【第7話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました
ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。
そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。
横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。
だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。
【第7話 回復術士は蘇る②】
アメリアは俺の手を引いて馬に跨った。
「しっかり掴まっていてね!」
彼女の腰に手を回すと馬が嘶いて疾走を開始する。
雨でぬかるんだ土が後方に飛び散り風が耳元で唸る。
木々の間を縫うように駆ける馬の振動が直に伝わり全身の筋肉が強張った。
「アメリア……これからどうする?」
恐る恐る尋ねると彼女は振り向かずに答えた。
「もう帝国には戻れないわ。フェリシア王国へ向かいましょう」
「でも同盟国とはいえ警戒されるんじゃないか?」
「大丈夫。普通にしていれば問題ないわ」
その言葉に少しだけ安心する。
しかし別の不安が湧き上がった。
「騎士団員をぶっ飛ばしたって聞いたけど・・・指名手配とかされてないか?」
「それも大丈夫だと思う。
殺したわけじゃないし、暴力沙汰起こした騎士一人をいちいち指名手配なんて面倒なことはしないわ」
彼女の自信に満ちた声が少し勇気をくれた。
考えるよりも先に行動するタイプのアメリアが今とても頼もしく思える。
ふと彼女の背中に顔を寄せると懐かしい香りがした。
訓練場で嗅いだ汗と土の匂いが混ざった優しい香りだ。
「やっぱりアメリアは頼もしいな」
「なーに?褒めても何も出ないわよ」
冗談めいた口調だが彼女の顔には疲労が見える。
馬は泥濘に足を取られ速度を落としたがすぐに立て直した。
前方に木製の柵が見えてきた。国境だ。
帝国とフェリシア王国の境界を示す簡素な木柵が雨に煙っている。
「ルーク。これで顔を隠して」
アメリアが腰のバッグから布を取り出す。
二人で頭から顔にかけて布を巻く。
「万が一バレないようにね」
「わかった」
アメリアは、周囲を再度確認すると手綱を引いた。
馬が嘶き地面を蹴る。
柵の高さは約2メートル。馬の跳躍力なら十分に超えられる。
「行くわよ!」
彼女の掛け声と共に馬が大きく跳ね上がった。
風圧で布がはためき視界が狭まる。柵が視界を埋め尽くすほど接近する。
瞬間――
ズシンッ!
馬の蹄が地面を打ち付けた。
衝撃と共に風が顔を叩く。
成功だ。
馬は見事に柵を飛び越えフェリシア王国領内に入った。
「やったわ!」
アメリアの安堵の声が雨音を割る。
振り返ると帝国との境界を示す柵が小さく見える。
雨雲が切れ初め太陽の光が差し込み始めた。
「よかった……なんとかなったな」
俺たちの馬はゆっくりと平原を進む。
この国で俺たちの新しい生活が始まることになる。
それは期待と不安が入り混じった複雑な心境だった。
――俺は、確かに剣で心臓を貫かれた。
あの痛みも、血の感触も、身体が冷たくなっていく感覚もすべて覚えている。
それなのに今こうして生きている。
・・・アメリアにこの事はまだ言っていない。
兵士に斬られたが奇跡的に致命傷を免れ、彼らが去った後に回復魔法を自身にかけて助かったと嘘をついた。
本当のことを言っても混乱するだろうし、何より自分自身も理解できてない。
今の俺の体は一体何なんだ?
だが今はそんな疑問を口にしても答えは出ない。
まずは生き延びることが最優先だ。
「アメリア。ありがとう」
俺の言葉に彼女が笑顔で振り返る。
「これからどうなるかわからないけど、二人ならきっと乗り越えられるわ」
その言葉が不思議と心強く感じられた。
――そうだ。
たとえ俺が何者であっても。
彼女だけは信じられる。
雨上がりの陽光が草原を照らし始めた。
俺たちの新たな旅が確かに始まった瞬間だった。
【次回に続く】
【第7話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました