映画『東京予報』レビュー
Filmarksでアップしようと思って書いたもの。Filmarksでは個別の作品向けにしかレビューできなかったので、オムニバス形式の作品である『東京予報』についての文章をここに投稿します。外山文治監督、大好きになりました。見逃した『茶飲友達』など他の作品もチェックしたいと思います。
三つの短編から成る珠玉のオムニバス映画。それぞれ別個独立の話ではあるが①「その人」の名前や②「その人」との関係性、あるいは③「その人」の記憶といった表象に振り回される具体的な人を映し出す。この点が共通するテーマとなって、短編映画の勝負所となる物語のフックを強める相乗効果を生んでいた。
その演出がクライマックスを迎えるのは間違いなく田中麗奈さんと遠藤雄弥さんが共演する《名前、呼んで欲しい》。
社会生活を送るために演じなければならない役割に押し潰されて、サンドイッチの具材みたいにはみ出る個人=その人の救済と地獄。不倫というありきたりな設定も、田中麗奈さん演じる沙穂の一風変わった提案によってひどく優しい絵本のような柔らかさを得て、その終わりを愛おしく見守ってしまう。肉体の快楽より、魂まで震えるような悦びを表情で見せる田中麗奈さんの演技が掛け値なしに素晴らしい。そこから明らかになる残酷な真実もタイトルに呼応する仕掛けとなっていて、そこに込められた想いの強さを観客に想像させる。
これに対して《forget me not》はイントロダクションの役割も兼ねた《はるうらら》の淡い物語から一転、劇中にハードな社会性を挟み込み、ノリと勢いでアクセルを踏み込むドラマ。ガールズバーの店員と客というどうとでもなりそうな関係が、どうにもならない死という事実を片付ける為に執り行われる葬儀の場を借りて唯一無二の輝きを見せる。死んだ人間の価値なんて、死んだ当人には何の関係もないはずなのに。二の句を告げないぐらいに差し迫ったものを生きている者に覚えさせる、そんな劇中の重苦しさを様変わりさせる何気ない言葉のやり取りに図らずも感動してしまった。大いに笑える箇所もあり。オチも最高だった。
《はるうらら》は主演を務められた星乃あんなさんと河村ここあさんの好演が映える一作。登場人物の設定とはいえ、よくぞここまで「どこか似ている」二人をキャスティングできたなぁと驚くシンクロっぷり。ビジュアルだけじゃなく、雰囲気までそっくりなんですよハルとウララ。二人が並んで街を歩き、二人が近付いてひそひそ話するだけで季節どおりの花が咲き、起きる出来事の全てが色めき出す。目で見る音楽のようでいて、耳を澄ませて聴くべき感情の話でもあるところが絶賛すべきポイント。十年ぶりに会う父親を試そうと試みるイタズラが思わぬ方向に転がっていくにつれ、露わになっていく二人の性格の違いなどがここで活きる。《名前、呼んで欲しい》から一周して、『東京予報』のイントロを兼ねるに相応しい爽やかさが私は忘れられない。
「ウララがハルで、ハルがウララね」
という台詞が聞きたくて、もう一回観に行こうかと考えている最中。上映時間も一時間程度。涼風を思う存分浴びることのできる短編集です。興味がある方は是非。関東ではシモキタ-エキマエ-シネマなどで公開中です。
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