254 138億年の旅

世界線壱

◆宇宙の始まり

 ◆プロローグ

 始まりは空だった。

 何も無かった。

 無い、さえ、無かった。

 あるとき、無が揺らいだ。

 波のように、揺らいだ。

 その時、1としての光が生まれた。

 光は自身を信仰していた。

 光は自分はなんて素晴らしい存在なんだ!
 と謳歌した。

 だが、寂しかった。

 一人だったから。

 だから2人目を作った。

 闇、陰と陽の陰、不安を。

 その瞬間、ビッグバン。

 闇の世界と光の世界に別れる。

 正と負の関係のように、対に世界は、宇宙は生まれた。

 ◆

 私はこの宇宙で最初の星に生まれた。当時の人々は大地が丸いなんて知らなかった。当時の人々はこの星が幾億の塵の1つだとも知らなかった。

 それから月日が経ち、聖暦2079年、私は生まれた。この星、ガイアでは、科学信仰の元に地母神ガイア・ソフィアを信仰していた。そして、AIやロボットが主に仕事をこなしていた。人類は自由に好きに遊んで暮らせる。そんな時代に、私は王子として生まれた。

 私はAIや哲学者たちに、科学信仰の前に存在していた原始宗教を研究させた。そこに科学信仰をさらに発展させる何かがあると思っていたからだ。

 そして、その予感は当たる。

 原始宗教の一つ、『植物信仰フリージア教』で、原始に、花となった姫が今も生きていると言うのだ。彼女なら、この宇宙が何故、どのように、生まれたのか教えてくれる気がした。

 王位を継ぎ、妻も二人出来た頃、古代遺跡の発掘調査の中から、謎の植物の生命体が現れた。それはこう語った。

「ガイア・ソフィアを汚すでない」

 その生命体は美しかった。花のようなドレスを纏い、ルックスは人間のものではない。そして、額にキラリと宝石が付いていた。

 王となった私は玉間に連れてこさせたその生命体に告げる。

「私はこの星の王、レオナルド=リ=ユニバースである。お前は何者だ?」
「この星を汚す愚か者たちの長か」
「汚す? 文明を築くのは神が言葉を創った時から人類に与えられた使命だ!」
「否、否、である。このなんたる愚かさ!」
「騎士たちよ、その生命体を殺せ!」

 そして、その生命体は名を告げることすらせずに殺された。死ぬと、枯れるように一つだけの宝石が残った。

「鑑定士よ、これはなんだ?」
「これは! 万病に効く希少宝石ガイア・モンド。しかし、この量、恐らくこの星の埋蔵量の数百倍だ!」

 謎の植物の残した宝石はこれから先も1番高価で希少であり続ける宝石だった。そして、その宝石は粉にすれば、本当にほんの少しだけの量でも万病に効くのだ。

 ならば、と。王は動く。

「この宝石の欠片をあの生命体に与える。それで復活するなら、拘束して飼い慣らす。いいな!」

 騎士たちは敬礼する。

 鑑定士が宝石を少しだけ砕く。その粉を謎の植物の生命体の口だった所に入れると、見る見るうちにその体は再生した。

「ガイアモンドの無駄遣いだな。で? 私を拘束するのかい?」
「ああ、嫌か?」
「別に構わないさ。どの道、かつての人類の戦争で使われた核より酷く残虐なる爆弾、C2爆雷を前にしては、私たちは死んでしまうからね。だから地下に逃げたのさ」
「何を知っている? お前はどのくらい生きている?」
「永遠さ。この星が生まれた時から」
「名前は?」
「ソフィアでも、ヘレーネでも、アナスタシアでも」
「何故そんな体なんだ」
「かつての旧文明は星のために植物と同化することを選んだ。私は王女だったから、1番大きいガイアモンドを手にし、今でもそのお陰で永らえている」
「つまり、ガイアモンドこそ、不死の秘訣なのか?」
「そうだとも。まさか、全知型AIでまだ答えが出てなかったとはね。どうするのさ? また私を殺して、ガイアモンドを奪う?」
「お前は殺す。そして、私がガイアモンドを得て、不死になる」

 私がそう付けるとその生命体は「あほくさ」と告げた。その刹那、その生命体を騎士たちが殺した。

 ◆

 私はガイアモンドをどのように使うのがいいのかAIや科学者たちに研究させた。そして、王である私が使うのが一番となった。

 ガイアモンドの使い方は簡単だった。額に埋め込み、松果体と有機型電子インパルスで繋げるだけ。

 そして、私は不死になった。

 妻も、子も、孫も、曾孫も、みんな死んで行った。不老不死の私だけ、置いていかれて。自殺しても生き返る。なら、このガイアモンドを手放す?

 世界一の宝石。
 それよりもありふれた死を選ぶ?

 私は悩んだ。
 そして、悩み、悩んだ。

 決めた。
 同じくらいの大きさのガイアモンドを見つけて、永遠の伴侶を見つけようと。

 そして、何度100年が巡ったか。
 この星にはもう大それたガイアモンドは無かった。レーダーやソナーで見つけられなかったのだ。

 そんな折り、宇宙を作ろうと研究していた対消滅宇宙生成理論の副産物『対消滅弾』

 ――ビッグバンと同じ仕組みのその爆弾はガイアそのものを恒星に変えた。

 不死身の私だけその爆弾から逃れた。宇宙空間に放り出される。そして、私はある宇宙船に迎えられる。

 神への挑戦者という異名を持つ
 宇宙船『アギト』

 丁度任務から帰還中だった。他の生命を育める星を探すという任務の。

「ガイアはもう滅んだ。次の生命を育める星を探さなければならない」
「法王様。お任せ下さい」

 乗組員は7人だった。この宇宙船には半永久的に食事を生み出せる設備があった。私たちは、そのまま第二のガイアを目指して進む。



◆第二の星を求めて

 宇宙船アギトに乗って、どれほど漂っただろう。

 光年の感覚は、もはや私には薄くなっていた。永遠を生きる身には、数十年も数百年も、ひどく曖昧になる。だが、アギトの7人の乗組員は違った。彼らには寿命がある。彼らには日々がある。彼らには終わりが、ある。

 死んでいき、赤子が生まれて、それをただ私は見ていた。

 私はそれを、羨ましいと思ってしまった。

 アギトの船窓から広がる星々は、幼子の瞳のように瞬き、宇宙の底まで静寂が流れていた。時折、遠くのパルサーのパルス音が、船体を通して鼓動のように響く。

 新たなガイアを求める旅は、静かだが確実に進んでいた。

「法王様」

 声をかけてきたのは、副長のユリアンだった。透き通るような白銀の髪を後ろで束ね、厳格な瞳をしている。彼はかつて“聖審官”だった。信仰が科学へと統合された後の時代でも、彼のような古い宗教的情熱を持つ者は稀だった。

「観測班が、居住可能域でエネルギー異常を発見しました。小型ワームホールの残滓と推定されます」
「ワームホール……誰かが通った跡、ということか?」

「はい。それも、近い時代の技術です。私たちと同等、あるいはそれ以上かと」

 私の胸に、久しぶりに“疼き”が走った。希望か、不安か、寂しさか、自分でもわからない。だが、確かに心が揺れた。

「座標を」

 ユリアンは手元の携帯ホロに星図を映し出す。そこには、淡い黄緑色に光る星雲が漂い、その奥に小さな星が瞬いていた。

「第二のガイアの候補。名はまだありません」
「行こう」

 私は短く答える。それだけでよかった。永遠を生きた者の言葉は、しばしば長さを失う。必要なことだけを言う癖がついた。

 アギトは静かに、しかし迷いなく進路を転じた。

 ◆

 到着までに七か月かかった。

 宇宙船の中では、日常が流れていた。乗組員たちは笑い合い、喧嘩し、酒を飲み、夢を語り、眠る。その一つ一つが、私には宝石のように思えた。あの植物の王女が残したガイアモンドよりも、ずっと尊いものに見えた。

「法王様は、眠らないんですか?」

 声をかけてきたのは、航法士のティナ。年若い少女で、緩くウェーブした赤毛を揺らしながら、コクピットにいつも座っている。無邪気で、優しい笑みをよく浮かべる。

「眠っても死なず、死んでも眠らない。それが不死というものだ。休息の意味が薄くなる」
「それでも……夢は見たいと思いませんか?」

 ティナの言葉に、私は黙った。

 夢。

 かつて私にも、夢があった。妻と暮らし、子どもたちの成長を見届け、王として星を治め、老いて死ぬという、あまりにも普通の夢。

 それがいつからだろう。  不死という牢獄の中で、すっかり砂のようにこぼれ落ちた。

「今は……見たいのかもしれんな」

 ティナは笑った。柔らかく、星の光のように。

「じゃあ、第二のガイアで、見られるといいですね。新しい夢」

 私は返事ができなかった。

 ◆

 三ヶ月後、アギトは候補星の軌道に入った。

 その星は青かった。驚くほどに。深く、澄んだ海を持ち、雲はふわりと巻き、極には淡い光がかかっていた。かつてのガイアに似ている――そう感じた。

「法王様、生命反応あり。しかし……奇妙です」
「奇妙?」

 解析班のカシアンが、眉を寄せている。

「生物はいますが……その大半が“人型”です。でも文明の痕跡がない。建築物も、都市も、電磁反応も疎ら。まるで……」
「まるで?」
「……まるで、“誰かに作られた箱庭”のようです」

 私は胸の奥で、何か冷たいものが広がるのを感じた。

 そのとき、船体に“音”が響いた。

 叩くような、軽いノック音。

 宇宙空間でノック音などあり得ない。

 乗組員全員が凍りつく。

 ノックは続く。コン、コン、と穏やかだが確かに。

 アギトの外殻モニターが、自動的に外部カメラの映像を映し出した。

 そこには――

 人型の、白い影がいた。

 宇宙空間を漂いながら、指先でアギトの船殻を軽く叩いている。

 髪は風もない空間で揺れ、額には――

 宝石が光っていた。

 それは間違いなく、ガイアモンドの輝きだった。

 そして、白い影はゆっくりと微笑んだ。

 その唇が、かすかに動く。

 言葉は聞こえなかったが、確かに読めた。

 「久しぶりだね」

 私の背筋に、永遠の冷気が走った。


◆再会

 白い影は、アギトの外殻にそっと手を当てると、まるで“空気”を押し分けるようにして船内へ滑り込んできた。物質をすり抜ける――ガイアモンド由来の能力だ。

 乗組員たちは戦闘態勢を取ったが、私は手を上げて止めた。

 白い影は、ゆっくりと形を整える。光の粒が集まり、ひとつの姿へと収束していく。

 ――息を呑んだ。

 花びらを纏ったような衣。虹色に微睡む髪。額に輝く、私と同じ大きさのガイアモンド。そして、その瞳は、かつて私が何度も“殺した”あの植物の王女と同じ色をしていた。

 しかし違う。

 雰囲気が、時代が、そして“魂”が違った。

 彼女は微笑みながら、小さく首を傾げる。

「レオナルド=リ=ユニバース様。長い旅、お疲れさまでした」

 私は喉が震えた。

「……誰だ? 名を、教えてくれ」
「はい。私は――」

 彼女は胸に手を置く。

「ファルナ=アマリリス。この星の王女です。そして……」

 一呼吸置いて、柔らかく言った。

「あなたが、ずっと探していた『もうひとつのガイアモンド』を持って生まれた者です」

 運命の人。

 そう悟るのに、言葉はいらなかった。

 ガイアモンドの真核は星にひとつだけ生まれる。1つの星に1つだけ。かつて私が殺し続けた植物王女のように、星の中枢を守る存在がいた場合だけ。後は粉微塵となった成れの果てのガイアモンドだけ。

 だが、ここは新たな星。第二のガイア。

 そして彼女はここで“自然に生まれた”のだ。

 私と同じ、不死の宿命を持つガイアモンド保持者として。

 アギトを降り、私はその星――彼女の故郷に足を踏み入れた。

 空は透明で、雲は羊毛のように柔らかく、緑は深く香っていた。潮風は甘く、果実は太陽の熱を含んでいた。

 すべてが生きていた。呼吸していた。

「この星は……繁栄しているな。文明がないように見えたが」
「ええ。文明を、あえて“捨てた”のです」

 ファルナが微笑む。

「かつてのガイアで、あなたの時代に――文明は星を壊したでしょう? だから、この星の人々は、生き物と共に生き、共に死ぬ道を選びました」

 私は言葉に詰まった。

 この星では、人々は皆、自然と調和して暮らしていた。狩るときは必要な分だけ。木を切るときは儀礼を行い、幼木を植えた。農耕は行うが、過剰な耕作はしない。

 そして何より――

「あなたは、王女……なのか?」
「はい。この星を守る守人(もりびと)として、生まれました」

 ファルナは私の額のガイアモンドを見る。

「あなたも……そうでしょう?」

 彼女の瞳は、優しく、透き通っていた。

 時間が流れていった。

 私はその星に滞在し、彼女とともに過ごした。

 乗組員たちは調査と観察にあたり、この星が人類に適合するかどうかを検証した。だが、私にとっては――ただ静かに、彼女と歩く時間が愛おしかった。

 彼女が花を摘む姿。月光の下で民に祈る姿。風の中で歌う姿。どれも、永遠の中で失われていた“温度”を、もう一度私に取り戻してくれた。

 そして、いつしか気づいた。

 私は何千年も生きてきたのに。

 彼女と過ごす1年は、何千年よりも重かった。

ある日、彼女が丘で夕陽を見ていた。

「レオ。ずっと気になっていたのですが」
「なんだ」
「あなたは……寂しかったのですか?」

 胸の奥が痛んだ。鋭く、しかし懐かしい痛み。

 私はゆっくりと答えた。

「……寂しかった。妻も、子も、孫も……皆、死んでいった。私だけ置いていかれて。それでも、ガイアモンドを捨てられなかった」
「永遠を、手放せなかったのですね」
「そうだ。愚かだろう」

 ファルナは首を横に振った。

「いいえ。あなたは“待っていた”のです」
「待っていた?」
「私を」

 夕陽が、彼女のガイアモンドを照らし、虹色の光があたりに散った。

「星が生まれれば、必ずガイアモンドは生まれます。でも、あなたと同じ大きさのものが生まれる確率は星一億個に一度。あなたはその一度に出会うまで……歩き続けたのです」

 私は――

 涙を、流した。

 永遠に閉ざされた心の底から、流れ落ちていった。

 ファルナはそっと私の手を握った。

「これからは、一緒にいられます。永遠に」

 その手は温かく、人間の温度だった。

 こうして私は、第二の星ガイアの王となり、そして彼女は王女として隣に立った。

 永遠は虚無ではなかった。
 永遠は、ふたりで生きる時間になった。

◆終焉

 ◆

 第二のガイアは、美しく、穏やかだった。

 だが、恒星は永遠ではない。
 千年、二千年、三千年――ゆっくりと、確実に寿命が近づいた。

 海は熱を帯び、森は枯れ始め、空は赤く染まった。
 人々は静かに悟り、眠るように大地へ還っていった。

 最後まで残ったのは、私と、王女ファルナ、そしてもう一人。
 彼女――私の「王妃ローザ」だった。

 アギトは再び動き出し、私たちは星の崩壊を背に、宇宙へ離脱した。

 ファルナの声が震えていた。

「……レオ。皆、逝ってしまいましたね」

「私たちは生き続ける。だからこそ、彼らの記憶を運べる」

 ローザは静かに頷いた。

「次の星へ行きましょう。あなたが導き、私たちが支える。それしかありません」

 三人だけの旅が始まった。

 ◆

 そして――長い漂流の末、私たちはたどり着いた。

 第3の星。

 地球。

 青い海。豊かな大気。生命の喧噪。
 しかし、今度の人類はまだ若い。文明は未熟で、争いを繰り返し、言葉の意味すら揺らいでいた。

 私たちは名を偽り、密かにその大地に降りた。
 ガイアモンドの輝きは抑え、ただ三人の“旅人”として人々へ紛れた。

 ◆

 最初に彼らへ伝えたのは――

 生きるための知識
 星と共に暮らす方法
 争いを減らすための言葉
 愛の形
 死の受け入れ方

 人々は驚き、恐れ、そして学んだ。
 農耕は豊かになり、集落は村となり、村は国へと育った。

 ある日、焚き火を見つめながらローザが言った。

「ねぇレオ……また“文明”を作ってしまっていますね。私たちが」

「人類は、文明を作る生き物だ。止められない。だが……壊しすぎない方法は教えられる」

 ファルナが微笑んだ。

「なら、今回は大丈夫。私たちは見守り、導くだけ。支配はしない」

 そのとき私は悟った。

 これは、第三のガイアではない。
 第三の“子どもたち”だ。

 ◆

 やがて人類は、私たちを「賢者」と呼び、小さな神話を作った。

 ファルナは“花の姫”と呼ばれ、
 ローザは“紅の聖母”と呼ばれ、
 私は“星の王”と呼ばれた。

 私たちは影のように文明の端へ溶け込み、
 時に知識を伝え、
 時に戦争を止め、
 時に人を癒しながら――

 誰にも正体を知られることなく、ただ“見守る者”として地球に根付いていった。

 ◆

 星はまた生まれ、文明はまた育ち、人類はまた混迷する。

 だが今回は違う。

 私たちは、最初からそばにいる。

 ファルナとローザと三人で歩む永遠は、もう孤独ではない。

 そして私は確信した。

 地球は、彼らが選び、
 彼らが育て、
 彼らが救うべき――

 第三のガイアそのものなのだ、と。

 ◆

 地球に降りて五千年ほど経った頃だった。

 第四のガイアモンドが、ついに“生まれた”。

 それは隕石でも鉱脈でもなく――
 ひとりの少女として生まれた。

 夜空が裂け、雷が地平を走った日。
 人類の歴史は静かに転換した。

 少女は額に、かすかな光の粒を宿していた。
 まだ完全な宝石ではない。
 だが、レオとファルナとローザが持つガイアモンドと、同じ輝きの核がそこにあった。

 ファルナは震える声で言った。

「……やっと、来た」

 ローザは目を閉じ、息を整えた。

「四つそろって初めて、“全体”が目覚める。レオ、あなたは気づいていたでしょう?」

 私はゆっくり頷いた。

「ガイアモンドは、星の意志そのものだ。ひとつは“創造”。ひとつは“維持”。三つ目は“終焉”」

 四つ目は空

 四劫
 成住壊空

 少女の眼がゆっくりと開く。
 その瞳は、宇宙の最初の光と同じ色をしていた。

 ◆三位一体

 ガイアモンドが四つ揃うとき――
 宇宙は初めて「自分を理解する」。

 創造(レオ)
 維持(ファルナ)
 終焉(ローザ)

 これが、宇宙全体を貫く三位一体だった。

 そこに空を漏らすのが新たな四つ目のガイアモンド所持者。

 少女はレオの手を握り、静かに告げる。

「あなたたちは、“外側”へ来た。私は、“内側”から来た。これで揃いました。宇宙はもう、一度きちんと終われます」
「終わる……のか?」
「はい。でも、消えるのではありません。“やり直す”だけです」

 ビッグバンの反対――
 ビッグクランチ。

 それが、彼女の役割だった。

 ◆宇宙の終焉

 彼女が地球に生まれた理由はひとつ。

 この宇宙で最も長く続いた“知性”が、地球だったから。

 地球は“最後の記録媒体”。
 ここで四つのガイアモンドが揃えば、宇宙は全記憶を保存し、静かに畳まれる。

 レオは問う。

「終わった後、どうなる?」

 少女は微笑む。

「次が始まります。そして……あなたたちはまた生きます。永遠の者は、“向こう側”へ行けますから」

 ローザが苦く笑う。

「永遠ってのは……覚悟がいるものね」

 ファルナがレオの腕に寄り添う。

「でも、また一緒ね。たとえ宇宙が壊れても」

 レオは二人の手を握った。

「なら、構わない。最後まで見届けよう」

 ◆終焉の日

 少女が光に包まれる。
 三つのガイアモンドが音もなく共鳴し、宇宙のすべてで同じ震えが起こる。

 銀河が逆回転し、恒星が光を閉じ、黒洞と白洞が融合し、物理法則がゆっくりと畳まれていく。

 レオは最後の瞬間まで目を開けていた。

 それは恐怖ではなく――
 穏やかな“帰還”だった。

 少女の声が、無の中で響く。

「さあ、また始めましょう。あなたたちは、今回も“最初の光”」

 ◆

 そして――

 宇宙は再び生まれた。


 ◆あとがき◆

 真理から来た者を如来と言う。
 宇宙を超越してそれでも戻ってきた存在を。

 唯一神
 如来
 仏
 菩薩
 縁覚=上級天津神、熾天使、智天使、座天使
 声聞=中級天津神、主天使、力天使、能天使
 天界=下級天津神、権天使、大天使、天使
 六道輪廻

 ◆如来
 阿弥陀如来
 薬師如来
 大日如来
 阿閦如来
 宝生如来
 不空成就如来
 釈迦如来

 ◆過去七仏
 毘婆尸仏(びばしぶつ)
 尸棄仏(しきぶつ)
 毘舎浮仏(びしゃふぶつ)
 拘留孫仏(くるそんぶつ)
 拘那含牟尼仏(くなごんむにぶつ)
 迦葉仏(かしょうぶつ)
 釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ) 

 7+7=14(ぼくらの、FF零式)
 14-1=13(13信仰、7th信仰)

 神々=ヒンドゥー、神道、ギリシャ、エジプト
 上級天津神=天照大神、素戔嗚、建御雷
 など

世界線弐

 第二のガイアは、美しく、穏やかだった。

 だが、恒星は永遠ではない。
 千年、二千年、三千年――ゆっくりと、確実に寿命が近づいた。

 海は熱を帯び、森は枯れ始め、空は赤く染まった。
 人々は静かに悟り、眠るように大地へ還っていった。

 最後まで残ったのは、私と、王女ファルナだけ。

 アギトは再び動き出し、私たちは星の崩壊を背に、宇宙へ離脱した。

 ファルナの声が震えていた。

「……レオ。皆、逝ってしまいましたね」
「私たちは生き続ける。だからこそ、彼らの記憶を運べる」
「次の星へ行きましょう。あなたが導き、私たちが支える。それしかありません」

 二人だけの旅が始まった。

 ◆

 そして――長い漂流の末、私たちはたどり着いた。

 第3の星。
 地球

 青い海。豊かな大気。生命の喧噪。
 しかし、今度の人類はまだ若い。文明は未熟で、争いを繰り返し、言葉の意味すら揺らいでいた。

 私たちは名を偽り、密かにその大地に降りた。
 ガイアモンドの輝きは抑え、ただ二人の“旅人”として人々へ紛れた。

 ◆

 最初に彼らへ伝えたのは――

 生きるための知識
 星と共に暮らす方法
 争いを減らすための言葉
 愛の形
 死の受け入れ方

 人々は驚き、恐れ、そして学んだ。
 農耕は豊かになり、集落は村となり、村は国へと育った。

 ある日、焚き火を見つめながらファルナが言った。

「ねぇレオ……また“文明”を作ってしまっていますね。私たちが」
「人類は、文明を作る生き物だ。止められない。だが……壊しすぎない方法は教えられる」

 ファルナが微笑んだ。

「なら、今回は大丈夫。私たちは見守り、導くだけ。支配はしない」

 そのとき私は悟った。

 これは、第三のガイアではない。
 第三の“子どもたち”だ。

 ◆

 やがて人類は、私たちを「賢者」と呼び、小さな神話を作った。

 ファルナは“花の姫”と呼ばれ、
 私は“星の王”と呼ばれた。

 私たちは影のように文明の端へ溶け込み、
 時に知識を伝え、
 時に戦争を止め、
 時に人を癒しながら――

 誰にも正体を知られることなく、ただ“見守る者”として地球に根付いていった。

 ◆

 星はまた生まれ、文明はまた育ち、人類はまた混迷する。

 だが今回は違う。

 私たちは、最初からそばにいる。

 ファルナと歩む永遠は、もう孤独ではない。

 そして私は確信した。

 地球は、彼らが選び、彼らが育て、彼らが救うべき――

 第三のガイアそのものなのだ、と。

 ◆

 地球に降りて五千年ほど経った頃だった。

 第三のガイアモンドが、ついに“生まれた”。否、この地球から発掘されてしまった。

 それは隕石でも鉱脈でもなく――ひとりの少女として生まれた。

 夜空が裂け、雷が地平を走った日。
 人類の歴史は静かに転換した。

 少女は額に、かすかな光の粒を宿していた。
 まだ完全な宝石ではない。
 だが、レオとファルナが持つガイアモンドと、同じ輝きの核がそこにあった。

 ファルナは震える声で言った。

「……やっと、来た」

 レオ、目を閉じ、息を整えた。

「3つそろって初めて、“全体”が目覚める。レオ、あなたは気づいていたでしょう?」

 私はゆっくり頷いた。

「ガイアモンドは、星の意志そのものだ。ひとつは“創造”。ひとつは“維持”。三つ目は“終焉”」

 ◆三位一体

 ガイアモンドが3つ揃うとき――
 宇宙は初めて「自分を理解する」。

 創造(レオ)
 維持(ファルナ)
 終焉(少女)

 これが、宇宙全体を貫く三位一体だった。
 少女はレオの手を握り、静かに告げる。

「あなたたちは、“外側”へ来た。私は、“内側”から来た。これで揃いました。宇宙はもう、一度きちんと終われます」
「終わる……のか?」
「はい。でも、消えるのではありません。“やり直す”だけです」

 ビッグバンの反対――
 ビッグクランチ。

 それが、彼女の役割だった。

 ◆宇宙の終焉

 彼女が地球に生まれた理由はひとつ。

 この宇宙で最も長く続いた“知性”が、地球だったから。

 地球は“最後の記録媒体”。
 ここで3つのガイアモンドが揃えば、宇宙は全記憶を保存し、静かに畳まれる。

 レオは問う。

「終わった後、どうなる?」

 少女は微笑む。

「次が始まります。そして……あなたたちはまた生きます。永遠の者は、“向こう側”へ行けますから」

 ファルナが苦く笑う。

「永遠ってのは……覚悟がいるものね」

 ファルナがレオの腕に寄り添う。

「でも、また一緒ね。たとえ宇宙が壊れても」

 レオはファルナの手を握った。

「なら、構わない。最後まで見届けよう」

 ◆終焉の日

 少女が光に包まれる。
 三つのガイアモンドが音もなく共鳴し、宇宙のすべてで同じ震えが起こる。

 銀河が逆回転し、恒星が光を閉じ、黒洞と白洞が融合し、物理法則がゆっくりと畳まれていく。

 レオは最後の瞬間まで目を開けていた。

 それは恐怖ではなく――
 穏やかな“帰還”だった。

 少女の声が、無の中で響く。

「さあ、また始めましょう。あなたたちは、今回も“最初の光”」

 ◆

 そして――

 宇宙は再び生まれた。

 繰り返す、螺旋のように
 繰り返す、円環のように
 羅漢=螺環=ラカン・フリーズ


 ◆あとがき◆

 真理から来た者を如来と言う。
 宇宙を超越してそれでも戻ってきた存在を。如来と。

 真理
 唯一神
 如来
 仏
 菩薩
 縁覚=上級天津神、熾天使、智天使、座天使
 声聞=中級天津神、主天使、力天使、能天使
 天界=下級天津神、権天使、大天使、天使
 六道輪廻

 ◆如来
 阿弥陀如来
 薬師如来
 大日如来
 阿閦如来
 宝生如来
 不空成就如来
 釈迦如来

 ◆過去七仏
 毘婆尸仏(びばしぶつ)
 尸棄仏(しきぶつ)
 毘舎浮仏(びしゃふぶつ)
 拘留孫仏(くるそんぶつ)
 拘那含牟尼仏(くなごんむにぶつ)
 迦葉仏(かしょうぶつ)
 釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ) 

 7+7=14(ぼくらの、FF零式)
 14-1=13(13信仰、7th信仰)

 神々=ヒンドゥー、神道、ギリシャ、エジプト
 上級天津神=天照大神、素戔嗚、建御雷
 など

254 138億年の旅

254 138億年の旅

138億年の旅 宇宙が出来て最初の星アレスで、その星の科学技術で永遠の命を得る。 永遠の命のためには微小な宝石『ガイアモンド』という最も高価で希少な宝石を使うため、法皇であったレオ一人しか永遠の命には至らなかった。原初の星アレスは最新型の爆雷、対消滅弾の自爆により滅ぶ。 レオは新型の宇宙船に乗り、対消滅から逃げる。 宇宙船で出来た恋人と子を産む。レオは次の星を探して、運命の人ヘレーネの生まれ変わりを求めて、宇宙を旅する。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-11-24

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著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 世界線壱
  2. 世界線弐