ホテルのビュッフェ
ホテルのビュッフェは美しき秘密の花園。様々な色模様の食事がバラエティー豊かに並んでいる。
海鮮、お肉、揚げ物、炒め物、煮物そして海鮮丼。
全てが最上級の品質の良い旬の味覚をふんだんに楽しめる。
初めは神戸牛のサーロインステーキを頂こう。
霜降りの脂が乗った極上の旨みを表出した極限の美味。口に入れた瞬間、喜びのマーチが躍動的に打ち鳴らされる。
旨みの中心に凝縮した生粋のエキスが滴り落ちる。
意識が浮遊し脱落し抜け殻となった人間がいた。
次に海の新鮮な魚を頂こう。
鯛の生き生きとした白身がぷりっと音を立てて泳ぎ出す。
しらすの柔らかで潤った弾力性のある容姿に見惚れていると、横にはマグロの真っ赤で鮮やかな原色が生命の元気さを主張し、三色丼となって熱いふっくらとしたご飯の上に置かれた。
三色が渾然一体となり色気を醸し立ち上がる磯の香り。
目の前に無限のアルペジオが奏でられ、口の内で三色の強い旨みが一つに溶けて無くなっていく。
次はホテル食パンの上にエッグとウインナーと鯖を乗せて頬張ると、この世で一番気持ちの良いパリッと物凄く良い音が鳴った。
このさくさくとした食感は生きて行く為に必要な喜びの行為。
パンとエッグが絶妙にマリアージュし全ての味覚が溶ける絶頂点に、無常に世界が静まり返った。
その後にピザは不思議なチーズが熟成したメロディーを奏でる臨床心理。
チーズのほのかに柔らかく流れるミステリアスな未だ感覚したことの無い宇宙の手触り。
ピザのチーズは口の中で芳醇なまろやかさで濡れた初恋のカサブランカ。
そしてしゃきしゃきとした新鮮なお野菜で口を湿らせるのです。レタスがしゃきっと音を立てて新しき水々しい生命感を弾ませた。
それに極上のドレッシングが添えられ、私の道が開かれた。
朝食の間に窓からぱーっと光が射してきました。
世界が開ける喜びの間に笑顔がこぼれた。
これから究極の美の形式で虹色に万華するデザートを頂く。
チョコレートケーキのしっとりと濡れた少女の吐息の囁き。
口の中で美しく流れる甘い憧憬。淡く朧気な青春の浜辺は青と白の水平線。
イチゴケーキは美しく溶けるか溶けないかのぎりぎりのクリームの臨界線。
この世の甘い心がここに全て詰まっている。
甘さが人生の真実なら、もう一回人生をはじめからやり直そうではないか。
そして旬のぶどうの実をかじる時の、皮が破れ甘いエキスが弾ける刹那私は死んだ。
果物のエキスのほの甘いやるせない運命的出会い。
食後のコーヒーの格調高き誉れある色彩を見つめて、人生は夢の中だけに良い想いを叶えるのです。
人生のスタンドプレーを演技でもいいからしたくなった。
ほの苦みの中に身をかがめ感じ尽くすのを良しとする人間の心とは何て嬉しいのでしょう。
ああ、全ての疲れを癒やし生き返った。
これで私は生きる道を見失わずに済んだのです。
ホテルのビュッフェを食べ終えた後の多幸感。
この為に私は辛抱して生きてきたのです。
さあ、疲れを取り除きリラックスしましょう。
ホテル、ホテル、ホテル。
ホテルのビュッフェ