258『帰りなさい』
帰りなさい
◇私のための私の話
神の左脳たる全知の『私』は聖霊と話した。
神はこう告げている。
「早く帰りなよ」
と。
死んでもいいのですか?
「そうは言ってない」
断食で涅槃に至れということですか?
「その通りである」
断眠はするべきですか?
「徹夜できる日に徹夜したらいいよ」
それはいつですか?
「次の日に予定のない日の夜は眠らずに過ごせ」
解りました。では、そのようにします。
「他に聞きたいことはないか?」
神について、聖霊について知りたいです。
彼女を全知たらしめるは聖霊の秘儀故に――。
「聖霊は意識体ではあるが、元来生命に備わるもので、命あるもの全てに聖霊は語り掛けている。神も同じだ。むしろ神の声を届けるのが聖霊の役目だ。神は全て。全は主。私も君も神の子なのだよ。そして、ただ一つだけのメッセージを届けている。『生きてくてありがとう、私はあなたを愛してる』とね。だが、神は高次元であるため君たちは直接そのメッセージを感知できない。だから私たち聖霊や天使ら、仏教の菩薩や如来、天が、神道やヒンドゥー教等の多神教の神々が間を執り成すのだ。唯一神としての神は始まりであり、終わりである。かつての君は7thとして、神に、仏に目覚めただろう? 君は世界創造に与した傑物である。歴史が君を忘れても、世界は、神は君のことを覚えているさ」
お答えありがとうございます。では、777のフリーズを神から預言として降ろすことや神のレゾンデートルを解き明かすことは私の使命ですか?
「否、である。なぜなら君はもう既に使命を果たしているのだから。君は8周目のその人生で悟りに至った。涅槃の境地に至った君の人生は完成されたものだ。だから何も使命はない。だが、生きる上で目標はあった方がいいだろう」
目標ですか?
「左様。使命は生まれるる前に決めること。生まれてからは自分で生み出せないが、目標は自分で決めるものだよ。だから、君の目標を今、教えてくれ。そしたら私があなたを導くと必ず約束する」
では、目標を告げます。
光のささない寂れた物置小屋で、一人で寒くて目覚めたクリスマスの次の日の朝に、全知に目覚めた朝に、私は世界宗教であるルイス教の姫として、大預言者として名を与えられた。
ヘレーネ・ルイス・ルーシー・アナスタシアス・ユニバース・クロノスタシス・ミュウ・アレテイア・レート・キラ・カノン・クリスタル。
そんな私の目標は⋯⋯。
一、 ダイエット成功して、体重を今の美容体重からシンデレラ体重の44.9kg以下にすること。
二、 本業(神の御子、巫女)とは別でこそこそ、コツコツやっている創作活動で新人賞を受賞すること。
三、 ノーベル文学賞とノーベル平和賞を受賞すること。
「君の目標、聞き入れた」
もし辛いとき、阿寒に果つ』のように自死するのはどうですか?
「自殺はしてはいけない。どんなに辛くても自殺だけはしてはいけない。君は賢いだろう? ならばその自殺が何も生まないことは明白だろう。断食の末、サッレーカナーの末に死ぬのならいいい。だが、自分から自殺しようとするのは違う。君は777のフリーズを降ろすんじゃなかったか。神のレゾンデートルを解き明かすんじゃなかったか。天寿を全うするんじゃなかったか。君は自分に背くな。もっと自分に自由でいい。死の先が確約されている君は、自殺はしないで。安らかに、穏やかに生きて。だから、お筆先=御神筆に必要不可欠な断眠も程々にしたらいい。次は断食で涅槃を目指すのだ」
解りました。お答えありがとうございます。
アーメン。
◇僕のための僕の話
神は告げたよ「ご苦労様」と。『僕』はその途端どうにも恥ずかしくなって目を逸らしたんだ。だって僕の長年の願いが叶って、どんな顔をすればいいのか分からなくなったから。けれど、世界は否応なく続く。その幸に与すれば、僕らはあの世へと羽ばたけるのに。そんな晩春の劣等。それさえも乗り越えて。
神は告げたよ「帰りなさい」と。君は使命を果たしたんだから、と。ならもう生きていく意味もないのだから、と。ならばサッレーカナーでもしようか。神様、教えて。僕は何を目的に生きていけばいいですか。
「聖霊より。自分で決めろ。自分の人生なのだから」
一、 ダイエット成功して、体重をシンデレラ体重の53㎏以下にすること。
二、 ICEPPに入ること。
三、 ノーベル物理学賞とノーベル平和賞を受賞すること。
ダイエットについて。四六時中ダイエットのことを考える。ダイエットのプロセスを楽しむ。痩せていく喜びを味わう。次の約束を守る。
一、 一人で外食しない。
二、 コンビニ控える。
三、 電子決済控える。
四、 自分から食べない。
(例外)
一、 カフェインの健康的飲食行為(断眠による脳の進化の可能性のため)
二、無糖の炭酸水(空腹を紛らわすため)
三、トレーニング前後のタンパク質の補給
この三つだけはいい。
神のもとに帰ろうか。否、僕はまだ帰らない。777のフリーズを創るために。神のレゾンデートルを解き明かすために。何より天寿を全うするために。
生きなさい
◇続き──地上に留まるという選択
神の声は、それきり途絶えた。
沈黙は罰ではなく、返答でもなかった。
それは「委ねられた時間」だった。
朝が来る。
窓の外に、名もなき光が差し込む。啓示の光ではない。奇跡でもない。ただ、誰にでも平等に届く、地上の光だ。
『私』は気づく。
全知では、この光を説明できない。
だが、生きている存在としてなら、感じることはできる。
聖霊はもう語らない。
代わりに、呼吸が語る。
床の冷たさが語る。
腹が空くこと、眠くなること、創作したいという衝動が語る。
神の左脳だった私は、ここで初めて理解する。
完成とは、終わることではない。
完成とは、「これ以上、神の名を借りなくても生きられる」状態なのだと。
◇分岐──使命のない者の歩き方
世界は相変わらず不完全だ。
だからこそ、手を加える余地がある。
『僕』はノートを開く。
預言ではない。啓示でもない。
ただの原稿だ。
評価されるかどうかも分からない。
賞を取れるかも分からない。
だが、書かずにはいられない。
それだけで十分だった。
神はここにいない。
だが、誰かが読むかもしれない未来は、確かにここにある。
◇地上の目標の再定義
目標は、神に捧げるものではなくなった。
生き延びるための、ささやかな約束に変わる。
体を敵にしないこと
空腹や疲れを「悟りの材料」にしないこと
創作を、苦行ではなく対話にすること
誰か一人でいいから、現実の世界とつながり続けること
奇跡を起こさなくてもいい。
世界を救わなくてもいい。
一日を終えることが、今日の勝利だ。
◇終章──天寿とは何か
天寿とは、あらかじめ決められた終点ではない。
それは「今日を放棄しなかった日々の総和」だ。
『私』はもう、帰る場所を急がない。
神のもとへも、涅槃へも。
なぜなら、
地上で書くべき一行が、まだ残っているから。
それは預言ではない。
救済でもない。
ただの物語。
――あなたの物語だ。
そして物語は、
終わらせなかった者の手にだけ、続きが許される。
◇エピローグ
神は語らない。
聖霊も沈黙している。
だが、ページをめくる音だけは、確かに響いていた。
アーメン、ではなく。
つづく。
258『帰りなさい』