最強魔法使いのスイーツショップ

魔法の水晶が淡く光り、空には龍が優雅に舞っていた。
1人の少女がレシピ本を手に、目の前の煉瓦造りの建物を見上げる。
「ここが……私の店……」
その少女の名は絵梨乃。通称“パティシエ絵梨乃”。
生まれながらにしてパティシエの才能を持つ少女だ。しかし――
彼女は、最強の魔法使いでもあった。
そんなことはまあ知らず。
絵梨乃は店に入り、お菓子作りの道具を広げていく。
電気魔導書、火属性オーブン、氷属性の冷蔵庫――。
彼女は有り余る力を使い、軽々と準備を進めた。
しかし、そこで絵梨乃は違和感に気づく。
そう、ここには電気も、ガスも、水道も通っていなかったのだ。
「はーーー!?!?」
そういうことか。
上等な道具が与えられたのは、ライフラインが通せない不便な場所だからであり、決して優遇されていたわけではなかったのだ。
地獄のような環境で、果たして店を開けるのか――!?
絵梨乃のキッチンライフ、始動します!

第一章 虹色マカロン
最強パティシエ・絵梨乃は、ライフラインが通っていない地獄のような建物で、マカロン作りに挑むことにした。
裏庭に出ると、そこには果樹園が広がっていた。
すると、どこからともなくネコ…ではなく、猫耳と尻尾のついた少女が現れた。
「あたし、りんご!ここのにわし!」
幼い話し方でそう言った少女は、にこにこしながら魚を手にしていた。
まさか…と思い、庭の奥へ足を運ぶと、そこには野菜畑や生け簀もあった。
「ライフライン以外は超充実してるー…」
そう呟きながらも、絵梨乃の怒りはまだ冷めていなかった。
思い出したように、突然叫ぶ。
「マカロン作れるじゃん!」
瞬間移動魔法並みの速さでキッチンへ向かう絵梨乃。
りんごの猫の身体能力でも、とても追いつけなかった。
キッチンに到着すると、早速マカロン作りを開始。
魔法の力をフル活用してメレンゲを泡立てる。
「せっかくだし…」
自作のマジカルシロップをかけると、周りに小さな星が舞い、メレンゲは虹色に輝いた。
「かわいい!はやく食べてみたいなー!」
尻尾をぶんぶん振り、目を輝かせてりんごが見つめている。
夕方には、翌日販売するマカロンが50個ほど完成していた。
本当はあと10個あったのだが、りんごに食べられてしまっていた。
「今日は楽しかったけど、疲れたー!」
絵梨乃は、ふわふわの猫人少女と一緒に編み物をしながら眠りについた。

第二章 氷晶種のアップルパイ
果樹園には、どう考えてもヤバい植物があった。
その名も――りんご(氷晶種)。
氷に閉ざされた雪凜地方原産。
寒冷地限定。
なのに甘さ最強、汎用性バグ、何に使っても美味いという反則りんごである。
「なにそれ聞いたことないんだけど」
そのりんごの木の下に、見知らぬ人物がいた。
ダークグリーンの髪、眼鏡、無駄に落ち着いた雰囲気。
彼女の名前は、四つ葉のば子。
一見おとなしそうだが、
IQ392。
国所属の研究者。
そして――絵梨乃と同じく、このクソみたいな建物に研究室を押し込められた被害者仲間だった。
「よろしくお願いします。たぶん、ここ、世界のバグです」
冷静な顔でとんでもないことを言うのば子。
果樹園には氷晶種のりんご。
裏には畑と生け簀。
猫耳庭師は魚を振り回している。
「……アップルパイ、作れるじゃん」
絵梨乃の目が、完全に職人モードへ切り替わった。
魔法をフル活用。
もはや戦闘でも儀式でもなく、世界一平和な魔法の使い方とでも言いたくなる勢いで使い倒した。
そうして完成したアップルパイは、
ほっぺたが落ちるどころか、
世界そのものが落ちるレベルで美味しかった。
マカロンはジェット機並みの速度で売れていく。
音速かもしれない。もう数えるのをやめた。
「アップルパイ、明日出したらどうなるんだろ……」
考えるだけで楽しい。
これはもう、勝ちが見えている。
その夜は、のば子さんとりんごと三人で寝た。
天才研究者と猫耳庭師と最強パティシエ。
どう考えても意味不明な並びだが、なぜかよく眠れた。

