掌編集 57

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561 節約

 子どもの頃、友達の家にはピアノがあった。
 医者の娘、大工の娘、工場経営者の娘……その子たちは当時、進学教室というものに通っていた。

 小学校高学年と中学の勉強は、私は自力で上位にいけた。進学教室や英語教室に通う子よりもできることもあった。
 ピアノだけはどうしようもない。5本の指でドレミファソを、弾くとあとが続かない。習っている子に笑われた。

 働くようになるとピアノを買う金はあった。しかし置く場所がない。
 子どもが産まれたら絶対に習わせたかった。上の子は男の子だったが有無を言わさず習わせた。 
 男の子にショパンを弾いてもらいたい。
 下の娘は自分もやりたい、と言い出した。

 知り合いに77鍵のローランドの電子ピアノを譲ってもらった。娘は暇さえあれば弾いていた。当然進むのは速い。母は練習に付き合った。へ音記号が出てくると、息子は戸惑った。
 ピアノが欲しかったが、マンションのローンに車……ふたりの幼稚園の費用 (無料ではない時代)、交際費諸々。
 ピアノが買えるのはいつの日か? 

 そこから始まった食費の切り詰め生活。
 当時は毎日買い物に行っていた。家族4人の食費はかかり過ぎていたかもしれない。
 姉が1ヶ月の食費が3万円…‥とかの雑誌を持ってきてくれた。我が家は3倍近く使っていた。 
 大学ノートに食費とメニューを細かく記入した。金をかけずに手間をかける。
 野菜、乾物類が多くなる。給料日前はイワシにもやし。当たり前のように買っていた果汁100%のジュースは当時は200円以上した。それをやめて麦茶と牛乳だけ。
 ステーキ肉、巨峰……チラシが入ると買っていたが……

 不思議なことに家族から文句は出なかった。
 砂肝を味付けして揚げると娘は喜び、ステーキより高いと言うと信じた。そしておやつも手作りに。
 食費を1日500円減らした。500円玉を袋に入れる。2枚貯まると、千円札に。月に1万5千円。
 翌月には1日1000円減らし月3万円に。
 楽しくなった。新しい通帳を作り数字をながめた。

 そして念願のピアノを買った。マンションだから消音機能付き。
 しかし、息子は小学校卒業まで。娘も中学を卒業するとやめてしまった。
 弾き手のいなくなったピアノを母が弾いた。先生について習った。10年続ければ弾けるだろうと思った。しかし、娘の10年とは大違いだ。

 孫がピアノを習い始めた。苦労して買ったピアノは、新たな弾き手のところへ行ってしまった。

 その後お金は貯まらない……?



【お題】 ワンコイン・ミステリー

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  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-14

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