ウルトラマン

【登場人物】

早田 進(ハヤタ シン)(ハヤタ)……科特隊・ムラマツ班に名を連ねた正義漢。頭脳派で社交的。光の巨人と心を通わせる。

村松 敏夫(ムラマツ トシオ)(ムラマツキャップ)……科特隊・ムラマツ班の隊長を務める、経験豊富な男。

嵐 大助(アラシ ダイスケ)(アラシ)……科特隊・ムラマツ班の男性隊員。直情型で、勇猛果敢。

井手 光弘(イデ ミツヒロ)(イデ)……科特隊・ムラマツ班の一員で、隊内でも随一の天才科学者にしてひょうきん者。彼の発明品の多くが隊を支えている。

富士 明子(フジ アキコ)(アキコ)……科特隊・ムラマツ班の紅一点。通信担当として、作戦室から他メンバーをサポートする。

・ウルトラマン……光の巨人。ベムラーを追って地球へと至る。

・ベムラー……凶悪な宇宙怪獣。知性は無いが、自己防衛本能と優れた凶暴性を持つ。

・ダダ……母星からの指令を受けて地球にやって来た異星人。ウルトラマンやハヤタ達と激突する。

【プロローグ】

〜太陽系・第三惑星上〜

 星が無数に浮かぶ宇宙の片隅で、二つの光が凄まじい速度で飛んでいた。一つは赤い光。もう一つは青い光だ。

「こちらリピアー。ベムラーは私以外の護送員を殺害し、依然逃亡中。現在位置は、太陽系第三惑星付近……。」

 地球時間にて今から二時間前。M七八星雲光の国から宇宙監獄に移送中だった凶悪な宇宙怪獣、ベムラーが脱走した。そして現在、その護送員の一人だった銀色の巨人が追跡を行っている。

「……司令部。これ以上の事態悪化を阻止する為、スペシウムを使用してベムラーを鎮圧する。この行動は私の独断である為、司令部は如何なる責任も問われない。以上。」

 銀色の巨人が、両腕を十字に組んで前を飛ぶベムラーへと向けた。そしてその十字の中心から、光線が対象に目掛けて発射される。

「……よし!」

 背面にスペシウム光線の直撃を受け、脱力し落下していくベムラー。しかし——

「……ギャオオォン!」

 ベムラーが、苦し紛れに口から熱線を放出した。それは油断していた巨人に直撃し、大きなダメージを負った彼もまたベムラーと同じように落下していく。

「く……まさか、こんな……。」

 意識が途切れる寸前、巨人は眼下で輝いていた青い星を見た。その美しい惑星は、かつての巨人の故郷に酷似していた。

(懐かしい……輝きだ。)

 その日、地球に二つの光が落ちた。

【一】

〜一九六六年十月五日・午後十時二十二分"竜ヶ森湖・上空"〜

 特務機関『科学特捜隊』の早田進隊員が操縦する主力航空機『ビートル』が、竜ヶ森湖の上空を飛んでいた。

「こちらハヤタより本部へ。今のところ、湖に異常は見られません。少し高度を落として、調査を継続します。」

 今から三十分前、竜ヶ森湖の湖上にて巨大な影が蠢いているという通報が入った。その真偽を精査すべく、ハヤタは派遣されたのだ。そんな彼を茶化すように、胸につけた『流星バッジ』から戯けた男性の声が発せられた。

『ハヤタ隊員。低く飛びすぎて墜落……なんて事のないように、気を付けたまえよ。』

「ハハハッ。君の作品にケチをつけるような真似はしないさ、イデ。」

 慎重に高度を落とし、水面にサーチライトを当てながら進んでいく。さざ波一つ立たないその様子に、ハヤタは不気味さを覚えていた。

「……ん?」

 それは、湖の中央付近まで進んだ頃に起こった。一瞬だけ、湖の奥深くで何かが青白く光ったのだ。

「……! こちら、ハヤタより本部。ハヤタより本部へ。湖の奥で謎の発光を目撃した。これより発光源の解明を……?」

 流星バッジから、交信の途絶を告げるガサついた機械音が鳴っていた。それから少しして、ビートルもだんだんと浮力を失い始める。

「電波障害……いや、電子機器全てに異常が出ているのか。仕方ない。」

 ビートルを湖のほとりに不時着させ、外へ出る。辺りはすっかり冷え切っており、ハヤタは身震いをしながら腰にさしていた光線銃『スーパーガン』を構えた。

(……何が起きても、対処してみせる。)

 その時、一帯が大きな地響きによって揺れた。張り詰めた空気を決壊させるように起きたそれに耐えようと、地面を踏み締めるハヤタ。

「くっ……あ、アレは!?」

 自分を覆うように落ちた影につられ、頭上を見上げた彼の目に飛び込んできたのは——

「……巨人。」

 夜を裂きながら組み合う、二対の巨影だった。

〜午後十一時五分・竜ヶ森湖〜

 銀色の巨人は、組み合った戦闘ロボに打ち勝つべく両腕にいっそうの力を込めた。

「ハアァ……!」

 組成式DDnM––ダダニウムで組み上げられた幾何学模様の巨体を、渾身の背負い投げで大地へと叩き伏せる。それでも、戦闘ロボ『レギオノイドDC』は一切怯む事なく立ち上がった。

「……操縦者に問う。貴君の目的は何か。」

『そノしつモンにはワガホシノシュヒキテイにシタガッテカイトうしナい。……ジャマをするナ、ヒカリノクニのリュウシよ。』

 巨人の問いに対して、レギオノイドの操縦者は抑揚の無い声でそう答えた。そうしてその背面から発射された追尾ミサイルが、対敵である白銀の巨躯目掛けて弾道を描く。

「くっ……!」

 横に転がり、ミサイルを地面にぶつけて四散させる。その爆風により、辺りの空気がビリビリと震えた。

異星言語同期(ラングシンク)が完全ではない……どうやらお互い、まだ慣れていないようだな。」

「ソウだナ。しかシ、ヒカリノクニのリュウシよ。オマエにはじカんがないノダロウ。」

「……。」

 活動限界を迎え、巨人は大地に片膝をついた。レギオノイドとの戦闘は、ベムラーとの攻防で消費したエネルギーが回復しない中での、想定外の戦闘だったのだ。

「……ここまで、か。」

 銀色の巨人は、大地に倒れ伏した。

〜午後十一時五十分"竜ヶ森湖・ほとり"〜

 応援を呼ぶ事も出来ず、固唾を呑んで巨人達の争いを見ていたハヤタ。そしてつい今しがた、銀色の巨人の方が力尽き光の粒子となって消えたのだった。

「クソッ……何がどうなってるんだ!」

 ハヤタは、巨人が倒れ伏した場所へと駆けつけた。するとそこには、人間と同じほどの体躯となった銀色の戦士が倒れていた。

「お、おい! 大丈夫か!」

 駆け寄り、その身体を抱える。そんな二人を追い立てるように、地響きを立てながらもう一方の巨大ロボット——レギオノイドは立ちはだかった。

『マダホロびテハイナい……コレデ、おわりダ。』

 標的を踏み締めるべく、右脚部を振り上げるレギオノイド。だんだんと迫り来る死を感じて、ハヤタの鼓動は早鐘を打った。

「……うおおぉぉ!」

 それは、発作的行動だった。銀色の異体を死から逃すべく、遠くへと突き飛ばす。そうしてそれとほぼ同時、ハヤタはレギオノイドの剛脚によって踏み潰されたのだった。



〜十月六日・午前零時"竜ヶ森湖・ほとり"〜

 ハヤタは胸に刻まれた使命を反芻しながら、巨人から受け取った小型携帯端末『ベーターカプセル』を握りしめた。

「ベムラーは、まだこの星に潜んでいる。見つけ出し、倒さなくては。」

 二人は、ビートルに乗り込んだ。

【二】

〜十月七日・午前七時"科学特捜隊—ムラマツ班作戦室"〜

「諸君、おはよう。竜ヶ森湖での不可解な目撃情報……そして、連日続いている失踪事件。その他山積みとなった全ての課題が、君達の活躍によって解決する事を期待している。以上だ。」

 司令官の万城 純の敬礼に合わせて、彼の前に整列した五人の隊員達が敬礼を作った。そして万城が立ち去り、緊張の場から解放された全員が一息を吐く。

「しかし……ようやく板についてきましたねぇ、科特隊。」

 隊員の一人である井手 光弘が、感嘆とした様子でそう呟いた。

「うむ。配属された当初は異星人など眉唾だと思っていたが……案外、本当にいるのかもしれんな。」

 イデの呟きに合わせてそう語ったのは、班長の村松 敏夫。イデを含めた他三名の隊員達も、ムラマツの発言に頷いてみせている。

(異星人……か。)

 そんな同僚達の様子を眺めながら作戦室の隅で座していたハヤタは、ふと窓から空を見上げた。異星人による水面下での民間人誘拐。他にも出ている可能性のある被害を防ぐ為、ハヤタ達が所属する此処——科学特別捜査隊は新設された。設立の指揮を取っていた公安部長が失踪したという、曰くつきの部隊である。

