ほどほどに食べなさいよ:寓話集「針鼠じいさん2」
朝早く、一匹の青いヘビが池のふちでぐったりとしていた。
池の中からフナが顔をだした。
「どうしたんだい」
ヘビは、鎌首をもたげることもなく、うつむいたまま答えた。
「腹がへって、腹がへって」
フナは不思議そうな顔をした。
「このあたりにゃ、虫やカエルがいっぱいるのになあ」
「いたにはいたが、ごらんのとおり、もぬけのからさ」
「どじだね、気づかれちまったのか」
ヘビのお腹がきゅーっとなった。
ヘビがフナを見つめて言った。
「うまそうだな」
フナはぎょっとして、水にもぐった。
しばらくすると、フナがふたたび顔をだした。
「水草は食わないかい」
「食ったことはないが、喰えるならなんでもいい」
ヘビは首(こうべ)をたれたまま答えた。
フナが池底から水草をくわえてきた。
「ほら、キンギョ藻さ」
ヘビの前に水草をほうり投げた。
ヘビは首を伸ばして、ぱくりとそいつを飲みこんだ。
そのとたん、「げえーっ」と、顔をしかめて吐き出した。
「せっかくだが、こいつぁだめだよ」
ヘビはめまいにおそわれ、とうとう草叢に転がってしまった。
フナはそれを見ると、小声で言った。
「そんなに、腹がへっているのならしょうがない、うまいものをおしえてやろうか」
魚とは好みがこんなにも違うんだ、しかし、背に腹はかえられない、そう思ったヘビは首をもたげて、
「教えろよ」と、力なくたのんだ。
フナはしかたがないかという顔をした。
「ほれ、あんたの脇にある、だがな、食べたらどうなることやら」
へびはあわてて脇を見た。緑色の肉がふらふらと動いている。
「匂わないね」
ヘビが鼻の穴をふくらました。
フナが即座に答えた。
「慣れちまったのさ」
ヘビは草の匂いに包まれていることだと思い、少しばかりそいつに食いついた。
「うまい」、思わずヘビはさけんだ。
フナは横目で見ながら言った。
「そうだろう、でもほどほどに食べなさいよ」
そういい終えると、池の中にもぐっていった。
その肉のうまいこと、今まで食べたものの中で一番おいしいものであった。
ヘビはよほど空腹だったのだ、あっというまに肉のかたまりはなくなった。
「うまかった」
コロンと転がったヘビの頭はため息をついた。
池からカエルが飛び出した。そいつはヘビの頭をつっついた。
ヘビの頭はころりと転がり、ぽちゃんと池の中に落ちた。
ヘビの頭がゆらゆらとしずんでいく。
池の底からフナの声がした。
「ほら、言ったこっちゃない」
フナの子どもたちがヘビの頭に寄ってきた。
またフナの声が聞こえた。
「ほどほどに食べなさいよ」
ヘビの頭はあっという間に骨になっちまった。
ほどほどに食べなさいよ:寓話集「針鼠じいさん2」
寓話集「針鼠爺さん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者