zoku勇者 ドラクエⅨ編 84

カナト ……act1

「さあ、アルベルト、大人しく私に従いなさい、無駄な抵抗は止めるのです、
私と戦うなどと愚かな考えを捨てなさい。そうでなければあなたが偽りの友と
慕うあの者達がどうなるか……」

「……姉さん……」

アルベルトは悲しそうに姉の幻影、そして、触手に捕らえられて
いる仲間達とを交互に見る……。迷っている暇は無い。一刻も早く
ジャミル達を救わねば……。アルベルトは震えながらディアナと
一戦交える覚悟を決める……。

「……やはり……、お前は幻、偽物だっ!僕の大切な姉さん
なんかじゃないっ!!」

「そう、それならばそれでいいわ、あなたが決めた事ならば……、
けれど、あの者達を捕らえている薔薇の棘には毒があるのよ……」

「……!?」

アルベルトは直ぐに捕まっている仲間達の方を振り返る。確かに、
既に毒が回り始めているのか、表情に生気が無くなって来ている……。

「じわじわと、毒が体中を覆い尽くし、何れは死んでしまう事
でしょう、可哀想に……、私に従えば直ぐに解放してあげるのに……、
アルベルト、あなたは本当に愚かだわ!」

「……ううっ、み、皆っ!!」

ダウドなら、キアリーが使える為、これぐらいの毒は直ぐに
魔法で中和出来るだろう。だが、本人も捕らえられ、魔法の
使えない状態であり、どうする事も出来ない……。アルベルトは
その場に突っ伏す……。そんなアルベルトを見、ジャミルが
苦し紛れに声を絞り出した……。

「アル、オメー、マジでつまんねー処でアホだな……、早く……、
戦えよ、何を迷ってんだよ……、あんなん偽モンだって
言ってんだろが……」

「……モン、モンは偽モンじゃないモン、モンだモン……」

「ジャミル、でも……」

「俺らは手出しする事は出来ねえ、けど、苦しみを一緒に分かち合う
事は出来る、お前の苦しみは俺らも一緒だ……、だから……」

「……ジャミ、ル……」

「そうだよお、……ヘタレのオイラだけど、大丈夫、耐えて見せるから……、
頑張るよお……」

「そうよ、アル、そんな顔しないの、信じてるからね……、アルは
絶対負けないって……」

ダウドでさえも頑張ると言ってくれている。折角体調が完治したと
言うに、アイシャは又辛い思いをしているだろう、それでも、
アルベルトに笑顔を見せ、応援してくれている……。

「ちゃんと悪いのやっつけたら、一緒にカナトのトマト食べたいモン……」

「うん、モン……、そうだね……」

「アタシも……、ううう~っ!とにかくっ!さっさとやっちゃいな
さーーいっ!アルベルトーーっ!!」

「サンディ……、うん……」

「アルベルト、どう?私に従う気になった……?……」

「……」

アルベルトは無言で再びディアナの幻影……、嫌、偽物に近づくと、
鋭い目で敵をキッと睨んだ……。

「お前はやっぱり偽物だ、姉さんじゃない、非力な僕の背中をいつも
押してくれる友達の為にも……、もう迷わない……!」

「そう、じゃあいいわ、覚悟なさい、奴等がもうどうなっても
構わないと言うのね、やぱりあなたは騎士失格だわ、イスマスの
恥知らずよ、アルベルト……」

「……くっ、何とでも言え、僕の記憶を利用し、大切な姉さんを
囮に出して戸惑わせ、皆を酷い目に遭わせたお前だけは許さない……」

「「……ああああーーーーっ!!」」

「……み、皆っ!くっ、……」

棘ツタは更に仲間達の身体を締め上げ、毒を身体にどんどん
送り込んで行く……。しかし、後ろを振り返っている暇は無い、
自分に出来る事は一刻も早く偽物のディアナを倒す事……。
それが仲間を救う近道なのだから……。

「ホホホ、このままでは奴等も何時まで持つかしら……、素直に
私に従わないから……、こうなるのよっ!……アルベルトォォーーっ!!」

「……っ!!」

偽ディアナは更に別の触手を凄いスピードでアルベルトに向けて
伸ばして来る。自分も捕まったら終わりだ、だが、トロい自分に
避け切れるかと……。

「……僕は、負けないっ!!皆を守りたいっ!!どうか力をっ!僕にっ!!」

アルベルトはかっと目を見開き、伸びて来る触手を睨む……。途端に
アルベルトの身体から光が溢れ出すと同時に、飛んで来た触手が
醜く干からび、地面へと落ちた……。

「……こ、これはっ!?何がどうなっているのっ!?……こ、こんな事、
お前は……」

「この力は……、僕の手の中に……、感じる……、新たなフォースの力……、
それに……」

そして、溢れて来た新たな力と魔法力を感じ……。気が付くと、装備品
一式が元に戻り、ドラゴンキラーも手にしていた。アルベルトにもLVが
戻ったのである……。

「おおお、おのれ、小僧がぁ……」

既に目の前から姉の幻影は消えており、正面には顔を押さえ、
ディアナとは似ても似つかぬまるで醜い姿のまるで老婆の様な
女がいた……。フォースの力が幻影を打ち消したのである……。
これで、戦いへの躊躇いも完全に消えた……。アルベルトは
静かに祈ると、弓を構え、力を込める……。

「……大地に宿りし力よ……、どうか、僕にも力を……、ライトフォースっ!」

アルベルトは光の力を纏うと弓を引き、五月雨撃ちを敵に連発……。
絶叫し、苦しみながら光に包まれて行き、浄化されて行く、元……、
姉の幻影……。

「……おのれ、おのれ、おのれええーーっ!く、くそっ、お、覚えて
いろォォォーーッ!!」

「……僕は、もっともっと強くなりたい、いつか……、本当の姉さん、皆を
守れる様に……、もっと、もっと……、必ず……」

「おーい、アルーーっ!」

「ジャミル、皆!」

アルベルトがフォースでディアナの幻影を打ち消した事で、ジャミル達も
既に触手から解放されており、急いでダウドに回復して貰った様だった。
駆け寄って来る仲間達の無事な姿を見て、アルベルトの目頭が熱くなった。
僕も等々試練を乗り越えられたのだと……。安心感と実感が沸いた……。


そして、3人目の仲間が無事試練を超え、動き出す者が此処にいる……。

「……そうか、ジャミル、やっぱり君が……、僕も愈々……、でも……」

声の主は何かを決意した様にそう呟き、静かに立ち上がるのだった……。

「これで、僕達は皆、力を取り戻せたんだね……」

「うん、ジャミル以外……」

「……」

ジャミルは上目遣いでアルベルト、ダウドの方を見る。等々、自分
一人だけ、布の服、ひのきの棒だけになってしまった……。

「ふんだ、いいも~ん、……俺、これだけだっていいんだも~ん……」

「モォ~ン♪」

「ジャミルったら、落ち込まないの!きっともうすぐ、ジャミルの力も
元に戻るわ、大丈夫よ!」

「……そ、そうかな……」

「♪うんっ!」

ジャミルは自分を励ましてくれるアイシャに顔を赤くする。そして、又……。

「あッ、やっらしー!ジャミ公っ!」

「……あ、み、見るなってんだよっ!ガングロめっ!」

「アンタらもう、畑で麦畑でもデユエットしてなさいってのっ!
やってらんネ!」

「ちょっと!サンディっ!?」

「……おおーいっ!?」

サンディはケタケタ笑い、ジャミ公を構うと、ジャミ公の中へ逃走。
慌てて股間を押さえるジャミ公の姿にアルベルトとダウドは呆れる。
が、何でそんな歌、コギャルのサンディが知ってるんだろうとダウドは
益々彼女にも訳が分からなくなった。

