『インセンス』

たった一欠片の情を
願っただけだったのに


『インセンス』


いつでも夢を見てた
目と目が合う日を言葉を交わす日を
どんな悲しみに出会っても
夢を見てる間は幸せだから

別に大きなものを求めた訳じゃない
小さな幸せで満足するのが得意なの
貴方が居た場所に立つだけで
胸は高鳴ったし心は踊ったわ

だけど突然の雨で全て書き換わった
シナリオはアタシの手を離れて
弄ぶみたいにあちこちへ飛ぶ
言葉も発せず呆然と貴方を見るだけ

そのひと雫でさえアタシを
凍らせるかのように脅威だから
言葉なんて発したらきっと
世界が壊れてしまうわ

もし目が合ったなら燃やし尽くされ
灰になり消えてしまうから
どうかアタシに気付かないで
何も言えずに消えるだけなんて切ない

海にもどこにも帰る場所はないけど
貴方の近くなんて行けやしない
胸の奥に隠した想いの代償にしては
余りに過酷な運命過ぎるわ

明るい笑顔も影を秘めた横顔も
厳しい声も溜め息も何もかも
今目の前で静かな目をする貴方
それがとても優しくて泣きたくなる



「一欠片が全てを与えることと同意だと未だ知らぬ君」

『インセンス』

『インセンス』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-24

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