詩
作者と読者の間
書きたくないが書かざるをえなかった作者と
読みたくないが読まざるをえない読者
両者が出会うとき永遠への道が開かれる
作者と読者の間に未知の世界が開かれる
人と人の間を言葉が仲介している
思考が紡ぐ遥かで空虚な彼方へ旅をする
作者も読者も普通の人間だ
現実の世界であくせく暮らしている
くだらない煩悩やら欲望やら体裁やら
それでも人と人の間に何かが広がっている
その広大さを知りそうになると
かえって他人との距離に恐れおののくようになってしまう
科学に囲まれる
図面は形だけ
デッサンは形と光だけ
現実の世界は形と光と色
光と色を剥奪した形だけの世界を想定して
その世界と数理的思考を結びつけることで
科学が生まれたのだろうか
生活から隔離された世界を基に生み出された理論の数々
科学に囲まれることで実は心身に負荷がかかっている
言い知れぬ負荷に苛まれている事実から目を背けて
目先の快楽や苦痛を受けることで自己を偽る
娯楽と労働の嵐の中にいても初めに隠されたものを探りたい
布団
布団の中で寝ていたいという感情は
腹の中から出てきたくなかったという感情に近いのだろうか
どうしようもない甘えた中年になってしまった
ここから脱却したいけれどなかなかできない
こんなことばっかりずっとやっている
なんとかしないといけない
しかし若い頃のようにはいかない
情けないことばかり言っていてはいけない
自分を変えていかなければいけない
脱皮するという経験はすべて虚構だったのかもしれない
脱皮をくり返して原初の非合理な情念を探っていく
年を取るほどに子供に近づいていくというのは正しいのかもしれない
形と光と色
形があって光があって色があるのか
色があって光があって形があるのか
客観的視点と主観的視点
科学革命の後に産業革命が起こって
写実主義から印象主義へと移行していく
形と科学は相性がかなりいい
科学から見て形は形として扱えるようだ
光と科学もそこそこ相性がいい
科学から見て光は粒子であり波である
色と科学の相性は微妙である
色は空間内に配置できない
色には空間性も物質性もない
色は皮膚を刺激しない
永久機関は無理
AIで仕事はなくならない
社会が複雑になるにつれて
社会を作って維持するための労力は増えていく
永久機関は実現しない
何かを燃やさないといけない
何かを回さないといけない
自然から容赦なく命とエネルギーを収奪する
肥え太った私たちはますます人権を求める
都市社会で賢く優しく傷つきやすくなっていく
住宅街
立ち並ぶ住宅
窓に飾ってあるぬいぐるみ
もの言わぬ電柱たち
電線の上でくつろぐ雀たち
歩道に植えられた花々
車道を軽が駆け抜けていく
何の変哲もない他愛もない景色
米軍が一掃した後に作られた
殺伐とした公園には子供がいない
近現代の終焉
できなかったことができるようになる時代が続いてきた
これからはできていたことができなくなっていく時代に入っていく
あちこちで文明は綻びを見せながら
みんなまだ大丈夫とお互いに言い聞かせる
上下関係を対等関係にしようとする力がずっと働いてきたが
どこかでこの流れにも限界が来て逆側に力が働きだしそうだ
化石燃料と農産物のどっちが大事なのかわからない
自分に何ができるのだろうか
何もかもが飽和してしまったので新たに何かを作り出す意欲は薄い
幼少期から消費漬けにされた人々が作り出す社会
自分も何かしたいけれどもう意欲がない
負けを認めること
文明という罪を受け入れたくないから
虚無とか絶望とか死とか言っている
それでいて消費には関心がある
支配の手口としてなかなか有効だ
これからどんどん流行るだろう
近現代の流れとは真逆の時代がやってくる
とにかくみんな勝ちたいのだ
それだけはまちがいなさそうだ
本当に負けを認めて生きていくことが可能だろうか
全身で負けを受け入れることができるだろうか
生命が勝つことを求めてしまうのだろうか
惨めな扱いを受けて酷使され嘲笑され息絶え
そして誰からも忘れ去られる
そういう生き方にしか救いはないのかもしれない
そういう生き方にしか未来はないのかもしれない
新幹線
長いトンネルを駆け抜けていく
窓に自分の顔が映し出される
ずっとこの顔と共に生きてきたらしい
最近老けてきたことを実感する
トンネルを出て山中の街が目に入る
のどかな田園と立ち並ぶ住宅とたまにビル
建物の中ではそれぞれ異なる劇が演じられる
各々の悲しみや各々の楽しみなどがあるらしい
日々の暮らしを慎ましく懸命に生きる幸福だったり
自殺を思いとどまったり
快楽の絶頂にあったり
本当にそれぞれの建物の中に人がいるのだろうか
すべて模型だと言われても違和感がない
形と光と音と色
形は皮膚で形として把握できる
光は皮膚で熱として把握できる
音は皮膚で振動として微かに把握できそうだ
色は皮膚で把握しようがない
色が最も空間性や物質性が希薄である
形は波としての性質を持たない
光は波としての性質を持つ
音は波としての性質を持つ
色は波としての性質を持たなさそうだ
形と色は時間性や振動性が希薄である
色が最も空間からも時間からも疎外されているのだろうか
無
宗教の時代は終焉したらしい
今は無の時代なのかもしれない
死ねば無になると大抵の人は受け入れている
しかし無って何なのだろう
有が前提にあって無が生じると思えてくる
だから無はうさんくさいと思っているところがある
無への信仰を支えるのが科学的唯物論なのだろうか
無と科学の相性がいいのだとしてそれはなぜなのか
受動
みんなから嫌われているね
みんなから邪険にされるね
自分で決めてきた経験が少ない
いつも他人の評価に惑わされている
自分がいなくて他人しかいない
この状態から抜け出そうとしていつも失敗する
他人の地獄の中に連れ戻される
なんとか地獄から這い上がろうとして上へ登ろうとする
結局落っこちて他人だらけの沼で溺れる
自分で決めるってどういうことなのだろう
自分の意志が脆弱だ
自分の軸が希薄なのだ
壊れた身体では意志も軸も育たない
受動的に生きてきた人生をやめたい
でも多分できないだろう
本気でやめようとすると壊れてしまうのだろう
だからどうしようもない
自分の中に負の情念がためこまれている
他人の評価が前提にないと何もがんばれない
何もやる気が起きてこない
SNS
勝手に憎んだり
勝手に恋焦がれたり
勝手に憧れたり
勝手に幻滅したり
勝手に裏切られたり
勝手に思いを募らせたり
面と向かって話すことができればよかったのに
人間と言葉と思考の関係が変わっていっている
スマホとSNSが変えていっている
何かがすごく貧相になっている
人と会って話すことの価値が軽んじられていく
人と場を共有することでしか得られないものがあったのに
こんな世界では小説なんて書きようがないと思える
相手と密接になっているのに相手は遠ざかっていく
書き言葉が支配的になっていく
豊かで便利で空虚で息苦しい
もうしんどい
詩