「やっぱり、みんなには明かせないよな。」

 ハヤタは立ち上がると、仲間達のもとへ向かった。

〜同日・午後十一時"住宅街"〜

「や、やめろ……やめてくれ……!」

 酒でまだ赤らんだ顔の男が、目の前で武器を構えた怪人に助けを求めている。

「う、うわぁあ……!」

 そして、怪人の武器から放たれた光線を受けて男は姿を消した。怪人は淡々とした様子で男が居た場所へと歩み寄ると、何かを拾い上げて笑った。

「コレデ……ジュウ。」

 拾い上げたそれを、カプセルへと入れる怪人。そんな彼の肩を、一発の弾丸が撃ち抜いた。

「ッ……!?」

 怪人が振り向くと、そこにはオレンジの隊員服を着た男が拳銃を構えて立っていた。ヘルメットのバイザー越しに透けたその瞳が、異敵への慄きを覗かせている。

「……異星人!」

 科特隊ムラマツ班の隊員である嵐 大助が、息を呑みながら拳銃を構え直した。

〜同日・同時刻"科特隊・総司令室"〜

 司令官付秘書の江川 小由梨が、司令席に座して隊員名簿を読み耽る万城の隣に立った。

「万城殿。ムラマツキャップからの報告です。先行したアラシ隊員が、異星人と接触したと。」

「そうか……。小由梨さんから見て、ムラマツ班の人員はどう?」

「そうですね……」



〜同時刻・再び住宅街〜

 弾丸が肩を貫いたにも関わらず、目の前の星人はまるで痛がる様子を見せなかった。そんな異敵の様子を見て、歯噛みするアラシ。

「くそ……なら、これで!」

 アラシは、直ぐに二発目の弾丸を敵の脳天目掛けて放ってみせた。暗がりですっかり不明瞭となった視界の中でも、それは星人の頭に直撃する。

〜〜嵐 大助。二六歳。射撃の名手で、その腕は百発百中と言われている。怪力の持ち主でもある彼は……現場の切込隊長、とでも言うべき存在でしょうか。〜〜

 しかし、直撃した弾丸は一切の傷を対象に与える事なく弾かれてしまった。どうやら、頭が非常に硬いようだ。

「くそ……なら、組み伏せて……!」

 激情に任せて身構えるアラシ。しかし、そんな彼を嗜めるように胸につけた流星バッジが鳴った。

『アラシくん、僕のスーパーガンは使ってくれた? まさかとは思うけど、使い慣れてるからって普通の拳銃使ってないよね?』

「ぎくっ。……う、うるせぇぞイデ! 俺はこれから、異星人とのステゴロに入るとこだ。ジャマすんな!」

〜〜井手 光弘。二十四歳。自他ともに認める天才科学者で、あの神田博士の一番弟子。科特隊の装備を揃えるのに、彼には随分と尽力してもらいましたね。少し気の抜けたところはありますが、頼りになる男です。〜〜

『イデさん、あまりアラシさんを挑発しないように。アラシさん……ステゴロだなんて、危ない事は控えて。まずは対象の戦力を図るの。身体機能に、外部装とか。落ち着いて、対処して。』

「あ……は、はい。すみません、フジ隊員。」

〜〜富士 明子。二十一歳。ムラマツ班の紅一点で、優秀なオペレーター。特に直情型のアラシ隊員を諌めるのに、彼女の存在は不可欠かと思います。〜〜

 アラシは気を落ち着けて、目の前の異星人に目を凝らした。その星人は白と黒の幾何学模様で飾られた肌を持ち、頭頂部および側頭から後頭にかけてを黒い外皮で覆った不気味な姿をしていた。星人の赤く巨大な眼と肥大化した唇が、アラシの嫌悪感を駆り立てる。

「チッ……気色悪い見た目だ。」

〜〜そして……〜〜

「……ここだ!」

 アラシが、星人の喉笛に狙いを定めて三撃目を撃ち放った。それは見事に標的へと向かい……"すり抜けていった"。

「なっ……!?」

 星人が、一瞬にしてその姿を消したのだ。そして驚くアラシの背後に、再びその姿を現す怪星人。

「あっ……ど、どうやって!?」

「オワリダ……オマエも"ヒョウホン"となレ。」

 星人が、勝ち誇ったように笑い声をあげながら武器を構えた。

「くっ……。」

「アラシ隊員、伏せて!」

「!!」

 その掛け声に合わせて、咄嗟に身体を大地へと這わせるアラシ。そしてそんな彼の頭上をすり抜けたスーパーガンの一撃が、星人の顔面に直撃した。

「ウオオォォ!?」

 そうして悶絶しながら、星人は傷ついた顔面を抑えて消えていったのだった。

「大丈夫か? アラシ隊員。」

「……悪いな。助かったよ、ハヤタ。」

 自身に歩み寄ったハヤタの手を取り、アラシは立ち上がった。

〜十月七日・午後十一時三十分"科特隊・総司令室"〜

「……早田 進。二十五歳。大学を主席で卒業した秀才。元公安で、かつて宇田川 正人の部下だった男。……竜ヶ森湖の調査を担当し、"異常なし"との報告を残している。」

 資料に目を通し終え、小由梨はそれを万城に渡しながらため息を吐いた。その様子を見遣った万城が、口を開く。

「……ハヤタくんに対する所感は無し、と。やはり、竜ヶ森湖の一件が気掛かりか。」

「ええ。彼は……もしかすると、私達の目的を達する切っ掛けになってくれるかもしれない、と思っています。」

 小由梨の言葉を受け、万城は立ち上がって窓に映った夜闇を眺めた。

「あの時も……こんな夜だった。俺は、宇田川さんを救えなかったんだ。」

 宇田川 正人公安管理官。かつての二人の上司で、科学特捜隊創設の立案者。その行方を、万城と小由梨は探し続けていた。

【三】

〜十月八日・午前一時"竜ヶ森湖のほとり・特殊先潜用星外船"〜

 幾何学迷彩(ダダカム)によって秘匿された船内で、"二七一号"は交信用のモニターを起動した。

「……コチラ二七一ゴウ。ホンブ、オウトウセヨ。」

「コチラホンブ。二十五ゴウがオウトウスル。ソノ顔……ハデにヤラレタようだナ。」

 先の交戦で負った額の爛れ跡が痛む。その傷を負わせた男の顔を、二七一号は確かに覚えていた。

「アノ男……確かニあのトキ、コロシタハズダ。」

「二七一ゴウよ。キサマの任務は、百八体のヒョウホンヲ手に入れるコト。しかしイマダ、ヒョウホンはジュッタイしかアツマッテイナイ。このシンチョクのチエン……重くウケトメロ。」

 モニター越しの二十五号が、そう冷たく言い放った。もはや自分に残された猶予はそう長くないのだと、二七一号は悟った。

「分かってイマス。邪魔モノは、テッテイテキにハイジョする。……ツウシンシュウリョウ。」

 モニターが暗転し、静かになった船を出る。そうして、二七一号は同じく幾何学迷彩で隠していたレギオノイドを起動した。

「アタエラレタ使命は必ずタッセイする。……ソレが、オレの義務。」

 その二文字を胸に刻み直し、二七一号はレギオノイドへと乗り込んだ。

〜十月八日・午前九時"東京都・新宿区"〜

 新宿の街を闊歩する、巨大な鉄人。全身を白黒の幾何学模様で飾ったその姿を、ハヤタは確かに覚えていた。

(竜ヶ森湖の……乗っているのは、昨夜の星人(ダダ)か。)

〜三十分前・科学特捜隊—ムラマツ班作戦室〜

「標本? 間違いなく、ヤツがそう言ったのか。」

「はい。この耳で確かに聞きました。」

 アラシの報告を聞いたムラマツが、腕組みをしながら眉間に皺を寄せた。

「しかし標本とは、どういう事だ? 話に脈絡が無さすぎて、さっぱり分からん。」

「……隊長。今のアラシ隊員の報告、補強出来るかもしれません。」

「何?」

 オペレート用のヘッドセットを外してムラマツへと向き直ったのは、フジ・アキコ隊員だ。普段は優しいが、怒らせると怖い事で有名である。

「星人との交戦場所に赴いていた、事後調査班からの報告です。触れたものを"縮小"させる未知のエネルギー物質が、路端に残留していたと。」

「縮小……もしそれがあの異星人のもたらしたモノなら、ヤツは」

「人をちっちゃくしてヒョウホンにしている! ……てことか。」

 イデがムラマツの言葉を遮りながら、やけに野太く落とした声で得意げに語った。

「……出しゃばり。」

「すみません。」

 冷めた目をイデに向けながら呟くアキコと、肩を縮こまらせるイデ。そんな二人を見兼ねたムラマツの咳払いが、作戦室に響く。

「……さて、と。星人の目的がこれで分かった。次はヤツの呼称だ。いつまでも星人・異星人では都合が悪いからな。誰か案はあるか?」

「あ。ソレなら……"ダダ"なんてどうですかね。アイツ、"ダダーーッ!!"って変な笑い方してたんですよ。それがどうにも印象的で。」

 結局アラシのその案が採用され、星人はダダと呼称される事になった。それから僅か五分後、作戦室に"新宿のビル街に巨大なロボットが出現した"との報せが入る。そうして、ハヤタは現地へと急行したのだった。

