五河琴里お誕生日記念~2025年8月3日~

これからもずっと

 八月三日――今日は私、五河琴里の誕生日だ。
 先ほどまで精霊たちが五河家に集まり、盛大な誕生日パーティが開かれていたところだ。士道が作ってくれた料理をみんなで舌鼓を打ちながら食べ、食後にはラタトスクが独自ルートで用意した景品を掛けて大規模なビンゴ大会が催された。景品には現在絶賛品薄となっている最新携帯型ゲーム機や、最新スマートフォンなどが用意されており、精霊たちは一喜一憂しながら楽しんでくれたようで、リーダーとして嬉しい限りだ。

 リビングには、食器やビンゴ大会で使用した小道具などが散らばっていた。その景色はまるで参加者が全て帰った後のお祭りのようだ。先ほどから士道はせっせと後片付けのために、キッチンとの間を往復している。さすがに彼だけに任せる訳にはいかないので、私も手伝うことにする。
 無心で片付けたおかげか、あっという間に片づけが終わった。
先ほどまで台所で洗い物をしいていた士道がエプロンで手を拭きながら、ソファに座っていた私の方までやってきた。
「琴里のおかげで片付けが楽に終わったよ。ありがとう」
「礼には及ばないわ。あなただけに任せるなんて忍びないもの」
ちょっとぶっきらぼうな口調になってしまった気がする……だけど、私のそんな様子を気に留めていないのか、士道は私の頭を優しく撫でて、再び台所へ戻って行った。
「……あ、そうだ」
ふと思い立って、私はリビングを出て自室に戻る。タンスをごそごそと漁り、やがて目的の物を見つけた。
「――そういえばこれ、長い間着けてなかったわね」
“それ”を身に着けて、リビングへ戻る。おにーちゃんははソファに腰掛けて携帯をぽちぽちしていた。私が扉を開ける音に気付いたのか、こちらを見て「あ……」と声を上げた。
「琴里、それ……」
驚くおにーちゃんをよそに、その隣に座った。
「久しぶりにこのリボン着けてみたんだけど、どうかな……」
『白いリボン』を身に着けた姿を久しぶりにおにーちゃんに見せるせいか、いささか恥ずかしさを覚えてしまう。問いを投げかける声音に緊張や恥ずかしさが滲んでいる気がした。
 最初こそ驚いていたけれど、おにーちゃんはふっと優しい笑みを浮かべてくれた。
「ああ……とても似合ってるな。さすが俺の妹だ」
 大好きなおにーちゃんの手が、私の頭を優しく滑って行く。小さい頃から何度も撫でられているその手は、私にやすらぎをくれる。日々の人間関係のストレスを忘れさせるくらいに。
 
 私にとって、“リボンを変える”という行為はとても重要な意味を持つ。
『黒いリボン』を身に着けている時は、ラタトスクのリーダーとして士道や精霊たち、ラタトスクのクルーを指揮する冷静沈着な自分。
『白いリボン』を身に着けている時は、年相応な無邪気な女の子でいる時――つまるところ、おにーちゃんのに甘える時とかだ。
 この二つの自分を、強力なマインドセット、いわば自己暗示によって切り替えているのだ。……まあ、黒いリボンを身に着けていても、ごくまれにおにーちゃん呼びをしてしまう時はあったのだけど、それはまた別の話だ。

「――ねえ、おにーちゃん」
おにーちゃんにもたれかかるように体重を預けながら問いかける。
「ん、どうした?」
優しい声が返ってくる。
こうして密着していると、私の心臓の音とかが聴こえているんじゃないかって考えてしまう。中学生の頃は何も考えずにボディランゲージしていたけれど、今やると超絶恥ずかしい。
「前にさ……おにーちゃんに私の気持ちを打ち明けたことあったじゃない?」
「あ、ああ。あったな」
「あの時、おにーちゃんは“琴里を異性として見る事は出来ない”って言った」
 おにーちゃんとは血縁関係が無い義兄妹だ。
私が小さい頃、おにーちゃんが五河家に養子としてやってきたことが始まりだ。それから辛い事や楽しい事を沢山共有してきた。
そういう経験を経て、中学生の頃には明確に恋愛感情を自覚していたような覚えがある。
 そして、DEMとの争いが終焉を迎えた後、私の素直な気持ちを打ち明けたことがあった。
だけど、おにーちゃんからは、私の事は好きだけどあくまで『家族』としての範疇と言われたのだった。
「――おにーちゃんの返事を聞いたあと、『私は諦めの悪い女』って言ったと思うけど、まだ諦めて無いからね」
 そう言っておにーちゃんの顔を見つめる。
「琴里、それって……」
息を呑むおにーちゃん。そんな彼がとても愛おしく思えた。
……ああ。やっぱり、私はあなたのことがどうしようもなく大好きみたい。でも、この気持ちはもう打ち明ける事は無いだろうな。そんな予感がした。
 だから、私はあえていたずらっぽい表情を意識して、次の言葉を発した。
「って、嘘だよおにーちゃん。あの日、おにーちゃんからはっきり答えを聞いて、私は失恋したんだから」
『失恋』というワードを使ったせいか、おにーちゃんが目に見えてしょんぼりしてしまった。もしかして義理とはいえ、妹に辛い思いをさせたことへの申し訳なさを感じているのだろうか。もしそうだったら嫌だな。
――そう思って、おにーちゃんの頬にそっとキスをした。突然の出来事に戸惑っている彼に、私はあの言葉を掛けてあげることにした。
「愛してるぞ、おにーちゃん」

五河琴里お誕生日記念~2025年8月3日~

五河琴里お誕生日記念~2025年8月3日~

2025年8月3日、今年も琴里のお誕生日を迎える事が出来て嬉しいです。これからもずっと応援しています。

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-03

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