【第16話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。

そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。

横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。


だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。

【第16話 王都を目指して①】

朝日が遺跡の隙間から差し込み、石壁にまだら模様を描いていた。
俺は体を起こすと、全身にまだらに残る疲労を感じた。
昨晩は、あれから交代で見張りをしながら寝ていたから熟睡したとは言えないが……不思議と体が軽い。
アメリアとエリザに打ち明けられて、スッキリしたのもあるんだろう。


「おはよう~……」


俺のすぐ隣で寝ていたエリザがもぞもぞと起き上がり目をこすっていた。
顔色は昨日よりずっと良い。あの毒魔法を食らった時は本当に危なかったからな……。
あの時に使った俺の回復術が本当に彼女を助ける事ができたのが信じられないぐらいだ。


「おはようエリザ。気分はどうだ?」

「うん。だいぶマシになった。ルークのおかげ」


彼女はそう言って微笑んだ。
やっぱり可愛いな。
どこか惹かれてしまうような魅力を持っているんだよな。


――それに昨晩、話を聞いて確信したが・・・
この子はただ者ではない。
俺の能力について、あそこまで核心に迫ることができたのは彼女だけだ。
今まで、俺自身でも気づく事ができなかった"本当の能力" をエリザはいとも簡単に見抜いた。
並大抵の知識や洞察力ではない。
とんでもない才を秘めているのは間違いないだろう。


「二人とも起きてる?」


そこへアメリアが声をかけてきた。
すでに荷物をまとめて馬の準備をしているようだ。


「ああ。俺はいつでも行ける。エリザは大丈夫か?」

「うん。もう全然平気」


エリザはぴょこんと立ち上がった。
昨日までぐったりとしていたのが嘘のように元気な様子だ。


「それじゃあ準備が出来次第出発しましょう。
今日こそ街道を見つけて王都に向かうわよ」


こうして俺達は遺跡を後にすることにした。
――この遺跡を離れてもう二度と戻ることはないだろう。

俺達は馬を用意し
三人で街道探しをするために出発した。


しかし……
馬は二人乗り。
当然3人が乗るには窮屈だ。
どうやって乗り合わせるかが問題になる。
結局アメリアが前に乗り俺が真ん中、エリザが後ろという形で乗る事になった。


「うぅ……狭いな」

「我慢して」


アメリアはピシャリと制した。
まあ仕方ない。
俺は彼女の背中に寄りかかる。


「エリザは大丈夫?」

「大丈夫。ルークの背中に寄りかかってればいいから」

そう言って、俺の背中にギュッと
身体を寄せてきた。


(うぉ……)


思わずドキリとする。
後ろから密着しているから背中に柔らかい感触が……


昨日も思ってたが、小柄な割にしっかりと出る所が出てるというか……。
長尺の民族衣装を纏っているから、パッと見では気づかないけど
スタイルはかなり良いのではなかろうか。


そんな俺の気持ちなど知らず
エリザが更に体を押し付けてくる。


「ちょっ……?!」

「あ、ごめん。ちょっと狭いから」


彼女は何気なく言ったつもりだろうけど
俺にとっては刺激が強すぎる。


「ねえルーク?」

「うぇ?!」

「何変な声出してんの?」


アメリアが不審そうに振り返った。
顔が近い。


「な、なんでもない。それより行こう!」


慌ててごまかしアメリアに指示を仰ぐ。
正直こんな状況で冷静でいられるわけがない。


「変なルーク。なんだか顔も赤いし。
それじゃあ出発するわよ」


こうして俺達は遺跡を離れて再び森の中へと分け入った。
馬車が進めるギリギリのスペースを縫うように進んでいく。
途中何度か枝葉が顔に当たって痛かったが文句を言える状況じゃない。


***


「それにしても……全く街道らしい道が見えないなぁ」


俺は周囲を見回しながら呟いた。
相変わらず鬱蒼とした樹海が続いており人の通った跡すら見当たらない。


「仕方ないわね。街道を外れた時点でこうなる事は分かってたもの」


アメリアは淡々と答えた。
昨日遺跡を出発してからかれこれ二時間近く歩いているが一向に人の気配がない。
時折獣道のようなものを見かけるもののしっかりした道とは到底呼べないレベルのものばかりだ。


「アメリア・・・?本当にこの道で大丈夫か?」


俺は不安そうに口を開いた。
この調子だと一日中森の中をさまよう羽目になりかねない。


「ええ。そのつもりだったけど……どうやら予想以上に複雑な地形みたいね。
まさかここまできっちり森林に覆われてるなんて思ってもみなかったわ」


やはり、地図もコンパスもない状態で森を抜けるのは簡単じゃない。
少なくとも俺が以前滞在していた町の方角さえわかれば話は早いのだが……。
森を進むにつれて日が高くなり始めた。
これ以上の時間ロスは避けたいところだ。


「もう少しまっすぐ行けば、川が見えてくるからそこを上流に進めば街道に出られるよ」


唐突に、後ろで俺にもたれかかっていたエリザが言った。


「えっ?分かるの?」

「うん。この辺の精霊が教えてくれた」


彼女の目はどこか遠くを見つめるような感じだ。
まるで森全体と会話しているかのようだった。


「そうか。そういえば、精霊使いだったな」


精霊と会話することで自然の情報を受け取れるとは・・・。
俺が思っていた以上に万能な能力なのかもしれない。


俺達は彼女の案内どおりに馬を進めた。


しばらくすると前方に茂みの切れ目が見えてきた。
木々の向こうに水音が聞こえる。
そこを越えると・・・


「あっ!本当にあった!」


アメリアが声を上げた。
目の前には幅5mほどの小川が流れている。
透明度が高く底まで見えるほど澄んでいた。


「すごいな・・。これなら、地図がなくても方向が分かる」

「うん。私だって、何の考えもなしに村出て行くほど馬鹿じゃないよ」


やはり精霊使いとしての能力は伊達ではないということか。
まあ、食料と水が尽きて死にかけたのは流石に誤算だったと思うが……。


「本当ね。これなら、街道も見つけられそうだわ」


アメリアも感心した様子で言った。
こうして俺たちは森の中でも順調に移動する事ができるようになった。

その後もエリザの案内を頼りに進んで行き、二時間程で街道らしきものを発見できた。


「やった!これが街道じゃないかな?」


「凄い・・・本当に見つかった!」


「ふふっ。 でしょー?」


エリザは得意気に微笑んだ。


「ありがとうエリザ・・・やっぱり精霊使いって凄いのね」


アメリアは感心した様子で呟いた。
エリザの能力の一端を知ることができた瞬間だった。
森での道案内から、街道を発見するまでエリザの精霊使いとしての能力は本物だった。


「確か、帝国領は向こうの方だったわよね・・・。
という事は逆の方向に行けば間違いはないわね」


街道を見渡すと左右どちらにも伸びていた。
帝国領は北側にあるので南下すればいずれ王都に到着するはずだ。


王都までの距離はわからないが、俺たちは馬を街道上に乗せて南方向へ進んでいった・・―――。


【次回に続く】

【第16話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

【第16話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

回復術士の劣等生ルークは、ザルティア帝国に無実の罪を着せられ処刑されてしまった! だが、彼には隠されていた能力があった・・・。 彼自身も知らなかった無敵の能力・生命吸収。 蘇生した彼は、幼なじみであり騎士団員でもあるアメリアと帝国から脱出する。 そして、数々の仲間らとの出会い・・・ 無能扱いされ続けてきた彼の新たな冒険が幕を開ける。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-10

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