〜東京都・新宿区〜

「くらえ!」

 ハヤタの乗ったビートルが、ダダの駆るレギオノイドへとロケット弾を発射した。しかし自らの胴へと着弾したそれらを意にも介さず、レギオノイドは進撃を続ける。

『セントウキのパイロットに問ウ。ナゼ生キテイル? オマエはアノ時、確カニ死ンダ筈ダ。』

「そうだ……僕は確かに、あの時死んだ。でも」

 操縦桿から手を離し、巨人より受け取ったベーターカプセルを握る。

「僕達はまだ、輝ける!」

 ハヤタの翳したベーターカプセルが強烈な閃光を放ち、その身体を包み込んだ。

〜十月八日・午前九時三十分"東京都・新宿区"〜

 レギオノイドの前に、再び銀色の巨人が立ち塞がった。その身体には赤き血潮(レッドライン)が駆け巡り、胸の中心では青く丸い発光体が輝いている。

『そのスガタ……。そうか、イッタイカしたノカ。』

「あぁ。……行くぞ、異星の侵略者よ!」

 腰を屈め、素早くレギオノイドの懐に入る巨人。そうして繰り出された彼の背負い投げが、鉄人の巨体を大地へとたたき伏せた。

『アノ時とオナジ……セントウリョクでは、オレに勝チ目はナイヨウダナ。』

 ゆっくりとレギオノイドの上体を起こしながら、ダダは目の前の巨人へと投げかけた。

『ダガ、光ノ国のリュウシよ。他星の生命体とのイッタイカは、オマエ達の掟にハンスルのデハ?』

「分かっている。しかし、私は判断したのだ。掟に背いてでも、この地球人を死なせてはならないと。」

『ジコハンダンとは……リカイに苦しむよ。』

 レギオノイドが、背面のスラスターを噴射させてその全身を宙空へと浮かせた。より高く昇っていく機体を見上げながら、巨人も迎え撃つべく身構える。

『コレがサイダイ出力……ウケテミロ、光の国のリュウシよ!!』

 レギオノイドの全身に備わった砲門が開き、そこから無数のエネルギー弾が発射された。まるで生きる大群の様に湧き出たそれらを討つべく、光の巨人は両腕にエネルギーを貯めながら告げた。

「星人よ、最後に言っておく。私はもはや、"光の国のリュウシ"ではない。」

 両腕を十字に組み、その威力に負けぬよう大地を力強く踏み締める。そうして巨人もまた、最大出力の必殺光線を解き放った。

『……ウオオォォ!?』

 次々とエネルギー弾を打ち消し、巨人から放たれた薄青色の光線が鋼鉄の巨体へと伸びていく。

「今日から私は……"ウルトラマン"だ。」

 そして——ウルトラマンの放った光線によって、レギオノイドは粉砕されたのだった。

【四】

〜十月八日・午後八時"太陽系・第三惑星上"〜

 ウルトラマンは、宇宙に身を預けながら目の前の青い星を見つめていた。

「これが地球か……本当に青いんだな。」

「ああ。……私の故郷も、元は青かった。だが進化の過程で色褪せていき……やがて、光だけが残った。」

「だから、"光の国"か。」

 そして光の国の住民達は、環境に適応するために今の姿になった。かつてはウルトラマン達も、人間と同じ姿をしていたのだ。

「だから……故郷と重ねたこの星に、留まっているのか。」

「それもある。だが一番は、やはりベムラーだ。奴を倒さなくては、この星が危うい。」

「それはつまり、この星を慮ってくれているという事だろう。なんの関わりもないこの星を、何故?」

「それは、君と同じだよ。それに……どうやら私は、地球人を好きになってしまったらしい。」

「そりゃあ、光栄だね。」

 故郷を重ねた地球を、そこに生きる地球人を守り抜く。そう決意を新たにし、二人は大地へと飛んだ。

〜十月八日・午後九時"科特隊・総司令室"〜

「大破したロボットの残骸を回収。内部に操縦席らしい箇所を発見しましたが、操縦者の存在は確認できませんでした。先に対敵した異星人——ダダが乗っていたという推定のもと、我々ムラマツ班が捜査にあたります。」

 整然とした敬礼を崩さぬままに、ムラマツは目の前に座した上官への報告を終えた。そしてそれを聞いた万城が、小さくため息をつく。

「報告ご苦労。それで、ムラマツキャップ……ハヤタ隊員についてだが。」

「……。」

「彼の乗ったジェットビートルが光に包まれ、そのすぐ後にあの巨人が出現した。巨人とハヤタ隊員に繋がりがあるのは明白だ。竜ヶ森湖の一件もある。……我々科特隊は、彼から"事情を聞く"べきだと思うか。」

 その言を聞いてしばらく、ムラマツは無言でその場に立ち続けた。そうして万城が根負けと言わんばかりに二度目のため息を吐いたその時、敬礼を解いたムラマツが頑とした表情で告げた。

