偽りの命

記憶は 凭れかかると
亀裂が走り 瞬く間に崩落した。
記憶には よすがになるだけの
強度がなかった。わたしはこうして
記憶をひとつ、またひとつと失った。

わたしは 記憶をよく捏造した
それがなければ 生きられなかったから。
嘘か真実かは問題にならなかった
ただ記憶になっていればそれでよかった
わたしは記憶を量産し、蕩尽した。

いまのわたしはがらんどう。
底の抜けた柄杓。なにも掬えない。
記憶がない。なのに生きている。
なぜだろう。未だに生きている。
生きているふりをしている。わたしは
ほんとうに何かを得たことなどなかった。

偽りの命

偽りの命

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-11-16

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