新生物

人間が作り出した機構に人間が飲み込まれていく
人間が作り出した物事に人間が服従する
人間は徐々に違う生き物に変わっていく
家畜化、粒子化、空間化の堕落の果てに
強く美しく賢く
醜く穢れた愚かな
生き物が誕生する
直線状に進む時間の流れからは逃れられない
高邁な貴族がこの流れを阻止しようとしても
勤勉な奴隷たちがそれを拒むだろう
地球という物質が密集した空間では
時間は線状に進む定めにあるようだ




宇宙の広大な時空間
神はいる
量子力学と相対性理論によって明らかになる極大と極小の世界
神はいる
遺伝子が解読された後の生物学と医学
神はいる
終わらないムーアの法則
神はいる
自由恋愛と核家族の崩壊
神はいる
潔癖化する社会における殺人と出生の減少
神はいる
ディスプレイと向き合う家畜たち
神はいる
原子化する個人と都心部で行きかう人の群れ
神はいる
数十億年かけて単細胞から人間になった
神はいる
人間を数に還元する資本主義と民主主義
神はいる
唯物論と統計学の勝利
神はいる
死は誰も経験していない
神はいる
書くためには信仰が要る




言葉

思考すること自体が別世界との交流
独りでものを考えるときも
誰かとくだらない日常会話をするときも
別世界への道が開けている
言葉は時空に収まりきらない
言葉は自分から発せられるものであり
別世界から発せられるものでもある
言葉は別世界から来て別世界へ戻っていく
誰にも届かなくても
誰にも伝わらなくても
発したその時点で
時空にない世界と交わる
人間は思考を与えられてから
別世界の存在を意識するようになった
別世界を知ろうとして
白日の下にさらそうとして
人間は現世界を支配してしまった
人間の創作意欲は止まらなかった
思考は時空間に属さず浮いている
青い星に降臨した
強欲な猿の物語




違和

言いたいことが言えなかった
思いたいことが思えなかった
考えたいことが考えられなかった
他人を欺く前に
自分を欺く術が磨かれてしまった
自分が自分ではない違和感さえも
押し殺してしまった
上からさらにまた上から抑圧のくり返し
何重にも自分を欺く心理合戦
頭と心と身体は不一致になり
ばらばらになるがそれを意識しないようにする
精神は肉体から遊離していく
身体性が希薄になっていく
まずは自分に素直になる必要があったが
それに気づくためにも苦労と経験が必要だった
自分で自分を欺くために
精神と思考を浪費して
その欺く癖を解くために
また精神と思考を浪費する必要があった
頭と心と身体が元に戻ったころには
もうすべてががたがたであった




時間、数

理性という監獄にとらわれた囚人が
過去に背を向けて前へと進んでいく
一本の時間軸上を個人が進むという前提なのだ
座標の概念は強力である
数からは逃れられない
思考は冷却されてしまった
どれだけ思考を灼熱させても
心身を震わせても
時間軸も座標も微動だにせぬ
啓蒙は深刻な破壊であった
すでに時間に数字がへばりついてしまった
厳粛に時を刻むという物言いは
数と空間の勝利を感じさせる
どこへ行くにも
何をやるにしても
数が襲いかかる
平べったくなった世界では
もう感情を解放できない
思考も縮こまっていく
みんな知らない間に
流れに乗せられていく




みんな

みんな世相に長けている
みんな本当によく知っている
みんな斜めから切り込みを入れる
みんな人生を俯瞰している
みんな悟っている
みんな賢明で分をわきまえている
みんな欲が薄めである
みんな博愛精神を持っている
みんなそれなりに白けている
みんな落ち着いている
みんな達観している
みんな優しさを持っている
みんなよく考えている
みんな先回りしている
みんなマナーをよく守っている
みんな適切に共感している




