zoku勇者 ドラクエⅨ編 86
カナト……act3
「さあ、ジャミル、キミに嫌でも本気を出させてあげるよ、おいで……」
「断るって言うとろうが!あ、あれ……?」
「此処は……?」
「わあ、また場所が変わったよお~……」
「カナト君……、いえ、もう本当にゴールドドラゴンって、
呼んだ方がいいのね……」
再び、場所が一転し、ジャミル達は今度は薄暗い神殿の様な場所へと
全員ワープさせられていた。これもゴールドドラゴンの力らしい……。
ゴールドドラゴンの背後には祭壇らしき物が。アイシャは不安そうに
ゴールドドラゴンを見る。モンも慌てて定位置のダウドの頭の上へと
飛び乗る。
「……ア、アタシ、また寝てるからネっ!起こさないでよっ!」
「おい、カナトっ!どう言うつもりだよっ!」
「言ったろ?此処に呼ばれた以上、キミはどうしても僕と戦って
試練を乗り越えなくちゃならない、そう、此処は僕とキミの最後の
やり取りの場、もう、逃げられないんだよ……」
「うるせーっ!こうなったらっ、俺も意地だっ!何が何でも
オメーとは絶対戦わねえかんな!」
「これでも……?」
ゴールドドラゴンが出した強硬手段……。強力なドルクマが
ジャミル以外の仲間達を遅う……。一瞬にして、アルベルト、
アイシャ、ダウドの3人は闇の炎の爆発に包み込まれてしまう……。
「……み、皆っ!!カナトっ!!テメエーーっ!!」
(……うわ、マジ、やっばあ~~ッ!)
「モォ~ンっ!!」
「大丈夫、これも加減はしてあるから……、気を失って貰っただけ、
でも、本当にこれ以上キミが僕との戦いを拒否するのなら次はこうは
いかない、場合によってはこんな物じゃ済まないよ……」
「……」
ジャミルは歯がみする……。これまで、カナトを信頼していた。
異世界で出来た大切な友人……。そう思っていた。だからこそ、
どうしても戦いたくなかった。けれど、カナトはゴールドドラゴン。
ジャミルは漸く、自分が置かれている立場、現実に気づき、ゴールド
ドラゴンとの戦い、自分自身の乗り越えるべき試練へと向き合い始める……。
「分かったよ、……お前と戦う、それでいいんだろ……?」
「!!ジャミル、カナト……、ダ、ダメモォ~ン……」
「モン、キミもだ……、暫く大人しくしていて欲しい……」
ゴールドドラゴンはモンを睨付ける……。モンも一瞬にして
眠ってしまう。残ったのは、ジャミルと……、ジャミルの中に
隠れているサンディだけ……。
「これで、全て……、キミと僕の戦いの準備は整った……」
(……ジャミ公っ!こうなったら何が何でも絶対勝ちなさいよネっ!)
いつも通り、ジャミルの中から、何もせず只管ヤジを飛ばすだけの
サンディに、ジャミ公はうるせー!とブチ切れた。そんなジャミルを
これからの戦いの前に、ゴールドドラゴンは暫くの間見つめていた……。
(……ジャミル、キミに本当の事を話せば……、恐らく、優しい
キミの事だから、本当に戦えなくなってしまう……、何れ訪れる
この世界の崩壊……、もう、どの道、僕も長くは無い、その前に、
どうしても託したいんだ……、だから……)
「行くぞ、カナト!……いや、ゴールドドラゴンっ!!」
「……来いっ!!」
この世界での最後の試練……、ジャミル自身の戦いが始まる。だが、
ジャミルは武器を持っておらず、魔法も殆ど使えない。それでも……、
売られたケンカは徹底的に買う主義のジャミ公はまずは蹴りで
ゴールドドラゴンに突っ掛かって行った……。
「このやろっ!」
「甘いっ!」
軽くジャミルの蹴りを避けるゴールドドラゴン。当たり前ではあるが。
だが、これではまるで虐めである……。蹴りを避けられた上、背後から
ゴールドドラゴンに痛烈な噛み付き牙攻撃を受けるジャミル……。
「うあーーっ!」
(あ~、ジャミ公……、やっぱ無理だよ、こんなの……)
「早く本気を出せっ!君自身の力を取り戻せっ!……」
「うるせんだよ、糞食らえよっ!」
「……ストレートにそう言われて避けない奴が何所にいるんだっ!」
「……あぎゃーー!!」
ジャミ公、またまた蹴りを避けられ、今度は頭突きをお見舞いされ、
間抜けなポーズで地面に突っ伏した……。だが、ゴールドドラゴンは
感じていた。明らかに彼の素早さが上昇し、蹴りのスピードが上がって
来ていると……。そして、ジャミルも。
「イテテ、不思議だ……」
「何がさ……」
ジャミ公は鼻血を垂らしながら、顔を上げる。そしてゴールドドラゴンの
方を見た。
「俺、お前と戦うの全然苦痛じゃねえんだ、むしろ何か楽しいんだ、変だな、
こんなの……」
「ジャミル……、ふざけるなっ!僕は遊びでこうしているんじゃないっ!
早く本気を出せと言っている!!」
「……あうっ!?」
ゴールドドラゴンは今度は凍える吹雪をジャミルに向かって放出。
氷付けになってしまい、動けなくなったジャミルへ、氷ごと今度は
嚙み砕く攻撃を行う。氷雪攻撃+嚙み砕きで大ダメージをジャミルは
食らい、再び地面に倒れ、頭を打ち付ける……。
「……」
「なあ、カナト、教えてくれや……」
「な、何を……」
ジャミルは地面に倒れ、呼吸も荒い状態でハアハア言いながら、
ゴールドドラゴンへと聞きたかった事の問いをぶつけるのだった。
「お前、もし、俺がお前を倒したら……、お前はどうなるんだよ……」
「……そんな事、キミは心配してるのかい、……僕はそんじょそこらの
モンスターと違う、ガーディアンとして創られたのだから……、ドラゴン
本体として、普通に死を迎える事はまず、無い……、只……」
「な~んだ、そうか、なら安心した!」
「……!?」
「俺がうっかり倒しちまっても、お前に支障はないって事だな、
それなら大丈夫だ!」
「ジャミル……、何故、キミは……、考えれば考える程……、僕も
キミが分からない……」
「いいんだよっ、けど、これで俺も本気で戦えるかな!……よっ!」
「……」
ジャミルは身体を起こし、立ち上がる。ジャミルは戦いの最中でも、
ずっと、ゴールドドラゴン、……カナトの事を心で心配していた。
ガーディアンのドラゴンとしてなら、例え倒されてもまずは普通に
死ぬ事は無い、だが、この言葉にはまだ続きがあったのだが、それは
ジャミルのアホ言動の妨害により、この場ではちゃんと言う事が
出来なかったのだった。
「……感じる?俺の手の中に……、力が……、これは……?」
「……そう、段々、戻って来ているんだ、キミの中に一度は封印され、
眠ってしまった力が……、僕と戦う事によって……」
「戻って……来た……?」
ジャミルは自分の手の平を握ったり開いたり……、少しずつで
あるが、身体の中に徐々に何かが入って来ているのを感じていた。
「けれど、まだまだ!こんな物じゃないっ、どんどん行くよっ!」
ゴールドドラゴンはジャミルに向かって再び業火の炎を吐く。
……相変わらずの鬼畜ドラゴンめと思いながら、ジャミルは
咄嗟にジャンプし、炎を交わす……。
「よ、避けられた……?さっきは真面に食らったけど、俺、やっぱり
力が……?」
「油断するんじゃないっ!……これでも食らえーーっ!!」
「……う、うおっ!?マジかーーっ!?」
ゴールドドラゴンは何と……。今度は、炎、氷、雷の3ブレスを
一気に纏めて放出。本当に容赦しないドラゴンである……。流石に
これは避けるのは無理であり、又真面にブレスを食らい、ジャミルは
地面にぶっ倒れた……。
「……畜生~……」
「……ジャミ公っ!マジでアンタ何やってんのよっ!立ちなさいよッ!」
やはり、心配でしょうがないのか、ガングロ妖精飛び出して来る……。
どうしようもない、毒舌ではあるが、皆もモンも眠ってしまって
いる以上、ジャミルに渇を今、入れられるのはサンディしか
いないのだから……。
「うう~っ!……ぢーぎーしょおおおっ!!」
「……アンタ、立つ処違うでしょーガッ!しぼめろーーっ!!」
(本当に、面白いなあ、ジャミルって……)
「……っと!よしっ、もう1回掛ってきやがれっ!」
ジャミルは慌てて立っている箇所を小さくした。サンディはジト目。
「何回だって掛ってあげるよ、さあ!」
「取り合えずっ、剣持ってねえから、ハヤブサ蹴りだっ!だあーーーっ!」
ジャミル、ハヤブサ切りならぬ、ハヤブサ蹴りでゴールドドラゴンへ
又突っ込む。また、技の方も思い出して、感覚を取り戻して来たの
かなと、……ゴールドドラゴンはジャミ公の頭部へ噛み付いた……。
「……あだああーーっ!?」
「ちゃんと真面目にやって、僕のをあげる、ほら……」
「いててて……、これは……」
ゴールドドラゴンはある物を召喚。ジャミルに手渡す。それは
初めてカナトと出会い、彼が助けてくれた時、カナトが使って
いた武器の銅の剣である。
「本当はね、武器の強さも何も関係ないんだ、ちゃんと一人前になれば、
伝説の武器なんか無くたって、どんな相手にも決して怯まず戦える様に
なるのさ、まあ、キミ達には難しいだろうけど……」
「……」
なるほどとジャミ公は納得。漸く、あの時のカナトの異様な強さの
秘密が分かり掛けて来た様な、そうでない様な……、だが、本当は
ドラゴンなんだから、チートじゃねえかよと、そう思っている暇無く、
ゴールドドラゴンは次のブレスを吐いて来た!
「……の、野郎っ!」
「剣で……、僕のブレスを掻き消した……?何て事……」
「ど、どうだっ!どんどん来いってのっ!」
「ジャミル、やっぱりキミって普通じゃないね、面白いよ、
……セレシアに選ばれし者の事だけはあるね……、流石、
ふふ……」
「残念ながら、俺は女神に選ばれたとか、んな事は全然
自覚してねえし!しがない只のコソ泥さ、元はよ……、俺も
段々と戦いの感覚が戻って来たのがやっと分かって来たわ、
これからは覚悟しとけよ、オメーもな!」
「戦いはそんなに甘いもんじゃないよ……、僕だって怯まないさ、
最後まで……」
「……ジャミ公、カナト……、っと、アタシもこーしちゃ
いられないってのっ!」
ジャミルとゴールドドラゴン、両者の戦いが激しさを増す前で、
一人動けるサンディは倒れている他のメンバーを起こしに行く。
まずは回復魔法が使えるダウドから……。アルベルト、アイシャの
順に叩き起こす。最後はデブ座布団と……。
「ふわあ~、サンディ、助かったよお~……」
「ジャミルと……、カナト君……、いえ、ゴールドドラゴン……」
意識を取り戻したアイシャは、戦っているジャミル達の方を
見つめる……。これはジャミルの試練。自分達は決して手を
貸してはいけないのだと。だが、明らかにジャミルの方が身体が
既にボロボロなのは誰の目にも分かる……。
「アル……、ダウド、辛いけど、私達、見守るしか出来ないのね、
ジャミルの勝利を信じて……」
「無茶だよお~……、バカだよお~……、もう~……」
「ジャミル、必ずこの試練を超えて……、僕ら又一緒に力を併せて
戦える日が来る事を信じてる、きっと……」
「……モォ~ン、モォ~ン……」
……それぞれに、見守る事しか出来ない仲間達……。アイシャに
抱かれているモンは、悲しそうな声を上げるのだった……。
「……本当に、こんなにしぶといんだね、キミは……、
少し呆れたよ……」
「……当たり前じゃねえか……」
幾ら攻撃しようが、立ち上がって来るジャミルに、流石の
ゴールドドラゴンも少し疲れが見え始めていた。彼も少しずつ
ではあるが、絶対諦めようとしない、ジャミルの嫌らしさが
分かって来た様である。けれど、やはり形成的に不利なのは
ジャミルの方である。ジャミルは息を切らしながら口元に
付いた血を拳で拭う。
「けれど、こうでなくちゃ、僕も段々楽しくなって来たよ……」
「それは何より……、んじゃ、もうひと頑張りっ!……おりゃあーーっ!!」
「……な、何っ!?」
「こ、これは……」
「……地震だよおおーーっ!?」
突如、神殿内が大きく揺れ始めたのである……。仲間達は天井を
見上げる……。元々古い神殿なのだろうが、天井には亀裂が入った
様であり、パラパラと上から破片が零れて来た……。
「ジャミルがおりゃあーーっ!って言ったからだモンーーっ!?」
「……聞こえてるぞ、其所の落花生っ!おい、カナト、少し様子
見た方がいいぞ、やべえんじゃね?……揺れがどんどん酷く
……おわわわわっ!?」
「……きゃあーーっ!?」
「アイシャ、ダウド、モンもサンディも……、大丈夫かい!?」
「……大丈夫じゃないよおおーーっ!!」
「今度は地鳴りとか、……全く、何なのッ!?」
待っているメンバーも突然の事態に慌てふためく。アルベルトは
皆を落ち着かせようとするが、ダウドに至ってはもう、パニック
寸前に……。大事な戦いの最中に起きたとんでもない非常事態。
だが、ゴールドドラゴンだけは、冷静にこの地震の正体をしっかり
見極めていた……。
「ジャミル、戦いの途中だけれど、この世界に最悪の
非常事態が起きている……、新たな侵入者だよ、
……それも相当厄介クラスのね……」
「……何、だと……?」
「……其所にいるのは分かっているんだ、侵入者さん、隠れてないで
出てきたらどう?」
「!」
ゴールドドラゴンは再び人間体のカナトへと姿を戻す。こうして
改めて見ると、本当にカナトはあどけない少年その者である。
「ジャミル、申し訳ないけど、戦いは一時休戦だ、……キミも力が
戻って来ている事だし、少し、侵入者の方の排除の手伝いを頼めるかな?」
「お、おう、勿論だ!」
「私達も戦うわ!」
「一緒に戦おう!カナト!」
「ふぁあ~い!」
「モンー!」
「皆!」
ジャミルとカナトの元に、仲間達も駆け寄って来る。モンは再び
少年の姿となったカナトに喜んで飛びつくのだった。
「モンっ、モンー!」
「ふふ、モン、くすぐったいな、でも、有り難う!」
「モォ~ン!モン、やっぱりカナトの時が一番だモン!ねえ、もう、
ゴールドドラゴンさんになってジャミルとケンカしちゃ嫌モン……、
また一緒にトマト食べたいモン!」
「モン……、それは……」
「たくっ、やれやれだわ~!けど……、ああっ!アンタ達、
アレ見なよっ!」
サンディの言葉に全員が正面を向く。いつの間にか神殿内には、
大量の殺人華が……。そして、その殺人華を従える者……。
「ホホ、アンタがこの世界を取り仕切るガーディアンて奴?まだ
お子ちゃまじゃないの!」
「……何だ、テメエはっ!!」
「……」
ジャミ公が罵声を浴びせる中、カナトは無言で侵入者の女を睨む。
どうやら、女魔法使いの様である……。
「やっぱり……、以前よりもセレシアの力も大分弱まっていると
言う事なのかな、こんな変なの、あっさりと侵入を許してしまうの
だからね……」
「ふふっ!糞みたいに可愛い坊や!」
カナトは黙っていたが感じていた。やはり、この世界の終末……。
もう本当に時間がない事、一刻も早く、ジャミルに伝説の装備を
継承させる、それが今生きている自分の使命なのだから……、と……。
「ジャミル、お願いだからもう、今度バトルを再開したらさっさと
僕に勝ってくれないかな?段々苛々してきた……、とにかくキミを
伝説の勇者の継承者として認めないと……」
「……んだよっ!」
「ホホホ!私は糞魔法使いよ!あの方に見初められてこの世界に
派遣して貰ったのよ!糞邪魔な伝説の装備を破壊する為にね!」
「うわ、……自分の事、自分で糞魔法使いって言ってるよお~……」
「……あの方って言ってるから、この世界に送ったのは、やはり……」
「エルギオス……、なのかしら……」
「ホホホ!ホ~ホホホ!」
糞魔法使いは皆の目の前で高らかに笑う。見ているだけで実に
不愉快であった……。
「あ~んなの、適当に送ってくるなんて、エルキモすも落ちたネ、
テイゾクッ!」
「何だか知らねえけど、とっととやっちまおうぜ、皆!」
「「もっちろんっ!!」」
「ウシャー!!」
ジャミルの言葉に気合いを入れ、力強く返事を返す残りのメンバーと
モン。だが、カナトは一人、表情が硬く……。
「皆、油断しないで、変な名称名乗ってるけど、それは偽りだよ、
この敵は、とてつもなく、危険だ……、どうやらやはり、キミ達の
世界の大ボスの差し入れの様だね……」
「け、けどよ……」
カナトの言葉に困るジャミル。こんなふざけてる様な敵が
ヤバイとか、ちょっと信じられず、仲間達と顔を伺わせた……。
「考えてみれば、この話書いてる人の事だし、本当に何が起こるか
分からな……」
「ダウドっ!……いいんだよっ!」
「まずは軽く小手調べと行きましょうか!アンタ達、やっておしまい!」
ジャミル達を取り囲んでいた殺人華集団、まってましたとばかりに
一斉に牙を向く……。しかし、カナトが素早くイオナズン+この話では
主人公側には使えない魔法、ベギラゴン連打。あっと言う間に殺人華達を
一掃させた。
「す、すげえ~……、カナト、やっぱオメーすげえよ……」
「そんな暇ないよっ!次、来るよっ!」
「お代わりをあげるわっ!」
カナトの言う通り、女魔法使いは次の殺人華を召喚。カナトばかりに
負担を掛ける訳にはいかないと、アルベルト達も奮戦し始める。
「えいっ!メラゾーマよっ!!」
「ギガスラーーッシュっ!!」
「はわわ!ピオリムピオリムピオリムーーっ!!」
仲間達は戻った力を駆使し、それぞれに戦う。だが、倒しても
倒しても、殺人華は湯水の如く湧いて出るのであった……。
「コレ、早い話が、あのババア倒さないと、永遠に変な花
呼ばれるんじゃネ?」
「そうだよ、サンディ、あの魔法使いを倒してしまわないと……、
僕のMPはほぼ無限だけど、キミ達には限りがあるだろ?」
「いいなあ~、無限MP、チートォ~……」
羨ましそうに指を咥え、カナトを見ているダウド……。だが、
あんな変な魔法使い、カナトの力ならあっと言う間に倒せるん
じゃ……、とも思っていた。何故、早く始末してしまわないの
かなあと。
「こんにゃろっ!……邪魔すんなっ!!」
ジャミルも戻って来た一部の技、主にハヤブサ切り中心で
殺人華達を斬りまくる。やはり、斬っても斬っても殺人華が
沸いてくる為、魔法使いへと近づく事が出来ず。そして、遂に
ヘタレがタブーを口にしてしまい……。
「カナト、あのさ……」
「何……!?」
「君、この中では一番強いんでしょ?魔法力は最強だし、本当は
ドラゴンだし、カナトがあの魔法使い、倒した方が早いんじゃ
ないかな、オイラ達……、ジャミルもまだあんなだし……」
決して悪気があってダウドも言っている訳ではないが、こんな状況に
なっているのに、この中では一番最強であろう、侵入者を排除するのに
力を貸してと言ったカナトが本気を出してくれないのが、ダウドは
何となく気に食わなかったのだった……。
「……ダ、ダウドっ!カナト、ごめん……」
アルベルト、ダウドの失言に代わりに慌てて謝る。だが、カナトも、
ううんと首を振った。
「これはキミ達の試練だから……、僕が手を貸せるのにも限度が
あるんだ、だから……、今はどうか頑張って乗り切って欲しい、
それしか言えないんだ……」
「ああ、分かってる!ほら、ダウドっ、行くよっ!」
「あうう~……」
「しつこいんだからっ!行くわよっ!イオラーーっ!!」
「糞が何百体来たって倒してやるさっ!!」
カナトは怯まずに立ち向かって行く、しぶとい4人組の姿を
目に焼き付ける。これは、乗り越えなくてはならない、
ジャミル達の試練……。先程、ダウドへと返答した際の
カナトの声は、何となく寂しそうであった……。
「もう一度、僕があの花を魔法で一掃させる、その隙にキミ達は
あの女魔法使いを……、ジャミル、仲間達のサポートを借りて
キミがダメージを与えて止めを刺すんだ、僕が見た処、最悪の
敵だけどHPはそんなにないのが救いかな……」
「おい、まさか数分数秒で倒しちまえってのか……?」
「そう……」
「冗談かと思ったけど、オメーも無茶苦茶言うな……」
「無茶だよお~!!だから、ずっと言ってるじゃん!まだ、
ジャミルの力は完全じゃないんだってばっ!!又何かあったら、
回復担当の、お、おおおお、オイラが大変になるじゃないかっ!!」
「な、何か、ヘタレも今日は強気ねェ、そっか、……相方の事と
なると、コイツもか、……アンタも好きねえ~、ぷっ……、何よ、
そのゆでだこヅラ!」
「な、何だよお!……サンディはっ!!」
「……」
ダウドはどうしてもさっきからジャミルに無茶をさせたがる
カナトに食って掛りっぱなしである。それでも、どうしても、
カナトは……。
「ダウド、お願い、……止めてモォ~ン!……カナト……」
モンも心配で、皆の周りを飛び回る。だが、アルベルトも
アイシャも、カナトがどうしてこんなにも強制的になって
きたのか、不安を覚え始めた……。
「僕もさっきから何回も言ってるだろう、あれはキミ達の
世界から送られて来た敵なんだ、これまでは僕が抑えて来た
けれど、やはり、キミ達の世界の敵はキミ達の手で始末を
するべきなんだ、本来はね……、やっと伝説の装備を継承者に
手渡せる、その日が……、僕がこの世界のガーディアンと
しての役目を終える時さ……」
「……カナト……、おおおっ!?」
容赦せず、殺人華が又どんどん増え始め、此方へと襲撃して
くるが、カナトがメラゾーマ連呼で瞬時に焼き払う。心なしか、
カナトもブチ切れて来ている模様。
「ジャミル、頼むよ……」
「分かったよっ、やってらあ!お前ら、サポート頼む!皆で力を
併せようぜ!大丈夫だっ!」
ジャミルは仲間達に向けグッジョブポーズを取る。その姿を見て、
やっぱりこの男は止められないなあとダウドは呆れながらそう
思った。アルベルトも……。
「仕方ないよ、ジャミルを信じよう、皆、行こう!」
アルベルトの言葉に返事を返すダウドとアイシャ。ジャミルは
カナトへと大声で呼び掛ける。
「カナトっ、いいぞ、殺っちゃってくれっ!」
カナトは頷き、イオナズンの嵐を殺人華へ放出。忽ち大量にいた
殺人華が一瞬にして消え失せた。しかし、これは一時的な物。
女魔法使いをシメない限りは又直ぐにこの変な花は復活して
しまう。そうさせない為に、主犯格の女魔法使いを倒すんである。
「ジャミル、バイキルトよっ!」
「よしっ!サンキューっ!」
「あ~、オイラは、え~とえと、引き続きピオリムだあーーっ!」
「よしっ、僕もっ!」
「……行くよ、ジャミルっ!!」
「よし来たーーっ!」
「頑張るモンーーっ!」
「走れーーっ!ジャミ公ーーっ!!」
アイシャとダウドに補助魔法を掛けて貰い、アルベルトも武器を
弓に持ち替え、ファイアフォース+アローを放出。加え、カナトの
強力な魔法が殺人華を焼き尽くす。サンディとモンの応援も。
仲間達に突破口を開いて貰い、ジャミルは女魔法使いの元へと
ダッシュ。
「け、結構しんどいなあ、……あ!」
「ジャミルっ!!」
「あああっ!!」
「だからっ!……何やってんのよっ、アイツっ!!」
……女魔法使いの手前で、ジャミ公、思い切りすっ転んだのである。
慌てて立ち上がろうとするが、あっと言う間に隙が出来てしまう。
女魔法使いはチャンスとばかりにほくそ笑んだ。
「……ホホホ!ホ~ホホホ!」
「しまったっ!畜生!」
急いで顔を上げ、立ち上がろうとすると、女魔法使いはちょっとの
間に又大量の殺人華を召喚させ、ジャミルを取り囲んでいた……。
「だから言ったんだよおっ!ねえ、カナト、早くジャミルを助けてっ!
ねえっ!」
「……」
「カナト君……」
「カナト、頼む!君の魔法なら……」
「モォ~ン……」
ジャミルの危機にこれには仲間も黙っていられず、カナトに救いを
求める。しかし、カナトは黙って首を横に振る。
「……な、何でさっ!?」
「大丈夫、ジャミルなら、きっと……、キミ達もこれ以上手を
貸しちゃ駄目だ……、ジャミルの為だよ……、ジャミルが失って
いる自分の力を取り戻すには、どうしても……」
「ちょっとっ!このマセガキっ!いい加減にしなさいよネっ!!」
どうしても必要以上にジャミルに手を貸そうとしないカナトに
遂にサンディまで……。アルベルトもこのままではジャミルが
危ないと思い、直ぐに援護するつもりであった……。
「どうしよう~、どうしたらいいのモン~……」
「お前ら、止めろっ!そうだよ、これは俺の試練なんだ、
俺だってやる時はやらなくちゃなんねえんだよ、皆、試練を
乗り越えたんだろ、自分の力で……、だから……、俺も……
カッコつける……」
「ジャミル……」
ジャミルは何とか立ち上がろうとするが、殺人華はすぐ
目の前に迫っている。数体の殺人華はジャミルを捕獲
しようと、一斉に触手を伸ばして来るの
だった……。
「ホホホ、若い男のエキスはさぞかし美味しいでしょうね、
さ、お前達、どんどん栄養分を取りなさい!」
「……く!」
「……だめえーーっ!お願い!逃げてええーーっ!ジャミルーーっ!!」
アイシャの悲痛な叫びがジャミルの耳へと届く……。ジャミルは
カッと目を見開くと、銅の剣を構え、自分へと向けられ飛んで来る
触手を睨んだ。
「……散れええーーっ!!」
「あ、あれは……」
「「ジャミルっ!!」」
ジャミ公、ハヤブサ切りで数体の殺人華を瞬時に抹殺……。
ジャミルの台詞は最初にカナトが助けてくれた時、
巨人モンスター集団を斬った時に発した物と同じ……。
ジャミ公は殺人華を始末した後、こっそり後ろを向き、
カナトの方に向かってにかっとVサインをした……。
「ヘッ、……どうだ、俺も少しカッコつけてみたぜ……!」
「ジャミル……、……あ、ああ、あはは!」
カナトの胸に熱い物がこみ上げて来た。やはりジャミルは
確実に力を取り戻しつつあると。そして、以前よりも遙かに
強くなっていると……。
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