還暦夫婦のバイクライフ 52

ジニー&リン、冬眠に入る

 ジニーは夫、リンは妻の、共に還暦を過ぎた夫婦である。
 紀伊半島一周の時に立ちごけしたリンは、帰宅後に手首を痛めていたことが分かった。その場で痛みが出なかったのが年齢を感じさせる。おまけに治まっていたテニス肘までぶり返してしまって右手を動かすのが難儀になってしまった。さらに、雨に降られたのが原因なのか分からないが、3年使ったD社のインカムも不調になってしまい、代替えを余儀なくされた。たまたま値引き販売されていたS社の型落ちインカムをN店で見つけて購入したが、予定外の数万円の出費は痛かった。
「リンさん、しばらく無理は禁物だな」
「大丈夫、手首は横にひねらなければ痛くないし、肘はいつものことだから」
リンは平気と言ったが、ジニーは気になって仕方がない。
 新しいインカムもチェックしたいし、少しくらいなら平気だよというリンの言葉に後押しされて、200Km未満の短距離ツーリングを何度か行うこととなった。
「ジニーこのインカム優秀だわ。高速道走ってもきれいに聞こえる」
「うん。でも時々雑音が入るな。何だろう?金属製のせんべい缶の薄いふたを叩くようなこの音、ぱんぱんぱりぱりべこべこうるさいんだけど」
「何だろうね」
「メーカーに問い合わせるかなあ」
雑音はうるさいが声は聞こえる。D社のインカムは会話が聴き取れなくて、とんちんかんな受け答えをしてリンが不機嫌になったりしたが、それも軽減されそうだ。ジニーはありがたいと思った。
 短距離ツーリングを何回か繰り返して、インカムの使い方にも慣れてきた。ただ、リンの手首の調子は思わしくなく、中~長距離ツーリングは無理だった。
ジニーの悩みは他にもあった。長年お世話になった愛媛バイク商会が、店じまいをすることとなったのだ。
「ジニーさん、僕も65になったし、そろそろ店は畳むよ。借金の無い今のうちじゃないと後が大変だし、もう充分働いた」
年初にそう宣言していた岩角さんが、いよいよ12月末で閉店すると連絡してきたのだ。ジニーは11月中にバイクのメンテナンスをお願いして暫くは大丈夫なようにしたが、年明けからはどこかにお願いしなければならない。
「ジニーさん、新しい所決まった?」
「いや、まだです。ちゃんとリフトがあって、工場がきちんと整頓されている所じゃないと嫌なので」
「ああ~、リフトがある所ってあまり無いよ。そう言えば××はどう?」
「あそこは預かったバイクとか雨ざらしにしてるから嫌ですね」
「確かにそうだな」
「何年か前にできたC店に行ってみようと思います。あそこは設備もきちんとしているみたいだし」
「あ~あそこね。いいんじゃない?僕もどこか紹介出来たらいいんだけど、いろいろ裏を知ってるからなかなかあそこって言えないんだよね」
岩角さんが申し訳なさそうに言った。
 いよいよ12月も終わりに近づき、愛媛バイク商会もシャッターが閉じていることが多くなった。岩角さんが片付けに奮闘しているようだ。リンの手首もよくならないので、とうとう整形外科のお世話になることとなった。
「手首にね、注射うたれたよ~。見てるの怖くて見てなかったんだけど、針がずぶずぶ入ってきてびっくりだよ。あと痛み止めと手首固定用のサポーターもらった。一か月間は付けろって」
そう言って、リンは手首固定用のごついサポーターを付けた右手を見せる。
「これ、バイク乗れるかなあ。金属の板が入ってるからグリップ握れないかも」
「それ、仕事できるん?」
「パソコンのキーボードは平気かな。だめならサポーター外すし」
「ふ~ん。きっちり治ればいいね」
「全くだよ。でも治らないかな。テニス肘だってもう40年治らないし。整形行っても、この手の故障は全治しないと思う」
「そうだな。まあ、冬の間はバイクはお休み。しばらく冬眠だね」
松山にも正月2日から雪がちらついている。道後平野の出入り口が雪で閉じられる日も近い。

   

還暦夫婦のバイクライフ 52

還暦夫婦のバイクライフ 52

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-02

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