『綻びすら美しい』

薄く笑った君は躊躇いなく
その手で僕を突き落とした


『綻びすら美しい』


浴衣の襟合わせを気にしだし
こんな風に何気なく不意に大人になると
いつまでも気付かなかった僕が悪い
すっかり君は少女を捨てたね

夕日の帰り道、同じ話題で
何度も喧嘩するのが好きだった
君が頬を膨らませる仕草が
余りに可愛くて守りたかった

ちっぽけな正義感と恋心は
いつか君の中で色褪せてしまう
そんな日もあったねなんて
本当は思い出しもしない癖に

ヴァネッサ・パラディに憧れて
危ない橋を行ったり来たり
無邪気を装った故意に翻弄されれば
まるでジェットコースターの気分

運命なんてものはどこかしらに
欠点があるものだと諦めて
降伏を認めても掴みきれない
君の後ろ姿が陽炎に消える

最後の言葉が何だったかさえ
今はもう思い出せない
君は君の幸福を求めて飛び立つ
僕の幸福を置き去りにして



「何度夏が巡っても君が消えない」

『綻びすら美しい』

『綻びすら美しい』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-07-22

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