誤配されたぼく

ゆうぐれちかく ぼんやりぼく
郵便配達をしていたらあやまって
自分を受箱へ投函してしまった
「おーい たすけてくれ」
と叫んでも
受箱の郵便たちガサゴソ鳴るだけ
しばらくして
ドットロドットロ
郵便バイクの走りだす音
誰が運転しているのだ
次のお宅へ配達にでもいくのか
気がかりがあって身をよじる
自分のおなかのあたりに書かれた
宛所の枝番は3
でもここは枝番2の受箱
同じ鈴木さんでも隣の家だ
しくじった!
と思ったけれど
自分はいまは郵便配達員ではなく
一介の郵便物に過ぎない
どうでもいいやと思って
郵便的昼寝を決めこむ
しばらくすると夢のなかから
ドットロドットロ
音がして 急に
受箱が急に開かれた まぶしい!
「よかった まだあった」
誤配した郵便物を奪い返しぼくは
枝番3の鈴木さん宅へ
バイクを走らせた
誤配した郵便物は
昼寝をしている心臓のように
あたたかい

誤配されたぼく

誤配されたぼく

静岡新聞2025年11月25日読者文芸欄野村喜和夫選

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • サスペンス
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-11-25

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