(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第6話

鳥山明 作

これはドラゴンボールZの、もう一つの未来で起こった物語である。


 気弾を直撃させた瞬間、確かな手応えを掴んだジュドーは、そのままトランクスに対してさらなる追撃を仕掛けた。

 空中での連撃、重い左右のパンチを受け続けるトランクス。殴られては飛ばされて、追撃されまた殴られては飛ばされて、と、それはまるで子供の投げて遊ぶスーパーボールか、パチンコ台の中で複数の釘に弾かれたパチンコの玉のようだ。激しく弾かれてはよく跳ねた、といった様子だが、そんな疾風怒涛の乱撃にさらされているトランクス自身はたまったものではない。

(まるで打撃の嵐だな、これは……)

 必死に隙を探してはみるが、回避する手段はない。ジュドーはトランクスをいたぶって楽しんでいるため、なかなか地面に叩きつけてはくれない。

(一度攻撃の手を止めてくれれば、十分態勢を整えられるものを!)

 素早い強打に耐えながら、目の前の敵を憎らしく思うトランクス。それに対して、空中で散々殴り飛ばした挙げ句、ジュドーはいよいよ大技へと構え、勢いをつけてトランクスに飛び込んでいった。

「地獄まで落ちやがれぇーッ!」

 見るからに無駄の多い大振り、だがそれまでの打撃によって疲労したトランクスには、やはり避けるに避けられない。強打を直感こそしたが、一瞬判断に迷ってしまった。

(防げるのか、それとも避けられるかやるだけやってみるか……)

 その隙を、ジュドーの必殺の一撃が容赦なく襲ってくる。瞬く間に無防備なトランクスは餌食となった。

「うあぁぁぁー!」

 回転の利いたダイナミックな動き、そこから繰り出したキック、全体重を乗せた強烈なスタンピング。巨漢ジュドーの両足による踏みつけを食らったトランクスは、荒野の地面を大きく裂くほど地面に叩きつけられた。急降下と超重量の衝撃は凄まじく、トランクスは深々と大地に埋まる。

 全身を押し潰されたトランクスは、口から血を吐き呼吸もままならない。通常時のスーパーサイヤ人ならば、すぐに失神ダウンするような衝撃だ。実際ジュドーの繰り出したスタンピングを受けた直後は、トランクス自身も気付かない短い間に意識が飛んでいた。最も打たれ強い形態であるパワー重視のスーパーサイヤ人となったトランクスでさえ、ダメージのためすぐには動けない。

 だが、落ち着きを取り戻した彼は、その後冷静な反撃に転じた。

「フッ、この距離なら外さないか」

 トランクスの口元が不敵な笑みを浮かべた。その瞬間、ジュドーは身の危険を直感したが、それを回避する有余をトランクスは全く与えなかった。先程までの度重なる連撃、そして必殺技として繰り出してきたスタンピングへの激烈な報復。

 自由の利く片手をジュドーに向けるトランクス、突き出した人差し指の指先は光りを帯びている。そこから繰り出された技は、天津飯と餃子が必殺技の一つとしていた『どどん破』によく似ていた。過去の世界で見たZ戦士の技を、トランクスが我流で身に付けたものの一つだ。

(仕留めたか?)

 鋭い閃光はジュドーの胸に命中し、超重量は一瞬で後方に吹き飛ばされた。

「……ッ!?」

 閃光を受けたジュドーは胸に貫通までしているというのに、苦痛よりむしろ驚きで言葉を失っていた。

(スーパーサイヤ人、なんて打たれ強さとパワーだ! 信じられん!)

 ジュドーはトランクスを凝視する。そこまでの才能があるとは思えないが、現にしてやられている事に彼は腹が立っていた。

 トランクスはこの一撃のために気を集中していた。ダメージこそかなり受けたが、狙い通りのタイミングだ。

(黙って殴られている間は、このまま撲殺されるか、とも思ったがな)

 抉れた地面から飛び上がって立つトランクス。軽いひとっ飛びで距離を詰めると、尻餅をついて倒れたジュドーを見下ろした。口元からは先ほど吐いた血が流れているが、その他に目立った外傷は見当たらない。さすがパワー重視だけあって、通常とは比較にならない強靱さと凶暴さである。

「ジークとの戦闘で見せたものがオレの実力と判断したか? どうやらそれは大きな誤算だったらしいな」

「この……ガキッ!」

 気弾の貫通した傷は瞬く間に塞がっていく。ジュドーも飛び上がって立つと、こみ上げてきた怒りの表情でトランクスと睨み合った。

「そんなに苦しみてぇなら、見せてやるぜぇ……、このオレ様の真の姿をなぁー!」

「……!?」

「後悔するなよ、サイヤ人の小僧! ブラァァァァァァァーッ!!」

 突然の叫び。地面が揺れるほどの覇気。ジュドーの周りには突風が巻き上がった。凄まじいパワーの増幅、それとは別に禍々しいオーラとなって見える憎悪の闇、トランクスはその異形の姿に顔をしかめる。

(どうしたっていうんだ? 一体ヤツは何を?)