「私は、自分の部下を信頼しています。」

「……そうか。では私は、君のその矜持を信じることにするよ。ご苦労だった、下がってくれ。」

「……はい。」

 そうしてムラマツが立ち去り、万城は一人になった。窓から見える夜都(やと)の万灯が、まるで煙のように揺らいでいた。

〜十月九日・午前一時"竜ヶ森湖のほとり・特殊先潜用星外船"〜

 午前一時。それが、母星時間(ダダ時間)に合わせて決められた定時連絡時刻だ。全身の鈍い痛みを抑えながら、ダダは交信モニターの前に立った。

「……コチラ二七一ゴウ。ホンブ、オウトウセヨ。」

「コチラホンブ。二八五ゴウがオウトウスル。……ホウコクヲ聞コウ。」

 モニターに映し出されたのは、二十五号ではなかった。しかしそこに意外性はない。ダダは、全てを"分かっていた"。

「……ホウコク。シキュウされていたレギオノイドがタイハ。光の国の……ウルトラマンにヤラレタ。奴ハ、ウルトラマンは……ツヨイ。」

「……ソウカ。ではコチラカラもツウタツスル。……二七一ゴウよ。キサマのニンムチエンをカンガミたシレイブは、ホン指令のハキをケッテイしタ。ヨッテ、ワレワレはスミヤカに第三惑星宙空(サクセン)圏内からタイヒする。……サラバだ。」

 そうして、モニターは暗転した。二度と交信の叶わない母星に想いを馳せながら、船を出るダダ。頭上に瞬く星々が、どうにも鬱陶しいと感じた。

「……使命ハ、塵とキエタのか。」

「しかし、まだ諦めるべきではない。」

「……?」

 謎の声に導かれ、視線をその方角へと向けるダダ。鬱蒼と茂った木々の暗がりの一角。——そこにいたのは、黒い怪人だった。

〜十月九日・午前一時四十分"竜ヶ森湖のほとり"〜

 ダダの前に立ったその怪人は、とにかく異様な姿をしていた。夜闇のように真っ黒な肌に、長身痩躯のスタイル。頭頂部からは先端の丸い一本の触覚が垂れ下がっており、その頭部の中心ではギラリとした単眼が蠢いている。

「キサマは……ナニモノだ。」

「そう邪険にするな異星人。そうだな、私は……ゼットン。"ゼットン星人"だ。」

 怪人は、理知的な口調でそう答えた。その姿は明らかに異形だったが、ダダはそこにウルトラマンと似た何かを感じた。

「ゼットン星……キイタコトのナイ星ダ。キサマの目的ハ何ダ。ナゼ、オレにコンタクトを?」

 縮小光線銃を手に取りながら、警戒するダダ。その様子を見て、ゼットン星人はやれやれと言いたげに肩をすくめた。

「私は、ただ君に生を諦めて欲しくないだけだ。君は今"死の際"にいる。生か死か……私に、君の行く末を見届けさせて欲しい。」

 ゼットン星人がパチリと指を鳴らすと、湖から青い球体が浮かび上がった。それはそのまま怪人の掌に収まると、より一層青く輝いてみせた。

「……ソレハ?」

「これは"ベムラー"。あの巨人……ウルトラマンと共に地球へと降来(こうらい)した宇宙怪獣だよ。弱っていたところを私が回収してね。こうして、手懐けているというわけだ。」

「……。」

「コレを、君に託す。」

 ゼットン星人の手から離れた青い球体が、ダダの体内へと宿った。その光を受けて、ダダは何やら妙な高揚を感じた。

「……カンシャスル、ゼットン星人。オレにはマダ、出来るコトが有るようだ。」

「……見せてくれ、惑星ダダの来訪者よ。私に、死を乗り越える君の姿を。」

 そう言い残して、ゼットン星人は煙となって消えた。そして残されたダダは一人、最後の作戦のために船へと戻ったのだった。

【五】

〜一ヶ月後・十一月十五日午前九時"科特隊専用車内"〜

 ハヤタは、目的地である宇宙線研究所へと車を走らせていた。そしてその助手席に乗ったアラシが、退屈とばかりに大口を開ける。

「ふぁ〜あ……ったく。目立った有事でもないのに、何で俺らが出向かなきゃなんないんだよ。今日は非番だったのによぉ……。」

「そう毒づくなよ、アラシ。我らがアキコ隊員の腕を信じようじゃないか。」

 今から二時間前。奥多摩の日向(ひなた)峠にある『日向科学研究所』から謎の電波が発せられ、それが異星人——ダダが発していたものと同じであるとの分析結果が出た。そしてその調査に向かう道中、研究所からの定時連絡が無いとの報告が入ったのだ。

