『眠れぬ森であなたを待つ』

一度だけでも
貴方のものになってみたかった


『眠れぬ森であなたを待つ』


一度好きになると嫌いになれないから
どんな場面の貴方も愛してた
冷たい目で見られても罵られても
揺るがない心に苦笑するくらい

叶わなくても愛情を惜しみなく
一方的だとしても気にならない
だって貴方を相手にアタシなんて
釣り合わなくて当然でしょう

そう、例えば湖に投げた小さな小石
波紋もいつか消え忘れ去られる
それでもよくて、その方がよくて
アタシの場合は最善だっただけ

あの人の心に波紋を広げたことがある
そんな小さなことが喜びだった
認識されてるかなんてどうでもよくて
世界に組み込まれたひとつの歯車

けれどあの嵐の夜に世界は色を変えた
貴方はアタシをはっきりと目に映し
専用の罵りを用意するほどに
これではもう小石でいられない

捧げた愛情に気づかれないように
息を潜めてじっと身を隠していたいのに
何故簡単に見つけてしまうの
暗闇は貴方の味方なのね

本当に一度だけでよかったのに
そんなアタシのささやかな甘えが
この事態を引き起こしているのなら
巻き込まれた貴方を気の毒に思う

それでもあの森は美しいまま
だからそこに身を隠して
必ず探し当てる貴方を待つのは
罪深いほど甘美な時間になるでしょう



「見つかってはいないという君の遊び」

『眠れぬ森であなたを待つ』

『眠れぬ森であなたを待つ』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-27

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