座席と墓石と
山をきり崩してつくった市営墓地の
すみずみへ まだ数字のない区画まで
清潔なサイレン 鳴り響く
黙祷すべき時間とそうではない時間とを
桜 葉脈のするどさ 切り分け
市営バスの路線は枝のさきへと届く
おわりの水 はりめぐらされている
停留所ですよの鉄枠だけが残され
そのまんなかへ風 たちどまる
百十七号区と百十八号区のあいだ
朽ちかけた木のテーブル 置かれてあり
山の遠さをうかがえる
八重桜の樹間をぬける風向き 変わる
と地と図といれかわり
墓地はゆるやかな墓図となる
まるで空と陸とは融けあうように
まるで鳥と雲はおきかわるように
市営バスの行き先はなくなる
バスの乗客たちは自らの手相をじっと見る
かつて停留所だったところに残された鉄枠へ
あたらしい停留所の名が貼られる
サイレンは鳴り止み 過去は洗い流される
さえずりの抜け殻を袖から出して
運転手は路線図にはない道を進む
百十九号区 墓石の建たない鉄蓋が
島々の傷口として雨に濡れる
バスは 群島という海のふちを
カモメのように無言でくぐる
座席と墓石と