 ジュドーの全身の血管という血管は浮き出て、目はいつの間にか白目を剥いている。尋常ではなかった。

『ボコッ……ボコボコッ……』

 スッとジュドーが両腕を横に伸ばすと二倍、三倍と筋肉が増加していった。その後も脚、腹、胸、背中とジュドーの肉体は順に音を立てて膨張していく。体型はより上半身に偏って巨大化した。それこそがジュドーのフルパワー。フリーザのフルパワーよりさらに劇的な変身だった。肉体の変化は形とサイズだけでなく、肌の色も灰色に変化していった。一目見て明らかな変貌だ。その姿はまるで彫刻で作り上げられた怪物のようだった。

(戦闘力が遥かに上がっている! コレがヤツのフルパワーなのか!?)

 ジュドーを見上げたトランクスの額から、一筋の冷や汗が流れ落ちる。それほどまでに体格差と戦力差は広がってしまった。

 見下ろしたジュドーは拳を前に突き出して身構える。

「待たせたな、小僧!」

 その声までもが、別人のような重い声に変化していた。

 ただ巨大化しただけではなく、変身前より荒々しい覇気も、トランクスを圧倒している。先ほどまでのジュドーとはまるで別格だ。

(確実に強くなっているぞ……コイツ!)

 トランクスは武者震がした。全身の毛が逆立つ。目の前の敵がさらに強敵へと変貌したというのに、対峙しているトランクス自身は不思議と心が躍っていた。全身の血が沸騰しそうな興奮だ。

「すぐに殺してもらえると思うなよ」

 挑発するジュドーに、一切恐れもせず飛びかかるトランクス。ジュドーの太い腕がゆっくりとその方向に動く。ジュドーの軽い一振り、それでハイキックを狙って飛び込んできたトランクスを弾き飛ばした。ジュドーはほんの防御のつもりだったが、トランクスにとっては先程までジュドーから受けていた攻撃以上の衝撃だ。

「この姿に変身すると加減できんのでな。簡単には死んでくれるなよ」

 ジュドーが見下した醜い笑みで告げる。トランクスはやはり全く聞く耳を持たず、再び猛スピードで突撃していった。

 今度は防御する様子の全くないジュドー。顔面でトランクスのパンチを受け止めたが、ほとんど微動だにしない。トランクスは自身の拳に走った激痛に青ざめた。

(なんて硬さだ、これは!?)

 拳の割れるような鈍い痛み。常人にとっての鋼鉄ほどに頑丈だ。

(顔でこの硬度なら、どこを打っても打撃での効果はないか。面倒な!)

 それでも彼は果敢に両手足で打撃を叩き込む。全身を使った連打は、地球での戦いで第一形態のセルを圧倒したほどの威力だ。ジュドーはガードもせずそれを黙って受け続けた。戦闘服のジャケットこそ打撃の度に傷つき壊れていくが、ジュドーの肉体へのダメージは全くないのが明らかだ。

(この、なんてヤツだ)

 体格差はまるで重厚な巨大ロボットでも相手にしているようだ。だが、その硬度に関して、他に比較するものがトランクスには思い当たらない。

「どうかしたか?」

 ジュドーはコキリと軽快な音で首を鳴らすと、空中で立ち止まったトランクスの体を両手で鷲掴みにした。剛腕による握撃、その激痛がトランクスを襲う。

「そーら、どうだ? 苦しいか? 苦しいだろー?」

「ッ!?」

 あまりの痛みで声にならない悲鳴を上げるトランクス。全身が風船か何かのように破裂しそうに思える、そんな圧力だった。

 ジュドーはさらにグッと圧力をかけると、すぐに解放した。地面に落ちたトランクスは脱力してへたり込む。彼の勢いは一瞬で奪われた。

「簡単には殺さんと言っただろう」

 見下ろしたジュドーがトランクスを踏みつけようと片足を上げる。トランクスは力を振り絞って、慌ててその攻撃を回避した。みっともなく地面を転がったが仕方ない。ジュドーの踏み下ろした足は深々と地面に突き刺さった。

(あ……危なかった)

 トランクスは姿勢を屈めたまま後方に退避した。距離を置かれてもすぐに迫り寄るジュドー。伸びきったストレートのパンチがトランクスを捉える。トランクスはそれに対して腕を交錯させてガードするが、パンチは想像以上の破壊力で防御の上からでもかなり効けていた。その上、防いだ腕はメキリと音が鳴り、折れてこそいないが、どうやらひどく傷めたようだ。

 衝撃で踏み止まる事はできず、後方に吹っ飛ぶトランクス。転がりながら地面に叩きつけられた。

「クソッ! 馬鹿力が!」

 体中が痛む。限界に近いダメージは確かだった。ようやく立っても膝がガクガクと震える。

(デンデさんと約束したっていうのに。このままじゃコイツにさえ……)

 ジュドーは無情にもサッカーボールキックで思いっきり蹴り飛ばしていった。トランクスが弱気になろうと関係ない。ジュドーは圧倒的な力で叩き潰し、トランクスの命ある限りいたぶり尽くすつもりだった。

「どうした? そんなもんか?」

 再び地面に叩きつけられたトランクスの足を片手で掴んで持ち上げると、ジュドーはトランクスの体を三度頭上で回し、それから空高く投げ飛ばした。

「ブロォォワァァァァ!」

 空中の無防備な相手に対して、ジュドーはやはり容赦なく追撃する。着地点に待ち構えて、トランクスが落ちると同時に拳を突き上げた。そのパンチはトランクスの腹部に深々とめり込む。

「ぐっ」

 地面に横たわるトランクス。ジュドーの攻撃は一つ一つが致命傷になりかねない強打だった。トランクス自身よくわかっている通り、打撃戦では間違いなく完敗だ。その腕力と打たれ強さは、今までに対峙した誰よりも桁外れだろう。トランクスは認めたくないところだったが。

「こんなところで、お前なんかに」

 トランクスが呟くと、ジュドーは「なんだと?」と彼を掴もうと手を伸ばしてきた。トランクスはその手を蹴りで切り払うと、素早く横っ飛びに跳ねた。

 ギリギリの緊張感の中で、ノーモーションに気弾の連打を放つ。窮地になった際にトランクスが頼りにしている技の一つ『バスターキャノン』だ。それはジュドーの顔、とくに目元に直撃した。フルパワーのジュドーに対してはダメージなどほとんどなく、せいぜい目眩まし程度の効果しかないだろう。だが、トランクスにとってはそれでも次の技を仕掛けるのに十分な隙だった。

「ぐぅぅ、小賢しいマネを」

 興奮して両腕を振り回すが、大振りなパンチは軌道が単純で愚鈍だ。容易に懐に入り込んだトランクスは、前屈みなジュドーの胸に両手を突き上げた。まさかの急接近とあまりのスピード、その上気弾の目眩ましによってジュドーの防御は明らかに遅れていた。

「消し飛べぇぇぇーッ!!!」

 ドーム状の光が巨大化したジュドーの超重量を持ち上げた。それはトランクスの必殺技の一つである。あのセルがこの世界で倒され、後片も無く消し飛んだほどの大技『ヒートドームアタック』だ。

「あぁー? 何だこりゃぁぁぁー!?」

 明らかに動揺しているジュドー。自由の利かない体で滅茶苦茶に手足を振り回すが、ドーム状の気のフィールドは既に彼を捉えていた。

 トランクスはこの一撃に全力を込めた。戦闘のダメージで全身はボロボロだが、まだこの技を使うだけの余力は、隙を待ちながら密かに残していた。ドーム状の気はどんどん膨れ上がっていき、ついに光の柱が出現する。天高くジュドーの巨体は昇っていった。

「ハァァァァーッ!」

 トランクスはさらにエネルギーを集中させた。光の柱もそれに合わせて大きくなっていく。

「このバケモノが!」

(……体が、寒い)

 ジュドーは死を予感した。何故こうなってしまったのか。打撃では圧倒的に自分が有利で、トランクスの方が明らかにダメージはあったというのに。

「これが、スーパーサイヤ人なのか? なんて……」

 ジュドーが最後まで言い終わる前に、彼は光の柱の中で爆発した。

「やったのか?」

 トランクスは力を使い果たして、地面にへたり込んだ。ジーク、そしてサンボとの激戦を乗り越えたためか、戦闘力の上がったトランクスはセル戦以上の破壊力を発揮することができた。おそらく過去の世界で完全体セルを葬った、孫悟飯の『超・かめはめ波』にも匹敵する威力を瞬間的には引き出せていただろう。敵の気が近くに見当たらない事といい、あの凄まじい爆発音といい、仕留めた手応えは確かだ。

「まだまだ強くならないと、な」

 駆け寄ってくるデンデの姿を見ながら、トランクスの意識は途絶えた。

(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第6話

(同人)ドラゴンボールZ もう一つの明日 第6話

二次創作作品です。 尊敬する鳥山明先生の名作『ドラゴンボール』の同人誌として執筆した作品です。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-02-02

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work