「モォ~ン、でも、……モン、ごめんなさい、我慢したけど……、
お腹ペコモォ~ン…、我慢出来ないモォ~ン……」

「……あっ、モンちゃんっ!?」

モンはアイシャの胸の中へ……。余りにも空腹を我慢しすぎで遂に
限界が来、倒れてしまう……。腹が空き過ぎているのは、此処にいる
メンバー全員同じだった……。

「よ、よし……、俺の事は一先ず置いといてと、今度こそ大丈夫だな?
アルも、カナトの処まで……、いいか?」

「う、うん……、僕はもう……、でも、僕の所為で……、皆、
本当にごめん……」

「けど、さっきも言ったけどさあ、その、カナトって子の家まで
どれくらい掛るの……」

「だから、それは……」

再びダウドに問われ、冷や汗を掻くジャミル……。本音は、カナトの家を
出て来た時も、がむしゃらに歩いていた為、しかも、同じ様な景色も延々と
続いている為……、只でさえ地図も無い、訳の分からんこの異世界、一体
どうやったらカナトの家まで戻れるのか、メンバーにどう説明すればいいのか
不安を覚える……。

「ジャミル……」

「……あん?おおっ!?」

「モンっ!?」

ジャミルの前に突如現れた人物。小柄な体格の少年。カナトである……。
カナトが目の前に現れたのだった……。

「モンも、久しぶりだねえ!」

「……えええーーっ!?」

カナトに会えた事よりも、そんな唐突な……、と、ジャミルと
モン以外のメンバーは変顔で放心状態。騒ぎを聞きつけ、サンディも
又飛び出して来る。

「うそうそっ!何ナンっ!?……あ、アンタが噂のカナト君!?うわ、
マジ、ちっちゃああ~いっ!」

「妖精さんもやっぱり友達だったんだね、可愛いね、初めまして、僕、
カナトです……」

「そ、そんなあ~っ、可愛いだなんてっ!マジ、照れるじゃん!
アタシ、サンディ!アンタのコト、気に入っちゃったよ、ヨロシクネ♪」

「うん、此方こそ、宜しく!」

「えーとえとだな、……カナト、その、よう……、うわわわっ!?」

何故、此処にいるのか、ジャミルが訪ねようとした矢先、放心状態
だった他のメンバーも暴走し、ジャミルを押しのけカナトに突撃。
自己紹介を始めた……。

「私、アイシャ!ジャミルの友達よ!宜しくね!うふっ!」

「お、お、お、……オイラはダウド!オイラ、ジャミルの昔からの
親友なんだ!オイラとも友達になってね!えへへ~!」

「初めまして、僕はアルベルト、君、僕らより年下みたいだけど、
凄くしっかりしているみたいだね、ジャミルがお世話になった
みたいで、有り難う……、その、ジャミルはご迷惑お掛け
しなかったかな?」

「アイシャ、ダウド、アルベルトだね、皆、此方こそ宜しく!僕も
ジャミルから話は聞いていたけど、会えて嬉しいよ!うん、大丈夫
だったよ、ジャミルと一緒にいて、とっても楽しかったから!ジャミルは
凄く明るいしね!」

「それを聞いて安心したよ、良かった……、もしも暴れて君の家の
何処か破損してたら、どうしようかと思ったよ……」

「……あはは?」

「……うるせーよっ!腹黒っ!!」

アルベルトはほっと胸をなで下ろす、だが、はね除けられて
面白くないのはジャミ公である……。カナトも、主に皆の事を
ジャミルから聞いたのは、本人の寝言からだと言う事は黙っていた。

「モォ~ン、でも、カナト、何で急に此処にいるモン?」

「……あっ!」

それはジャミ公が聞こうとしていたのだが、モンに先を越される。
カナトは変わらぬ人懐っこい、ほんわかした笑顔を見せた。

「うん、お散歩!」

「モォ~ン?」

「……はい……?」

「又、新しい野菜が採れたから、ジャミルに会えると良いなあと
思って、野菜を持って散歩してたんだよ、そしたらジャミル達に
会えた!良かったー!」

……おいおいおい、だからって普通、散歩でこんな所まで偶然
来るか……?と、ジャミ公はカナトにも突っ込みたくなる……。
出会った時から、何から何まで不思議な少年カナト……。だが、
ジャミルは今こそ、再会出来た矢先、ちゃんとカナトの事も訪ねて
おかなければ……、そう思ったのだが……。

