映画『九龍ジェネリックロマンス』レビュー

 水槽の中で飼われている金魚、というモチーフが非常に効いていた。
 生き存えるよう整えられた環境、定期的に与えられる餌、それを啄む様子をガラス越しに愛でる、愛でられる関係はそれ以上に開かれることが決してない。飼われている金魚も、金魚を飼っている側が行き過ぎた愛ゆえに金魚鉢の前から離れることができなくなり、その生き死にに囚われて、どこにも行けなくなる。 
 物語のフックとなるべきこのキーポイントに込められた意味が明かされてからが本作の始まり。台湾の占いであるジャオペイで暗示される事柄の通り、神様に「イエス!」と願いが聞き遂げられる聖杯(シンポエ)の組み合わせに沿った暗示が揃った瞬間、彼も彼女も「そこ」から解き放たれる。本編のラストを飾るロングショットが作り出す開放感の中、発せられる声の力強さは本当に映画らしい素晴らしい描写で、どうしようもない寂しさを天に押し返すようなメッセージ性に酷く感動した。
 そこからのエピローグも珠玉で、五分にも満たないそのシークエンスに『九龍ジェネリックロマンス』の良さが凝縮していた。率直に言って、本作の相当部分はありきたりな展開を辿るもので「こうなるんだろうなぁ、ああなるんだろうなぁ」というこちらの読みを外さない。なので、イマイチな作品だったかぁ…と残念至極な思いを抱いていた分、その締め方に理性をぶち抜かれた。あのリアリティの感覚を私は死んでも忘れない。工藤を演じられた水上恒司さんの面目躍如。大絶賛の演技。
 なので、これから『九龍ジェネリックロマンス』を鑑賞しようと思う方は、いかにもな展開にこそ目を見開いて鑑賞して欲しい。映画の全てはフィクションであり、フィクションではないというアンビバレントな醍醐味は本作の良さに直結する。見逃せない佳作です。是非。

映画『九龍ジェネリックロマンス』レビュー

映画『九龍ジェネリックロマンス』レビュー

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-09-08

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