zoku勇者 ドラクエⅨ編 85
カナト ……act2
「セレシア様……、我らの女神様……、どうかお答え下され……、
一体、ジャミル達に何が起きていると言うのですか?……、
どうか……」
世界樹の前で跪き、セレシアに答えを求めるオムイ、そして、
見守る天使達……。すると……。
……天使界の長、オムイよ、そして……、天使の皆さん、どうか
安心して下さい……
「おおっ!この声は、まさか……!」
「セレシア様だっ!」
「聞こえるわ、これは確かにセレシア様の導きのお声よ!」
女神セレシアの導きの声が聞こえ、オムイを始め、その場に
いる皆は歓喜に包まれる。
……ジャミルと仲間達は、エルギオスとの最後の決戦へと望むべく、
新たな力を得る為、長い間封印されし、私が送った異世界に、今、
訪れているのです……
「……何と……、そうであったか、ジャミル達が、異世界へ……、
女神様がお導きを、おお……、おお……」
……試練を超えると言う事は決して容易い事ではありません、ですが、
あの子達は迷い、戸惑い、苦しみ、悲しみの末……、そして必ず此処に
戻って来る筈です、希望を携え、きっと……
「セレシア様……」
どうか……、皆も祈りを……、辛い試練を超え、ジャミル達がきっと
また此処に無事に戻って来る時まで、どうか……
其所でセレシアの導きの声は途絶えたが、これまで絶望で塞ぎ込んで
いたオムイの心にも新たな希望が宿る……。
「……皆の者、聞いたな、セレシア様のお告げの通りじゃ!儂らも
このままではおられん!何も出来んが、此処でジャミル達が無事に
戻って来るのを願い、祈りを捧げ、皆で帰還を待とうではないか!」
「「おおおーーっ!」」
オムイの元、集まっていた天使達も歓声を上げる。其所に……。
「オムイ殿、話は聞きました、へへ、俺の所にも女神様のお声が
聞こえたんでさあ!」
「おおっ、アギロ殿!貴殿も是非お願いしますじゃ、ジャミル達の為に、
どうか、ご一緒に!」
「勿論でさあ!……けど、サンディの野郎、中々戻って来ねえと
思ったら……、ま、アイツにも今頃いい刺激の修行になってん
だろうな!」
アギロもオムイ達の中に入り交じり、ジャミル達の無事の帰還の
祈りを捧げるのだった……。
……ジャミル、どうか……、試練を超えて……、そして、願わくば、
どうか……、あの子の事もお願いします……
再び、異世界……
「モン、モン、モン、……フンフン……」
ジャミル達は、広がっているモンの鼻の穴を頼りに、カナトの家までの
道のりを歩いていた。すっかり、犬と貸しているモン。……見守りながら
後を付いて来ているメンバーは何となく、不安が過ぎっていた……。
行けども行けども、相変わらず同じ様な草原が只管続いている。
「本当に大丈夫なのかなあ~……」
「ダウド、そう言わずに……」
「そうよ、もう大分歩いてるし、きっと大丈夫よ!」
「モンっ!?」
モンがぴたっと立ち止まる。見守りながら歩いている他の
メンバーも反応する。
「な、何かピンと来るモンがあったかっ!?」
「あはは~、無理無理、だって所詮デブ座布団だもん~!」
また少し機嫌が良くなったのか、サンディが飛び出して来る。
アルベルトは慌てて、サンディに、しっ……!の、ポーズを
取るが……。
「……トマト食べ過ぎて、もううんち出そうモン、モン~……、
さっきからおならも止まらなくなってるモン……」
「あ、ああ~……」
頭を抱える他のメンバー……。やっぱこんなモンよネとケラケラ笑う
サンディ。モンは前作マスコのチビと違い、ちゃんと一人で排泄は
出来るが、ジャミルは顔に青筋が浮き出て来た……。
「駄目よっ、ジャミルっ!さ、モンちゃん、いいから済ませてらっしゃい……」
「モォ~ン……」
アイシャに宥められ、モンは申し訳なさそうにふよふよと何処かへ
飛んで行った。
「……おい、なるべく近くでやれよ!遠く行くなよ!」
「モンブー!」
此処に来て、又バラバラになるのはもう勘弁してくれと考え、ジャミルが
モンに厳重注意。処が……。
「「モギャーー!!」」
「……な、何だ、何だっ!?」
「今のは……、モンの悲鳴だっ!!」
