パレット
変な趣味を持った人が
いたもんだ。
紙飛行機になんかに
怪文なんか書いて。
美術部にある紙飛行機が置いてあった。
「紙飛行機」、「噂の椅子」
「不満に我慢」…
何だこりゃ
意味の分からない文章に
謎の題名…
高校生にあるまじき
頭のおかしさだ。
全部、絶妙に気持ち悪い。
遠回しに言ってるせいで
伝えたい意図が見当たらない。
いちいち紙飛行機をばらして
まで読むもんじゃなかった。
ヤベっ後輩が来る音が…
うん?
先輩はなんか照れていた。
一瞬可愛いと思ったが…
その先輩が持っているものに
見覚えがあった。
うげ…
私の黒歴史ノートの一部だった。
それも新作の…
さっき上の教室から
勢いよく投げたつもりが
この教室に入っていた。
せっかくだ。
きっと筆跡で私が書いたものだと
バレるのも時間の問題…
というか部員は私と先輩のみ。
犯人は私しかいない。
ここに来た理由も兼ねて
最新作を話してあげよう。
後輩が急にこんな話を始めた。
「先輩って頭の中にどんなこと
思い浮かべてますか?」
私は特に…と言うと
「じゃあ先輩今はパレットの上に
何も色はのっていないんですね。」
頭の上にハテナが浮かんだ。
何を話してるんだ?こいつは、
「私は今、ピンクと青です。」
いや、分からん。
どういう配色かも分からないし
何故急に色なんか…
「今私はドキドキと、ヒヤヒヤ
で半々なのでこの色なんです。」
「でもなんで急にパレット…?
それも色とか…」
そう聞くと授業中に考えた
後輩のふにゃふにゃ理論を
悠長に語り出した。
色というもの
様々なものに付いていて
その物自体の特徴を与える。
視覚的にも伝わりやすい。
最も芸術では
絵というたくさんの色を
好きなだけ使い、白一色の
何の特徴もなかった紙に
素晴らしい特徴
を付け加えていく、
そんな所が好きだから
このクラブにも入った。
私はふと感じた。
人もそうなのだろうか。
頭の中というものそう
覗ける機会も少なく、
勝手に見るなんてことも
できない。
でもひとつ似たものが
あった。
パレットだ。
パレットはまさに色の
溜まり場であり、
引き出しである。
どんな絵にするにしても
そこから色を筆へ付け
絵にぶつける。
それは人でも同じだ。
頭の中で
考えてから
口からその情報である
色を相手に話す。
自分の特徴を
相手に伝えるという名目
それこそまさにパレットの
ようで不思議だ。
サラリーマンはどんな色か、
学生はどのような色か、
先生や親はどんな色か、
目の前の先輩はどんな色か、
気になってしまう。
パレットは使ったとしても
人には見せないものだ。
時には洗い流してしまう
なんてこともざらである。
せっかくの引き出しである
色を洗い流すのだ。
なんてもったいない。
せっかくあるのだ。
せめて使ってみたら
どうなるのか。
まだ社会に色を見せていない
それだけで出してみると
案外皆からいい色として
素晴らしい特徴と、
捉えられることもある。
先輩にもそんなとこが
あったりする。
「うーんと、それで
最初に話した私の色って
覚えてます?」
急に話しが終わった。
「只今の虚無な話により
記憶は吹っ飛びました…」
「先輩!せめてそれくらい
覚えといてくださいよ…」
なんだか呆れられたが
少し思い出した。
「ピンク…だったっけね。」
「覚えてくれていたんですね!」
子犬みたいに擦り寄って
後輩が、喜んでいた。
実際ほんとに子犬みたいに
可愛いのは変わりない。
「ピンクってどんな絵に
使われやすいと
思っていますか?」
「桃の絵」
「かなり極論ですね…」
急に冷めた回答してしまった。
後輩に対してとても
不甲斐なさを感じた。
「結局なにが言いたいんだ?」
「今、先輩のパレットには
何色がありますか?」
分かっている。
少し火照っている。
私と彼女自身、
女同士だが、距離感が
今日はやけに近く、
何度か目が合うと
スっと逸らしてしまう
いつもはそんなこと
なかった。
今日の彼女は少し
雰囲気が違った。
「ピ…ピンクだよ。」
やっと彼女は
意味が分かったのか!
という顔と同時に、
あれっ…これって…
という照れた顔が
混ざった表情をしていた。
少し間が空いて、
「部活始めましょうか…」
と少し照れくさそうに
後輩が言った。
「うん。」
私もまた
そうすることにした。
「その前にひとつ
言わせてくれ。」
思い切って私は話してみた。
引き出しというか頭から
ピンク色を取り出して
筆という口に乗せて
しっかり伝えてみた。
パレット
色というのは
素晴らしいもので
3色だけでも様々な色を
作り出せる。
頭もそう単純ならいいけど。