「ほら、見てっ!美味しそうでしょっ!」

「おおおおーーっ!?」

「モォ~ンっ!トマトもあるモォ~ンっ!!」

カナトは持参して来たらしい籠から瑞々しい野菜の数々を披露。
お腹の空いているメンバーも夢中になって籠を覗き込む。モンの
大好きなカナトトマトは勿論、胡瓜、ナス、人参、じゃがいも、
玉葱。……そう言う訳で、腹の減っているジャミルも又、カナトに
色々と聞くのを忘れてしまっていたのだった。そして、皆はカナトにも
手伝って貰い、野外クッキングへと取り掛かる。火はアイシャの魔法が
あるので問題なし。カナトは色んな場所を知っており、この間送られた
森とは違う場所にも案内してくれ連れて行ってくれた。其所で薪を集めたり、
野菜を焼いたり、久しぶりのご飯の準備で皆、大騒ぎだった。

「♪モォ~ン、キュウリさあ~ん、きれいきれいモン~♪」

「ちょっとデブ座布団、アンタ手が短いんだからっ、キュウリ川に
落とすんじゃないわヨ!」

「シャーー!」

「ジャミル、このトマトスープの味付け、どうかな?まだ少し
薄いかな……?」

「どらどら?……うん、美味いよ!問題ねえよ、カナト、やっぱオメー、
スゲえなあ、料理の天才だよっ!」

「そ、そんな……、えへへ……」

「うふふ、何だかキャンプみたいね、楽しいね、アルっ!」

「うん、そうだね!……って、アイシャ、……ナ、ナス、焦げてるっ!」

「……キャーーっ!?」

「もぐもぐ、……つまみ食い、楽しいなあ~……、こ、この、
焼きじゃが……、お、おいひ~い……、こ、こんなの……、
何日ぶりかなあ~……」

「……こらっ!ダウドっ!駄目じゃないかっ!!」

この世界に来て、慌ただしい日々が続いていたが、皆はカナトの
お陰で、久しぶりに楽しい時間を共に過ごしていた。ジャミルも……。
ずっとこんな時間が続けばいいなあと、思っていたのである……。

満をみたし、カナトが持って来てくれた野菜を使い、皆で作った
数々の野菜料理が出来上がる。久々の真面な食事タイムとなった。
人間達の食事が余り合わないサンディには、カナトが探して来て
くれた不思議な花の蜜から取ったジュースを。アンタ、マジで
何でも知ってんじゃん!と、サンディも甘いジュースに大喜びである。

「おいし~、やっぱりカナトのトマト美味しいんだモン!カナトマトモン!
……プッ!プッ!」

「あはは、モンてば、何それ、面白いね!」

「ムシャムシャ、ブー!」

モンを見て笑うカナト。モンの顔はトマトの詰め込み過ぎで本当に
トマトみたいになっている。

「うんうん、モンの気持ち分かるよ、美味しいーーっ!」

「モンちゃんたら、食べながらおならしないのっ!でも、野菜だから
太る心配も無いし、美味しくて幾らでも食べられるし、ダウドの気持ちも
分かるわー!」

……気持ちの連鎖。興奮し、食べながら屁を放くモンと、オーバー過ぎる
ダウドにアイシャは呆れるが、ヘルシー志向料理で、しかも美味しいと
くれば、彼女も大絶賛なんである。

「わあ、アイシャに喜んで貰えて僕も嬉しいな、ふふっ!」

「うん!」

「けど、まあ、何事も程々だっちゅー事だな、幾ら野菜だって、
詰め込み過ぎは腹に溜まる……、イテッ!」

「……ジャミルのバカっ!うるさいのっ!!」

怒りながらも食事の手を止めないアイシャ。アイシャもカナトの
野菜焼きが美味し過ぎるのか、お腹が空き過ぎているのか……、そんな
ジャミルとアイシャのやり取りを微笑ましい目で見つめているカナト。
こんな小さな子の前で、は、恥ずかしいなあ~と、言う顔をしている
アルベルト。本物のカナトを見て、小さい割に本当にしっかりし過ぎて
いるのを見たからかも知れなかった。


「美味かったあー!」

「「ご馳走様でしたーー!!」」

「♪モォ~ン!」

「シターッ!」


楽しい食事タイムもお開きになり、又夜が来る。結局、本日もこの場から
動く事は出来なかったが、カナトのお陰で皆は楽しい一時を過ごし、美味しい
食事も頂けた。サンディもすっかりご満足で就寝タイムへ、ジャミルの中へと
入っていった。

「むにゃむにゃ、モン~……」

「モンちゃんもすっかり眠っちゃった、私も凄く美味しくてびっくり
しちゃったけど、カナト君のトマトがとっても大好きなのね、……本当に
トマトみたいな顔してるわ……、ほら、ここ、カナト君も触ってみて?」

「……わあ、本当だ、何だかぽわぽわしてる……」

「♪ねっ」

「もにゃにゃにゃ~……」

モンのお腹を撫でながら笑うアイシャと、一緒にカナトもお腹に
触ってみる。本当にタプタプして感触が良かった……。

「うひひ、オイラ、も~幸せ~ん、うひひ~……、ジャミルのアホ……」

ダウドも既にお腹いっぱいで幸せ満腹状態で眠ってしまっていた。
しっかり寝言付き。

「カナト、今日は本当に有り難う、君が来てくれたお陰で、僕ら、凄く
楽しかったよ、野菜料理も最高だったよ!」

「うん、アルベルト、此方こそ……、……」

カナトは顔を赤くし、アルベルトが差し出した手を握る。カナトも、
こうして友人が増えた事を心の底から喜んでいた。それから、暫く後……。

「……ふぁあ~……」

「アル、後は俺らが片付けとくから、オメーも今日は早く身体休めろよ、
疲れてんだろ?さっきから欠伸ばっかしてるじゃんか……」

「でも……、悪いよ……」

「いいっての!鬼畜バトルで大変だったんだからよ、ほれ、早く寝ろっての!」

「そうよ、後は私達にお任せよ!」

「う、うん……、じゃあ、お言葉に甘えて……、休まさせてもらうね、
有り難う、ジャミル、アイシャ、カナト、又明日……」

アルベルトは残っているメンバーに就寝の挨拶をするとダウド、
モンの隣に横になる。疲れと満腹で直ぐにアルベルトも数分が
立たない内に夢の中へ入ってしまった。

「さてと、アイシャ、オメーも早く寝ろ、いいから……」

「え~っ!何でよっ、私もお食事の後片付けするのっ!」

「……あのな、病気の病み上がりだっちゅー事も忘れねえ様に……、
ほれっ!」

ぴんぴんデコピン×1

ジャミルはアイシャにごく普通のデコピンを噛ます。眠りのツボに
入ったらしく、彼女も直ぐに眠ってしまう。ジャミルはやれやれと
苦笑いしながらアイシャを姫様抱っこすると、ダウド、アルベルトの
隣へと寝かせた。

「にゅうう~、ジャミルのバカ……、むにゃむにゃ……」

「……うるさいっ!」

元はと言えば、今回アイシャが病気で倒れたのはジャミルとアルベルトの
大喧嘩が原因なのだが。いつの間にか張本人達も含め、しっかり仲直りして
いた為、そんな事はいつの間にかどっかへすっ飛んで行ってしまっていた。

「凄いね、それ、魔法……?」

「は、はい……?」

「だって、ジャミルが今、アイシャのおでこ突いたら、直ぐに
アイシャが眠っちゃったよ!凄いっ!」

「……はは、あ~、これはだな、その……、ま、まあ、そんなもんだ……」

「凄いっ!」

「……」

目を輝かせて興奮しているカナトに困るジャミル。説明しようがなく、
苦笑いするしかなかった……。

「それはもういいから……、カナトももう休んでくれや、後は俺が
やるからさ……」

「うん、でも……」

ジャミルはカナトに気を遣い、そう声を掛けるのだが。カナトは
しっかりしているとは言え、まだ子供である。これ以上無理は
させられない。だが。

「……本当は、無事に野菜を届けられたら、直ぐに家に帰るつもり
だったけど、でも、楽しくて一緒にお邪魔しちゃった、あの、
……此方こそ、本当に有り難う……、旅のお邪魔して、その、
迷惑掛けなかったかな?」

「はあ、あのなあ、何回も言わせんなっつーの!感謝してんのは
俺らも同じっ!……あ」

「……ふにゅうう~……」

ジャミ公、つい、いつもの調子でカナトをうっかりデコピン
してしまう。嫌、軽くやったつもりだが、カナトも眠って
しまうのだった……。こうして、又デコピン被害者が又一人
此処に増えた……。

「……ま、まあ、いいか、取りあえず休んでくれたし……」

そして、その夜中……。

「……」

「……?」

草を蹴る様な足音がし、ジャミルは目を覚す。ふと、横を見ると
隣で寝ていた筈のカナトがおらず。他のメンバーはちゃんといる。

「……カナトっ!?」

ジャミルは慌てて飛び起き、目を凝らしてカナトを探す。ふと、
川の方に誰かが立っている。ジャミルはそっと近づいて見る……。

「カナト……、何して……」

川縁に立っていたのは、やはりカナトだった。月明かりに照らされて
カナトの顔がうっすら見える。その表情が……、やけに酷く寂しげに
ジャミルには見えた。

「……カナト!」

「ジャミル……」

川を見つめていたカナト、ジャミルの声にゆっくりと振り返る。
振り返ったその顔は今度は何だか異様に大人びて見えた……。

「お~い、何してんだよ、駄目だろ、寝なきゃよ……」

「うん、有り難う、只ね、もう少しだけこうしていたかった、
キミと一緒に過ごせたこの日々を……、こんな気持ちになるなんて……、
何でもない……」

「……」

ジャミルはこの際だから、カナトにちゃんと自分達の素性を話して
おくべきかなと思った。自分達は異世界から訪れた者なのだから。
何れはカナトとも本当にさよならをしなくてはいけない……。

「カナト、あのな……」

ジャミルはカナトの側に腰掛ける。すると、立っていたカナトも
ジャミルの隣に腰を落ち着ける。だが、ジャミルが口を開く前に
先に口を開いたのはカナトの方だった。

「ジャミル、この先、何があっても……、振り返らないで、迷わないで、
どうか……」

「おま、何言っ……」

「……」

其所まで言い、カナトが黙ると……、強烈に眠気がジャミルを
襲って来る……。結局、そのままジャミルは意識が無くなり……。

「……ジャミルっ、大変よ!」

「……?」

翌朝、アイシャのけたたましい声で目が覚める。あのままどうやら
自分は川縁で眠ってしまったらしい。そして、異様な違和感を覚えた……。

「あのさ、余り聞きたくねえんだけど、カナトは……?まさか、どっか
行っちまったとか、はは、ねえよな……?」

ジャミルは昨夜、深夜に自分が失神?する前のカナトの状態を思い出し、
何か異様に嫌な予感を感じたのである。自分の思い過ごしであればいいなと。
しかし……。

「その、まさかさ……」

「カナト、いなくなっちゃったんだよお~……」

「……モォ~~ンっ!!」

「あうち……」

ジャミ公は顔が真っ青に……。やはり嫌な予感は的中した。カナトは
突然に皆の前に現れ、そして又、突如姿を消した……。禄にちゃんと
大事な話も出来ないまま……。

「そんな心配するコトね~んじゃネ?用が済んだから一人で家に
帰ったんでしょ!しっかりしてるからダイジョーブだって♪」

「サンディ、そんな言い方……、だって、それならそれで何か一言、
私達に言ってくれる筈だわ……」

「そーモンっ!」

「そりゃ……、ケドさあ、確かにあの子、可愛くてイイコだよ、
ケド、アタシ達が此処に送り込まれた目的を思い出してみなよ、
いつまでも係わってられないのよ、もう、現実世界じゃマジで
時間ないかも知れないよ!?アタシ達が居ない間に、エルキモすの
侵攻がまた進んでるカモだし!後はアンタだけなんだよっ、ネッ、
ジャミ公っ!」

「……俺は……」

「……ジャミル……」

サンディのキツイお言葉にダウドを始め、皆が心配そうに
ジャミルの方を……。今の彼女の台詞はこの間までの
ジャミルとのケンカ時のアルベルトの言葉を更に
広げた続きの様だった。今では、カナトへの態度を改め、
すっかり信頼しているアルベルトは複雑な気分になる……。

「でも……、モン、モン……、このままカナトとさよなら、
イヤモン、まだトマトのお礼もさよならもちゃんと言って
ないモン、や~モン……」

「ちょ!……デブ座布団ッ!!」

「モンちゃん……」

「だよな、悪ィ、俺もこのままは嫌だ……」

「!?」

皆は再びジャミルの方を向く。サンディは、あっきれたーー!と、
言う表情。

「……アンタまさか、このままカナトの家まで押し掛ける気じゃ
ないでしょ~ネ……」

「そうだ、俺、まだアイツに聞きたい事があるんだ、このままじゃ
モヤモヤしてる、折角のチャンスだったのに、今度は逃げられちまった、
カナト、夜中に一人で起きててさ、その時、何か様子が変だったのさ……」

「……だ、だからってッ!アンタがこれ以上加担するコトない
じゃん!他人は他人だヨッ!お節介ッ!!世界を救うのと
お子ちゃまのカウンセラーとアンタ、ドッチがダイジなの
サっ!?」

今度はこっちである……。サンディの気持ちもジャミルは分かって
いる。けれど、どうしてもこのままでは自分の気持ちが収らなかった。
なので……。ジャミ公はサンディと言い合いになる……。

「……何とでも言えよ、俺は今度こそカナトの家に行く、それにな、
元々俺らをこの世界に派遣したのはセレシアだ、この世界で起こる
事は全て試練なのさ、カナトに係わるのも……、俺はそう思ってる……、
節介でなくて世界なんか救えるかっ!」

「!!!も、も~イイッ!アンタとこれ以上話してもラチあかないし!
いいわよっ、世界がエルキモすに乗っ取られたらそれはアンタ、ジャミ公の
責任ッ!イーダッ!」

「……」

サンディはジャミルの中へ……。折角アルベルトと復旧したと
思えば、又、こうなってしまうのだった。

「済まねえ、皆……、俺、どうしても……」

「大丈夫、ジャミルの気持ちは私達も分かってるから、折角仲良く
なれたのに、このままさよならじゃ、本当に寂しいもの、ね?アル……」

「うん……、けれど、僕も気になっているよ、どうしてカナトは急に
姿を消したのかな……」

今度はアルベルトも反対せず。だが、まだ根本的な問題が……。

「オイラも別にいいと思うけど、只、だから……、カナトの家の方角、
分かるの……?」

「……」

ダウドのツッコミもこれで3回目……。しかし、其所に救世主が……。

「大丈夫モンっ!こっちの方から……、カナトのトマトのニオイが
するモンっ!モンにお任せモンっ!フンっ!」

モンは……、鼻息を荒くし、興奮。どうやら、カナトのトマトのニオイを
覚えたらしく、トマトと同じニオイがする?、カナトが歩いて行った方向が
分かる様である……。

「あのなあ~……」

「ジャミル、此処はモンに任せよう、もしかしたらカナトの家まで
辿り着けるかも知れないよ……」

「そうよ、モンちゃんに任せましょ?」

「だよお~」

「よし、モン、……頼むっ!」

「モォォーーンっ!」

(フン、どいつもこいつも、何サ……)

そして……、此方は現世界での天使界。長老オムイの間……。

「……長っ、た、大変ですっ!」

「何じゃ、どうしたのじゃ、騒々しいの、エルギオスの錯乱よりも、
恐ろしい事がこの世界にあるのか……?」

オムイはやれやれと腰を上げる。天使界の長であるオムイの部屋に、
天使の男性が大慌てで転がり込んで来た……。

「……ジャミル達がっ!せ、世界樹の木の前で……、消えてしまったのを
見たと多数の者が報告を……!!」

「……何じゃと……?」

オムイは急いで世界樹の元へと駆け付ける。実は、ジャミル達が消えて
しまってから、天使界では本の1時間しか時間は経過していない。4人は
送られた世界で数日の時を過ごしていたが、現実世界と送られた世界では
どうも時間の流れが違う様だった……。

「おお、おお……、ジャミル達に一体何が……、どうか無事でいておくれ……」

zoku勇者 ドラクエⅨ編 84

zoku勇者 ドラクエⅨ編 84

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-07-26

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work