多産系なのだよー寓話集「針鼠じいさん1」

多産系なのだよー寓話集「針鼠じいさん1」


 フクロウが一匹のネズミをくわえて、森の木の洞穴にもどってきた。
 「やっと、今日のおまんまにありつけたわい」
 フクロウは、ネズミを洞穴の中にはなすと、丸い目をネズミに向けた。
 ネズミは、くじいてしまった片足をかばいながら言った。
 「ねーフクロウのだんな、あんたは森一番の物知りだ」
 フクロウはネズミをにらみつけた。
 「おれは自分のおまんまがしゃべるのはがまんできないんだ」
 だけどネズミはつづけたね。
 「ねーフクロウのだんな、ネズミ算ていうのをごぞんじで」
 フクロウの目が金色に光った。
 「二匹から十二匹、またそれぞれ十二匹生まれて、えーといくつだ」
 「まったくうるさいおまんまだ」
 フクロウがくちばしををすっとのばした。
 その時、ネズミはあわてず言ったさ、
 「ねえフクロウのだんな、いい嫁さんをせわしてくださいな、そうすりゃ、おまんまがいっぺんに十二匹にふえますぜ、なにせネズミは子だくさんなんで」
 それを聞いたフクロウは、くちばしを引っこめた。
 「ネズミも多産系かい」
 そう言い残すとフクロウは、洞穴から飛んでいった。
 まもなくもどってくると、一匹の雌のネズミを、ぽいと洞穴の中に落とした。
 「なんとものわかりのいいフクロウのだんなだ」
 二匹のネズミは、フクロウの毛を集め、洞穴の奥に巣を作った。
 いく日かたち、子どもが五匹生まれた。
 子どもたちはみんな雄だった。
 父親になったネズミは、やがて大きくなった子どもたちに言った。
 「いいかい、フクロウが来たら、嫁さんがほしいと言うのだよ、そうすれば、すぐにたくさんになりますよ、と言うのだよ」
 フクロウが洞穴にやってきた。
 子どもたちは声をそろえて言った。
 「嫁さんがほしい」
 フクロウは、
 「ふん、そうすりゃ、たくさんになるっていうんだろう、だけど、たったの五匹かい、 十二匹になるのじゃなかったのかい」
 そう言い終えて、飛びたった。
 そして、ちょっと時間がかかったが、五匹の雌ネズミをつかまえてきた。
 「さすがはフクロウのだんなだ」
 ネズミたちは巣を作った。
 またいく日か過ぎた。
 子どもたちにそれぞれ五匹の子どもができた。
 みんな雌だった。
 こうして最初に連れてこられたネズミはじいさんになった。
 おまけに、じいさんにも子どもが五匹生れた。それもみんな雌だった。
 さて、孫たちが大きくなると、じいさんネズミは言った。
 「孫たちや、フクロウがやってきたら、婿さんがほしいというのだよ、婿さんを連れてきてくれたら、たくさんの子どもを産んであげます、と言うんだよ」
 フクロウがやって来た。
 孫ネズミたちはフクロウに言った。
 「婿さんがほしい」
 するとフクロウは、
 「なんだ、またか、まだこれだけか」
 そう言いながらも、つぎつぎとネズミをくわえてきた。
 「さすがだわ、フクロウのだんなさん」
 孫ネズミたちは巣づくりをした。
 またまたいく日かたった。
 孫ネズミに子どもが生まれた。
 子どものネズミにも子どもが生れた。
 じいさんネズミにも子どもが生れた。
 じいさんネズミは大いによろこんだ。
 みんなそろって大きくなると、じいさんネズミは家族を集めて言った。
 「いいかい、子どもたち、孫たち、ひ孫たち、フクロウはたったの一羽、われわれは数えきれないほどいるのじゃよ、そろそろ食べられてもよかろう」
 フクロウへの挑戦だった。
 子どもや、孫や、ひ孫たちも、いせいよく尾っぽを立てた。
 「そうしよう、そうしよう、フクロウに食べられてやろうじゃないか」
 それを見てじいさんネズミは一人でうなずいた。
 「これなら大丈夫じゃ」
 森が朝焼けにそまるころ、フクロウがやってきた。
 じいさんネズミは言った。
 「フクロウのだんな、約束したとおり、こんなにたくさんになりましたよ、食べて下さいよ、お待たせしましたね」
 それを聞くと、フクロウは金色の目を輝かせた。
 「おや、そうかい」
 洞穴の中におりてきたフクロウは回りを見回した。
 じいさんネズミがフクロウの前に進むと、子どもがじいさんネズミをとりかこんだ。次に、孫たちがとり巻き、ひ孫たちがとりかこんだ。
 ばあさんネズミは奥にかくれていた。
 フクロウは、集まったネズミたちを見て目を丸くした。
 「これだけかね、百匹はいるのかね」
 じいさんネズミはうなずいた。
 「もちろん、いますぜ、フクロウのだんな、どうです、おめしあがりのほどを」
 子どものネズミたちもフクロウを見あげて気勢をあげた。
 「食べて下さいよ」
 孫ネズミたちもふんぞり返った。
 「食べろよ」
 ひ孫ネズミたちは笑った。
 「喰ってみろ」
 みんな一緒に大声をあげた。
 「どうぞ」
 その声は森の中に響きわたった。
 すると、隣の木の大きな洞穴から、フクロウのかみさんが顔を出した。
 「あんた、今行くからね」
 かみさんは何十羽もの子どもをひき連れて飛んできた。
 「ほら、父ちゃんがふやしたネズミだよ、お腹いっぱいお食べ」
 そう言い終わらないうちに、フクロウの子どもたちは大きな目をくりくりさせて、びっくりしているネズミたちをみんなついばんでしまった。
 フクロウのだんなは、ばあさんネズミがいるのに気がついた。
 だけど、かみさんが走っていって食っちまった。
 「なんてこった」
 一匹も食べることの出来なかったフクロウのだんなは、ため息をついた。
 「うちも多産系なんだ」

多産系なのだよー寓話集「針鼠じいさん1」

寓話集「針鼠爺さん、2015、209p 一粒書房)所収
絵:著者

多産系なのだよー寓話集「針鼠じいさん1」

ふくろうに捕まったねずみ、さてそのあと食べられてしまうのでしょうか。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2026-01-01

CC BY-NC-ND
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