【第6話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました
ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。
そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。
横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。
だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。
【第6話 回復術士は蘇る①】
目が覚めた。
最初に感じたのはひどい頭痛だった。
俺はゆっくりと身体を起こす。
雨音が耳元で激しく跳ね返る。
「……ここは?」
自分の声が信じられないほど弱々しい。
泥と草の匂いが混ざった空気が肺に入ってくる。
周囲は深い森で、冷たい雨が絶え間なく降り続いている。
「あれ……?」
背中に触れたが、傷痕はない。
背中を貫かれたはずなのに。
あの剣の刃が肉を引き裂く感触は確かだった。
痛みで意識が途切れたのも鮮明に覚えている。
なのに目の前の現実は、まるで幻でも見ているかのように平静だ。
―――夢だったのか?
死の恐怖に苛まれた悪夢の中を彷徨っていたのだろうか。
しかし、頬を伝う雨粒の冷たさは紛れもない現実だった。
立ち上がってみる。
足元はぐちゃぐちゃの泥だが、身体はちゃんと動く。
ふらつくこともなく歩ける。
「とにかく……帰らないと―――」
言いかけてハッとする。
・・・どこへ帰る?
帝国城にはもはや俺の居場所はない。
「……そうだ」
馬車に乗せられてきた道を探さなければ。
俺は慎重に森の中を歩き始めた。
倒木を乗り越え、苔むした岩を掴みながら進む。
どれくらい歩いただろうか。
前方で木々が途切れ、光が漏れているのが見えた。
雨のカーテン越しに道らしきものが確認できる。
「よかった……」
安堵の息が漏れた。
その時――
遠くで馬の蹄の音が響く。
規則正しい、力強い足音だ。
「まさか……帝国の兵士が?」
心臓が跳ね上がる。
兵士に見つかったら今度こそ終わりだ。
身を屈めて茂みに隠れる。
息を潜めていると――
「ルーク!!」
聞き覚えのある声。
懐かしい響き。
馬を駆る一人の女性の姿が雨の中から浮かび上がる。
「アメリア……!」
俺は茂みから飛び出した。
彼女は泣きながら馬から降り、駆け寄ってくる。
「ルーク!生きてたのね!」
俺たちは抱き合った。
冷たい雨の中でも彼女の温もりは確かだ。
俺の手が震えながら彼女の肩を抱く。
「アメリア……来てくれたのか」
「当たり前じゃない……!ずっと探してたんだから!」
彼女の涙が俺の服に染み込んでいく。
雨と涙で濡れた顔で笑う彼女を見て、胸がいっぱいになった。
「アメリア……ありがとう」
雨はまだ降り続いていた。
でも不思議と寒さは感じなかった。
【次回に続く】
【第6話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました