマの子に言った。
クマの子はサルの子をちらっとみただけで、川の中にざぶざぶ入っていった。
クマの子は水の中に手をつっこむと、ばしゃっと、魚を跳ね上げ、川辺に放りなげた。
おもしろそうだ、サルの子も、水の中に入ると、クマのまねをした。
水の中をのぞき込み、手を伸ばして魚に手を伸ばした。でも魚はすいっと逃げてしまう。
クマの子は川辺に上がると、つかまえた魚を食べ始めた。
サルの子がみていると、クマの子は魚を一匹ほうってくれた。
サルの子はうまく受け取って、ありがとうとと魚を食べようとしたら、魚がぎょろりとにらみ、ぴょんとからだをひねった。
魚はするりと手からはなれ、川の中に落ちてしまった。
プーンと手が魚くさかった。
クマの子は、魚を食べてしまうと、川辺から野原に向かって歩き始めた。
サルの子も後をついていった。
野原の真中に大きな木が生えていた。とても古い木で、太い根っこが伸びている。
クマの子供は根っこの間を掘り始めた。
「なにしてるの」
サルの子が聞くと、クマの子がとってもうれしそうに答えた。
「ハチの巣ができていたんだ、このあいだ来たときはなかったんだよ」
「ハチの巣はあぶないよ」
サルの子はお母さんに言われたことを思い出して、後にさがった。
クマの子はけんめいに前足で掘った。
ぱっぱと土をかき出していくと、とうとうハチの巣があらわれた。
そのとたん、ハチがたくさん飛び出して、クマの周りをぶんぶん舞った。
「あぶないよ,刺されるよ」
サルの子は大声で叫んだ。
クマの子はどっかと座ると、おかまいなしにハチの巣をこわし、巣のかけらをとりだした。
それを手にもつと、ぎゅっとしぼった。
金色のハチミツがじゅうっとでてきて、クマの手からしたたりおちた。
クマの子はそれを口に受けた。
ハチミツをなめてしまうと、食べ終わった巣のかけらを後ろに放り投げた。
サルの子は拾ってちょっとなめてみた。
それはそれは甘くておいしい。
クマの子は舌なめずりをして、また巣のかけらを取り出した。
ぎゅっと絞ると、とろりと金色のハチミツがたれ、口に受けた。
クマの子が振り向いて、にこにこすると、サルの子にいった。
「食べないのかい」
離れてみていたサルの子はクマの子に近づいた。
「ハチが怖くないのかい」
クマの子は何も言わなかったが、手をハチミツだらけにして、少しだけうなずいた。
サルの子たまらなくなってきた。
「僕も食べていいかい」
クマの子ははっきりとうなずいた。
クマの子はまた巣の中に手を突っ込んで、巣をもぎ取った。
甘い匂いがただよった。
サルの子はとうとう、クマの子の脇から腕を伸ばすと,ハチの巣に手を突っ込んだ。
残っていたハチがわっと飛び立った。
ハチたちは,サルの子めがけておそってきた。
サルの子の尻が刺されて真っ赤に膨れてくる。
サルの子はあまりの痛さにキュウーンと気を失ってしまったんだ。
どのくらいたったんだろう。
「だいじょうぶかい」
クマの声でサルの子は目をあけた。
目の前には大きな黒いかたまりがあった。
それはクマの子のおしりだった。
クマの子が振り返ってサルの子を見ていた。
「起き上がれるかい」
サルの子はなるほどと思いながら立ち上がった。
クマのおしりには、黒いごわごわの毛がわんさかとはえていたのだ。
サルの子は、自分のお尻をなでた。つるんとしていて、しかも真っ赤だった。
ハチに差されて大きく膨らんでいる。鼻の頭も刺され膨らんでしまった。痛いったらありゃしない。
「君はごわごわの毛があるから、ハチに刺されないんだね」
クマの子はだまってうなずくと、
「おみやげにもっていきなよ」
とハチミツのたっぷり入ったハチの巣のかけらをサルの子にさしだした。
サルの子は喜んで、
「ありがとう、またくるね」
そう言って家に戻った。
かあさんにおみやげをさしだして、クマの子とハチミツをとったらハチに刺されたことを言った。
「ハチの巣はさわったらいけないと言ったでしょ、でもいいお友達ができてよかったね」
母さんは微笑んでそう言った。
「ゴアゴアの毛がなくてもハチミツはとれますよ、おおきくなったら工夫してハチミツをたっぷり食べなさい」
とも言ったんだ。
ハチの巣は気をつけなさいー 寓話集「針鼠じいさん22」
寓話集「針鼠じいさん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者