ことばの教室
森の奥に、ひとりの言葉探しの旅人がいた。名を「カズミツ」という。彼はある日、古びた書庫で、ひとつの謎めいた巻物を見つける。それは「太陽のメダル作戦――『ん』がつく言葉の地図」と書かれていた。
第一章:地図の端にあるヒント
巻物を開くと、まずこう始まる。
「あん、いん、うん、えん、おん
かん、きん、くん、けん、こん
…
らん、りん、るん、れん、ろん」
その行は無数の組み合わせの可能性を示していた。カズミツの心臓は早鐘のように鳴る。これらの五十音節に、「ん」を結びつけることで、どれだけ多くの言葉が生まれるか――その無限とも思える世界に、覗き込んでしまったからだ。
第二章:言葉の森を歩む
カズミツは森の小道を歩きながら、風が「さん」「すん」「せん」と囁くたびに足を止めて、耳を澄ませた。
「あん」――アン、案、暗、餡、庵、杏。
「けん」――県、剣、憲、遣、権。
「えん」――円、縁、援、宴、鴛鴦(おしどり)、演。
彼は葉擦れに紛れて漏れる声を拾い、それぞれの言葉に影を与え、味を添える。意味、歴史、音の響きが重なる。
第三章:無限の響き
「もし、この地図のすべてを使ったら、言葉は何個になるのだろうか」
カズミツは疑問を胸に抱える。千か? 万か? 億か? 兆か? それとも、言葉の墓場に埋もれた古い音や、まだ誰も使っていない発想が生み出す「未だ見ぬ言葉」を含めれば……無限にも近づくのではないか。
彼は刹那、空を見上げる。太陽の光が葉の隙間を射し、「安心」「安全」「安寧」「平穏」といった言葉が頭をよぎる。「あんしんあんぜん」。そう、もしこの「ん」の音が人々の心をつなぎ、安心を築くなら、世界は少し柔らかくなれるかもしれない。
終章:メダルを掲げて
旅の終わり、カズミツは言葉の泉からひとつのメダルを作る。それは、小さく、しかし重みがある。「ん」で終わる言葉たちの証。案、円、県、安心、時間、分、年、番 ――
すべて違うけれど、すべて大切。
それぞれの一言がひとつの色を持つ。
世界中に、その色と響きのメダルを掲げよう。
こうして、「ん」がつく言葉の数は、きっと有限で、しかし私たちの想像力と使い道によっては“無限に感じられる”もの。カズミツは、太陽の光のように、ひとつひとつの言葉が誰かの胸を温めることを願いながら、書庫を後にする。
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