死んだまねしてもねー寓話集「針鼠爺さん11」

死んだまねしてもねー寓話集「針鼠爺さん11」

 「腹がへったなあ」
 山に住んでいる一匹の大きなクマが、おなかの皮をたるませて、森の中にやってきた。
 一本の木の下にやってくると、クマは目を輝かせた。
 「おっ」
 木の根元にハチの巣があったんだ。クマは勇んで蜂の巣を掘り起こした。だけど、出てきた巣にハチはいなかった。ということは蜂蜜もないということだ。
 クマはうなだれて、森の中をとぼとぼと歩き始めた。森から出ると、池にやってきた。
 池の水はとってもきれいで、底の小石がきらきらしていた。
 クマは池のほとりに足を投げ出して座ると、もうろうとした目で水の中をのぞきこんだ。
 「水でも飲むか」 
 クマはからだを起こして水に顔を突っ込んだ。冷たい水がおなかの中にしみわたった。飲みながらふと水底をみると、シジミが一つころがっている。
 「シジミじゃ腹の足しにならんなー、でも食いたいな」 
 そうつぶやいて、手を伸ばしたがとどかない。とどいたにしても、あまりにも小さなシジミをクマの手ではうまくつかむことができないかもしれない。
 クマははたと考えた。いい考えが浮かんだ。
 そばに生えていた葦の葉っぱを引っ張りとった。先っちょをシジミの開いた口へ差し込こんで釣り上げるんだ。
 クマは葦を川面に突っ込んで、下を覗いた。
 水底のシジミは見上げて、
 「わあ、クマだぞ」
 と気付くと、あわてて死んだまねをした。
 そのとたんシジミは口をパクンと大きく開けた。
 貝は死ぬとみんな口を開けてしまうものなのだ。死にまねだ。
 それでクマはシジミを釣ることができなかった。
 「クマにあったら、死んだまねをすれば助かるというのは本当だったんだ、クマはだまされやすいんだな」 
 シジミはそう思いながら殻をとじた。
 シジミが殻を閉じたので、クマは今度こそ釣り上げてやるぞと、水面に向かって身を乗り出した。
 そのとたん、ずるっとすべって、ぼちゃんと水の中におちてしまったんだ。
 頭から落ちたクマは手足をばたつかせ池の底を見た。
 「イヒヒヒヒ、ヒック、ヒヒヒ」
 大きな真っ黒な貝が口をあけて笑っていた。
 「カラス貝じゃないか、だましやがって」
 クマは水の中でからだを起こすと、カラス貝を蹴っ飛ばして、岸に這い上がろうとした。池はクマがやっと足がつくほども深かった。
 そのとき、蹴っ飛ばされ、水の中に舞ったカラス貝が、クマのころっとした尾っぽにかみついた。
 ぼちゃん、おかげでクマはまた水の中におっこちて、そこでたらふく水を飲まされてしまった。
 カラス貝が笑いながら言った。
 「クマはやっぱりだまされやすいんだ」
 クマはやっとの思いで岸にはい上がった。
 池の脇に腰掛けて濡れた毛を乾かしていると、春の日はぽかぽかと暖かく、眠てしまった。
 しばらくすると、眼をあけ、そうか、蹴っ飛ばせばいいんだ、と思いついた。寝起きは頭にいいアイデアが浮かぶことがある。
 クマは池の中にそうっとはいった。カラス貝も水底で眠っていた。春はだれでも眠くなるものだ。
 クマはしめたと思ったね。カラス貝を蹴っ飛ばすと、跳ね上がったカラスガイを手でぱちんと岸に跳ね飛ばしたんだ。
 カラス貝は池のほとりの草むらに落っこちた。
 驚いたのはカラスガイだ。クマの顔が見えた。
 「死んだまねしなきゃ」
 寝起きであわてたカラスガイは口をあけちまったんだよ。
 そりゃあ、クマはよろこんださ。口をあけたカラスガイの身をぱくりと食っちまった。
 クマは満足して、山に帰っていったんだよ。

死んだまねしてもねー寓話集「針鼠爺さん11」

寓話集「針鼠爺さん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者

死んだまねしてもねー寓話集「針鼠爺さん11」

腹が減った熊が川の底で小さい貝を見つけた。シジミだと思ったのだが、じつは

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-11

CC BY-NC-ND
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