第三章 研究者の深夜メシ カルボ飯
気づいたら、夜遅くまで研究していた。
このカオス園――
少なくとも、あの世界の図鑑に載っていた食用植物は全部揃っている。
応用すれば、どんな薬でも作れる。
毒薬は無理だけど。そこは平和。
……お腹が減った。
何か食べよう。
ちらっと見ると、絵梨乃はぐっすり眠っている。
――と思ったら、即起きた。反応速度おかしい。
「えっ?なんでのば子さんが?」
「研究してました」
そう答えたら、(´・ω・`)みたいな顔をされた。
どうやら、夜更かし研究はバレたくなかったらしい。
私はカルボ飯を作ることにした。
米。
謎ベーコン。
魔法でいい感じにした卵。
いろいろ端折って、最後に温泉卵をぽん。
完成。
「……おなか、へってきた」
いつの間にか、りんごも起きていた。
猫耳、寝起き、最強。
結局、三人で食べることになった。
――その瞬間。
「助けて〜!」
叫び声が、一番上の屋根裏から降ってきた。
慌てて上へ行くと、
部屋は絵の具まみれ、キャンバスはぐちゃぐちゃ。
そして、その隣に――なぜかりんご。
さらにもう一人。
「画家の凜です!」
どうやら、国に目をつけられている問題人物らしい。
私は思った。
――これ、もう国に報復できるメンバー、揃ってない?

第四章 ふわふわパンケーキ
外国から視察が来るレベルで有名になってしまった、
あのライフライン皆無のクソ建物。
私はその最上階に住んでいる、
なんでもない画家――のはずだった。
なのに、
「絵がうますぎる」とか言われて、
なぜか人間国宝にされた。
でもライフラインはない。
意味がわからない。
クソゴミ環境だけど、絵さえ描いていれば売れた。
そこで思った。
「……この絵と、絵梨乃さんのパンケーキ、
組み合わせたら最強じゃない?」
そうして生まれたのが、
『世界の始まりパンケーキ』。
結果。
即売れ。
音速並み。
体感ワープ。
ふわふわの生地の中には、
ココアとプレーンの地層パンケーキ。
チョコソースにミント、
甘くて爽やかで、あいすぎて最高。
――やりすぎた。
また国から目をつけられた。
もう人間国宝じゃない。
このままだと、国家機密になる。
おかしい。
私はただ、パンケーキに絵を描いただけなのに。

第五章 幸せショートケーキ
国は今、戦争中だけど、この建物の中は平和だった。
視察もいないし、うるさくない。カオス園、最高。
そして、猫耳庭師のりんごは今日もかわいい。
「ここで絵を描くのも悪くないかも……でもライフラインは欲しいな」
ふと思いながらも、私は絵梨乃のケーキの話を思い出した。
「このケーキを最前線の兵士に届けたらどうだろう?」
提案すると、絵梨乃は超了承。首を縦に振るたび、勢いで吹っ飛びそうだった。
カオス園の苺。最高のクリーム魔法(そんなのあったっけ?)。
雲のようにふわふわのスポンジ。
一口食べると、甘酸っぱさで心が満たされる。
二口食べると、幸せすぎて泣きそうになる。
三口食べると……まるで天国にいる気分だった。
いっぱい作って、翌日。
最前線の兵士に届けたら――世界平和、実現。
チラシを見た兵士は、涙がボロボロ溢れていた。
「なんで……?」
やばい。このままだと、絵梨乃さんまで国家機密になってしまう……なんでだよーーーー!!!

最強魔法使いのスイーツショップ

最強魔法使いのスイーツショップ

最強魔法使いのパティシエと猫耳庭師と天才科学者と国の被害者画家のはちゃめちゃストーリーです!

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-14

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

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