『錯覚の朝』
白くなる息を吐き出しながら
教室に飛び込んできた君は
『錯覚の朝』
チャイムぎりぎりに入ってくる
それが日常だったから驚いて
おはようと言えばおはようと返される
そしてあの子は窓を飛び越えた
どうして今この教室には
アタシしかいないんだろう
呆然と立ち尽くしていれば
みんなぞろぞろと登校してくる
あの子はどうなったのと
震える声で聞いたけど
彼女たちは口々にこう言った
あの子は先週死んだじゃない
頭の奥が鈍く痛んで耳を塞ぐ
そんなはずがない
だって昨日もあの子は遅刻ぎりぎり
先生に睨まれながら席に着いたんだから
少し目が合って気まずそうに苦笑い
それが凄く可愛かったのを覚えてる
寒いねなんて言葉も交わしたことはないけど
かじかむ手を擦り合わせてた
窓の下を見下ろしても何もなくて
クラスメイトは違う話題に移る
ああ、落下地点はここじゃないんだ
目指したのは彼女たちの真上
昇華できない悲しみも憎しみも
あの子は未来に託したんだ
みんな忘れた振りをして笑うけど
心のどこかで怯え震えてる
厄災は今この瞬間誤魔化したとしても
いつか必ず心の闇につけ込んでくる
この中の何人が生き残れるだろう
本当に忘れられた者だけが勝者
あの子が仕掛けたゲームの始まり
アタシだけがそれを自覚した朝
生き残れる確信もないままに
あの子の勝利を望んだ朝
「淡い想いに重りをつけて永遠にする」
『錯覚の朝』