どうやら、モンに何か遭ったのは間違いない。異様なモンの悲鳴を
耳にし、4人は身構える……。途端……。
「グッへ、ヘッヘッへッへ……」
「……モンっ!!」
現れたのは……、ギガンテス……。ギガンテスはぐったりしている
モンの耳を掴んで逆さまに持ち上げ、シェイク、シェイク……。
どうやら、排出中に襲われて?しまったらしい。
「こ、この世界って……、モンスター、巨人族だらけなのかな、
質の悪い……、あ!」
ダウドがそうぼやくと同時に、ギガンテスが地団駄を踏む。すると、
またまた援護にサイクロプス、動く石像数体が助っ人に現れ、4人は
あっと言う間に周囲を取り囲まれ、動けなくなってしまう……。
「だからっ、油断しちゃダメなんだってバっ!どーすんの、ジャミ公っ!」
「戦うしかねえだろが!モン、待ってろっ!」
「そうよ、私達も魔法力が戻ったんだから!」
「けれど、何だか久しぶりだね、僕ら揃ってこうして真面に
戦えるのは……」
「頑張りま~す……、モ、モンを助けなくちゃ……」
しかし、モンを捕まえているギガンテスは、こいつを握り潰して
やるぞとばかりに手に力を込める仕草を……。先に、モンを助ける
事が第一である……。
「ジャミル、大丈夫だよ、此処は僕らが……!」
「っ!」
アルベルトの言葉に、咄嗟にまだ自分は力を取り戻していない事を
思い出し、焦るジャミル……。だが、今の自分の持っている力でも、
使える力は何かきっとある筈だと……。
「……火吹き芸だっ!どうだっ、この野郎!!」
「ジャミルっ、……下がっててよおーーっ!!」
「あい……」
ダウドに怒られるジャミルさん……。何で俺がこんな目に……。と、
考えると、顔からも火が出そうになった……。
「「……イオナズンーーっ!!」」
「え、ええ……?」
突如、何所からか……、謎の大爆発が起こり、巨人モンスター達は
一瞬にして巻き込まれ、哀れ、消滅……。戦おうとしていた仲間達も
唖然……。一体又目の前で何が……。起きている現象に訳が分からず、
立ち尽くす……。
「い、今の、アイシャがやったんでしょ……?ネ……?」
サンディは少しガクブルしながらアイシャに返答を求めるが、
アイシャは慌てて否定するのだった……。
「ち、違うわ、私じゃないわ、ま、まだ習得出来ていない魔法よ、
それに、私の魔法力よりも凄く強い、段違いの魔法の威力だったと
思うわ……」
「じゃ、じゃあ、一体誰がやったって……、……そ、そう言えば、
モンはっ!?」
ジャミルの言葉にはっとし、慌てる仲間達……。モンを捕まえていた
ギガンテスも、瞬く間にイオナズンに巻き込まれ、消滅してしまった
からである。
「大丈夫だよ……、モンは無事だよ……」
「……?あ、あっ!?」
又誰かが現れた……。其所に、静かに立っていたのは……。
「「……カナトっ!!」」
4人は一斉に叫ぶ。カナトは気絶しているモンを静かに胸に抱き、
皆の所へ……。
「……カナト、おま、何で急にいきなり居なくなったりしたんだよ、
黙って……、俺ら心配したんだぜ!?」
「……」
だが、カナトは無言で抱いていたモンをジャミルに手渡す。その後も、暫く
何も言わず……。
「待って、ジャミル、その前に……、カナト、君に聞きたい事があるんだ……」
「何?アルベルト……」
「先程の魔法は……、君が……?」
「!!」
カナトは再び押し黙る。そして、ジャミルもすっかり忘れていた事を
思い出す。最初の頃、彼が自分を助けてくれた時の事を。あの、異様な
強さを思い出す。カナトが失踪してしまった事ばかりを気に掛け、一番
肝心な事を忘れていた。けれど、今、ジャミルはその事よりも、何故
黙って姿を消してしまったのか、やはり其方の方が知りたかった……。
「僕も、迷ったんだ、でも、ジャミル……、やはり君が力を求めて
異世界から来た者達だと確信した以上、僕ももう隠せないから……、
でも、本当は間違いであって欲しかったって、思ってる、今でも……、
何かの異次元事故に巻き込まれて、それで……」
「お前、だから、何言って……」
「カナト君、本当にどうしたの?ね、私達で良かったらお話しして?
皆、仲間よ……」
「アイシャ……、僕、こんな幸せな出会い、経験したくなかった、
出来るなら……、皆に……」
「……カナト君……?」
アイシャの言葉に、カナトは下を向く。身体も震えている。何かを
堪えている様だった……。
「な、何か……、やばくネ?アタシの感だけどさあ~、やっぱやばいよっ、
この子っ!」
「……そうだよ、サンディ、君の言う通りだよ、この姿は侵入者達を
試す為の仮初の姿、そうさ、僕は本当はこの世界の守護神、ガーディアン
なのさ……、創造神、グランゼニスが創りし、封印されたもう一つの世界、
……それが此処なんだよ……、僕は人間の姿になり、人間と同じ様に生活を
しながら、この世界で一人、長い時を待った……」
「まさか、この世界……、セレシアの親父が創った……?世界
だってのか……?しかも、お前……」
ジャミルはカナトの方を見る……。カナトのあの強さの訳が漸く
分かり掛けてくると同時に、途端に又異様な……、不吉な違和感が
ジャミルを襲い始める、だが、まだまだカナトに聞きたい事は山ほど
あった……。
「あの……、聞いていい?踊るフラワーロックモンスターも
グランゼニスって人……、神様の趣味な訳?」
「……ダウド、今はそんな事どうでもいいんだよっ!」
アルベルト、ダウドをバシッと叩くが、ダウドは不服顔……。話が又、
ふざけ方向に行きそうになるが、全然そんな状況ではなかった……。
フラワーロックは本体がまあ、アレなので、一応は凶悪モンスターの
部類に入っている……、のか、何だか。
「それじゃあ……、カナト君も……、神様なのね……?」
「……まさか……」
アイシャの言葉にジャミルもはっとする……。もし、そうならば、
カナトのあの力の出所も頷けるが、カナトは黙って首を横に振った。
「違うよ、僕は……、ドラゴンなんだ……」
「「ドラゴンっ……!?」」
「そう、いつか来る、人間達を襲う厄災に立ち向かいし勇者が
現れし時、その日まで……、伝説の武器と防具を守る事、僕は
その為にこの世界と同じく、創造神グランゼニスに創られ、
誕生したドラゴンさ、やっと、伝説の装備を渡せる相応しい者が
現れた、ジャミル、目覚めし女神セレシアに召喚されし者、僕も
認める、ガーディアンとしてね……」
「カナト……」
カナトはジャミルの方を見る。だが、これまでのカナトの和やかな
表情と違い、その顔は険しかった。まるで、ジャミルを睨んで
いるかの様だった。
「ちょ、待ちなよっ!早い話が、アンタ……」
「……そうだよ、サンディ、僕はジャミルと戦うんだ、この世界の
守護者として……、君の最後の試練さ、本当に君が伝説の装備の
継承者に相応しいかどうか……、試させて貰う、それが僕の役目……!!」
「……うわあーっ!な、何でっ、こんな……、又急展開にーーっ!?」
「カナト君っ、待って!ジャミルは……」
「カナト……、まさか、ジャミルのLVと力を奪ったのは……、君……、
なのか?」
「……違うよ、ジャミルはこの世界に召喚された時、自らで自身の力を
忘れただけさ……、此処に来ると最初はそうなってしまうんだよ、君の
LVも力も、奪われてはいないよ、君の中から力を感じるよ、確かに……」
「……わ、忘れたっ!?俺が!?……自分でっ!?」
「そう……」
カナトは今度は遠い目でジャミルを見る。昨日まで明るく笑っていた
カナトにもはや笑顔は見られなかった。……自分の使命と向き合う時が
訪れたからなのか、今までのカナトの笑顔も全て偽りだったと言うのか……。
「痴呆が始まっちゃった……、って、事……?」
「うるせーよっ、バカダウドっ!!け、けど……」
錯乱するジャミル……。益々分からない事が多くなってしまう。
「で、でもっ!……私達はLVと力をモンスターに奪われたの、
そして、戦って、自分達の力で取り戻したのよ!」
「……本当は君達だって、忘れていただけだよ、その上で、モンスターから
LV、力を奪われたんだ、それはこの世界に起きている、異変の所為さ……、
結果的には君達にも別の意味で試練になったのかもね……」
「……えっ!?」
カナトの言葉に又も衝撃の事実が……。皆は慌ててカナトの話に
耳を傾ける。モンスターから、LV、能力を奪われたのは……、
予期せぬ出来事だったと。女神セレシアが自ら世界樹に姿を変え、
この世界の創造主であるグランゼニスも行方不明になり、この世界を
守っているオーラの力が途絶え、伝説の装備を破壊しようと余計な
モンスターも侵入して来ている……、との事。カナトは侵入者の
モンスター達を排除しながら、たった一人、この世界を守っていた。
伝説の装備を渡せる主が現れる、その日まで……。
「しつこい、何度来ても……、お前達には絶対渡さない……」
「そうか、あの時も、俺を助けてくれた時、現れた奴らも……、
伝説の装備品を狙って……、そうだったんだな……」
「……此処に侵入して来るモンスター達は、誰かがこの世界に送って
来ているんだ、恐らく、帝国と言う処からだと……、けれど、その
送り主の主が僕には誰なのか分からない、こんな事、もう数100年は
続いているよ……」
カナトにそう言われ、4人の脳裏に咄嗟に浮かんだのはエルギオスに
いい様に扱われていた帝国の主……、ガナサダイではなかったかと。
エルギオスが恐らくこの世界の存在を知り、ガナサダイを影で操って
いた頃から、奴にモンスターを送り込ませていたのかも知れないと。
帝国も滅び、鎖を解かれ、自由を手にしたエルギオスが今度は自らの
手でモンスターを送り始めたのではないかと……。あくまでも4人の
想像であるが、もし、そうならば、奴、……エルギオスの魔の手は
こんな異世界にまでどんどん侵攻していると……。
「僕からの話はこれで終わりさ、さあ、ジャミル、後はキミの力を
見せて貰うだけ……、早く何もかも終わらせて、キミ達の世界へ
帰るんだ……」
「へ?……!!!うわわわ、ちょっと待てっ!カナトっ!!アイシャ、
これっ!」
「……きゃっ!?」
「うにゃモンブ~……」
ジャミ公は慌ててモンを今度はアイシャに手渡す。カナトは銅の剣の先を
ジャミルに向ける。本気でジャミルと戦う気である……。
「カナト君、落ち着いて!その……、さっきも言ったけど、
ジャミルの力はまだ完全に戻っていないのよ、モンスターに
取られたんじゃないとしても……、このままじゃ無理よ、
戦えないわ!」
「……そ、そうだよお!」
「な、なんか、マジヤバなんですケド……」
「カナト、もう少し待って欲しい、ジャミルにももう少し考える
時間が必要だよ……」
「大丈夫、戦っていればきっと力も取り戻せる、……躊躇している
時間はない筈だよ、来いっ!ジャミルっ!!」
「カナト……、そうかい、んなに言うならやってやらあ!俺を
なめんなあ!掛って来いやっ!」
「……ジャミルっ!ま、又君はっ!無茶を言うっ!!」
いつもの悪い癖が出、ブチ切れ始めたジャミルにアルベルトが
慌てるが……。こうなるともうどうにもならない……。そして、
ジャミルを挑発しているカナトの姿が……。
「あああっ!あれ見てよおっ!」
「……カナト君っ!?」
「うそ、マジ……?」
遂にカナトが本性を現す……。先程まで其所にいた、少年の姿では……、
なく、巨大な黄金のドラゴン……、ゴールドドラゴンに姿を変えた……。
「そう、これが僕の本体さ……」
「カナト……、君は本当に……」
唖然とするアルベルト……、の、横で……、このお方はいつも通り
パニックになる……。
「あ、ああああ!あんなのっ、幾ら何でもジャミル一人で
勝てっこないじゃん!しかもまだLV1のまんまなんだ
からさあ!何考えてんのおーーっ!!」
「……カナト君、お願い、止めてっ!!」
「いいんだ、ダウド、アイシャ、俺は大丈夫さ、心配すんな……」
「……ジャミル……」
アイシャを片手で制し、ジャミルがカナト……、ゴールドドラゴンの
前に出る。……二人は互いに睨み合う……。
「覚悟は……、出来たんだね……?」
「ああ……、行くぞっ!カナトっ!いや、……ゴールドドラゴンっ!!」
「……」
「「ジャミルっ!!」」
「ああ、も、もう~、アタシ、見てらんないし~!」
……皆が見守る中、ジャミルはゴールドドラゴンに突っ込んで行った……。
だが、結果は誰が見てももう一目瞭然であった……。
「……うわああああーーーっ!?」
「……」
ジャミル、ゴールドドラゴンが吐いた炎にあっさり包まれ……、
そのまま地面に倒れ、意識を失う……。
「大丈夫だよ、今のはそんなに力を入れていない筈だから……」
「……ジャミルううーーっ!!」
「……ジャミルっ、ジャミルっ、しっかりしてっ!やっぱり無茶よ、酷い……」
「ダウド、直ぐに回復魔法を、ジャミルにっ!!」
「……うんっ!」
「そうだね、まだ、僕とはちゃんと戦えないみたいだね……」
「!?……あ、当たり前じゃないかあ!!こんなの……、こんなのっ!!
い、幾らジャミルがアホだからって……、この状態じゃ戦うのは
無理だって、わ、……分かってるのに……」
ダウドはあっさりと言い放つゴールドドラゴンに強い口調で言い返す。
その声は震え、……涙声であった……。
「ジャミ公、もう~っ!アンタ一体、何回死にそうになんのッ!
もう~~!カナトっ、やっぱアンタもっ!……真面目そうに見えて……、
弱い者イジメする奴だったのっ!?……サイテーじゃんっ!!」
サンディもゴールドドラゴンを怒りの形相で見つめる……。彼女も
もう、何回もぶっ倒れる相棒に、どうしていいか分からず、爆発する
寸前であった……。
「違う、僕が言っているのは……、ジャミルには迷いがあるからだよ、
LVの問題じゃないんだ、……彼は僕と戦うのを何処かで拒否してる……、
そんなんじゃ、真面に戦える訳がないんだ……」
「……当たり前じゃないのよっ!!」
「……」
「……ジャミルは……、あ……、なたの事、……カナト君の事、
大切な……、友達だって言ってたもの、いつもとっても楽しそうに
お話してくれたの、カナト君の事を……、それなのに、いきなり
戦えなんて言われたら……、友達思いで優しいジャミルは……、
迷うのが、戸惑うのが当たり前じゃない……、戦えっこ……ない……」
「……」
アイシャも……、ゴールドドラゴン……、カナトに向かって強い
口調で怒りをぶつけるが、最後には言葉が出なくなってしまうの
だった。傷付き、倒れたジャミルの頬の上に彼女の涙が一滴……。
「それでも……、キミ達は世界を救う為に此処に送られたんだろう?
もう一度言う、迷わないで……、それをどうか忘れないで欲しい……」
「……」
「ジャミルに……、伝えて……、もう少し時間をあげるよ、本当に
戦う覚悟が出来た、その時は僕を呼んで……、僕はいつでもキミ達の
前に姿を現すから……」
「……カナト君っ!?」
アイシャが振り向いたその時は、既にゴールドドラゴンの姿はその場から
消えていたのだった……。
「アイシャ、ジャミルの事はダウドに任せて、僕らも少し休もう、君は
まだ病み上がりなんだから、ね……?」
「うん……」
アルベルトに励まされ、アイシャが涙を拭う。ダウドはアイシャに
向かって、大丈夫だよお、と笑みを見せてジャミルの治療を続けた……。
そして、ダウドの必死の集中治療魔法により、数時間後には無事復活を
果たした……。4人は再び、川縁周辺で夜を越す事に……。
「……皆、悪ィな、いつもいつも同じ事ばっかでさ、へへ、俺ってホント、
どうしようもねえ……」
「いんやっ!今回絶対悪いのはあの問答無用のハラグロゴールド
ドラゴンっしょ!アンタが弱いって分かってんのにさあ~!
アッタマ来るっ!も~、セレシアもセレシアっ!やっぱこんな
無理クソゲーフン詰まり的ゲーな試練はも~止めた方がイイってっ!
時間も押してるし、アタシはとっととも~、元の世界に帰るのが
イイと思うッ!」
……サンディ、噴火して興奮し、途中の言語が少しおかしくなって
来ている。だが、やはりジャミルにも本当に迷いがあった。カナトと
戦う事を……。心の何処かで躊躇っている自分に気づいていた……。
「ぐ~、ぐ~、ふにゃあ~……、オイラもう本日のMPは
0で~す……、本日の診察はシャットアウト……、ふにゃ……」
「ジャミル、僕らも今日は休もう、ダウドも君の為に、一生懸命
頑張ってくれたし、……」
「……アル、けど、俺……」
「ジャミル、休も?ね?今は何も考えちゃダメ、……ね?」
眠ったままのモンを抱き、ジャミルに微笑むアイシャ。しかし、
また彼女の瞼が赤く腫れ上がっているのが分かり……、ああ、
ま~た俺、やっちまったんだなと……、申し訳なさで改めて
自己嫌悪に陥る……。
……その日の夜中。辛い戦い続きで、精神的にも疲れてしまった他の
メンバーは既に就寝していたが、ジャミルだけは一人、目を覚し、少し
皆から離れた川縁で星を見上げながら仰向けに寝っ転がって考え事を
していた。……勿論、精神的に心も体もボロボロなのはジャミルも同じ。
幾らダウドに傷を治療して貰ったとは言え……。
「ジャミル……」
「お?モン、お前もやっと目、覚したか、良かっ……」
「……モォォ~ンッ!!」
其所にモンが現れる。モンは泣きながらジャミルに飛びつくの
だった。
「おいおい、どうしたんだよ!」
「皆から……、お話聞いたモン、アイシャ、泣いてたモン……、
や~モンや~モン!カナトとジャミル、戦っちゃ嫌モン!仲直り
してモンー!……モン、カナトもジャミルも大好きモン~……」
「あいつら……、いつの間に……、ま、まあ、何れ分かる事だしな、
しゃ~ねえや……」
「モン~……」
ジャミルは自分の膝の上に乗って来たモンの頭をぐじゃぐじゃ撫でた。
こんな我侭で、お調子者で泣き虫でアホで短気ですぐ屁をする優しい
モンスター、見た事ねえや、一体誰に似たんだかと笑いながら……。
「じゃ、もう……、試練止めて……、帰るか……、冗談だよ、そんな事
出来ねえっての、あいつらはちゃんと試練を乗り越えたんだ、俺一人だけ
逃げる訳にいかねえよ……、モンもそんな顔すんなっつーの!ほれほれ!」
「う、にょおお~……」
ジャミルはモンのほっぺたを掴んで横に伸ばし、遊び始める。
だが、心の中の本音は……。もし、自分が冗談でカナトに
勝った場合、カナトはどうなってしまうのだろうか……。
どうしていいか分からず、戸惑いのまま……。
「カナト……」
「みょ、にょ、にょ、……うにょおおーーー!!」
「あ、悪ィ、つい……、つかみ所が良くて……」
「モンブーー!!」
ジャミ公は笑いながら慌ててモンの頬から手を放した。又モンの頬、
伸びてしまう……。だが、根が元々お気楽なジャミ公は、モンと
遊んでいる内に癒やされ、単純な考えの答えを出してしまうのだった。
……これで大丈夫だと。
「モン、大丈夫だ、カナトとは戦わねえ、だからオメーも安心しろ、
大丈夫さ、だから早く今日は寝ろ……」
「ホント……?」
「ああ、さ、俺ももう寝るからよ、な?」
「モォ~ンっ!」
飼い主も飼い主なら、相棒もこうなので……、モンは安心してコロっと
眠ってしまい、ジャミルも眠ってしまった。……ジャミルが出した答えを
カナトが素直に承諾する筈が100パーある訳がなかった。それでも、
ジャミルは……。
……俺は、幸い、……LVも能力も変なモンスターに奪われたんじゃない、
自分で忘れてるだけなんだ、だから……
「……えっ?カナト君と、戦わない……、の?」
「ああ……」
「それはどう言う事なんだい……?」
「何かいや~な予感がするなあ~……」
「アタシも……、アンタ見てると、うさんクサッ!」
翌日……。ジャミルは夜中、考えていた事の答えを仲間達にも話す。
皆は本当にそんな方法があるのかと不思議そうな顔をしていたが……。
「私はジャミルを信じるわ、戦わないで何とか出来る方法があるなら……、
その方がいいもの……」
「そりゃ、僕だって、そんな方法があるのなら、その方がいいと
思うけれど……」
アイシャはそう言うが、やはりアルベルトも又眉間に皺を寄せる……。
「プープー!ジャミルとカナト、ケンカしちゃダメなんだモン!」
「大丈夫だって、別に俺達、ケンカしてる訳じゃねえんだ、夜中にも
言ったろ?心配すんなよ!」
「……うわ!」
ジャミルはモンを抱き上げると、ヘタレの頭の上に乗せる。そして、
よしっ!と、一人で勝手に頷いて、納得。
「な~にが、ヨシなんだか、んじゃ、早くカナトのボウヤ、さっさと
呼んだら?」
「……けど、やっぱりなあ、オイラ達と戦った敵と……、ジャミルの
相手って、差があるんだよねえ~、変なフラワーロックとゴールド
ドラゴンじゃ……、圧倒的にあっちの方がかっこいいじゃん、ブツブツ……」
「……じゃあ、オメーもゴールドドラゴンと一戦チャレンジするかい……?」
「!!!ぎゃあーっ!いいですーーっ!すいませーーんっ!!」
「……」
……と、普段ヘタレる癖に、たまに飛び出る文句はイッチョ前の
ヘタレ君でありました……。
「カナト、出て来てくれ、頼む……」
ジャミルは何所にいるか分からないカナトに呼び掛ける。すると……。
「やあ!」
「!?」
ゴールドドラゴンでない、人間ver少年の姿のカナトが姿を現す。
何故か又最初の頃の様にあの、ニコニコ笑顔のカナトである……。
「ジャミル、僕を呼んでくれたって事は、覚悟が出来たのかな?」
「ん~、そう言うんじゃねえんだけど……」
「じゃあ、何?」
「……あのな……」
ジャミルはカナトの顔を見つめた。見守る仲間達の表情にも緊張が走る……。
「お前が守ってるって言う、伝説の装備品、要らねーわ、貰うの遠慮するわ……」
「「えええーーっ!?」」
「モンーーっ!?」
「ちょ、バカっ!ジャミ公っ!やっぱアンタっ!な、何考えてんのーーっ!!」
「ジャミル、キミは……」
「別にんなモン、貰わなくたって平気だ、どうにかして、自分のLVと
力だけは別の形で取り戻すわ、そうすれば俺の試練になるんだろ、んで、
元の世界に帰るよ、そうすれば……」
そう、これが夜中、単純ジャミルが考えついた答えだった。伝説の
装備品の後継者になるのを辞退すれば、カナトとも戦わなくて済む、
そう思ったのだった……。
「ジャミル、キミがそんなに弱虫だったとは……、もう、完全に
見損なったよ……」
「おい、カナト、んな顔すんなよ、話聞け……、お、おおお?」
「……」
カナトは静かに目を瞑り……、そして再び、自身の姿をゴールド
ドラゴンへと変えた……。
「だからっ!落ち着けってのっ!オメーもっ!……案外気が短えなあ!」
「カナト君、昨日も言った通りよ!ジャミルは弱虫なんかじゃないの、
あなたと戦いたくないの!カナト君と争いたくないから……」
「カナト、お願い、止めてモォ~ン……」
……ゴールドドラゴンに必死で訴えるアイシャ……。そして、
切そうなモン……。だが、ゴールドドラゴンはそれらを振り切り、
強い口調で話す……。
「ダメだ、それじゃダメなんだよ、アイシャ……、そうじゃなければ……、
キミ達がセレシアに認められて此処に呼ばれた意味がないんだ……」
「カナト君……」
「な~んかさあ、もう、カナトって子と、ゴールドドラゴン、もう
完全にコレ、別人て考えた方がいいんじゃネ?ネ、アルベルト……」
「ジャミル、……カナト……」
「……はわわわーーっ!?」
そして、パニックになるダウドを必死で押さえつけようとする
アルベルト……。ゴールドドラゴンはジャミル達を鋭い形相で
睨んだままである……。もしもこのままジャミルが頑固に
自分との戦いを拒否し続ける様なら……、ゴールドドラゴンも
最後の体勢に入ろうと考えていたのである……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 85