若き日の恋物語 4
中田島砂丘で
この街には、海も湖もあり大きな砂丘もあった。仕事が終わる頃にいつも小夜子からデパート内の内線電話で俺の売り場に掛かって来る。
「今日は三十分遅れるね。悪いけど、ちゃんと待っていてね。きっとよ」
屈託のない彼女の明るさに、俺はどんどん心が惹かれて行く。
俺はいつもの公園の椅子に座り、彼女と出会った日の事を思い浮かべていた。
あれからもう三ヶ月が過ぎ、あっという間の月日の流れだった。
小夜子は息を切らしながら走ってきた。また屈託のない笑顔を浮かべる。
「お待たせ! ねぇ、次の休みの日、海に行こうか」
小夜子には沢山いろんな所に連れて行ってもらった。本当にいい街だ。いやそれはきっと
小夜子が住んでいる街だからであって、小夜子の存在が無かったら寂れた街に見えただろう。
そして次の週。俺たちは駅前からバスに乗り、中田島砂丘で降りた。鳥取砂丘ほど有名ではないが日本三大砂丘のひとつだ。もう目の前は海だ。塩の香りが心地よい。八月に入り真夏の太陽がまぶしい。それよりもっと眩しいのが小夜子の水着姿だ。白い肌が美しく、職場の制服に包まれた小夜子とは違い、女をさらけ出した色気を感じる。俺は心臓の鼓動が波打った。
「わぁ~暑いわ、肌が焼けちゃう。ねえ健、日焼け止めを塗ってくれない。ほら! そのバッグの中に入っているから」
俺はバッグの中から日焼け止めを取り出したが、なんたって女性のバッグの中を見るのも初めてだ。これを小夜子の肌に塗るのかと思ったらドキドキした。完全に俺はいま彼女に翻弄されているようだ。やがて渚を夕日が赤く染める。あんなに大勢いた人影がまばらとなり、遠くの砂浜で誰かが線香花火を楽しんでいるのが見える。
若き日の恋物語 4