人間は嘘が好きだった
次第に嘘は肥大化して
言葉が生まれた
だかそれだけでは飽き足らず
嘘はさらに大きくなった
やがて最初の文化と文明が生まれ
音楽や絵画や数なども生まれた
それでも人間はさらに嘘をつきまくった
そして土を耕し富を蓄え始めた
やがて階層と格差が生まれた
争いは激しくなった
嘘の上塗りは激しさを増していった
そして神や国家が生まれた
文字も物語も貨幣も生まれた
まだまだ嘘をつき続けた
そうして科学まで生み出してしまった
とりわけ科学という嘘は
これまでにないよくできた見事な嘘だった
同一性と嘘は背中合わせなのだろうか
これまでに作り上げてきた
嘘の世界があまりに巨大すぎて
嘘を嘘でごまかすことが難しくなった
もう疲れてしまった
そろそろいい加減に
人間をやめよう
人間をやめよう




SNS

トラウマと苛烈な実体験は
表看板であり建前である
今日も海底ケーブルが
大量の罵声を運んでくる
人前でいくらでも自己陶酔できる時代の幕開けだ
人類の未来を祝福しよう
さらけ出した自己に酔いしれる宴は
まだ始まったばかりだ




詩と嘘

素直な感情からは
詩は生まれない
自分を欺く思考から
詩が生まれる
嘘偽りのない感情を表現するために
嘘の思考が必要になる
作りこまれた偽物だけが
本当の感情を体現している
自己をさらけ出すとき
ありのままを伝えようとするとき
それは最も自分の感情を殺すとき
自分に素直になろうとするほどに
仮面を被っていることがわかってくる
自分の本当の感情というものは
自分で隠しているから厄介なのだ
だから本当の感情に到達するには
多くの嘘を必要とする




始業時間

心を静めなさい
一切を遮断しなさい
思考を止めなさい
その後に活動を行いなさい
思わずに考えなさい
感情は消しなさい
別人になりなさい
機械を目指しなさい
活動の果てに朽ちても
せいぜい笑いものにされるだけでしょう
意義がない
価値がない
それでも歯車として機能し続けること
社会を動かしている
機構、技術、装置、制度などは
一見機能性が優れていて
便利で美しく見えても
一皮むけば呪詛に満ちている
そんな単純な真理に気づくでしょう
社会を動かしているのは呪いであるという
当たり前の事実が見えてくるでしょう




ハッテン場

すれ違った全裸のおじさんが
俺の体を頭のてっぺんからつま先まで
舐めるように見尽くしていた
個室のドアが少し開いていた
のぞいてみたら三人の野郎たちが交錯していた
都心のビルの地下一階
男たちの喘ぎ声に混ざって
下水道の静かに流れる音が
妙に心地よかった
向こう側で体格のいい白人が
腕を組んで品定めしてやがる
終電後の営みが始まりそうであった
前に仲良くなったあの人は来ているかな




海へ向かう

性と科学と労働に
押しつぶされました
粉々になった後も
まだ人生は続くようでした
他人からは冷やかしの目で見られました
嘲笑されるのは慣れていました
いつも足蹴にされて
組織から追い出されていました
人生のほとんどで負けてきました
人よりも努力を重ねて
最後は無残に否定される
それのくり返しでした
自分の中に憎しみが醸成されていきました
しかし同時に愛が何かを
わかりかけているような気もしました
敗北を重ねないと真理には近づけないのでしょうが
できれば敗北は避けたいものです
心と身体には負担になります
人生のいつごろからか
海に行くようになりました
負けが込んでくると
人は海に魅かれるのでしょうか
海岸に佇むとき
私に迫ってくる波が
私の記憶も飲み込んでくれれば
いいと思いましたが
そんな都合のいいことは起こりませんでした




空間内で物質化する精神

人間は物質と同等の存在に貶められた
精神は空間内に幽閉されそうだ
あとは死を克服するのみであった
この状態が何百年
長ければ千年ほど
続くのだろう
その後にやってくるのは
不死の生ではなく
環境破壊による終焉でもなく
意識の消滅でもなく
終末戦争による破壊でもないだろう
文明も文化も飽和状態に陥った末に
人間は内的な変化を経験せざるをえないだろう