「ダダ……ねぇ。」

 アラシは助手席の車窓から外を眺めながら、ダダと初めて対峙した夜を思い出していた。そこで見た星人の醜悪な様相が、どうにも目に焼き付いて離れなかったのだ。

「なぁ、ハヤタ。お前……異星人についてどう思う?」

「何だよ、急に。」

「いや。人間を攫うダダに、人間を守るウルトラマン。まぁ"守る"ってのはお前の所感だけど……異星人も、色々いるもんなのかなぁってさ。」

「……君達人間と一緒さ。それより、そろそろ着くぞ。」

「お、おぅ。」

 憂鬱そうな同僚との会話を切り上げ、ハヤタは車のスピードを速めた。胸に宿った光が告げている。決戦の刻は近い、と。

〜午前九時三十分"日向科学研究所・西棟"〜

 研究所は西棟と東棟に分かれた構造をしており、ハヤタとアラシは二手に分かれて捜査を開始した。

「人の気配が一切無い……ダダの仕業か。」

 薄暗い廊下内に響く、足音だけの静けさ。ハヤタはスーパーガンを構えながら、警戒を強めた。

「よく来たナ、ウルトラマン。」

「……ダダ。」

 ハヤタの目の前に、突如としてダダが姿を現した。しかしその相貌は今までと違い、瞳が青く鋭い物に変わっている。

「ウルトラマン。ココデ、オレは君とのイサカイに決着をツケるショゾンだ。その前に一つ……君ニ問いタイ。」

「何だ。」

「君ハ……ナゼ人間のミカタをするノカ。光の国はホンライ、他星へのカンショウを控える星のハズだ。なのにナゼ、オレのジャマをする?」

 ウルトラマンは、母星にいた頃父から聞かされた話を思い出した。"他星の者とは関わるな。異なる者同士が接触した時、そこに生まれるのは争いだけだ"と、父はよく言っていた。

「ああ……確かに、私は人間と関わり合うべきではないだろう。私の使命はただ、ベムラーを討つ事だけなのだから。」

「ならばナゼ」

「だがな、異星の者よ。私は……気に入ったのだ。地球の友から受け取った、"ウルトラマン"という名前を。」

 そこまで聞いたダダが、呆れたように首を横に振った。そして胸に手を当てながら、ウルトラマンへと吐き捨てる。

「やはり……理解に苦しむヨ。ナマエなど、使命ノ遂行には不要ナ要素だ。だがそうか、ベムラーか。ナラバ……オレが、手を貸シテヤロウ。」

 ダダが、胸に宿した青い光を"取り出した"。それは一瞬だけ脈動すると大窓をすり抜けて外へと飛び出し、一体の巨大な怪獣へと変化していく。

「まさか……ダダ。君が、ベムラーを使役していたのか。」

 大地に顕現したベムラーの咆哮を傍らに、ハヤタは忍ばせていたベーターカプセルを握った。その様を見て、目を細めるダダ。

「……今は、そうダ。そしてこの一ヶ月デ、オレはベムラーに生体カイゾウをホドコシた。奴がクチから放つ光波に縮小光線と同じコウリョクを付与したのダ。これでオレは使命を果タシ、母星へとキカンする。さぁドウスル、ウルトラマン。」

「……もちろん、こうするさ。」

 次の瞬間、ハヤタを眩い光が包んだ。そうしてベムラーの前に銀色の巨人——ウルトラマンは立ち塞がったのだった。

〜午前十時"日向峠"〜

「ギャオオォン!!」

 一際大きな咆哮を放ったベムラーが、強靭な尾をウルトラマンへと振り放った。

「くっ……!」

 両腕でそれをしっかりと受け止め、踏み止まるウルトラマン。尾にびっしりと生え揃った鋭利な鱗が、両腕の筋に食い込んでいく。

「……力を蓄えたな、ベムラーよ。だが!」

 痛みに耐えながら、ウルトラマンが渾身の力を以てその靭尾を持ち上げた。慌てて唸り上げるベムラーに構わず、その全身を奥多摩の大地に叩きつける。

「ギャ……オォ……。」

 痛みに悶えながら立ち上がったベムラーが、その姿を青い球体へと変えた。そしてそれが逃走用の飛行形態である事を、ウルトラマンは知っている。

「今度は逃がさない。」

 ベムラーが飛ぶのとほぼ同時、ウルトラマンもその身体を赤い球体に変えて宙へと飛び立った。互いを牽制し合う赤と青の軌道が、螺旋を描きながら高く昇っていく。

〜午前十時十分"太陽系・第三惑星上"〜

「……お互い、エネルギーも僅かといったところか。」

「……。」

 星が無数に浮かぶ宇宙の片隅で、二つの光が向かい合った。ウルトラマンの胸の発光体は"警告"を示す明滅を繰り返し、ベムラーも疲れを滲ませながら息を吐いた。

「これで終わりだ、ベムラー。」

 ウルトラマンが、両腕を交差させて必殺のスペシウム光線を放った。真っ直ぐ自らに伸びてくるそれに対抗するべく、ベムラーも口を開けて大技のペイル熱線を繰り出す。やがて衝突したその光線達が宇宙に小さな波紋を生み出し、そして——

 撃ち合いを制したウルトラマンのスペシウムが、ベムラーを粉砕した。

〜午前十時五分"日向科学研究所・西棟"〜

 宙の彼方へと消えた二つの光を見届け、ダダはその行く末を想った。

「光の国のリュウシよ……君はナゼ護るノカ。オレには、永遠にリカイ出来ないのだろうな。」

 もはや目的の標本は集まらず、使命を達する事の出来ない自分に存在価値は無い。ダダはゆっくりと眼を閉じると、自決用のエネルギーを光線銃に装填した。

「コレデ……終わり。」

 喉元に銃口を突きつけようとした、その時。

「見つけたぜ、ダダ!」

「……あの時ノ地球人。」

 東棟から駆けつけてきたアラシが、スーパーガンを構えながらダダの前に立った。そこに、以前見えていた恐れは無い。

「……ソウカ、貴様もココに来ていたノカ。人間のコトバで、運命とでも言うノカナ。」

「チッ、気色悪い表現しやがって。……なぁ、異星人さんよ。なんだって人間を攫う? 標本にするほどの価値は無いぜ、俺達人間には。」

 アラシの牽制を受けて、ダダも自らの光線銃を構えた。そうして銃口を標的へと向けながら、口を滑らせていく。

「違うナ。ニンゲンは……とても、美しい容貌をしている。醜いワレワレにとって、均整の取れたニンゲンの姿は愛でるに事欠かない。だからヒョウホンにするのだ。」

「……なるほどな。本当にハヤタの言う通り、俺達とさして変わらないみたいだ。」

 互いにトリガーへと指を掛け、息を呑む。そして空が二つの光によって揺れたその刹那、

「……ダダ!」

「……ニンゲン!」

 ダダの放った光線がアラシのこめかみを掠め、アラシのスーパーガンによる一撃がダダの胸を突いたのだった。



「ニンゲンよ……オマエ、名前ハ。」

「アラシだ。……嵐大助、それが俺の名前だ。」

 胸を焦がされ仰向けに倒れたダダに、尚も銃口を向けながらアラシは告げた。

「ソウカ……では、アラシ。最後にキキタイ。サキホドの"ダダ"とは……オレに向けたコトバか。」

「え? ああ……そうだよ。いつまでも異星人じゃ、呼び辛くてしょうがないからな。俺が付けた。」

 使命を果たせず、何も無いままに生を終える。ダダは先程までそう思っていた。

「ソウカ……名前カ。」

「……何だよ。」

「アラシよ……俺は今、理解したぞ。」

 そうして、ダダは光の粒子となって消えていった。空へと消えていくその光を見届け、アラシはハヤタと合流すべく歩きだしたのだった。

【六】

〜十一月二十二日・午前八時"科特隊・総司令室"〜

「ムラマツキャップからの報告書です。アラシ隊員によって、異星人ダダは沈黙。竜ヶ森湖に潜伏していたと思われる怪獣……ベムラーは、ウルトラマンが撃破。ダダによって誘拐されていたと思われる人々は、全員が帰還したと。」

 小由梨から差し出された報告書に目を通しながら、万城は深くため息をついた。

「……結局、光の巨人——ウルトラマンについては何一つ分からないままか。ヤツは一体、何なんだ。」

 ウルトラマンは、人間の敵か味方か。今も国防の裏側で、その議論は交わされている。

【エピローグ】

〜十月五日・午後十一時五十五分〜

「提案に乗ってくれて感謝する。地球の恩人よ。」

「君と一体化しなければ、僕はこのまま死ぬしかない。どの道、他に選択肢は無いさ。」

 天地の無い光に包まれた空間で、ハヤタは目の前で自分を見下ろす銀色の巨人と対話していた。巨人曰く、ハヤタは現在"仮死状態"らしい。

「ところで巨人さん。もう一度、あなたの名前を教えてくれないか。どうにも聞き取れなくてね。」

「ふむ。やはり我々の名前は、地球人には聞き取れない音のようだ。恐らく何度伝えても、結果は同じだろう。」

「そうか……じゃあ」

 ハヤタは不意に、初めて巨人を見た時に湧いたインスピレーションを口走った。

「"ウルトラマン"なんてのはどうだろう。この星にいる間の、君の名前だ。」

「それは……良い響きだ。」

 ウルトラマンからハヤタへ、絆の証としてベーターカプセルが渡された。巨人の掌から離れて空間を漂ったソレは、やがてハヤタの手へと収まる。

「じゃあ、決まりだな。」

—今日から僕達は、ウルトラマンだ。—

〜完〜

ウルトラマン

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  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-11-12

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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