詩
比喩と論理
素直な感情を言葉で表現する
そんなことは自分にはできない
言葉は並べるパズルみたいなもの
どうやって配置するか
もうそんなものでしかない
正直に吐露するなんて無理だ
すぐに思考がはたらく
思考が制御しようとしてくる
比喩で治癒しようとしてきたけれど
もう疲れてしまった
論理に汚された心身で生きていこう
論理は死に由来し比喩は他人に由来する
なんとなくそう思う
黒き隊列
自然の世界に現れる人間的なもの
黒い点々が列を作って歩んでいく
草花に埋もれたところに突如現れる
あまりに人間的なもの
子供が目を離せなくなるのもしかたがない
家の中にまで入ってきやがる
自然と人工の垣根を越えて
人間様に挑戦してきやがる
気が遠くなる時間を超えて
戦争をしてきたんだな
人間様より好戦的なんて偉そうだ
踏みつぶしてやってもいいけれど
今日はやめておいてやるよ
戦争は人間様だけが行う高尚なものだと思っていたが
どうもそうではないようだ
今日も今日とて列を作って進んでいる
長い間そうやって行進してきたんだな
権力
生来残酷であった
本来は素直な性分だと思おうとしたけれど
多分根っからのサイコパスなのだと思う
攻撃性が強いから
自責と他責で揺れ動く
加害者と被害者しかいないと思い込んでいる
親子からはじまる権力の物語
権力を求めて長い旅路を行く
偉くなりたい
強くなりたい
命令したい
欲望を満たしたい
解脱とか涅槃とかいうものは
権力の側から生まれた戯言だ
権力のない奴隷には罪の方がわかりやすい
権力を持つ貴族たちは
淡々と正論をならべ上げる
権力のない奴隷たちは
非現実的な貧しい物語に魅かれる
想像力の余地
世界が灰に帰す日がやってくる
怒りが大地を覆す
星々も壊れて辺りは火でうめつくされ
海は荒れ狂い波が地上におそいかかる
なんて言いぐさはもう飽きた
こんなのRPGでいくらでも体現できる
想像力の余地をどこに持っていけばいいのだろう
言葉で言葉を疑う遊びも飽きてきた
人間は何をしたいのだろう
次は何に手を出すのだろう
結局肉体からは逃れられない
この肉体という束縛をどうするか
認識も思考も革新される日がやってくる
人間は好奇心が旺盛すぎるので
現状維持だけはなんとしても避けようとする
そろそろ科学の支配にも飽きてきた
さあ次はどうする
供儀
生贄を偶像化することに成功して
どんどん進歩していった
それでもまだ供儀は行われている
自然を従えて文明が高度化するにつれて
供儀の形も変わっていく
わかりにくく見えにくくなっていく
いつの時代も犠牲が必要なのに
みんな知らないふりをしている
無常の方に魅かれる奴らはせこいと思った
過去
過去にしか興味がない
過去ばかり見ている
過去とずっと向き合っている
確かなものは過去だけだ
人は皆過去に生きていると思う
ごくたまに現在に引き戻される
未来はまったくの虚無
心が落ち着いているときは過去にいる
だからずっと過去にいすわっていたい
過去の世界に生きていたい
現在を意識するのは異常事態だ
だからできるだけ避けたい
過去の中で溺れていたい
予定調和で満たされた文明社会
それは過去で満たされた社会なのか
自己の分裂
自己完結する思考をやめたい
他人に届く思考がしたい
他人に思いを伝えたい
自己が自己に対して演技する
自己が自己に対して忖度する
自己が自己に対して憤慨する
自己が自己に対して偽装する
ずっとそんなことばっかり
だから他人と交流する前の段階で
疲れ切って何もやりたくなくなる
それでも無理をして自己を統一する
他人と交流するために節々が緊張している
SNSは思考と感情が直結している人々の群れ
焦燥と怒りが募っていく
無力感ばかり蓄積して
そうして負の情念が奥の方で凝固していく
もういやだ
しんどい
なんて弱音を吐きながら
いつもの演技をしているのかい
詩が書けない
俺には詩が書けない
いつも説明ばかりしてしまう
説明に次ぐ説明
頭の中は説明ばかり
詩というものがわからない
素直に書くということ
思っていることを吐き出すことができない
いつも理屈で加工してしまう
思考することは躊躇すること
立ち止まってよけいなことをする
多分一生詩は書けないだろう
詩もどきならいくらか作れそうだ
親と性と労働
傷をごまかすための演技
自己を偽装するための道化
抑圧していたものが暴れ出す
常に迂回する思考
こんなことばっかり考えている
フロイト先生
あなたは偉大です
フロイト先生
あなたは悪魔です
フロイト先生
あなたは馬鹿です
性欲に縛られた愚か者ではないと思いたい
結局は親と性に原因を求めている
できあがるのはいつでも貧しい物語
自分の過去をできるだけ粗悪に解釈する
親と性から逃れられない
あとは労働を加えればいい
たいていは親と性と労働で説明がついてしまう
生きづらさなんてそんなもの
それでも生きづらいものは生きづらい
豊かな社会で貧困を堪能している
不満
どうせけんか別れするのだ
どうせまた傷つけて傷つけられるのだ
最後には遮断してそれで終わり
いつも焼畑農業になってしまう
焼け跡だけが人生だ
どうにかしたいがどうにもできない
仲良くなれそうだという感情は危険だ
怒りの感情はいつも遅れてやってくる
感情と経験はいつもずれる
数年後に突然怒りの感情に襲われる
どうにかしたいがどうにもできない
詩