現状

科学に押しつぶされた
芸術からは疎外された
哲学はわからなかった
宗教は正しすぎた
文学は過去に救いとなったが
今では感情が枯れかけていた




死ね

死ねと言われたときの痛みと
死ねと言ったときの痛み
前者は即効性で
後者は遅効性
一気に襲ってくる苦しみと
後からじわじわ効いてくる苦しみ
心身がえぐられるつらさと
離脱感に苛まれるつらさ
あなたはどちらがいいですか
傷つけられた側と傷つけた側は
永遠に交わらない輪廻を描く
尊い犠牲も骸になれば忘却の彼方
残るのは土と山と川だけだ




権威主義宣言

弱者であることに自信を持っている奴がいた
苦しみの多い人生を送ってきたと言わんばかり
聖人ぶって言動にも余裕を見せてくる
結局はヒューマニズム
結局はリベラリズム
平坦化と家畜化は受け入れようとする
まるで自分は極北に疎外されて
凍えているかのような身振りだ
あきれ果てるとはこのことだ
弱者という玉座
被害者という玉座
なんとしてでも死守しなければいけない
凡庸な進歩主義者が保守を名乗ったりする
もうなんでもありの時代なのだ
賢さと優しさで乗り切ろうとする醜悪さ
偏見を背負えない人間が見せる優しさは汚い
四方八方に向けて平等であろうとする愚かさ
誰に対しても何に対しても責任を背負わない
責任を知らないから悪も呪いも知らない
酷薄な権威主義者でありたいと思った
解放を唱える虐げられた人々は
いつだって無意識過剰だ
自分たちは虐げられたのだ
苦しめられた存在であることに
自己を求め意地を通そうとする
我執を背負えない人間の慈愛は狭窄
思考に囚われない人間の情愛は頑迷
打ちひしがれたか弱い存在に
救いの手を差し伸べる余裕はもうなかった
奴らが俺のことを憎んでくるのなら
こっちにできることはもう何もなかった
思考と我執にまみれない人生は
すぐに真理に到達してしまう
俺はそんな人間になりたくなかった
まちがえた存在であっても
しっかりと自分で考えたかった




荒廃した大地

無数のワーニャおじさんが現れては消えていく
人間の歴史なんてそんなものかもしれない
殺人犯が自首を決意した行進の後ろで
娼婦は祈っていた
後ろからずっとついてきていたのだ
彼女は静かに祈っていた
リョービンとキティとニコライの三人
彼らが作り上げる空間が神聖に感じられた
しかしそんな時代も終わった
積み上げられた骸の上で
カチューシャの歌は鳴り響く
神が降臨して悪魔が降臨した
神性と獣性が混淆した大地
平原の彼方まで歩いた囚人たち
風に吹かれて小麦がなびいている




真夏の工場

炉の近くで作業中
一酸化炭素をかなり吸ってしまった
のどが痛い
熱処理中の炉は五百度くらいになる
夏場にこの作業はきつかった
身体はか細い悲鳴を上げている
ふと誰かが俺のそばを通り過ぎた
恩寵に導かれた聖女だったかもしれない




スマホを握りしめながら

科学的事実は人を幸せにしない
近代こそ目の敵である
これからは農業の時代だ
今こそ東洋思想を見直そう
唯物論から脱するべきだ
近代文明と資本主義は諸悪の根源
物質はもういい、精神が大事だ
人間らしさを取り戻そう
放浪しちゃえば
まずは毒矢を抜かなくちゃ
合理性も生産性も捨てちまえ
弱さを受け入れてみよう
反応しない練習
還元的思考からの脱却
二元論はよくない
やっぱり宗教は大事だよ
管理社会の問題点について
囚われと強がりから抜け出そう
結局皆死ぬんだよ
最後は皆負けるんだよ

唯物論を批判する人は、唯物論に苦しめられた人を穢れ扱いして蔑む




仕事はクソ

仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
昼飯うまい
仕事はクソ

仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
チョコ休憩
仕事はクソ

仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
仕事はクソ
珈琲は無糖
仕事はクソ

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-07-31

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted